「写真」 

 

それは一枚の写真から始まった。

 

***

 

 

 

「これ、誰だ?」

リビングでジェットが頓狂な声を上げた。
手にしているのは一枚の紙片。

「どうした?」

アルベルトが近付いて、ジェットの手からその紙片をもぎ取る。

「――フランソワーズじゃないか」
「だよな」

二人で顔を見合わせる。

「どうしてこんなカッコをしているんだ?」

 

それはポラロイド写真だった。
そして、そこに映し出されていたのはウエディングドレス姿のフランソワーズ。

「アイツ…結婚でもするのかな」

ポツリと言ったジェットにアルベルトが反応する。

「誰と」
「誰って、オマエ、そりゃ…」

そこへジョーが通りかかった。

「おい、ジョー」

通り過ぎようとしたジョーが一歩後退し、リビングのドア口に姿を見せる。

「なに?」

「オマエ、結婚するのか?」
「結婚?」

きょとんとして聞き返す。

「…しないけど」
「だよなぁ…じゃあ、これは一体…」

ブツブツ言い合っている二人を訝しそうに見つめる。

「何かあったのかい?」
「イヤ!何でもない何でもない」

ジェットが両手をひらひらさせる。

「呼び止めて悪かったな」
「別にいいけど・・・、それ何?」

アルベルトの持つ紙片に目を留める。

「ん?ポラ写真さ。ただの」
「ふうん?」
「オマエも見るか?――ホラ」

ひらり、と屈託なく写真を差し出すアルベルトにジェットが慌てた。

「オイ!ジョーに見せたらマズイんじゃねーか?」
「何でだよ。いいんじゃないか?ここに落ちてたんだし」

言い合う二人を横目に、ジョーはアルベルトから写真を受け取り見入っている。
そのジョーをじっと見つめる二人。
ふっと顔を上げたジョーは、にっこり笑いながらアルベルトに写真を返した。

「キレイだね。フランソワーズ」
「おお。そうだな」

それだけか?

あまりにも反応が「普通」のジョーに拍子抜けする。

ウエディングドレス姿だぞ?
婚礼衣装だぞ?
何で着ているのかとか、もしや誰かと結婚するんじゃないだろうなとか、もっとこう…慌ててもいいんじゃないのか?

けれどもジョーの表情は穏やかで、ただニコニコとしているだけだった。