「クリスマス」 

 

―1―

 

 

もうすぐクリスマス。

クリスマスにはいつも、ナインがどこかから調達してきた大きなもみの木をリビングに置いて、みんなで飾りつけをする。
それから、その下にそれぞれの持ってきたプレゼントを置いて、食事の後に開けることになっている。
クリスマスケーキは私が作る。セブンの好きなイチゴをのせて。
みんなで囲むクリスマスの食卓は、毎年とても楽しくて、私はいつもこの時期になるとわくわくしていた。

そんなある日。

いつものように夜遅くに寄ったナイン。満足そうにコーヒーを飲み干して立ち上がった。

「ごちそうさま。そろそろ帰るよ」
「ええ。気をつけてね」
「ウン」

そんな会話をしながら、玄関まで送るのはいつものこと。

「――そうだ。24日、空けておいて」

ドアのノブを掴んだまま、肩越しにナインが振り返る。
妙に真剣な顔をしていて、私は思わず笑ってしまった。

「何言ってるの、ナイン。空いてるに決まってるでしょう?みんな集まってクリスマス会をするんだから」
「クリスマス会・・・・」
「忘れてたの?――もう。ナインの方こそ、空けておいてね?」
「えっ、イヤ、僕は・・・」

ナインは口ごもり、そして気まずそうに黙った。

「ナイン?何か予定でも入ってるの?」
「え。あ、ウン。――入ってる」
「そう・・・ナインが来ないと寂しいわ」
「――ウン・・・」

何か言いたそうにしているけれど、結局黙るナイン。
いつものナインとどこか違う様子に私は首を傾げ――そしてある事に思い至った。

「――ああ、そうよね。日本ではクリスマスには恋人と過ごすのだったわね」
「・・・・・ウン」
「じゃあ、ナインは来られないのね」

ナインにはたったひとり、大事な恋人がいる。この前、それをはっきりと知ってしまった。

「残念だわ。セブンも博士もがっかりするわ」

ナインはその日、恋人と一緒に過ごすのだろう。

「ちょっとだけでも寄れないかしら。顔を出すだけでもいいのよ」
「え。ウン。そうだな」
「出かける前に、ちょっとだけ顔出してくれれば。セブンなんてプレゼントの事だけ気にしてるんだから」
「――ウン。そうするよ」

ナインは少し怒っているみたいに言って、ドアを開けた。

やだ、私ったら。もしかしたら、知らないうちにきつい言い方になっていたのかもしれない。
ナインがクリスマスを恋人と過ごすからって、私がヤキモチやいても仕方ないのに。

ナインのことを気にするのはやめるって決めたのに。

ギルモア邸を後にするナインに小さく手を振って、テールランプが見えなくなるまでそこにいた。

――ナイン。

私は、あなたが好き。

だけど、あなたには恋人がいる。
信頼し合っていて、とても大切にしているひとがいる。

だから、私がどんなに思っても、あなたにこの気持ちは届かない。

あなたが私に向ける視線は、仲間に対する気持ちであり、妹のように思ってくれているものでしかない。
この前それがはっきりとわかった。
悲しくて辛かったけれど、それでもナインは今までと変わらず同じように接してくれているから、私は泣かずにすんでいた。

・・・良かった。気持ちを伝える前に、ナインの気持ちがわかって。
もし告白でもしていたら、きっとナインは凄く困っただろう。

妹としか思ってないよ、ごめん。

って、彼に言わせずにすんで良かった。

どんなに好きでも届かない。

彼にとって私はただの仲間。妹でしかないのだから。