「大地礼讃」
〜桜シリーズ2009・カテゴリーフリー〜
「へぇ・・・今年は例年より早いらしいよ」
「あら、何が?」
私は、リビングに足を踏み入れた途端に掛けられた言葉に首を傾げた。
このひとの話はいつも突然。
他のひとも自分と同じ事を考えていると思っているのかしら?
しょうがないひと。
「桜の開花予想。今年は3月なかば頃らしい」
「ふうん・・・それって早いの?」
日本人は桜が大好きで、それの咲く日を楽しみに待っている。
「早いね。これじゃあ四月になったら散ってしまうよ」
残念だなぁ、と肩を落とす。
「ジョーったら、大袈裟ね。花は散るからこそ綺麗なのよ?」
その一瞬に全てを賭けるから。
私もそんなふうに生きたかったと言ってしまうのは簡単だけど。
「そりゃそうだけどさ。ほら、次の公演は桜の名所がすぐ近くにあっただろう?帰りに見に行けたのにと思ってさ」
「でも、その公演は見に来れないんでしょう?」
ジョーの隣に腰掛けながら言う。
「えっ、行くよ。何故?」
「・・・レースがあるって言ってなかった?」
「あ!!」
「あ、じゃないわよもう」
くすくす笑うと、参ったなとジョーは頭を掻いた。
自分のレースの日を忘れるなんて。
「・・・でも、見に行こうかな」
「無理よ」
「レースをやめればいい」
「心にもないこと言わないの」
む・・・と、一瞬黙って。
「でも、見に行きたいのは本当だよ?」
怒ったような、ぶっきらぼうな声。
「そうね。・・・ありがとう」
そうっと彼の肩にもたれて。
桜の花が咲く季節。
私とジョーは、しばらく離れ離れになってしまう。
彼はレースで、私は公演で。
毎年の事とはいえ、この時期は少し寂しくて少し不安になる。
離れても、本当にすぐまた会えるのかしら、って。
私たちに「絶対」なんて有り得ないから。
桜は散っても、また来年花が咲く。
当たり前のように。
私たちも、そうならいいのに。