「アニキ。ほっぺに何かついてるよ」

「ああ」

セブンに指摘されても、むっつり黙り腕を組んだままのナイン。

「なんか四角い痕・・・?なんだい、これ」

しかしナインは渋面を作ったままである。
日本戦が終わったその朝である。徹夜したふたりがギルモア邸にやって来たのだった。
日本が負けたから機嫌が悪いのかな。
セブンが首を傾げた時、トレイを持ったスリーがリビングにやってきた。コーヒーの香りが漂う。

「もう、ジョーったらそんなに怒らなくたっていいじゃない」
「怒ってないよ」

スリーはコーヒーをみんなに配ると、ナインの隣にちょこんと腰かけた。
そして、彼の頬をしみじみと見つめた。

「やっぱりベンジンじゃなきゃダメかしら」
「博士にきいてくれ」

ナインの両頬には白い四角い痕。

「まったく、油性ペンで描くことないだろ」
「だって顔料だと思ったんだもの」

ワールドカップサッカーで日本チームを応援する際、両頬に日の丸をペイントしたのだった。
スリーが油性ペンと顔料を間違えたとわかったのは、試合終了後しばらくしてからだった。
二人とも試合前は興奮していて全く気付かなかった。

「ふうん。スリーは自分のほっぺには描かなかったのかい?」

ナインの頬を見つめながら、セブンが至極もっともな疑問を放った。

「えっ?ええ・・・」

スリーは隣のナインをちらりと見つめ、頬を染めた。

自分もペイントするつもりだったのだ。
だが、描いてとナインに言ったら、描く代わりにほっぺにちゅーされた。

・・・なんてことはセブンに言えなかったから、スリーは隣のひとの脇腹をちょっとつねった。

「なに?」
「なんでもないわ」

ナインの頬が少し緩んだ。