話は数日前に遡る。

その日はテスト走行のあと、ミーティングをして僕とスタッフで詳細を決めていた。
そこへ広報担当者がやって来て、突然言った。

「ジョー、CMのオファーがきてるぞ」
「・・・CM?」

僕はそういうのは極力出ない主義である。
が。
スポンサーの数は多いほどいい訳で、そうそう断ってもいられず・・・。
最近では、少しずつ話を受けざるを得なくなってきてしまっていた。

広報担当者の後ろに2名、スーツ姿の男性が控えていた。
出された名刺を見ると、生活用品関係の会社で、大手だった。僕でも名前を知っている。
生活用品。つまり、洗剤とか歯ブラシとか。
それってモータースポーツと全く関係無いと思うんだけど。
そう言ったら、意外な答えが返ってきた。

「実は、私共が求めているのは、島村さんのビジュアルなのです」
「現在、特撮ヒーローとか、本来男の子向けのものが主婦層を中心に絶大な人気があることは御存知だと思いますが・・・」
「レーサー・島村ジョーも、ジワジワと人気が出ているんですよ」
「実力もさることながら、そのルックス。それで、主婦層を中心に幅広い年代に人気のある方をCMに起用させて頂きたく、参った次第なのです」
「我が社では、今までに俳優・音楽家・小説家・・・と人気の高い方をお迎えしておりまして、今回その第4弾としてレーサーの島村さんを是非・・・」

僕が憮然としていると、マネージャーが脇腹をつついた。
「すまん、島村。この話、実はもう受ける方向で話が決まってるんだ」
「えっ・・・何で」
「社長の奥さんのいとこの友人の会社でさ・・・」
それってまるっきりの他人じゃないか。
「すまん。頼む。この通りだ」
・・・確かに社長にはお世話になっているしなぁ・・・。
ため息をひとつつくと言った。
「こういうのは今回きりですよ」

 

けれど数時間後、僕は安易に承諾してしまった事を激しく後悔することになった。