「クリスマス」
―1―
もうすぐクリスマス。 クリスマスにはいつも、ナインがどこかから調達してきた大きなもみの木をリビングに置いて、みんなで飾りつけをする。 そんなある日。 いつものように夜遅くに寄ったナイン。満足そうにコーヒーを飲み干して立ち上がった。 「ごちそうさま。そろそろ帰るよ」 そんな会話をしながら、玄関まで送るのはいつものこと。 「――そうだ。24日、空けておいて」 ドアのノブを掴んだまま、肩越しにナインが振り返る。 「何言ってるの、ナイン。空いてるに決まってるでしょう?みんな集まってクリスマス会をするんだから」 ナインは口ごもり、そして気まずそうに黙った。 「ナイン?何か予定でも入ってるの?」 何か言いたそうにしているけれど、結局黙るナイン。 「――ああ、そうよね。日本ではクリスマスには恋人と過ごすのだったわね」 ナインにはたったひとり、大事な恋人がいる。この前、それをはっきりと知ってしまった。 「残念だわ。セブンも博士もがっかりするわ」 ナインはその日、恋人と一緒に過ごすのだろう。 「ちょっとだけでも寄れないかしら。顔を出すだけでもいいのよ」 ナインは少し怒っているみたいに言って、ドアを開けた。 やだ、私ったら。もしかしたら、知らないうちにきつい言い方になっていたのかもしれない。 ナインのことを気にするのはやめるって決めたのに。 ギルモア邸を後にするナインに小さく手を振って、テールランプが見えなくなるまでそこにいた。 ――ナイン。 私は、あなたが好き。 だけど、あなたには恋人がいる。 だから、私がどんなに思っても、あなたにこの気持ちは届かない。 あなたが私に向ける視線は、仲間に対する気持ちであり、妹のように思ってくれているものでしかない。 ・・・良かった。気持ちを伝える前に、ナインの気持ちがわかって。 妹としか思ってないよ、ごめん。 って、彼に言わせずにすんで良かった。 どんなに好きでも届かない。 彼にとって私はただの仲間。妹でしかないのだから。
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