―お姫様の事情―

 

 

「退屈だわ。ねぇ、そろそろ誰か来ないの?」


いばら姫は気だるそうに伸びをすると、女官に問いかけました。

「姫様。この前の王子様を追い出してから、まだ一ヶ月しか経っておりません。そんなにすぐ次の王子がやっては来ませんよ」
「そうだけど・・・」

姫は頬を膨らませると、カウチに寝そべりました。

「あーあ。こんなことなら、追い出すんじゃなかったわ」
「今さら遅いですよ」
「わかってるわ。でもね・・・あんなに面白くない王子って初めてだったんだもの。ゲームは弱いし、かといって何か面白い話や芸を持っているわけでもなく、剣舞をやらせたらそりゃもうひどいったら」
「だからといって大口開けて笑うのはいけません」
「あなただって笑ってたじゃないの。知っていてよ、ワタクシ」

姫はカウチに寄りかかると、傍らのフルーツを手にとりひとくちかじりました。
いばらの国にしか無い謎のフルーツです。

「ねぇ、世の中の王子様ってどうしてこうも退屈なのかしらね。命令されなければ何にもできないの」
「姫様。今まできた王子がこの世界全ての王子の属性を持っているわけではありませんよ」
「うーん。でもねぇ・・・こう、自分だったらこうする!みたいな強い意志を持ったひとっていないのかしら。ドラゴンを倒したことがあるって豪語していた王子だって、鼠一匹にきゃーきゃー言って逃げ回っていたじゃない」
「だからといって彼の部屋に鼠を10匹放して閉じ込めるなんていけません」
「だってドラゴンを倒したのよ?鼠くらいへっちゃらなはずでしょう?」
「人間、得意不得意があるのです」
「・・・そういうのを超越した王子っていないのかしら。そうしたら、こんな退屈な毎日を過ごすこともないのに。つまんないわ。どうして姫は王子がくるのを待っていなくちゃいけないのかしら」
「この世界の決まりごとです」
「わかってるけど。でも、・・・たまには姫が王子を捜すっていうのがあってもいいんじゃない?」
「姫様は囚われの王子を助けに行きたいのですか?」
「えっ・・・」
「自力で脱出できないか弱い王子を?」
「・・・それは・・・嫌かも」
「そうでございましょう?でしたら、大人しく好みの王子がやって来るのをお待ちくださいませ」

 

 

 

 

いばら姫はいばらに囲まれた城に篭りっきりのお姫様でした。
噂にきく「ひとりぼっち」というのは正確な情報ではなく、ちゃんと女官も兵士もおりました。
そしてひとり快適に面白おかしく過ごしていたのでした。

童話世界の掟ですから、自ら王子を求めて旅することは叶いません。だからじっとおとなしく王子がやってくるのを待っているしかないのですが、それはそれは退屈な日々でした。
ですから、いつの日かその退屈な日々を逆手にとって、好きなことを好きなだけやるオタク的な日々に変換していたのでした。
そうすると、好きなものに囲まれた城はとても居心地がよく、よほど興味深い王子が来なければ城を出る気になどなりません。

そして、今まできた何十人の王子も姫の心を動かすことはできなかったのでした。