―9―
「・・・ほら。フランソワーズ。――泣かないで」 ナインの声が響く。・・・けれど、私はなんだかぼんやりしていた。
放っておけないよ――そう言って、おでこにキス。 「ん。ジョー。もう泣いてないわ」 そうして私の顔を両手ではさんで上向かせて――再び唇を重ねた。深い深い、恋人同士のキス。 ・・・ねぇ、ジョー?
***
――そういえば、今日はクリスマスイブだったんだなぁ。 僕はぼんやりと思いだしていた。 僕は胸に抱き締めたスリーの温かさを感じていた。 スリーに会ったら僕はどうかなってしまう。きっとまた――彼女の気持ちも考えず、自分だけの快楽を追及し溺れるだろう。だから、会わないとそう決めていたはずだった。 僕はスリーと一緒にいても大丈夫だ。と。 一番大切な女の子を泣かせたくない。だから、僕は彼女に触れない。彼女に会わない。そう固く心に決めていた。 ・・・なんだ。簡単なことじゃないか。
「・・・ジョー?どうかしたの」 目尻に涙を溜めているけれど涙は止まっているスリーが僕の胸から顔を上げる。頬が上気してとても綺麗だった。 「うん?別に――どうもしないよ?」 ――そんな風に見えていたのか。 「避けられてるのかしら、ってちょっと思ったこともあるけど、でも・・・きっとそうじゃないわ、って思ったの」 確かに避けていたのだったけれど。 「嫌われたわけじゃないってわかっていたから、きっと何か他の理由があるんだわ、って」 僕は小さく咳払いをするとじっとスリーの目を見つめた。 「――その。・・・ミッションに入る前に、その・・・きみと仲良くしていた時の事なんだけど」 きょとんと見つめる蒼い瞳。邪気のないその無垢な瞳は僕を落ち着かなくさせる。 「その・・・すまなかった。僕はたぶん、自分のことしか考えてなくて、だから――自分を許せなかったんだ」 そう――僕は深い自己嫌悪に陥っていた。 「・・・何のこと?」 なのにスリーは無邪気に問い返すばかりだった。 「だからその。・・・前にきみが泊まっていった時のこと・・・なんだけど」 スリーは無言でちょこっと首を傾げ――ああ、何て可愛いんだ――そして一瞬後にはにっこり笑んでいた。 「ああ。あの日のことね?」 彼女の胸にはいったい何が去来しているのだろうか。 「ん・・・何を謝っているのかわからないわ」 すっかり忘れたというのだろうか。 いや。 そうじゃない。 スリーは優しいから、僕に気を遣って「なかったこと」にしようとしているんだ。そうに決まっている。 情けない気持ちになった時、スリーが僕の腕に手をかけた。 「ジョー?いったい何が問題なの?」 スリーはそのまま僕の胸におでこをつけた。 「――だって。好きだから夢中になってくれたんでしょう?」
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