(平成16-6-1書込み。20-5-1最終修正)(テキスト約37頁) |
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[本篇には、国語篇(その四)<枕詞>(全120句収録)に続き、『万葉集索引』(岩波書店新日本古典文学大系別巻、平成16年)の「枕詞索引」所載の枕詞のうち、国語篇(その四)<枕詞>に収録したもの以外の、ア行からサ行まで全142句を収録し、さらに本文では枕詞としているが索引に収録していない1句を追加しました。
残りのタ行からワ行まで146句は、国語篇(その六)<枕詞・続(下)>に<付:『万葉集』難訓歌解読試案>とともに収録します。
なお、本文中出典の明記がない数字は『万葉集』の巻数・歌番号です。
また、ポリネシア語による解釈は、原則としてマオリ語により、ハワイ語による場合はその旨を特記します。]
ア行
121 あがこころ(我が心)/122 あかぼしの(明星の)/123 あからひく(赤らひく)/124 あきかしは(秋柏)/125 あきくさの(秋草の)/126 あきやまの(秋山の)/127 あさかしは(朝柏)/128 あさがほの(朝顔の)/129 あさかみの(朝髪の)/130 あさぎりの(朝霧の)/131 あさしもの(朝霜の)/132 あさぢはら(浅茅原)/133 あさづきの(朝月の)/134 あさづくひ(朝月日)/135 あさつゆの(朝露の)/136 あさとりの(朝鳥の)/137 あさもよし/138 あしかきの(葦垣の)/139 あしがちる(葦が散る)/140 あしのうれの(葦の末の)/141 あしのねの(葦の根の)/142 あぢかをし/143 あぢさはふ(味沢相)/144 あぢむらの(あぢ群の)/145 あはしまの(粟島の)/146 あまくもの(天雲の)/147 あまごもり(雨隠り)/148 あまづたふ(天伝ふ)/149 あまつみづ(天つ水)/150 あめしるや(天知るや)/151 あめつちの(天地の)/152 あめなる(天なる)/153 あらかきの(荒垣の)/154 あらひきぬ(洗ひ衣)/155 あられうつ(霰打つ)/156 あられふり(霰降り)/157 ありきぬの(あり衣の)/158 ありそなみ(荒磯波)/159 ありねよし/160 あをみづら(青みづら)/161 いはばしの(石橋の)/162 いなのめの/163 いなむしろ(稲筵)/164 いはつなの(石つなの)/165 いへつとり(家つ鳥)/166 いめたてて(射目立てて)/167 いめひとの(射目人の)/168 いもがいへに(妹が家に)/169 いもがかど(妹が門)/170 いもがきる(妹が着る)/171 いもがそで(妹が袖)/172 いもがてを(妹が手を)/173 いもがひも(妹が紐)/174 いもがめを(妹が目を)/175 いももあれも(妹も吾も)/176 いもらがり(妹らがり)/177 いゆししの(射ゆ猪鹿の)/178 うかねらふ(うか狙ふ)/179 うきまなぐ(浮き砂)/180 うちえする(うち寄する)/181 うちそやし(打麻やし)/182 うちそを(打麻を)/183 うちなびく(うち靡く)/184 うちひさす(うち日さす)/185 うちひさず(うち日さず)/186 うちひさつ(うち日さつ)/187 うちよする(うち寄する)/188 うつゆふの(虚木綿の)/189 うづらなく(鶉鳴く)/190 うなかみの/191 うましもの(うまし物)/192 うまなめて(馬並めて)/193 うまのつめ(馬の爪)/194 うみをなす(績麻なす)/195 うもれぎの(埋もれ木の)/196 おきつとり(沖つ鳥)/197 おきつなみ(沖つ波)/198 おきつもの(沖つ藻の)/199 おくとも(置くとも)/200 おくやまの(奥山の)/201 をとめらに(娘子らに)/202 おふしとも(生ふしもと)/203 おほきうみの(大き海の)/204 おほきみの(大君の)/205 おほくちの(大口の)/206 おほともの(大伴の)/207 おほとりの(大鳥の)/208 おほぶねの(大船の)/209 をみなへし(女郎花)/
カ行
