キレイだったなぁ…フランソワーズ。 そんなにしみじみ見た訳でもないが、今でもはっきりと思い出すことができる。 …だけど、どうしてあんな格好をしていたんだろう? あの服装は「自分の結婚式」以外には有り得ない。 ……誰かと結婚するのかな。 漠然と、そう思った。 そっかぁ。結婚するんだ。フランソワーズ。 ひとこと言ってくれたって。と思いつつ、別に僕に言う必要はないんだよなと納得する。 ――だって、僕は――僕たちは別に……
「ジョー?洗濯物、ここに置いておくわね?」 開いているドアからフランソワーズが顔を覗かせ、畳まれた洗濯物を持って現れた。 「うん。ありがとう」 バルコニーでただ見るともなく暗い海を見つめていたのだった。 「隣に行ってもいい?」 答える代わりに体を半身にする。 「――ね。ジョー。これ見てくれる?」 手品のように差し出されたのは例のポラ写真だった。 「どう思う?」 ほっとしたように笑むフランソワーズを見つめ、ぼんやりと思う。 ――結婚式はいつなんだろう? 「で……式はいつなんだい?」 さりげなく尋ねたつもりが、声が喉に引っかかり掠れた。 「えっ?」 蒼い瞳を見ることはできず、手に持っている写真に目を落としたまま一気に言ってしまう。 …本当に、キレイだよ。フランソワーズ。 辛かった。 長らく「恋人同士」として過ごし、周囲も彼らをそう扱ってきた。 ただ、「事実」は「事実」として受け止めることしかできなかった。 何も考えず。 全ての感情が凍結し、思考も停止していた。 君は僕のものにはならない。 月は輝きを失い、全ての風景から色が消える。 こんなにキレイな彼女は見たことがない。
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