「おみくじ」
2009年1月某日 

usakuma様のリクエスト(?)に便乗♪
「引いたおみくじが凶だった!3回引いてもやっぱり凶!さあどうする!」

 

@旧ゼロ

みんなで温泉旅行に行った時にひいたおみくじは大吉だった。しかし、そのあと変な男にナンパされたという不運を振り払うべく、ナインとスリーの二人は改めて参拝に来ていた。
今度はスリーは着物ではなく、洋服だったのでナインはほっとしていた。もし今日も着物姿だったら、嬉しい反面落ち着かないだろうと思っていたのだ。

「この前はケチがついちゃったから、改めて大吉を引かなくちゃ!」
「なんだ、今から大吉を引くって決めてるのかい?」
「あら、この前そうだったんだから今度もきっとそうよ」
「そううまくいくかなあ」

にやにやするナインに向かってイーっと顔をしかめるスリー。

「もうっ。意地悪ね!」

そんな顔をするスリーも可愛くて、ナインは繋いだ手に力を込めた。絶対に離さないぞという決意の現れだった。

今日は鎌倉の鶴岡八幡宮に来ていた。
三が日は過ぎたとはいえ、やはり混んでおり、電車でも駅でもぎゅうぎゅうで、ナインはスリーを守るのに必死だった。一方のスリーといえば、ナインの苦労を全くわかっておらず、あっちを見ろだのこっちを見てだの、可愛い物や綺麗なものを見つけては指差しナインに話しかけるのだった。ナインはそれどころではなかったものの、そこはそれ、相手は思い人である。彼女の指差す方を律儀に見てコメントするのを忘れなかった。そのコメントの内容に彼女が膨れても、そんな表情を見るのが楽しかった。

参拝もすんで、いよいよおみくじである。

「ジョーは引かないの?」
「ウン。僕はいいよ」
「そう?・・・これにするわ!」

嬉しそうにおみくじをかざす。そうしてにこにこしながら開くその顔が、一瞬のうちにさっと曇った。

「フランソワーズ?」
「・・・ジョー。これ・・・」

差し出されたおみくじに書いてあったのは「凶」。

「へえ。凶ってちゃんとあるんだな。吉しかないものだと思ってたよ」
「・・・もう一回、引くわ」
「え?」
「だって、こんなの嫌だもの!」

ナインが見守る中、今度はじっくり時間をかけておみくじを選ぶスリー。まさか中身を見てるんじゃないだろうなと一瞬思ったものの、スリーはおみくじの入った箱に入れた手とは全然違う方を見つめていた。手の――指先の感覚だけで選んでいる。それを見てほっとした。もちろん、彼女はそんなズルはしないだろうとは思っていたけれど、それでもやっぱりちょっと心配だったのだ。