210 かがみなす(鏡なす)/211 かきかぞふ(かき数ふ)/212 かきつはた/213 かぎろひの/214 かこじもの(鹿子じもの)/215 かしのみの(橿の実の)/216 かすみたつ(霞立つ)/217 かぜのとの(風の音の)/218 かもじもの(鴨じもの)/219 からくにの(韓国の)/220 からころも(韓衣)/221 かりこもの(刈り薦の)/221-2 かるはすは(かるうすは)/222 きみがきる(君が着る)/223 きもむかふ(肝向かふ)/224 くしろつく(釧着く)/225 くずのねの(葛の根の)/226 くもりよの(曇り夜の)/227 けころもを(毛衣を)/228 けふけふと(今日今日と)/229 ことさけを(琴酒を)/230 ことさへく(言さへく)/231 ことひうしの(牡牛の)/232 こまつくる(駒造る)/233 こまつるぎ(高麗剣)/234 こまにしき(高麗錦)/235 こもりぬの(隠り沼の)/236 こらがてを(児らが手を)/
サ行
237 さきくさの(三枝の)/238 さきたけの(割き竹の)/239 さごろもの(さ衣の)/240 さざれなみ(さざれ波)/241 さしあがる(指上がる)/242 さしならぶ(さし並ぶ)/243 さつひとの(猟人の)/244 さなかづら(核葛)/245 さねかづら(核葛)/246 さばへなす(五月蠅なす)/247 さひづらふ/248 さひづるや/249 さひのくま(さ檜隈)/250 さゆりばな(さ百合花)/251 さをしかの(さ雄鹿の)/252 ししくしろ(宍串ろ)/253 したびもの(下紐の)/254 しほふねの(潮舟の)/255 しまつとり(島つ鳥)/256 しらかつけ(白香つけ)・しらかつく(白香つく)/257 しらすげの(白菅の)/258 しらとほふ(白遠ふ)/259 しらまゆみ(白真弓)/260 すがのねの(菅の根の)/261 すかのやま(須加の山)/262 そらかぞふ(空数ふ)/
ア行
(1)「自分の心は清く澄んでいる」の意から「清隅(きよすみ)」(13-3289。わがせし時にあふべしとあひたる君をな寝そと母聞せどもー清隅の池の池の底吾は忍びずただに逢うまでに)にかかり、
(2)心を「尽くし」の同音で地名の「筑紫(つくし)」(13-3333。狂言や人の言ひつるー筑紫の山のもみち葉の散り過ぎにきと君が正香を)にかかり、
(3)自分の心が「明し」の同音で地名の「明石(あかし)」(15-3627。行方を知らにー明石の浦に船泊めて浮き宿をしつつ)にかかる枕詞とされます。
この「あがこころ」は、
「ア(ン)ガ・コ・コロ」、ANGA-KO-KORO(anga=driving force or thing driven etc.,face or move in a certain direction,turn to doing anything;ko=dig with a wooden implement;koro=desire,intended)、「望みを(実現しようと)・深く(掘り下げるように)・(体の中から湧いてくる)推し進める力(に押されて)」(「ア(ン)ガ」のNG音がG音に変化して「アガ」となった)
の転訛と解します。
「明けの明星が輝く」意で「明くるあした(朝)」(5-904。わが子古日はー明くる朝はしきたへの床の辺去らず)にかかる枕詞とされます。
この「あかぼしの」は、
「ア・カポ・チ・ノ」、A-KAPO-TI-NO(a=the...of,belonging to;kapo=flash,lightning;ti=throw,cast,overcome;no=of)、「あの・光が・射してくる・(状態)の」
の転訛と解します。
「赤く輝く」意で「日・朝」(4-619。ー日も暮るるまで嘆けども。11-2389。ぬばたまのこの夜な明けそー朝行く君を待たば苦しも)にかかる枕詞とされます。
この「あからひく」は、
「アカ・ラヒ・ク」、AKA-RAHI-KU(aka=yearning,affection,clean off,long and thin roots of trees or plants;rahi=great,abundant,numerous;ku=silent,wearied)、「感情が・たいへん・疲れ切った(状態の)」
の転訛と解します。
