―6―

 

私は腕の中で体を起こそうとするジョーを押さえるのに全力を尽くさなければならなかった。
ジョーは――009は、今回のミッションに関する情報を全て――きれいさっぱり忘れていた。
なぜそうなったのか。

それは。

009だけを狙った精神攻撃。

彼の脳波に同調し、彼の精神波のパターンを解析し、彼に――まるで現実のような悪夢を体験させる。そして、最強のサイボーグである009を戦わずして廃人同様の状態へ追い込む。
それが敵の目的だった。

009は――ジョーは強いひとだから、大丈夫。

誰もがそう思っていた。だから、そんな兵器には負けないだろうと――勝手に思い込んでいた。
だって、009には弱点なんかないのだから。

でも、私たちは間違っていた。

確かに009には弱点はない。
でも、島村ジョーには――ジョーには、弱い部分がたくさんあったのだ。

ふだんは見えない。彼は巧みにそれらを隠す。
子供の頃の色々な思い――妬み、不安、怒り、恐怖。ありとあらゆるマイナスな感情を知った頃のこと。
そして、今でも時々心に浮かび上がってはどうしようもなくなってしまうこと。

誰も知らないジョーの弱点。
そこを突かれたらアウトだった。


――でも。


ジョーの弱点はそこでもなかった。
敵が突いてきたのは、彼の中のもっと奥の、大事なもの。
彼が持っている優しい気持ち。誰かを思う優しく温かい心。
そこを壊しにかかった。

そしてジョーは、あっけなく――本当に意外なほどあっけなく罠にかかり、そして倒れた。

あんなジョーの顔は見た事がなかった。

全てを諦めたような。
もう、世界がどうなろうが関係ないみたいな。
泣いて――声もなく泣いて。

そして――壊れた。

 

ジョーの心が、009の心が、壊れてしまった。