「やあ、フランソワーズ。奇遇だなぁ。ここで何をしてるんだい?」

何を、って・・・スーパーの中で買い物以外のどんな用事があるというのだろう。

「――買い物よ。見ての通り」

カートの中を示す。
中には今日の夕食と明日の朝食のための食材が入っていた。

「ふぅん?」

まじまじと中身を見つめるナイン。

「もしかして、今晩はカレー?」
「はずれ。ハヤシライスよ」
「へー。食べに行ってもいい?」
「・・・いいけど、でも・・・」

だって。

ナインの数歩後ろに控えているのは、同じく買い物カゴを手にした女性。
さっきまで、ナインが持っていたカゴを重たそうに持っていた。
二人で楽しそうに食材を選んでいるのを私はさっき見てしまった。
だから、

「・・・今日はジョーのぶんは考えてなかったから」

だって。

夕方にスーパーでお買い物をする。ということは、当然、今晩のおかずのことを考えているわけで。
一緒に選んでいたナインは、彼女と食事をすることになっている・・・はずでしょう?

「えーっ。じゃあ、せっかくここで会ったんだからさ、僕のぶんも考えてよ。足りなかったらいま取りに行くから。何が足りないか言ってくれ」
「――お肉と、たまねぎと」
「ヨシわかった」

どのくらい必要なのかも聞かずに行ってしまう。
後に私と、見知らぬ女性を残して。

気まずい。

共通の話題も何もないんだし――と、ちょっと考え。
私たちに共通するものといえば、ナインの話なんだわ。と思い可笑しくなった。

ヘンなの。

だって、おそらく彼女はナインの恋人で――私はナインのただの「仲間」で。
勝手に気まずい思いをしているのは私だけに違いなかったから。