係り方未詳とも、「秋の紅葉した美しい柏」から「潤和(うるわ)川」(11-2478。ー潤和川べのしののめの人にはしのび君に堪(あ)へなく)にかかる枕詞ともされます。
この「あきかしは」、「うるわ(川)」は、
「アキ・カチ・ワ」、AKI-KATI-WA(aki=dash,beat,abut on;kati=leave,block up,shut of a passage,bite;wa=definite space,area)、「勢いよく流れて・(人の)行く手を阻む・場所(である。潤和川)」
「ウル・ワ」、URU-WA(uru=west;wa=definite space,area)、「(富士山の)西の・場所(から流れる川)」(潤和川は、127 あさかしは(朝柏)の項の閏八川と同じで富士山の西麓に発して富士宮市、富士市を流れて駿河湾に注ぐ潤井川かとされています。)
の転訛と解します。
「草を結んで幸を祈る」意から「結ぶ」(8-1612。神さぶといなにはあらずー結びし紐を解くは悲しも)にかかる枕詞とされます。(この場合「秋」には特別の意味はないとされます。)
この「あきくさの」は、
「アキ・クタ・ノ」、AKI-KUTA-NO((Hawaii)aki=hair switch,knot fastening plaits or brades of hair;kuta=encumbrance,a rush;no=of)、「(髪を編むように)結んだ・(藺草の類の)雑草・の」
の転訛と解します。
「秋の山が美しく照り映える」意で「したふ」(2-217。ーしたへる妹はなよ竹のとをよる子らはいかさまに思ひをれか)にかかる枕詞とされます。
この「あきやまの」、「したへる」は、
「アキ・イア・マノ」、AKI-IA-MANO((Hawaii)aki=hair switch,knot fastening plaits or brades of hair;ia=indeed,current;mano=thousand)、「実に・豊かな・髪を編み(かもじを付けて)」
「チタハ・ヘル」、TITAHA-HERU(titaha=lean to one side,decline;heru=comb for the hairdress with a comb)、「(体を)曲げて・(髪を)梳っている(妹)」(「チタハ」のH音が脱落して「チタ」から「シタ」となった)
の転訛と解します。
係り方未詳とも、「朝の柏の葉が濡れ潤う」意から「閏八(うるや)川」(11-2754。ー閏八川べのしののめの思ひて寝れば夢にも見えけり)にかかる枕詞ともされます。
この「あさかしは」、「うるや(川)」は、
「アタ・カチ・ワ」、ATA-KATI-WA(ata=gently,clearly,openly,slowly;kati=leave,block up,shut of a passage,bite;wa=definite space,area)、「清らかな・(人の)行く手を阻む・場所(である。閏八川)」
「ウル・イア」、URU-IA(uru=west;ia=current,rushing stream,indeed)、「(富士山の)西の・(勢いよく流れる)川」(閏八川は、124 あきかしは(秋柏)の項の潤和川と同じで富士山の西麓に発して富士宮市、富士市を流れて駿河湾に注ぐ潤井川かとされています。)
の転訛と解します。
(1)係り方未詳で「としさへこごと」(14-3502。わがめ妻人はさくれどーとしさへこごと吾はさかるがへ)にかかる(この「としさへこごと」は、「幾年でも」(吾は仲を裂かれるものか)の意と解する説があります。)とも、
(2)「咲き」と同音の「さき(放、離)」(14-3502)にかかる枕詞ともされます。
この「あさがほの」、「としさへこごと」は、
「ア・タ(ン)ガ・ホノ」、A-TANGA-HONO(a=the...of,belonging to;tanga=be assembled,row,company;hono=join,add,retinue)、「(随従する)協力者が・集団と・なって」(「タ(ン)ガ」のNG音がG音に変化して「タガ」から「サガ」となった)
