「あの・・・フランソワーズさん。でしょう?」

見ると、にっこりと微笑まれた。――とっても可愛くて、オトナなひとだった。

「これ、ジョーに渡しておいて貰える?」

そう言って、重そうに持っていた買い物カゴを差し出してくる。

「えっ?」
「これね。彼の荷物なの」
「え、だって」
「私はアドバイスしてただけだから」

意味がわからなかった。けれど、流れで買い物カゴを受け取っていた。

「あの。あなたは」

ナインとどういう関係なの?――なんて。聞いてどうしようというのだろう。
そんなの、知ったからといって私とナインの関係が変わるわけでもないのに。
それとも私は、彼女とナインが恋人同士なのかどうかを確認したかったのだろうか。
確認して――納得したかったのかもしれない。

「私は――」

彼女が口を開いた瞬間、風のようにナインが戻ってきた。

「ほら。これでいい?」

無造作にカゴに入れられたのは数個のたまねぎと牛肉。

「足りる?」

心配そうに見つめるナイン。

「ええ、大丈夫」

何とか笑顔らしきものを作ってみる。
ナインは私の言葉にほっとしたように頷くと、ひょいと私が持っているカゴを手に取った。
そして、私が押していたカートを奪い、カゴを持ってすたすたと歩き出した。

「待ってジョー、それ・・・」
「あとは何が要るの?」
「お醤油が切れそうだから、それと、あと」
「醤油。わかった」

笑顔で言って、調味料コーナーへ向かう。
間違えずに進むナインを不思議な思いで見つめる。

どうしてどこに何があるか知ってるの?

「凄いわね。もう覚えちゃったのね、彼」

背後から彼女の声が聞こえる。笑いを含んだような、優しい声。耳に心地いい。

「最初はどこに何があるのか全然、わからなかったのよ」

最初は――ということは、ここに数回彼女と来ているということで・・・
私はその事実に改めて打ちのめされた。

ナインは――ジョーは、私がスーパーへ行くのに付き合ってくれた事はない。
だけど、彼女となら・・・行くのね?