ジョーが姿を消してから三日。

フランソワーズはあてもなく魔界を探し回りましたが、魔界の王子の姿はどこにもありませんでした。


でも、変なのです。

誰もジョーを心配してはいないのです。
魔界の王子が忽然と姿を消したというのに、誰もが平然としているのです。

一度、フランソワーズが尋ねたら相手は大笑いしただけで何も答えてはくれませんでした。
フランソワーズがなぜそんなに必死に彼を探しているのか可笑しいみたいなのです。


「・・・やっぱり、魔界のひとって感覚が違うのかしら」


まがりなりにも魔界の王子であったジョーなのに、宮廷の者も誰も何も言いません。
ジョーがいてもいなくても関係がないみたいに。


フランソワーズは本当にひとりぽっちになってしまいました。

けれども、ジョーはずっとここにいていいと言ってくれましたから、フランソワーズは彼の言葉だけを頼りに魔界で生きていこうと思いました。

そして、たとえ自分一人でもジョーを捜し続けようと固く心に決めていました。

 

 

 

「あら、新入りさん。元気がないのね。早くも王子様に捨てられたからかしら?」


ひときわ意地悪なのは紫色のドレスを着たきらびやかな女性でした。
フランソワーズは後宮のみんなが好きではありませんでしたが、なかでもこの彼女が一番嫌いでした。
なにかにつけてフランソワーズに意地悪を言うからです。
だから今日もつんと無視して通り過ぎようとしました。

しかし。

紫のひとの声に、他の者全員が大笑いしたではありませんか。
いったいなんだというのでしょう。こんな侮辱はありません。


「いったい、なんなの!?」


とうとうフランソワーズの我慢も限界でした。
いずれここ後宮に入るようになるのであれば、できるだけ仲良くやっていこうとけなげにも心に決めていました。でも、理由もなく嘲笑されるのももう限界です。


「捨てられたとか、そんなことをいま言ってる場合じゃないでしょう!?ジョーはいなくなっちゃったのに!」


フランソワーズがそう言っても、みんなはにやにや笑っているばかり。


「あらあら。かわいそうに。頼りにしていた王子様が見えなくてパニックになってるのね」
「王子様がいないなんておかなしなことをいうひと」
「いるのにね」
「ね」


――えっ?


「いま、なんて」


フランソワーズが愕然と問い返しても、誰も何も教えてはくれません。
ただひそひそと互いに囁きあうばかり。


「ね、ジョーはどこかにいるの?あなたたちは何か知っているの?」

フランソワーズが必死の面持ちで言っても、みんな目を逸らします。


「ねえ、お願い。教えてちょうだい!」

うちひしがれた様子のフランソワーズを気の毒に思ったのか、金色の瞳の女性が進み出ました。

「そんなに言うなら、ヒントをあげるわ。――でも・・・あなたにその勇気があるかしら」
「あるわ。勇気なんていくらでも!」
「ふうん・・・」

金色の瞳が疑わしそうに煌きました。

「――まぁ、いいわ。ねえ、あなた。醜いものに目を向けてみなさい」
「醜いもの?」
「ええ。これがヒントよ」

その途端、その場にいた女性全員がげんなりとした顔をしました。

「ほんと醜いにもほどがあるわ」
「私は無理」
「私も。いまの生活でじゅうぶんだもの、冗談じゃないわ」
「このままでいいわよね」
「きっと、あなたも同じ意見を持つようになるわ、新入りさん」


――醜いもの?・・・目を向ける・・・?


みんなが見ていたのは傍にある大きな池でした。