こちらはオトナ部屋です!!
御注意ください!
「コタツとみかん」
新ゼロです。
以前のコタツのお話はコチラ
全く同じ展開ですが、↓がオトナ版になります。
冬になるとジョーの部屋にはコタツが出現する。 「上手になったわよね」 いつかどこかで交わしたような会話である。 「そうかな」 みかんひとつ剥くのにも難渋していた頃もあった。今ではそれも懐かしい話題となりつつある。 色々な場面で。 色々な… ああ、ダメだわ私ったら。また別のこと考えてる… 「フランソワーズ、どうかした?」 ジョーは剥いているみかんをそのままに腰を上げた。 「違うの、待って」 そのジョーのジーンズを掴んで引っ張ったから、ジョーはバランスを崩して倒れこんだ。 「危ないなあ、急に引っ張ったらだめだよ」 見つめる目と目。 「違うって何が?」 フランソワーズは答えられない。 「のぼせたんじゃないなら、どうして顔が赤いの」 ジョーの手がフランソワーズの手首を掴む。 「脈が速い」 ジョーの唇がフランソワーズの首筋をかすめる。 「ジョー…みかん、食べるんじゃなかったの」 *** 世界が揺れている。 揺れているのはジョーとフランソワーズのふたりだけであった。 まったく、僕を見て何を考えていたんだい? イヤ。言えないわ。 なぜ? だって、…ジョーに嫌われちゃう。 「もうっ、ジョー、やめて」 一瞬でジョーの感情が冷えたのがわかる。 「もうっ、ずるいわ、ジョー。それじゃあ私のプライバシーはどうなるのよ」 ジョーはあさっての方へ視線を飛ばしどこ吹く風だ。 「好きだからとか大事だからといって、秘密にしたいことを無理矢理聞き出そうとするのは愛情とは違うのよ」 わかる?と確認するが、ジョーの反応はない。 「言いたくないことだってあるの。それをわかってくれることも愛情よ」 感情がこもらない固い声でジョーが言う。 「僕に隠し事をしていても、許せというの」 わざと軽く言ってみたが、 「深刻になるもんじゃないなら、教えてくれたっていいじゃないか」 と返され、フランソワーズは言葉に詰まった。 けれども。 残念ながら、フランソワーズの彼氏は思考がとてもメンドクサイのだ。 「フランソワーズ?」 教えて、と、ジョーの褐色の瞳が憂いを湛えてじっと見つめている。 「ずるいわ、そんな目で見るなんて」 言ったら嫌いになるかもしれないわよ? ならないよ ううん、なるかも。 ならないよ わからないわ、そんなこと ならないって 嘘よ、きっと呆れて嫌いになるわ 「あのさあ、フランソワーズ。きみ、本当にどんな凄いことを考えていたんだい?」 フランソワーズはジョーを見て、しぶしぶ口を開いた。 ジョーは確かに思考があれこれメンドクサイ。 フランソワーズは観念すると、ジョーから視線を逸らせ小さく言った。 「ジョーの手を見てたらね、…」 途端、ジョーはフランソワーズの唇を奪い、意のままに組み敷いた。 「ん、ジョー、コタツに足があたってるみたい…」 僕に集中して、と耳元で囁かれ、さっきから集中してるわとフランソワーズは答えた。 「ん、ジョー、…っ」 彼の律動についていくだけで精一杯なのだ。 *** みかんの代わりにフランソワーズを食べたら叱られたので、僕はいまみかんを食べている。 「フランソワーズも食べたら」 フランソワーズはいまコタツにはいない。シーツが冷たくて気持ちいいと言って僕のベッドに潜り込んでいる。 「ん…後で食べる」 頬がまだピンクに染まったまま、フランソワーズが気だるげに言う。 「ジョー、大丈夫?」 大丈夫じゃない。けっこう苦しい。 「フランソワーズ」 少し怒ったように言うと、僕の手をとり胸にあてた。大胆だなあ。 「誘ってるの?」 そう言うと目を閉じた。睫毛が長い。 「ん、も、ジョー。だめよ」 それは…間違いなくフランソワーズのせいだと思うんだけど。 「そうだなあ…みかんのせい、かな」
2016/1/1upCopyright(C)2007-2016
usausa all rights Reserved.
