―7―
クリスマスプレゼントはナインのぶんだけ、決まっていなかった。
クリスマスに恋人と会うひとに、何をあげたらいいというのだろう?
仲間として、009に。
それとも、いつもお世話になっているからとお歳暮みたいに。
無難な何か。恋人が「これは誰からもらったの」なんて絶対言わないような、目立たないもの。
大好きなナインへのプレゼントに適当なものを探すのは難しかった。
どうしたって、「僕はこういうのが好きだな」「これ、いいね」と言っているナインの顔ばかりが思い浮かんで、そのたびにナインだったらこれが似合うわと幸せな気持ちで選んでしまう。
――大好きなのに。
お店を巡り歩いているうちに、なぜか涙が滲んできて私は立ち止まっていた。
目の前には大きなクリスマスツリーがあった。真っ白な。
クイーンズスクエアに毎年飾られる大きな大きなツリー。
毎年、ナインがどこからか調達してくるもみの木とおんなじね。
不意にそんなことが思い浮かんで、視界はどんどん滲んでゆく。
何を思っても、何を見ても――どうしたって、ナインと結びつけて考えてしまうこの癖はなかなか抜けてはくれない。
これ以上、ナインの事を思っても辛いだけなのに。
***
真っ白な巨大なクリスマスツリー。
クイーンズスクエアの地下一階から吹き抜けになって3階まで続くスペースにそれは飾られている。
手すりから乗り出して下を見ると、今日はクリスマス直前の休日だからなのか、エレクトーンの生演奏が行われていた。私がいる3階まで、微かに音が流れてくる。
それに耳を澄ませ、ツリーを見ていると――雪が降ってきた。
――えっ?
ここは屋内なのに。
ツリーを見つめている家族連れやカップルからも驚きの声があがる。
どうやら、クリスマス前のこの時間にはそういう演出がなされるらしい。
幻の、造り物の雪。
それでも、それはきらきら煌いて――少し照明が落とされた中で幻想的に舞っていた。
周囲の喧騒が静かになってくる。
みんなが見てる。
特にカップルは、そっと肩を寄せ合い、ふたりの世界に入るみたいに。
ナインが一緒だったら、何て言うかな。
思わず笑みが洩れた。
きっと、「こんなのニセモノさ」とわかりきったことを言って、そして「これが綺麗だって?全く、フランソワーズはコドモだなぁ」って笑うだろう。
私はツリーの周りに集まっているカップルを何となく見つめ――そうして、いま思っていたひとがそこにいるのを見つけ息が止まりそうになった。
――ナイン。
ナインは2階の、私がいる反対側にいた。
手すりから身を乗り出すようにして下を見ている。
どうしてナインがここにいるの?
私は、自分が作り出したマボロシだろうかと眼をこすった。が、ナインはやはりナインそのひとだった。
どうしよう。
声をかけるべきなのだろうか?
けれども、私たちの距離は遠くて――ナインはこちらには気付いていなかった。
迷ったのは一瞬で、私はナインに声をかけようとエスカレーターの方へ足を踏み出した。
こんな偶然は滅多にあることではないし、私はいま、ナインと一緒にいたかった。
けれど。
ナインはもたれていた手すりから身を起こし、くるりと背後に向き直った。
そして、その先にいたのは――
――女の子。
ナインはデートでここに来ていたのだ。

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