「ジョーったら。何言ってるの?」

くすくす笑いとともに、持っていた写真を取り上げられる。

「これは、結婚情報誌のモデルをしたときに写したの」

キレイに映ってるって言ってもらえて安心したわ。という彼女の声を遠くに聞きながら、ジョーは満身の力をこめて
彼女を抱き締めていた。

「ジョー?」

一瞬、体を固くするフランソワーズ。
彼女の訝しげな声にも腕を緩めない。

「…どうしたの?」

ジョーの背中を優しく撫でつつ、フランソワーズが訊く。

「――なんでもないよ」

 

 

――今日はただの勘違いだった。
だけど、だからといって彼女がいつか僕の知らない誰かと行ってしまうことはない。という訳ではなく……

いつか、きっと君は行ってしまう。

君は、僕のものにはならない。

今までちゃんとわかっているつもりだったけれど、全然わかっていなかった。
君が行ってしまうというのが、僕にとってどんな意味を持つのか。

――世界が終わるところだったよ、フランソワーズ。

 

心の中で自嘲気味に言ってみる。

 

だけど、僕は――僕たちは、そんなんじゃないから。
だからやっぱり、いつかは君を解放してあげなくてはいけなくて……


――今日は、その予行練習だったのかな。

本番はいつやってくるんだろう?

その時、僕は……今日よりも、少しはマシな反応ができるだろうか?
――いつもよりもキレイな君に。
ちゃんと「おめでとう。幸せに」って、言えるようになっているだろうか?

フランソワーズ。僕は君を……

 

 

「――ジョー?」
「うん?」

フランソワーズの声に我に返り、彼女をそっと体から離す。

「あのね。これ…ジョーが持っていてくれる?」
「えっ?」
「ジョーに持っていて欲しいの」
「だけど」
「お願い」

お願い、と言われても彼女の意図することがわからなかった。

「…だって」

いつか本当に誰かのために――あなたのために――装う日がくるよう望むことなんて贅沢だから。
そんな夢を見ることはできないから。
だからせめて、写真のなかの私だけでも――キレイって言ってくれたあなたに憶えていて欲しいから……

「――うん。わかった」

彼女が何を考えているのかはわからない。
けれど、この写真を見れば今日のことを思い出すことができる。
そうすれば、本番の時にはきっと……彼女にちゃんと「おめでとう」と「幸せに」を言うことができるようになるかもしれない。
『今は』僕のフランソワーズ。
だけど
『いつかは』僕の知らない誰かのための君。

本音を言うなら――『その日』が永遠に来なければいい。
でも
彼女の幸せを願うのなら……
一日でも早く、彼女が『自分はサイボーグである』と思い煩う日がなくなるように。
一日でも早く、『その日』が訪れるように。

僕は君の幸せだけを――

――君が幸せなら、それで――いい。