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僕はフランソワーズへのプレゼントを買って豪く上機嫌だった。 店を出ても、フランソワーズの姿はどこにも見えなかった。 ともかく、変な輩に絡まれたりせずまっすぐ帰ってくれればそれで良かった。
たぶん、その時の僕は――ほんの少し――浮かれていたのだろう。 だから、通り過ぎたメンズショップにフランソワーズがいることになど気付くこともなく、更には彼女がそこで泣いていたことを知る由もなかった。
*** ***
ナインの事はもういい――と思いながらも、手ぶらで帰るわけにはいかなかった。 それでもクリスマスはやってくるのだから。 ナインに何も贈らないという選択肢は、私のなかにはなかった。 ――無難なもの。 って、いったい何なんだろう?
目に入ったのは、メンズショップのショーウインドウだった。 店に入ってそのマフラーを見せてもらった。 「カレシへの贈り物ですか?」 にこにこと問うてくる店員さん。 「・・・カレシじゃないんです」 語尾が揺れる私に、店員さんは優しく笑った。 「そう。お友達のような、そうではないような、大切な人なのね」 大切なひと。 そうだった。 ナインは、私にとって大切なひと。 鼻の奥がつんとして、視界がぼやけた。
大切なひとは、ナインだった。 今までずっとそうだったし、きっとそれはこれからも変わらない。
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