泣いているフランソワーズを前に、どうしたらいいのか全くわからなかった。情けないくらいに動揺している。 僕と彼女との心の距離は遠いのだと。 近付きたくても近付けない。
時折、君が離れていってしまうようで酷く不安になる。 だから僕はいつも、君がどこにも行かないように抱き締めて眠る。 何か考え込んでいる時、君はとても遠い人になる。 僕のことではないのは確かだった。 だからそんな時、 僕は君がこちらに思いを向けるように抱き締める。そうしてやっと安心する。「君はここにいる」と。 フランソワーズ。 僕が君のことを好きで好きで仕方ないことなんて、君は全然知らないんだよね? 例え、いま君がこうして隣にいてくれるのも、僕への同情にすぎないとしても。
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胸の上に抱き締めたフランソワーズの体温が伝わってくる。 そっと髪を撫でる。 僕のそばで安心して眠る君を見ると、いつも幸せな気持ちになる。 未来都市で君をさらったカール。彼は母親を早くに亡くしたと言っていた。僕の境遇と少しだけ似ていた。 君が僕のそばにいてくれるのは、同情ではなく愛情なのだと思い込んでしまってもいいんだよね? 一瞬、その幸せな思いに浸りかけ、すぐに我に返る。 いや――駄目だ。 勝手にそう思い込んで、もしも間違っていたらどうする。僕は立ち直れない。
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何十回、同じことを考えただろう。 君はいまここにいてくれるけれど、心もここにあるのだろうか。 僕は君を愛しているけれど、君は僕のことをどう思っているんだろう? 君は優しいから、はっきりノーと言えないだけなのかな。
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妙な結論に行き着いた時、フランソワーズが目を覚ました。 「・・・どうかした?」 ぽつりと言う。 「泣いてないよ。夢でも見た?」 そう言うと、そっと手を伸ばし僕の唇に触れた。 「泣いてないよ?」 やっぱり夢でも見ていたのに違いない。 「・・・ジョーったら」 僕の首に両腕をかけ、そっと僕を抱き締める。 「嘘を言ってもわかるのよ。私はあなたのことなら、何でもわかっちゃうんだから」 僕の髪をそっと撫でて。 「・・・でも、わかるのはジョーのことだけよ?」 小さく耳元で囁いた。 僕はゆっくりとフランソワーズを抱き締めた。
そして、少し泣いた。
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