「背中合わせの涙」

 

 

両膝を立てて、胸の前で腕で抱えて。
膝頭に頬を押し当てて。
そうしてちっちゃくなって泣くのは、いつもは私ではなく彼のほうだった。

 

でも、今日は私がそうしてる。

 

右頬を膝頭に乗せて横を向いて。
髪が肩から背中から腕からすべり落ちて、私を金色の膜で包んでいる。

左眼から流れた涙は鼻を通って右眼から流れた涙と一緒になり、私の膝を濡らしてゆく。

 

――辛い涙ではない。

 

 

私の背中にもたれているのは彼。
じっと――動かない。

きっと、空を見ているのであろう。

私は、彼の目にも幾つか星が見えていればいいと願う。
そうすれば、少しは彼も楽になれるだろう。

でも、それは無理な話。

感情が欠落した人間は、心の中に溜まった澱をどう昇華すればいい?

 

――涙で。

 

笑いで。

 

あるいは――怒りさえも、その方法としては正しいのだろう。

 

それができなくなったら、どうすればいい?

溜まってゆく悲しみや、苦しみ、辛さをどうしたらいい?

 

 

ジョーの目には何も見えていない。
その眼に映るものはたくさんあるだろう。

でも、彼には見えていない。――見ない。

見つめてもただ虚ろな視線が返ってくるだけ。
それでも、だいぶマシになった。以前は視線さえもこちらに寄越さなかったのだから。

 

ジョー。

 

泣いていいのよ。

 

怒ってもいい。

 

――何をしても、いいのに。

 

自分の心を守るためには、もう何もしてくれないの?

あなたが壊れてゆくのをただ見ているしかできない?

 

 

泣かないジョーの代わりに、私は泣く。

 

彼の心の中の澱が、全部流れてくれるように。

 

 

辛い涙ではない。

悲しくもない。

 

ただ――

 

あなたを愛しているだけ。