「――これ!」

掴んだおみくじをそのままナインに渡す。

「えっ?」
「早く!見て!」
「何で僕が」
「だって怖いもの」
「怖い?」
「また凶かもしれないでしょう?だから、先にジョーが確認して!」

真面目な顔でナインに向かって懇願するスリーを見て、ナインはくすりと笑みを洩らした。

――可愛いなぁ。おみくじひとつで真剣になっちゃってさ。

「大丈夫だって。どう考えても確率的には吉をひく方が・・・」

大威張りで話す声の語尾が頼りなく消える。

「・・・フランソワーズ」
「なあに?どうだった?」

手元を覗き込もうとするスリーをするりと代わし、おみくじを手の中に握りしめた。

「ジョー?」
「もう一回ひこう」
「えっ?だって・・・ね、今ひいたのは何だったの?」
「いいから、もう一回ひこう。ほら、早く」
「でも」

有無を言わせずナインに背中を押され、納得がいかないものの、もう一度おみくじをひくスリー。今度はあっさりと何も考えずに一番先に指に触れたものを選んだ。

「ヨシ」

スリーがおみくじを開くのよりも早く、ナインはそれをさっと取り上げた。

「あっ、もう――まだ見てないのに」
「いいからいいから」
「さっきのだってまだ見せてもらってないのよ?」

頬を膨らませて抗議するスリー。が、それには全く構わず、ナインはおみくじを開いていた。

「・・・・」
「ジョー?」

険しい顔で手元を凝視しているナイン。その手元を覗き込もうとして――やっぱり見せてもらえないのだった。

「フランソワーズ」
「なあに?ね、それ何だったの?大吉?」
「僕もおみくじをひいてみたくなった。だからひいてくるよ」

スリーの問いに全く取り合わず、ナインは笑顔を浮かべておみくじをひきに行ってしまった。もちろん、スリーの引いたおみくじは手の中に隠したまま。

「もうっ・・・どうして見せてくれないの?」

唇を尖らせ、不満を表明してみるスリー。その視線の先には、おみくじをひいてその場で開いて見ているナインの姿があった。
おみくじを見つめるナインの顔が一瞬、ほっとしたように緩む。が、すぐに眉間に皺を寄せた厳しい顔に変わった。

「ジョー?どうしたの?」

思わずナインの元へ駆け寄る。

「何か変なのが出たの?」

心配そうに顔を覗き込んでくるスリーに、厳しい顔を緩め笑いかける。

「うん。――ホラ。僕も「凶」だったよ」
「まあ!」
「やっぱり凶を引くと何かすっきりしないなあ」
「ジョーももう一回引く?」
「うん。実はもう引いたんだ。だけど・・・ほら」

手の上にあったのは、やっぱり「凶」のおみくじだった。

「2回続けてひいちゃうなんて、何だか今年はついてないのかなあ」
「ジョー・・・」

スリーは思わずナインの腕にそっと手をかけていた。

「フランソワーズとは全然違うよなあ。――ホラ。こっちがさっき君がひいたおみくじだ」

そうしてやっと、さっきの二回ぶんのおみくじがスリーの手のひらに載せられた。

「凄いよなあ。凶をひいた後に、ちゃーんと大吉と吉をひいちゃうんだもんな」

おみくじを手に取り眺めているスリーをちらりと見つめ、ナインは言葉を続けた。

「さすがだよ。フランソワーズ」

その言い方が気に障ったのか、スリーは手元に視線を落としたまま硬い声で応えた。

「せっかくだけど、「目」は使ってないわよ。そういう意味で言ったのならね。ズルはしてないわ」
「そんなこと言ってないよ。ただ、運が強いなって思っただけさ。僕は続けて「凶」だしね。――あーあ。フランソワーズに負けるなんて納得いかないよ」
「負けるって何が?」
「「凶」の数さ。きみは一回引いたけど、僕は続けて2回引いてしまった。不運もここに極まれり、ってね」
「ふふっ」

おどけたナインの声に、やっとスリーの唇に笑みが浮かんだ。手元から顔を上げて、くすくす笑いながらナインを見つめる。

「普段の行いの差かしらね?」
「あっ、ひどいなあ。世界の平和を守っているこの僕に」

くすくす笑い合って。そうして、ふっとスリーが真顔になった。

「これ、・・・ジョーにあげる」

手の上に載せられたのは「大吉」のおみくじだった。

「ダメだよ、それはフランソワーズのだろ」
「ううん。私のはもうひとつ「吉」があるからいいの。「大吉」だったら、ナインの二つの「凶」も消えちゃうと思わない?」
「そうかな」
「ええ。それで、私はこの「吉」で、さっきの「凶」が取り消しになるの。――ね?これでふたりとも元通り、よ」
「じゃあ、改めてもう一回引かないと」
「ううん。いい」
「でも」
「いいの。・・・おみくじより、」
「ん?なに?」

自分の肘のあたりに向かって何か呟いたスリーの声。

「――ね、お腹空いちゃった。何か食べない?」
「きみの言う何か、ってどうせ甘いものだろ」
「そうよ?――ん、そうね・・・おしることか、いいかも」
「おしるこ?」
「甘いし、あったまるわ」
「・・・まあ、いいけど・・・」

なおもブツブツ言うナインの腕につかまり、頬を寄せて。

「さっき来る途中に甘味処があったはずよ」
「いつの間に見たんだ」
「だから、来る途中よ?」
「そういうところは見逃さないんだな」
「あ、ひどいわ、ジョー」

半分本気で怒りながら、スリーはナインの腕をつかむ手に少しだけ力をこめた。

 

