「花柄の水着」

 

 

花柄の水着。

冗談のようだけど本当だ。


ナインはテーブルの上に広げたそれを見つめ、がっくりと肩を落としため息をついた。
いったい、なぜこんな羽目になってしまったのか。

ナインにはわからない。
わかるのは、スリーが上機嫌だったということである。

そして、ナインにとっては恐ろしいことに――既にプールへ行く予定を決めたのだと言う。
それも、「お揃いの水着を着て」。


どうしてだ。
いったい僕が何をしたというんだ。


目の前にある「お揃いの」水着。
それ自体は全く構わなかったのだけれど、色柄が問題だった。
淡いピンクの地に白い色でハイビスカスが描かれている。
スリーのはビキニで、それはそれは可愛らしかったのだが自分が着るとなると話が違う。

せめてピンクではなく紺とか黒なら。

そういう問題ではなかったけれど、ナインとしてはかなり譲歩した提案だった。

が、


「いやよ。それじゃあお揃いにならないじゃない。色違いなんて駄目よ!」


とにべなく却下されたのだった。


――花柄。

それも、ピンクの。


日本男児として、断じて着るわけにはゆかない。
それはもう、絶対的にそうなのだ。太古の昔から決まっているのだ。特にここ日本では。
だったら海外ならいいのかというと、そういう問題でもなかった。

ともかく、出来るならば着たくない。
それはもう絶対に。
回避できるのなら、どんな手段をとっても構わない。

が。


「・・・ジョーは私とお揃いを着るのがイヤなのね」


などとしんみり言われてしまったら、断固として否といえるわけがないではないか。
水着を握り締め、今にも雨が降り出しそうな気配に焦ったナインは思わず、


「イヤなもんか、着てやるさ!」


と胸を張って言ってしまった。
言った瞬間にしまったと思ったけれども既に遅し。
慌てて打ち消そうとしたのだが、


「本当っ?嬉しいっ」


と輝くような笑みを浮かべたスリーに飛びつかれたら、何も言えなくなってしまった。

そして、現在に至る。

自分の家で、ナインは水着を前に葛藤していた。

着るべきか。やめるべきか。


しかし。


――くそっ。

なんて罪深い女なんだ、君は。


目の前の「お揃い」の水着を握り締め、ナインはテーブルに突っ伏した。