―9―
最悪だった。
ナインのデート中の姿なんて見たくなかった。
仲良さそうに腕を組んで、ショップに入る後ろ姿を見つめ、深い自己嫌悪に陥っていた。
――フランソワーズのばか。
ナインには恋人がいるんだから、って言っていても口先だけだった。心のどこかでは、もしかしたらそうじゃないのかも、っていう期待を捨てることができなかった。
だけど。
ここにこうして、現にデート中のナインを見てしまったら、もう――そんな期待なぞ滑稽なだけだった。
だったら、見たくないものは見ないですむように、さっさとその場を去ればいいものを、私はぐずぐずとそのショップを見つめていた。中から出てくるナインの姿を待つみたいに。
自己嫌悪に陥ってはいたものの、私はやっぱり、ここでナインに会えた事が嬉しかったのだ。
こんな偶然、滅多にない。
大好きなナインの姿を見ていたい。
ほどなく、ショップからナインが出てきた。ひとりだった。
そうして、次に彼が入ったのは――アクセサリーショップ。ぶらりと何気ない感じで入っていった。
彼女は先程の店から出て来ない。
――きっと、お互いのプレゼントを買うために別々になったのだろう。
アクセサリーショップはガラス張りだったから、外からでもナインの後ろ姿はすぐわかった。
ショーケースを覗き込んで、店員さんと何か話している。
そうして、店員さんが並べた品をひとつひとつ手にとって吟味し始めた。
やっぱり、彼女へのプレゼントに違いない。
何を選んだのだろう?
あんなに丁寧に何かを選ぶナインなんて見た事が無い。
時間をかけて、何度も店員さんと話して。
ナインの前には、いくつもの商品が並べられ――そうして、やっと決まった。
私はどうしてもナインが選んだものを知りたくて、思わず目のスイッチを入れてしまった。
ナインが受け取った小さな箱の中身は――ネックレスだった。
ペンダントトップに、小さなハートと小さな雪の結晶を模したものがついている。とっても可愛いネックレスだった。
それは、あまりにも私の好みにぴったりだったから――余計に悲しかった。
あんな大事に選んだものをもらえる恋人は幸せね。
時間をかけたぶん、迷ったぶん、その人の事を思い浮かべているのだから。
私は小さく息をつくと、歩き出した。
ナインの姿は見ない。
見たくない。
――もう、いい。

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