注:「試写会の夜」の続きになります。

 

 

フランソワーズが泊まり、試写会への憂いをどこかへやった次の日。
朝の情報番組でイワンの姿を観た。


「・・・あ」

まさにコーヒーを飲もうとしていた不意をつかれたジョーは、

「まあ、ジョー!」
「あっ」
「もうっ、何やってるの」
「あ、いや、イワンが」
「イワンがじゃないでしょう」
「しかしフランソワーズ」
「まだ着替えてなくてよかったわ」

茶色に染まったパジャマを呆れて見下ろしながら、フランソワーズは溜め息をついた。

「熱くないの?」
「うん。熱い」

そのわりに平気な顔をしている。
先刻まで、早く食べろ早く着替えろを奨励していたフランソワーズであったが、ちょっとだけ主義を曲げることを心に決めた。
これから毎朝、こうなるのはゴメンである。

「分かったわ。明日からは、朝ご飯が済んでから着替えでいいわ」
「へ?」

きょとんとするジョーに、全く朝は特にボンヤリしているんだからと唇を尖らせた。
そんなだから、いきなり仲間の姿をテレビで見て驚くのだ。その収録は自分だってしたくせに。

――あるいは。

「まさか、ね」

まさか記憶がアヤシイとか…?(いや、それは映画の役柄の話だ)

「まさかねって何が」
「別になんでもないわ」
「そう?」
「ええ。とにかく着替えて」
「うん。・・・ところで」

君って誰だっけと言いつつ絡みついてくるジョーを、映画パロディはやめなさいと振り払いながら
毎回、いや毎朝「記憶喪失ごっこ」をするのはどうだろうかと悩むのだった。

「でも、まあ・・・」


それもいいかな?