「強くなる」

 

 

「何故一緒に来たのかって?そんなの、決まってる。一緒に来てくれって頼まれたからだ。問答無用で攻撃してくる輩など悪に決まってる。だから粛正してやろうと思っていたところにみんながやって来て口々に一緒に戦って欲しいとお願いするから、こうして一緒にいるってわけだ」

もちろん自分ひとりでも十分戦えると思ったけどな、とナインは胸を張った。

あまりにも大上段からの物言いにスリーは呆れつつもナインらしいわと思った。
正義に関してのくだりは、彼の心の根幹を成すものだ。それは今も昔も変わらない。


「その、足手まといとか思わなかったの?」


少しびくびくしながら訊いてみる。
そのくらい自信満々なら他の者を邪魔に思う事もあったに違いない。特に自分などは。
しかし、ナインの返事ははっきりしたものだった。


「全然」


顔色ひとつ変えずに言う。


「そう思ったことがあったら、一緒になんかいないよ」


ちょっと笑うとコーヒーをひとくち飲んだ。
しかし、スリーの心は晴れなかった。
戦う力に自信を持っているナインと比べたら、自分など勝負にならない。戦闘能力に欠けているのだから。


「どうかした?」

傍らのスリーを見つめ、ナインが首を傾げた。

「顔が青いけど」

そうっと手が伸びてスリーの頬に触れる。

「…どうもしないわ」
「そう?」

ナインはそのままスリーの頬を両手ではさみ、自分の方を向かせた。

「――あのさ。何か誤解しているかもしれないから言っておく。僕はみんなを足手まといに思った事は一度もない。もちろん君の事もだ。むしろ、ありがたいと思っている。僕はおかげでよりいっそう強くなることができたからだ」

スリーには何のことかわからない。だからじっとナインを見つめた。

「……守るべきものが、できたからね」
「守るもの?…でも、みんなもじゅうぶん強いわ。その、…私以外は」
「そうだね。だから僕は君を守るって決めたんだ」
「……」

やっぱり自分は足手まといのお荷物なんだとスリーは落ち込んだ。
が、うつむこうとするのをナインは許さない。

「僕が強いのは当たり前のことだ。誰よりも強いのも当たり前。そんな強い僕が君を守ったからって足手まといに思うわけないだろう?それに僕は君を守るたびにどんどん強くなれるし、そんな自分を誇らしく思っている。だから何も気にすることはないんだ」


強い瞳で言われ、スリーは黙って頷くことしかできなかった。
納得したわけではないが、ナインの気持ちはわかる。


「フランソワーズ。僕はただ、君を守りたいだけなんだよ」


そう言われ、頬が熱くなった。

単純に嬉しかった。

が、何か引っかかるものがあるのも事実だった。

 

――守るたびに強くなる。

 

それが誇らしいと彼は言った。

しかし。

 

――そうして強くなって、それで…

 

……あなたは、どうするの?

 

 

 


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