「あれ?フランソワーズひとり?」 私がお会計を済ませると、カゴを持ったナインがキョロキョロした。 「ん・・・彼女、何か用事があるみたいで」 彼がいる――とは、ナインに言わない方がいいだろう。――たぶん。 「ああ、そっか。今日は彼が来るって言ってたっけ。しまったなぁ」 私の配慮は無用だったようだ。 「彼がいるの、知ってたの?」 買ったものをエコバッグに詰めながら問う。 「知ってるも何も、彼って張々湖のとこのスタッフだよ」 少し乱暴に言うと、エコバッグを持ち上げる。 「だってジョーにはそういうひと、たくさんいるんでしょう?」 ――ひとり。 「・・・そう」 ひょい、と私の持っていたエコバッグをさらってゆく。軽々と。 「ん」 ぽかんとしている私に、ナインは一瞬顔をしかめると、強引に私の左手を取った。 「――よし」 そうして満足そうに、私の手を握り締め歩き出した。 でも―― 「だめよ、ジョー。離して」 くすくす笑って取り合ってくれない。 「だって・・・」 ・・・自信があるんだ。 「楽しみだなぁ。今晩は、フランソワーズのハヤシライスっ」 ナインと手を繋いで歩いているのに、なぜか全然楽しくなかった。 いつもはそんな事思わないのに、今は――手を繋いで歩きたくなかった。 「・・・手を離して」 ナインが私の顔を見て、そうして―― 「フランソワーズ?いったい・・・どこか痛いのか?それとも」 だから、お願い――手を離して。 「何か飲み物を買ってくるから。ここに居て」 強引に近くのベンチに座らされてしまう。 「いいかい?そこを動くなよ」 怖い顔でそう言うと、近くにあるコンビニへ走って行ってしまった。
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