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ナインはあの日以来、姿を見せない。

結局、クリスマス会には顔を出すのかどうかの返事ももらっていない。
ただ、私が「顔を出して」と言ったから、当日はきっと寄ってくれるだろう。ナインはそういう人だから。
私が一方的にした約束でも必ず守ってくれる。

――ナインがいなくても、クリスマスは楽しく過ごそう。
私はそう決めていた。
ナインがいなくても、セブンがいるし、博士もいるし、シックスだって来てくれる。寂しくなんてない。
毎年、そこにいたナインがいなくても。

・・・どうして今年に限ってナインは恋人と過ごすことにしたんだろう?

今まで恋人と呼べる人がいなかったから、私たちと過ごしていた?
そして今年は恋人がいるから、だから・・・クリスマス会には来ない。

きっと、そういうことなのだろう。

私は出かけるために装った自分を鏡に映してチェックした。
イヤリングが外れそうになっていたのを直す。

ナインがくれたイヤリング。

いつだったか、二人でドライブした先のお店で見つけた――元々はピアスだったもの。
ナインが一人で何度も通ってお願いして、イヤリングにしてもらったと言っていた。
私の宝物。

――あの頃は幸せだったのに。

ナインに特別な人がいるなんて、知らなかったから。
漠然と「いるのだろうな」と思っているのと、実際に彼の口から「大事な人がいる」と聞くのとでは違う。
はっきり聞いてしまった今では、あの頃にはもう戻れない。
見た目上、いつもと変わらなくても心の中では気にしてる。

どんなひとなんだろう?

どこで知り合ったんだろう?

今日も会うのかな。

それとも、もう既に会ってきたのかな――

――だめだ。
もうやめなければ。

ナインには決まったひとがいる、ってはっきりわかったのだから。
私なんか、最初から「女の子」としてすら見てもらってない対象外なんだから。

これ以上、好きになっちゃだめ。

だってナインは、私の・・・

大事な仲間で

――お兄さん。なんだから。

鏡の向こうの自分が泣きそうな顔になっていて、手でほっぺたを軽くはたいた。

しっかりしなさい、フランソワーズ。こんな泣き虫じゃなかったはずでしょう?

そう・・・今日はこれからバレエを観に行くのだから。
バレエ教室の友人と一緒に。
楽しい事が待っている。

これからも、きっと。

軽くクラクションの音がして、私はバッグを持って部屋を出た。