――おみくじより、確かなものがここにあるからいいの。ね?ジョー・・・

 

 

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A新ゼロ

 

おみくじをひいた。凶だった。

もう一回、ひいた。また凶だった。

更にもう一回、ひいてみた。またまた凶だった。

 

 

「ジョー?どうしたの?」

明るい蒼い瞳がくるりと振り向き、隣に僕がいないことに気付いて小走りにやって来る。

「別に。どうもしないよ」
「嘘。別に、って顔じゃないわ。一体、どうし・・・あ!」

手に握りしめていた紙の束に気付き、僕の手から強引にもぎ取ろうとする。

「おみくじでしょ?ちょと見せて!」
「ダメだよ」
「いいじゃない、何て書いてあったの・・・」

指をいっぽんずつこじ開けるようにして、とうとうおみくじは彼女の手に渡ってしまった。
それを開いて見ている彼女の顔がだんだん険しくなっていく。

「ジョー?」
「なに?」
「これ・・・」

凶の三連発を見て、フランソワーズは何て言うだろうか?

「――困ったわ。どうしましょう」

頬に手をあてて、本当に困ったように僕を見上げる。
困った、って・・・いったい何に困ったというのだろう。

「ただの凶だけど」
「そうね。でも・・・」

少し言い淀むと、一歩僕の方へ近付いた。そして小さい声で言う。

「・・・凶をみっつもひいちゃうなんて、ジョーったら」

それは僕のせいではない。――いや、そうでもないか。
全く、今年はロクな事がないな、きっと。

「でも、しょうがないわね」

ひとり納得したように頷くと、ぱっと彼女の頬が朱に染まった。
何だ、いったい?

「ジョー。ちょっと話があるの」
「話?」
「そう。・・・ちょっと耳貸してくれる?」
「・・・いいけど」

少し屈んで、彼女の口元に耳をよせ――ようとしたら。
屈んだ途端、首に腕が巻きつけられ、引き寄せられ、そして・・・

「えっ?」
「・・・・・・・・・」

驚く僕に全く取り合わない。
そして、僕の右頬、左頬をかすめ、ちらりと一瞬目を合わせると、ちゅっと音をたてて唇の上に唇を重ねた。

ここは神社の境内である。参拝に来ている人も多く、まだまだ人出がじゅうぶんあった。
そんな人目のある所で彼女がこんなことをするのは凄く珍しいことで、僕は目を疑った。
このフランソワーズは僕のフランソワーズなのだろうか?

あっという間に僕を襲った3つのキスは、始まった時と同様、唐突に去っていった。

「――ん。これでいいわ!」

頬を染めて、でも満足そうに言うフランソワーズ。わけがわからない。

「フランソワーズ、いったい・・・」
「ん?・・・うふっ」

フランソワーズは無言で僕の腕をとると引っ張るようにして歩き始めた。

「行きましょ」

そのままどんどん歩いて行く。

「フランソワーズ、いったい・・・」

境内を出て、神社の外の道に出た。
そこでやっと、フランソワーズは振り返った。顔が赤い。でも可愛い。

「だって、ジョーが凶をみっつもひいたから」
「それがどうかした?」

意味がわからない。

「だから。凶をみっつひいたからよ?」

そんなに連呼されると、自分の不運さが改めて身に沁みて気分が沈んでくる。

「だから、ちゅーをみっつしなくちゃならなかったの」
「・・・え?」

何を言っている?
不得要領な僕を見つめ、フランソワーズは息をつくとさっき僕から奪った凶のおみくじを広げて示した。

「ここに、ちゅーをしなさい。って書いてあるじゃない!」
「・・・え?」

何を言ってるんだ?

