「ジタンの香り」

 

 

「ね。ジョーって煙草吸った事ある?」

「ないね!そんな百害あって一利ないもの試したくもない。知ってるかい?煙草と肺癌の関係。
いや待て。肺癌だけじゃないぞ。閉塞性肺疾患、つまりCOPDとひとくくりにされる病気は殆ど全て煙草と関係がある。煙草税の増税には大いに賛成だね。メタボリックシンドロームしか判定しない特定健康診断なんかより、疾病予防にはよっぽど効果があると思う!!」

「・・・じ、ジョー?」

「何」


鼻息荒く振り返ったナインの目に映ったスリーは、両手にいっぱいの煙草を持っていた。


「・・・なんだい、それ」
「もらったの」
「誰から」
「・・・博士のお友達で、お土産だ、って・・・」
「・・・・」


ナインはつかつか歩み寄るとスリーの腕からひとつ取り上げた。
パッケージには「ジタン」の文字。


「あの、・・・フランスの煙草なの。知ってる?」
「・・・いや」

知らないな、と言いながらためつすがめつ箱を観察する。

「いただいたけど、吸わないならしょうがないわよね」
「――ちょっと待て」
「え?」
「フランスの煙草だろう?・・・君の国の」
「・・・そうだけど」
「懐かしいんじゃないかい?」
「・・・そうでもないわ」
「そう?」

ナインは煙草の封を切った。
そうして一本取り出し、ライターを探してどこかへ行ってしまった。

スリーはただぽかんとしていたのだが、ナインがあっという間に戻って来て、そうして――煙草に火をつけたので我に返った。


「ジョー、あなた吸わないんじゃっ・・・」
「え、うん。そうだけど・・・っ」

大きく吸い込んだ途端、激しい咳の発作に襲われた。

「ほら、消して!」
「平気だって。ふうん、これがジタンっていう煙草か」
「もうっ・・・無理しないで」
「平気だよ。――ほら」

今度はなんとか咳き込まずにすんだ。

「・・・懐かしい匂いだろ?」
「・・・そうだけど・・・」

誇らしそうに笑うナイン。
しかし、スリーはなんだか泣きたくなった。

「フランソワーズ?どうかした?」
「ううん。ちょっと・・・煙が目にしみて」

吸えないくせに。

煙草なんか嫌いなくせに。

 

なのに。

 

「・・・平気。ちょっとだけ、パリを思い出したの。・・・ありがとう」

 

 

 

 

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