「好きな理由が増えてゆく」

 

 

「ジョー?」


「ナイン?」


「ゼロゼロナイン?」


どれも僕のことだ。

いつも物凄く可愛い声で呼ばれるから、それだけで僕は嬉しくなるのだけど、それは永遠に君に伝わる事はない。

なぜなら、絶対に言わないからだ。

そんなことは言わないのだ。

僕がそう思っていることなど、僕は――墓場まで持って行く。絶対に君には教えない。


「もうっ・・・ジョー?」


「ナインったら!」


「ゼロゼロナインっ、待って」


こんなバージョンもある。
怒っていたり、呆れていたり、困っていたり。

どれもやっぱり可愛くて、きっとそう言ったら君は怒るだろうけれど、でもたまに――僕はこういう風に呼ばれたくて、わざと君が怒るような呆れるような困るようなことを言ったりしたりしているということは、永遠の秘密だ。

これも僕は墓場まで持って行く。絶対に君には教えない。


「ねぇ、ジョー。聞いてる?」


――何の話だっけ?


「いやねぇ、ナインったら。ちゃんと聞いて?」


はいはい。


「ゼロゼロナイン。返事は一回」


おおこわ。ゼロゼロナインと呼ぶ時は本気で怒り始めたサイン。


「もうっ・・・ちっとも真面目に聞いてくれないのね。アナタって」

 

――ナヌ?

 

アナタ?

 

それは――僕のことか?

 


驚いて顔を見ると、ちょこっと頬を赤くしたスリーがちろりと舌を出した。


「うふ。びっくりした?」


ああ。びっくりしたとも。
あんまりびっくりして――真面目に話を聞くどころではなくなった。

まったく、フランソワーズ。君って子は。


「一度呼んでみたかったの」


そんなに頬を赤くして可愛く言うのはやめてくれ。

 

さもないと――

 

――もっと好きになってしまうぞ。知らないからな。

 

 

知らないぞ。