「・・・さっきのことだけど」


スリーが問うようにナインを見た。


「セブンにはああ言ったけど、あれは嘘だから」
「・・・」
「信じてないよな?」
「・・・」
「フランソワーズ、僕は」
「大丈夫よ。わかっているわ」
「・・・そう」
「ジョーが毎日来るのは、コーヒーを飲みたいからだものね」
「うん、そう・・・って、違うだろ」
「だってそう言ったじゃない」
「いやまあ、確かにそれもそうなんだけど、でも」
「でも?」
「だ・・・」

だから僕は、きみに会うために来ているわけで・・・


車を止めた湖畔。
なぜか勢いでドライブしてきてしまった二人だった。

エンジンを切って、シートベルトを外したナインが助手席のスリーの顔を覗き込んだのが数瞬前。


「・・・フランソワーズ。もしかして僕が毎日来るの、迷惑だった?」
「えっ、どうして?」
「・・・いや・・・」
「迷惑なんて思ったことないわ。ほんとよ?どうしてそんなこと言うの?」
「・・・じゃあ、だったらどう思ってる?」
「どう、って・・・」

毎日顔を見られるのは嬉しい。

「・・・」
「フランソワーズ?」
「・・・コーヒー豆を切らさないようにしなくちゃ、って・・・」
「それから?」
「それから、・・・」

スリーはナインを見つめた。
ナインは静かにスリーの答えを待っている。

「・・・意地悪ね、ジョーは」

うつむくスリーに苦笑すると、ナインは車を降りた。

 

「うーん。さすがにまだ紅葉には早いか」

そうして大きく伸びをした。
ふたりの目の前には湖が静かに横たわっていた。

その隣にスリーも降り立ち、同じ方向を見つめる。

「来ない日は寂しいの、知ってるくせに」
「うん。そうだったね」

ナインはスリーを引き寄せると抱き締めた。

「ジョー、お仕事は」
「今日は午後からだから、大丈夫。もう少し一緒にいられる」
「良かった。でも、こんな遠くに来なくても良かったのに」
「邪魔が入らなくていいだろう?」

先刻のセブンを思い出し、くすりと笑んだところで唇を塞がれた。

「ん。何か面白いことでもあった?」

ナインが唇を離して問う。

「ううん。ジョーと一緒にいるのが嬉しいの」
「・・・そんなの、」

そんなの、僕だってそうさ――と言う代わりに、再び唇を合わせていた。