「落ち着かないのはだれのせい?」
「彼女がいるひとを好きになったら駄目ですか?」
目の前の黒い瞳の女性が挑むようにナインを見る。まっすぐに。
「私はジョーが好きです。彼女がいたって関係ありません」
「気持ちは嬉しいけれど、僕は・・・」
「待ちます」
「えっ?」
「いつか私を見てくれるまで」
ナインは気押されたように黙ったが、やがて小さく息をつくときっぱりと言った。
「無理だよ」
「えっ」
「どんなに待っても無駄なんだ。きみの気持ちは嬉しいけれど、僕の気持ちがきみに向くことはない。きみだからというわけじゃなく、
他のどんな女性でも同じことだ。僕には永遠にひとりしか存在しない」
「・・・どうしても?」
「どうしても」
「絶対に?」
「絶対に」
「まあ、ジョー!今日はずいぶん遅いのね」
「うん、ごめん」
「ううん、いいけど・・・どうかしたの?」
「何が」
「ん。なんだかちょっと、いつもと違う感じ」
「そうかな」
「ええ」
夜の12時。
ふだんは遅くても11時なのに、今日は1時間も後である。
「きっと、落ち着かないせいだよ」
「落ち着かない?」
不思議そうに首を傾げるスリーにナインは微笑んだ。
「うん。・・・顔を見ないと、ね」
可愛い僕のフランソワーズ。
何万何億の女性がいても。僕が守るのはきみだけだ。
他のひとなんかどうでもいい。
僕にはきみだけいればいい。
なにしろ、この僕を落ち着かなくさせるのはきみだけなんだから。
僕のフランソワーズ。
「もうっ・・・いやなジョー」
スリーは頬を染めると、そうっとナインのジャケットの裾を握り締めた。
「・・・私も」