「やっぱり一緒に見て貰えて良かったよ」
「いい加減、銘柄くらい覚えてよ」
「努力はしてるさ。でも、そういうの苦手なんだよな――」

ナインたちが醤油を手に、仲良く並んでやって来る。
仲良く――親しそうに話しながら。

「だったら今度は彼女と一緒に来ればいいでしょう?そうしなさいな」
「え、どうして」

目の前に来ても、ナインと彼女の会話は止まらない。
まるで私がここに居るのなんて見えないみたいに。

「――あ。もしかして――言ったな?」
「さあ。どうでしょう?」

くすくす笑う彼女を何ともいえない表情で見つめるナイン。
こんな顔もするんだ、ナインって・・・

「ね。フランソワーズさん。彼ね、あなたの作るハヤシライスが一番好きなんですって。それでね、私も張さんも
それはもう何度も作らされたんだけど、どれも全然違うんですって。あなたの味と」

話し出した彼女をぎょっとしたように見つめ、ふいっとそっぽを向いてしまうナイン。
レジに行っていいものかどうか、迷うみたいに。

「だから私言ったのよ。そんなに彼女のが食べたいなら、ちゃんとそう言いなさい、って。――そうでしょう?ジョー」
「――全く、女っておしゃべりだよな。だから嫌なんだよ」

軽く彼女を睨んでから、ナインは私のほうを見た。

「まだ買うものある?なかったら、レジに持っていくけど」

ナインは――いつものナインだった。
全く悪びれず、屈託がない。

「ううん。大丈夫」
「おっけー。じゃ、行ってるから」
「あ、待って」
「なに?」
「あの、エコバッグだから・・・レジ袋は要らないって言ってね?」
「わかった」

ナインの後ろ姿を見つめて、ぼうっとしていたら軽く肩を押された。

「いいの?彼、お財布持ってないわよ」
「え!?」
「早く行ったほうがいいわ」
「でも」
「私はもう用なしみたいだから、帰るわ。――それにね」

ぱちんと鮮やかなウインクひとつ。

「ほんというと、これから彼が来るのよ。だからちょっと困ってたの」

彼・・・。

「じゃ、そういうことで」

片手を上げて、鮮やかな笑顔を残して――スーパーから出て行った。
彼女には、彼がいるんだ。
ナインは知っているのだろうか?

「おーい、フランソワーズ。お金ーっ」

レジで大きな声で呼ぶナインに苦笑して、私は駆け出した。