「ドキドキするね」

 

 

『人気第一位は花柄!』


その声に、ナインはコーヒーを吹き出した。


なっ、なんだって?


「汚いわねぇ、もう!」

スリーが頬を膨らませながら、ナインに動くなと命じ彼の膝や手元を布巾で拭いてゆく。

「いったい、どうしたっていうの!?」
「いや、だってあれ・・・」

ナインの指差すテレビをちらりと見て、スリーは軽く肩をすくめた。

「ただの水着じゃない。ジョーのえっち」
「ちがっ、そうゆうんじゃないよ!」
「だったらなに?」
「いま、人気の水着って言ってたよな?」
「ええ。それが?」
「はっ、花柄が一位って」
「そうよ。この間、そう言ったじゃない」

だから花柄の水着を買ったんじゃない、今頃気付いたの。と言われ、ナインは憮然とした。

「・・・本当だったんだ」

ポツリと言う。
まさかあの店員が事実を言っていたなど、今の今までこれっぽっちも信じていなかったのだ。

「やあね。本当よ?特におそろいのあの柄は、もう売り切れだったわ」

おそろいの、を強調するように言って、スリーは新しくコーヒーをいれるためにキッチンに消えた。
ひとりリビングに残されたナイン。


売り切れだったわ、って・・・また行ったのか?


見てきたような物言いをしたスリーに首を傾げる。


いったい何のために?


再度、水着売り場を訪問する理由がナインにはわからない。
首を傾げていると、スリーが新しいコーヒーを持って入ってきた。

ナインの前にカップを置くと、ちょこんと隣に腰掛ける。
美味しそうにコーヒーを飲むナインをちらりと見つめ、


「ジョーったら。たまには自分のうちでコーヒーくらい飲めばいいのに。ここは早朝から空いているコーヒーショップじゃないんですからね?」


お盆を抱えたまま言うスリーを見つめ、ナインは少し笑った。


「朝はフランソワーズのコーヒーしか飲む気がしないよ」
「でも」
「来たら迷惑?」
「そんなことないわ!」
「だったらいいじゃないか。それとも、君が僕のうちでコーヒーをいれてくれるなら別だけど?」
「いいわよ。行っても」
「・・・朝だよ?」
「朝・・・」


それがいったい何を意味しているのか。
スリーの頬が朱に染まった。


「いやだわ、ジョーったら、からかわないで」
「からかってなんかないさ。僕はいつだって」


本気だよ。


カップのなかに呟いて、コーヒーと一緒に飲み込んでしまう。
スリーに聞こえたのかどうかはわからない。


「もう。ジョーったら」

 

――なんだかドキドキする。

 

でも、それをナインに言うのは恥ずかしかった。
だから、スリーはそのままそっと彼の肩に額をつけた。

 

――どうしてだろう。

どうして、こんなにドキドキするんだろう・・・?