「――日本人は知らないのかしら。ここよ。コ・レ」

そうして指さしたのは、凶の字の中の×の部分。

「ここにバッテン印があるでしょう?これってちゅーのことなのよ?」

いや・・・×がキスだというのは知っているけど、でもこれはおみくじで、更に言うと凶は記号ではない。

「ジョーったら、みっつもひいちゃうんだもの」

人差し指で僕の肘のあたりをつんつんしながら言う。

「すぐ三回もちゅーするのは、さすがにちょっと・・・人目もあったし。だから、ほっぺにふたつにしちゃったけど」
ダメだった?と心配そうに尋ねてくる。

「イヤ、ダメなんかじゃないけどさ。でも」
「ホント!?ああ、良かった!」

僕の話を聞いてない。
フランソワーズはそのまま僕の腕に寄り添うとにっこり微笑んだ。

「――さあ、お守りを見に行きましょう!」
「お守り?だってさっきのところにあったじゃないか」
「違うの。この先に、それ専門のところがあるのよ」
「専門?」
「ええ」
「・・・ふうん」

例えば、縁結びとかそういう類のものだろうか?でも、縁結びなんていったい誰とどんな縁を結びたいのか全く想像ができなかった。

「フランソワーズは何が欲しいんだい?」
「もちろん、交通安全よ!」
「交通安全?」
「そうよ。――ジョーが今年も事故なく完走できるように」
「そんなの、」

神に願わなくても、僕は自分の力で戦うだけなのに。

「いいじゃない。だって、持つのは私よ?」

フランソワーズが持つ?何の為に?

「――あなたの凶は、さっき私が全部貰ったから」

そっと自分の唇に指を当てる。

「だから、お守りと一緒にして封印しておくの」
「封印って」
「だから・・・ね?大丈夫。ジョーは私と一緒にいれば、末には絶対にイイコトが待ってるんだから」

彼女がひいたのは、確か末吉。

「一緒にそこまで行きましょうね?」

 

 

凶の三連発なんて、全然どうってことないさ。
だって僕には彼女がいる。こうして隣で――最後に待っているであろうラッキーを一緒に分かち合うために。

 

 

 


 

B超銀

 

「あれっ・・・凶だ。フランソワーズは?」
「・・・私も凶だわ」

お互いに顔を見合わせた。
今日は厄除け神社に参拝に来ていた。いったいどんな厄を除けようというのかは謎である。ともかく、ふたりの意見が一致したので、こうして揃ってやって来たのだった。

「――もう一回ひく!」
「私も!」

しかし。

「おかしいな。どうしてまた凶なんだろう?」
「・・・ほんと。不思議ね」

またまたふたりとも凶だった。

「――確率的に有り得ない。ということは・・・」

なにやらブツブツ呟きだしたジョーをよそに、フランソワーズはもう一回ひいた。

「ほら、ジョーももう一回ひいたら?」
「えっ、うん、でも・・・おい、ちょっと待て!」

おみくじを開こうとしたフランソワーズの手を掴む。

「あら、なあに?乱暴ね」
「いいかい?ちょっとよく考えるんだ。大体、こういうのって万人が喜ぶように吉が多めだと決まってるんだ」
「そうね」
「だが、僕たちはそろいも揃って凶をひいた。しかも、二度もだ」
「ええ」

それがどうしたの?と蒼い瞳が問いかける。

「例えば、凶が全体の1%だとすると、100分の1の確率で凶をひくことになる」
「・・・そうね」
「続けて二回ひく確率は、100分の1かける100分の1で、10000分の1だ」
「・・・そうなの?」
「それが二人揃ってということは、10000分の1かける10000分の1で、100000000分の1にならないかい?」
「さあ・・・どうかしら」

二人、というのは掛け算ではなくて足し算になるんじゃないかしら・・・と思いつつも、面倒なので黙ってることにする。

「と、いうことは、だ。フランソワーズ!」
「なあに?」
「こんな確率、そうそうないぞ。つまり、僕達は正月から運がいい、ということになるんだ」
「運がいい?」
「ああそうだ。もしかしたら、僕達は今年宝くじに当たりまくるのかもしれないぞ」

