傷ついたような。 ばかなんだから。本当に。 どうして私がわざわざここまで来たと思ってるの。 「――脱いで」 戸惑うジョーに構わず、彼のジャケットを無理矢理脱がせてしまう。 「ネクタイも外して」 不得要領な顔をしつつも素直にネクタイを外す。そしてそれを受け取って―― 「――ん。それでいいわ」 バッグからビニール袋を取り出し、ジョーのジャケットとネクタイを丸めて突っ込み、口をぎゅっと縛る。 「燃えるごみだけど?」 訳がわからないといった風にじっと見つめる褐色の瞳。 「帰りましょう?」 車のドアロックが解除される。 「あ、そうだ。――トランク開けて」 戸惑いつつも、ジョーは言われるままにトランクを開け――私はそこに燃えるゴミを投げ入れた。 「帰ったら捨てなくちゃ」 私の顔をじっと見つめて――答えを探すかのように―― 「――着ません」
***
車内では、ジョーはおっかなびっくり私に接していた。 「ね――怒って、る?」 黙る。 私はその沈黙と車内に満ちる香りに顔をしかめた。 「――ああもう。ジョー、いい?帰ったらすぐにお風呂に入るのよ?」 きっと彼の頭の中には疑問が渦巻いているのだろうけれど――教えてあげない。 私は窓を全開にして、風と騒音で車内を満たした。沈黙もこれで相殺されてわからなくなる。 「――ジョーのばか」 きっと彼には聞こえない。だから言う。 「――ごめん」 黙る。 全くもう。 そっと手が伸びてきたけど、それを避ける。 泣きそうな――声。でもほだされない。 「だめ。お風呂に入ってから」 そう――彼女の残り香のままのジョーになんて、触れたくない――触れられたくない。 さっきまで一緒にいた彼女が、彼にどんなに近かったのか――ジャケットに滲み込んだ彼女の涙や香水、ネクタイに残る芳香、そして彼の髪にさえ残る彼女の香り。 そんなジョーは嫌い。 ちらりとドライバーの横顔を見る。 私の視線に気付いたのか、ちらりと一瞬こちらを見た。 「――フランソワーズ」 嬉しそうに微笑む。それを見つめ――心の中でため息をついた。気付くのが遅いわ。ジョーのばか。
***
ジョーは、私が妬かないと不安になるらしい。前にそう言っていた。 だから私は、いつもきっちり――ヤキモチを妬く。
ジョーはもてる。 F1ドライバーというのを差し引いても、もてる。 だから、引く手あまたで・・・今日みたいな事態もけっこうある。でも、心配はしない。だってジョーはいつでも上手に相手を振っているから。 とはいえ、故意にひとを傷つけなければいけないというのは辛いらしく、いつも――必ず私に電話をしてくる。 もう慣れたわ。 ただ、たまには今日みたいに――全く妬いてません。という態度をとってみたりもする。 でも、私が妬かないと途端におろおろして途方に暮れたようになってしまうジョー。
***
「――フランソワーズ」 ドアが開いたと同時に湯上りのジョーが入って来て――ふわんと私を抱き締めた。 「――ごめん。――ありがとう」 私の大事なおばかさん。 「ジョー、ちゃんと服を着てください」
あなたを誰かが抱き締めたとしても。 ――そうよね、ジョー。 大好きだから、信じてあげる。 そう決めているのだから。 そうして私は今日も、自分の大切な気持ちにリボンをかける。
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