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「やっぱり12月は『くるみ割り人形』よね」

そんな事を言い合いながら観たバレエ。
みなとみらいにある大ホールで行われるバレエのチケットをとってくれたのは、バレエ教室の友人だった。
同じ方面の彼が私を拾って一緒に行ってくれた。他のひとは現地集合で。
バレエのわかる者同士で観るのは楽しい。幕間にあれこれ意見や感想を言い合うのも楽しかった。
もしナインやセブンと来ていたら、ふたりともさっさと寝てしまっていただろうし、こうやって楽しく意見を交わすなんてことも期待できなかった。

――いやだ、私。
またナインの事を考えてる。

今は、バレエの事だけ考えていればいい。
ナインの事ではなく。

私の大好きなバレエ。

バレエより大切なものなんてない――はずなのだから。

 

 

***

***

 

「送っていかなくていいのかい?」
「ええ。大丈夫よ」

心配顔の友人たちに小さく手を振る。

「でも、フランソワーズ――」
「ふふっ。実は、クイーンズスクエアなんて滅多に来ないから、お店を見ながらクリスマスプレゼントを探したいの」
「あら、やだ、だったら早くそう言ってよ。――ジョーくんへのプレゼントか何か?」
「えっ?・・・ええ。――そう」
「どうせ二人で過ごすんでしょう。クリスマスは」

彼女たちは、私とナインを「親――博士のことだ――も公認の仲の恋人同士」と思っている。
それは全然違うのに、私は未だに否定も肯定もできずにいた。

曖昧に笑って受け流す。

――ジョーは別のひとと過ごすのよ。だって私は彼の恋人なんかじゃないんだもの。

そんなことをわざわざ言う必要はない。
彼女たちが、私とナインの仲を誤解しているならそれでもいい。
事実とは違うことでも、彼女たちの頭の中では私とナインは付き合っていることになっている。――というのが、私はなんとなく嬉しかったから。

嘘なのに。
そうじゃないのに。

それでも、失恋したのだと腫れ物に触るように扱われるよりはマシだった。