買ったことないくせに。と思いつつも、これも黙っていることにする。

「だから、いまきみがひいたのが更に凶だったら、凄い事になるぞ!」

握り拳で力説するジョーを放っておいて、フランソワーズは特に何の感動も持たずおみくじを開いた。

「・・・アラ。大吉」
「ええっ!?」

そんなばかな、とフランソワーズからおみくじをひったくり、ためつすがめつ眺めるジョー。

「なんだよっ、くそっ・・・」
「返してちょうだい。私の大吉」

白い手が目の前に差し出されるが、ジョーは無視した。フランソワーズのおみくじを陽にすかして見たり、あれこれ試している。

「本当は凶の間違いなんじゃないか?こう、裏から見たら実は凶だった、とか・・・」
「もう。なにバカなこと言ってるの。大吉は大吉よ。ほら、ジョーもさっさともう一回ひいてきなさい」

ジョーの手からおみくじをもぎとり、まだ懊悩しているジョーの背をおみくじの方へ向かって押し遣った。
おかしいな、確率的に・・・とブツブツ言いながらも、ジョーは素直におみくじをひいてきた。

「――フランソワーズ。きみが見てくれ」
「どうして?自分で見ればいいじゃない」
「どうしてだって?きみは気にならないのかい?僕の運がどこまで続くか」
「ええ。別に」
「別に?」

信じられない、とジョーは目を瞠った。

「ここまで続いた運が途切れるかもしれないんだぞ?もしかしたら、今年の運勢は全てここにかかっているかもしれないんだ。なのに気にならないだって?」

まくしたてるジョーをちらりと見つめ、フランソワーズはしょうがないわねとおみくじを受け取った。

「――もう。自分で見るのが怖いなら、そう言えばいいのに」
「こ。怖くなんかないぞっ」
「はい、そうね・・・・ん?」
「なに?何て書いてある?」

フランソワーズの手元を肩越しに乗り出して見ようとするジョー。そのジョーに気の毒そうな視線を向ける。

「・・・残念ね。大凶よ」
「だ、大凶っ・・・・?」
「確率的にはどうなるのかしらね?」

けれどもジョーは聞いていない。
大凶と書かれたおみくじを握りしめたまま、微動だにしない。

「でもね、ジョー。大凶なんて全体の1%にも満たないはずだし、そう、もしかしたら0.1%なのかもしれない。だとしたら、それだけでも凄い確率じゃない?」
「・・・・・・・」
「凄いわよね、ジョーって運がいいわ。今年はきっといいことあるわよ?」
「・・・・・・・」

何も答えない静かなジョーに、フランソワーズはそっと息をついた。

「ジョー?ちょうど良かったじゃない。私の大吉とあなたの大凶で、きれいさっぱり相殺されるわ」
「・・・・えっ?」
「そうすると・・・ふたりで引いた続けて二回の凶が残るわね」
「・・・・・・・」
「そうしたら、ええと・・・どうなるのかしら?ともかく何万分の1かの凄い確率になるんでしょう?これって運がいいってことだったわよね?」
「・・・・・・・」
「だから、私たちは一緒にいるなら運がいいことにならないかしら?少なくとも今年いっぱいは」
「・・・一緒に?」
「そう」

普段、日本とフランスに離れて暮らしているので、一緒にいる、なんてことは一年のうちでほんのちょとしかないのではあるけれど。

「じゃあ・・・一緒にいる時間を増やせばいいんだな」
「そうね」

つまりこれって、今年は一緒にいなさいってことなのだろうか?

「・・・そうか」
「そうよ」

ジョーの頬に笑みが浮かぶのを確認して、フランソワーズも笑顔になった。

「じゃあ、今年は僕もフランスへ行くのを増やそうかな」
「レースはちゃんと出てね?」
「うー・・・ん。フランソワーズと一緒にいたら、レースなんて全然魅力ないよ」
「だめよ。ちゃんと出なさいね?」
「自信ないなあ・・・」

並んで神社を後にしながら、ジョーはフランソワーズの肩に手を回してそうっと抱き寄せた。

――今年はもっと、一緒にいる時間を多くしよう。

フランソワーズはジョーの背中に手を回した。

――今年はもっと、ジョーと一緒にいられますように。

なにしろ、新年早々神様に「ふたりが一緒にいれば良い運勢だぞ」と言われてしまったのだから。

 

 

 

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