「君だけを」
去年はネックレスを贈った。さて、今年は何を贈ろう――?
ナインは大きくため息をつくと、地下2階から地上3階までの吹き抜けに立つ巨大なクリスマスツリーをじっと見つめた。3階の手すりにもたれるようにして地下2階を覗くと、昨年と同様にクリスマスソングを演奏しているカルテットが見えた。 ナインは再びため息をついた。 ――本当は一緒にいるはずだったのに。 未練がましく自分の隣を見たところで、そこには空間があるばかりで期待していたような奇跡はおきていない。 ・・・フランソワーズ。 思い浮かべたら胸の奥に痛みが走った。 会いたい。 でも――会えない。 ケンカをしているわけではなかったし、嫌われたわけでもない。もちろん、自分が心変わりしたのでもなかった。 今の自分では会えない。 何が変わったというわけでもない。 しかし。 それ故に会えなかった。 恋しくて愛しい気持ちは溢れるほどあるのに、だからこそスリーには会えなかった。 いったいどうしてこうなってしまったのか。 どうすればいいのか。 ナインは小さく笑った。唇に微かに浮かぶその笑みは自嘲ともとれるし、あるいは過去を思い出し懐かしんでいるようにも見えた。 ――去年の今頃もここにいたんだっけ。 スリーが他の男と出かけたという事実に打ちのめされ、尾行したのだった。そしてこのクリスマスツリーを挟んで彼女を見つけた。それから色々あって、その次は「デート」として一緒にこのツリーを見上げた。 いずれにせよ、スリーとは会っていない。個人的には。 ミッションの打ち合わせなどでギルモア邸には行っているから、全然顔を見ていないわけでもないし、必要であれば言葉を交わしたりもしている。 ナインとしては、どうあっても会うわけにはいかなかったしそういう気分にもならなかった。 ――なのにクリスマスプレゼントに悩むあたり、僕もどうかしてる。 渡せるのかどうかわからないのに。 ナインはもう一度大きくため息をつくと踵を返した。
|