童話的ゼロナイ「白雪姫」 

 


―1―

 

女王様は継子の白雪姫をそれはそれは嫌っておりました。
何故なら、自分より綺麗だからです。

もちろん、女王とて美しくないわけではありません。
美しさ・知性ともにこの国を、いや世界を代表するほどなのです。

しかし、周りの者がいくらそう言っても聞きませんでした。
「若さ」という点で、女王は白雪姫に負けているのですから。

けれども、これだけはどうにもなりません。生まれた順番の悲劇というものでしょう。

だから女王様は人為的にどうにかすることにしました。

そう――白雪姫を亡き者に。

 



―2―

 

「――承知しました。陛下」


魔法使いは恭しく言うと、自分の棲家に戻っていきました。
これから毒リンゴを作らなくてはなりません。

「まったく、メンドクサイなぁ」

魔法使いはぶつぶつ言うと壁を蹴飛ばしました。
いくら女王に恩があるといっても、こうもわがまま放題に使われるとは思ってもいなかったのでした。

「大体さあ。いくら見た目は普通のリンゴでも、俺みたいな見るからに怪しげな奴が差し出すものを平気で食うほど白雪姫もばかじゃないだろうよ」

ぶつぶつ言いながらも手は休めず、あっという間に毒リンゴは完成です。
確かに見た目は普通のリンゴです。

「・・・食うかなぁ。白雪姫」

 



―3―

 

「あら、美味しそうね」


白雪姫は大喜びでリンゴを受け取りました。慌てたのは魔法使いです。

「ちょっと待った!」

リンゴを白雪姫の手から奪います。

「なあに、ちゃんとお金は払ったじゃない」

膨れた頬も可愛らしい白雪姫。

「意地悪しないでよ、ジョー」
「いいや、駄目だフランソワーズ」

魔法使いの名前はジョーといいました。まだ若いけれど、魔力は抜群です。
そして、白雪姫の名前はフランソワーズ。白雪姫というのは通称なのでした。

どうしてこの二人がお互いを名前で呼び合っているのかというと、フランソワーズ姫は好奇心旺盛でしたから、ジョーが宮廷付きの魔法使いになってからちょくちょく彼の部屋を訪れており、仲良くなったのでした。


「駄目だって、これは」
「だって食べていいって言ったじゃない」
「そうだけど」

魔法使いジョーはちょっと悩みました。
女王には恩義があります。が、自分はフランソワーズ姫と仲良しです。できれば死んで欲しくはありません。しかし、女王にばれたら自分は・・・

「・・・あのさ。魔法使いが差し出すものといえば、古今東西怪しいものに決まってるだろ」

それを平気で食おうとするなんて、君はバカか?

「あら、それは普通の魔法使いの話でしょ。ジョーなら平気よ」

あっけらかんと言い放ち、ジョーがそのセリフに呆然としている隙に白雪姫はリンゴを奪いひとくち齧ってしまいました。

「あっ・・・」

ごっくんとのみくだした瞬間、崩れ落ちる白雪姫。

「ああっ!だから言ったのにっ!!」

 



―4―

 

どうして俺を信じたりするんだ、フランソワーズ。

魔法使いジョーは白雪姫をそのままにして立ち去りました。あまりの悲しさに胸がつぶれそうです。

――俺が殺した。

それだけが胸に刺さり、何も考える事ができません。

宮廷に帰り、ことの次第を報告すると女王は褒美をくれました。
ジョーはそれを携えて、とぼとぼと帰宅しました。
目的を達成したといっても、褒美をもらっても、全然嬉しくありません。そもそも、女王の命令だからといって素直に従い白雪姫を殺すことはなかったはずでした。もっと何か策を練れば良かったのです。
ジョーは自分を責めました。
けれども、後悔しても先には進めません。既に白雪姫は死んでしまっているのです。

「・・・何か、考えなくては」

部屋のなかを行ったりきたり、歩き回って考えます。

「普通、こういう場合は王子様っていうのがやって来て助けるんだよな・・・」

でも、そんなに都合よく王子様が現れるものなのでしょうか。

大体、放っておけば白雪姫はどんどん――

「――ん?待てよ」

ジョーはぴたりと足を止めました。

「俺って確か・・・魔界の王子じゃなかったっけ?」