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僕はフランソワーズへのプレゼントを買って豪く上機嫌だった。
だから、うっかり彼女の姿を見失っていた。
大体、店にどのくらいの時間いたのかも定かではない。
だけど、選ぶのにけっこう長くかかったから、一時間くらいいたのかもしれなかった。

店を出ても、フランソワーズの姿はどこにも見えなかった。
もうとっくに帰ったのだろう。

ともかく、変な輩に絡まれたりせずまっすぐ帰ってくれればそれで良かった。

 

たぶん、その時の僕は――ほんの少し――浮かれていたのだろう。
思いがけずフランソワーズにぴったりのものが見つかったから、嬉しくて。
だから、いつもなら絶対にしないミスを犯した。
周囲に気を配らなかったのだ。

だから、通り過ぎたメンズショップにフランソワーズがいることになど気付くこともなく、更には彼女がそこで泣いていたことを知る由もなかった。

 

 

***

***

 

ナインの事はもういい――と思いながらも、手ぶらで帰るわけにはいかなかった。

それでもクリスマスはやってくるのだから。

ナインに何も贈らないという選択肢は、私のなかにはなかった。

――無難なもの。
恋人に見られても大丈夫なもの。

って、いったい何なんだろう?

 

目に入ったのは、メンズショップのショーウインドウだった。
黒いジャケットの上に巻いているマフラー。黄色がかった緋色の。黒いジャケットにそれはとても映えていて綺麗だった。
ナインは黒いジャケットを着ていることが多いから、きっと似合うだろう。

店に入ってそのマフラーを見せてもらった。
けれども、色違いがたくさんあって、どれも綺麗で私は迷った。

「カレシへの贈り物ですか?」
「えっ?」

にこにこと問うてくる店員さん。
たぶん、迷っている私を見かねて声をかけてくれたのだろう。
誰に選んでいるのかを話せば、アドバイスしてくれる。

「・・・カレシじゃないんです」
「あら。だったら、お友達?」
「・・・の、ような、そうじゃないような・・・」

語尾が揺れる私に、店員さんは優しく笑った。

「そう。お友達のような、そうではないような、大切な人なのね」

大切なひと。

そうだった。

ナインは、私にとって大切なひと。
彼が誰を思っていたって、私にとっては――

鼻の奥がつんとして、視界がぼやけた。
涙ぐんだ私に店員さんが慌てているのがわかる。

 

大切なひとは、ナインだった。

今までずっとそうだったし、きっとそれはこれからも変わらない。