部屋でメールを書いていたフランソワーズはノックの音に顔を上げた。
ドアを開けると、そこにはアルベルトの姿があった。

「アラ。どうしたの?」
「ほら。忘れもの」

アルベルトが差し出したポラ写真を見て「あ」と言ったきり、頬を染めて黙ってしまう。

「大事なモンなら落とさないことだな」
「ゴメンナサイ。…ありがとう」
「ただの好奇心から訊くんだが…ソノ格好は、何か意味があるのか?」

アイスブルーの瞳をひたと見据え、フランソワーズは思いっきり首を横に振った。

「だったら、何でこんなカッコ…」
「――セリーヌが」
「セリーヌ?」

セリーヌとはモデルであり、フランソワーズの友人である。

「ええ。その…セリーヌと食事をしようって事になって、で、彼女の撮影が長引いているから良かったらスタジオで待ってて、って言われて」

行ってみたら、結婚情報誌の撮影中だったらしい。
一般公募の読者モデルの女の子が一人キャンセルになったため、代わりに着てくれと拝み倒された。

「普段なら絶対に引き受けないのよ?――でも、断ったらセリーヌが困ると思って」

承諾したのだそうだ。
そして、このポラ写真は試し撮りされた時のものらしい。

「――なるほどな。ってコトは、その雑誌にオマエも載るわけだ」
「ん。でも、小さくちょこっとだけよ。そう言われたし」
「ま、とにかく事情はわかったが、もう落とすなよソレ。どっかにしまっておけ」
「…そうします…」

小さく消え入りそうな声で言うフランソワーズを見つめ、そっと頭に手を置いて軽く撫でる。

「…そういう姿は、オマエの本当の結婚式の時までとっておけ。新郎以外に見せるもんじゃないだろうが」

「――でも」
「ん?」
「…きっと、着る機会はないから」

きっぱりと言い切るフランソワーズに向かってため息をつく。

「そんなの、わからないだろう?サイボーグだって幸せになる権利はある。ましてやオマエは最も生身に近いんだ。
ちゃんとその日は来るさ」
「そう…かしら」
「そうさ。だから、そんなカオするな。せっかくキレイに撮ってもらったんだから、『本気を出したら凄いんだ』ぐらいに
思っとけ」

少しおどけたように言うアルベルトに、やっとフランソワーズは笑みを洩らした。

「うん。そうするわ」