日本男児であるジョーにとって、冬にコタツは欠かせないアイテムなのだ。
最初は、テーブルに布団を被せるなんて変なのと言っていたフランソワーズも、いまやコタツの大ファンである。
だから今年も揃ってジョーのコタツで暖まっている。そしてもちろん、コタツの上にはみかんがあるのであった。
「え、何が?」
「みかん、剥くの」
「そうよ。前はみかんジュースにしちゃってたわ」
「そうだね」
フランソワーズはみかんを剥くジョーの指先をじっと見つめた。
力加減を調節した繊細な動き。みかんは潰れず綺麗に剥けてゆく。
思えば、彼は元々F1パイロットなのだし、ドライビングテクニックのひとつとして指先の感覚は卓越したものがあるだろう。
だから、細かい作業などには向いているし上手いのだろう。
「えっ」
「顔が赤いよ。のぼせたかな」
「う、ううん。大丈夫」
「だめだよ、コタツって結構のぼせることがあるんだ。いま水を持ってくるから」
「だって…」
ジョーが倒れ込んだその先はフランソワーズの真上だったから、ちょうど組み敷いたかたちになっていた。
意図したわけではない。
ジョーの長い前髪がフランソワーズの鼻先をくすぐる。
「えっ?」
「のぼせたわけじゃないってこと?」
「え、…ええと」
「じゃあ、何を考えていたの」
こんな昼間の、しかも平和でのんびりした日にジョーを見ながら何を考えていたのかなど言えるわけがない。
「し、知らない…」
「僕を見てたよね?」
「そんなの、気のせいよ」
「・・・そうかな」
「それは、こんな体勢だから…」
「だから?」
「うん。あとでね」
と、いっても地震ではない。
否、なぜかコタツも揺れていた。ふたりの体のどこかが触れているのだろう。
「はあ?そんなわけないでしょ」
「だって」
顔を背けるフランソワーズをジョーは許さない。
彼女の視線を追い、視界に入り込む。
「言うまでやめないよ」
「意地悪」
「意地悪してないよ。ただ何を考えていたのか気になってるだけ」
「だから言えないっていってるじゃない」
「・・・僕に隠し事をするの?」
彼は相手が放つ自分に対する負の感情に敏感だ。
それはおそらく、信頼してもいい相手なのかどうか、裏切られる可能性はあるのだろうか…を瞬時に判断しなければならなかった過去があるからだろう。
今はそんな風にひとと向き合わなくてもよくなったとはいえ、昔からの習慣がそう簡単に消えるものではない。
ジョーの瞳が一瞬で曇ったのを見て、フランソワーズは唇を尖らせた。
「じゃあフランソワーズは」
「許すとかじゃなくて、詮索しないでっていう可愛いお願いよ?そんなに深刻になるもんじゃないわ」
確かにジョーが言うのは正論だ。しかも自分が言いたくないのはただ単純に恥ずかしいというだけなのだ。ことさらジョーに隠すようなものではない。
が。
かといって。
ジョーを見て考えていたことを告白するのは、女の子としてどうだろうか。
女子会の告白タイムならまだしも、当の相手には言ってはいけないような気がする。
すごく、する。
こんなささいな事でも彼の生い立ちに関わってしまうかもしれないし、彼のなかにわだかまりができてしまうかもしれない。
そして、それらは結果としてフランソワーズとジョーの間に溝を作るかもしれないのだ。
「ふつうに見てるだけだよ」
「それでも、ジョーはいろいろズルいの」
「ズルくない。ズルいのはフランソワーズだろ」
「だから、…もうっ…」
なるならないをしばらくやった後、ジョーはとうとう吹き出した。
「言ったら、ジョーが呆れて私を嫌いになっちゃうようなことよ。オオゴトでしょ?」
「いや、…だから。嫌いになったりなんかしないって」
「ほんとに?」
「ほんと。僕がきみを嫌いになるなんて絶対にない」
メンドクサイ。が、しかし。
時に妙にちゃっかりしているから油断ならない。
現に今だって、結局フランソワーズの口を割るのに成功した。
そして、今に至る。
「うん、痛い?」
「ううん。大丈夫」
「だったら気にするな」
実際、今はそれ以外を考える余裕などない。
フランソワーズの答えを聞いて凄く嬉しそうに笑ったジョー。
ほら、嫌いになんかなるもんかと何度も言った。
フランソワーズとしては、言うのはかなり恥ずかしかったからジョーの反応にほっとした。
とりあえず、嫌われなくて良かった。
と、いうより
彼の一連の反応は、嫌わないという消極的なものではなく、より好きになったという積極的なものだった。
だから、こうして一緒に揺れているのだけれど。
みかんを剥くみたいに自分も綺麗に剥かれちゃったけど。
剥かれたまま放置されているみかんじゃなくて良かったかも。と、フランソワーズが頭の隅で思った瞬間、
コタツの上からみかんが転げてジョーの頭を直撃した。
ああもう。
あとでちゃんとみかんも食べてあげてね、ジョー。
確かにみかんは美味しい。コタツで程よく暖まり、その後汗をかいた体には丁度よい水分補給だ。
シーツが冷たいだなんて全然誉め言葉じゃないし、だったら暖めようかなんていう気持ちになったりもするけれど。
まあ、いいや。
彼女のために後で冷たい飲み物を調達してこよう。
ん、なぜ今すぐにじゃないのかって?
そりゃまあ…服を着てないし。フランソワーズが悩ましい視線をこちらに向けているからさ。離れるわけにいかないじゃないか。
その瞳が潤んでいて、僕はみかんにむせてしまった。
「う、うん」
派手に咳き込むが、フランソワーズはベッドに横たわったまま動かない。
普段の彼女なら、心配そうにそばに来て背中をさすりそうなものなのに。
心配するかわりに、ふわあと欠伸をしてシーツに潜り込んだ。つれないなあ。
僕は咳がおさまると、そっとベッドに近寄った。シーツのなかのフランソワーズをつつく。
「なあに」
「心配してくれないの」
「してたわよ?」
「でも眠そうだよね」
「だって」
「ばか。違うわよ…ほら、まだドキドキしてるでしょ」
「ああ・・・ほんとだ」
「だから、しばらく休憩なの」
僕は彼女の胸に押し付けられたままの手をどうしたらいいのかちょっと考えた。
だってこれって、触っていいってこと…だよね?
「え、なんで」
「休憩っていったでしょ」
「・・・誘ってるんじゃ」
「違うわよ、もう。誰のせいでこうなっていると思ってるの」
最初に誘ってきたのはフランソワーズだし、かなりノリノリだったじゃないか。
という一連の答えを胸にしまって、僕は答えた。