「その日がくるなら」
フランソワーズが僕には絶対に理解できない、わからない思いを抱いていることはずっと前から知っていた。 そんな時の僕は、何も言えなくて、何もできなくて、ただその背中を見ていることしかできない。 例えば肩を抱いても、何か慰めるようなことを言っても、全ては上滑りで的外れなことでしかないとわかっているから。 たぶん、それでも彼女は少しは笑ってくれるだろう。 涙には浄化作用があって、彼女には時々それが必要なのだとわかっているからだ。 だから、泣いている彼女の邪魔をしてはいけない。 遠いいつか――きっと、浄化が済んで泣かなくなる日がくるまで。 だって僕には理解することができないから。 それは、僕にとって想像しただけでもとても耐えられるものではなかった。 でも、彼女は何も言わなかった。 小さく、ジョーは知らなくていいのと言った。
そのせいで、時々どうしようもなくなって泣いていることも。
それが偽りの微笑みであっても、気が紛れるなら試してみるのもいいかもしれない。
だけど、僕はそれをしない。
気を紛らわせてはいけない。
それまで僕はただ見守るしかできないし、してはいけないのだ。
想像してみることはできる。
でも、あくまでも想像の域を出ない。実体験しているわけではないのだから。
一度、訊いてみたことがある。
そして、涙を拭って、一生知らないで過ごせるならそのほうがいいとも言った。
こんな経験は私だけでたくさん、と。
――そうなのかもしれない。
どんな想いを抱えているのかわからないけれど、世の中には知らなくてもいいことや理解できなくてもいいことというのがある。
知らなくて済むなら、そのほうがいい。きっと。