「タウチチ・タエ・コ・(ン)ゴト」、TAUTITI-TAE-KO-NGOTO(tautiti=support an invalid in walking;tae=arrive,reach,extend to,be effected;ko=dig or plant with a wooden implement;ngoto=head,be deep,be intense of emotions,firmly)、「(協力者が)弱い人間を助けてくれて・とうとう・強い意志を・(植え付けた)持った(ので)」(「タウチチ」のAU音がO音に変化し、反復語尾の「チ」が脱落して「トチ」から「トシ」と、「(ン)ゴト」のNG音がG音に変化して「ゴト」となった)
の転訛と解します。
「まだ梳いていない朝の髪」の意から「乱る」(4-724。ー思ひ乱れてかくばかりなねが恋ふれぞ夢に見えける)にかかる枕詞とされます。
この「あさかみの」は、
「ア・タカ・ミ(ン)ゴ」、A-TAKA-MINGO(a=the...of,belonging to;taka=revolve,veer,go round;mingo=curled,wrinkled)、「(考えが)行ったり来たり・ああでもないこうでもないと(皺のようにゴチャゴチャと)・なっている(状態の)」(「ミ(ン)ゴ」のNG音がN音に変化して「ミノ」となった)
の転訛と解します。
(1)「朝霧に包まれた状態」から「おほ(凡。ぼんやりしていること)」(3-481。緑児の泣くをも置きてーおほになりつつ。4-599。ーおほに相見し人ゆゑに命死ぬべく恋ひわたるかも)にかかり、
(2)「朝霧が幾重にも重なっている」ことから「八重」(10-1945。ー八重山越えてほととぎす卯の花べから鳴きて越え来ぬ)にかかり、
(3)「霧が漂うさま」から「迷う・乱る」(13-3344。ー思い惑ひて杖足らず八尺の嘆き嘆けども)にかかり、
(4)語義未詳で「通う」(2-196。ー通はす君が夏草の思ひしなえて)にかかる枕詞とされます。
この「あさぎりの」、「おほ」は、
(1),(3),(4)「ア・タ(ン)ギ・リノ」、A-TANGI-RINO(a=the...of,belonging to;tangi=sound,cry,weep,mourn;rino=swirl,twist)、「悲嘆(の泣き声)が・渦を巻いている・ような(状態の)」(「タ(ン)ギ」のNG音がG音に変化して「タギ」から「サギ」となった)
(2)「アタ・キヒ・イリ・ノ」、ATA-KIHI-IRI-NO(ata=early morning;kihi=indistinct,barely audible;iri=hang,be suspended;no=of)、「朝(立つ)・おぼろげに見える・(水滴が空中に)漂う・もの(霧)の」(「キヒ」のH音が脱落して「キ」となったその語尾のI音と、「イリ」の語頭のI音が連結して「キリ」となった)
「オホ」、OHO(spring up,wake up,arise)、「(悲嘆の思いなどが)湧き起こっている(さま)」
の転訛と解します。
「消えやすい」ことから「消ゆ」(2-199。ー消なば消ぬべく行く鳥の争ふ間に。11-2458。ー消なば消ぬべく思ひつついかにこの夜を明しなむかも)にかかる枕詞とされます。
この「あさしもの」は、
「アタ・チ・マウ・ノ」、ATA-TI-MAU-NO(ata=gently,clearly,openly,slowly;ti=throw,cast,overcome;mau=fixed,continuing,caught,entangled,confined;no=of)、「明らかに・(いろいろな)思いに惑って・打ちひしがれて(いる状態の)」(「マウ」のAU音がO音に変化して「モ」となった)
の転訛と解します。
「ちはら」の類音で「つはら」(3-333。ーつばらつばらにもの思へば故りにし郷し思ほゆるかも。11-2755。ー仮標さして空言もよさえし君が辞をし待たむ)にかかる枕詞とされます。
この「あさぢはら」、「つばら」は、
「アタ・チ・ハラ」、ATA-TI-HARA(ata=gently,clearly,openly,slowly;ti=throw,cast,overcome;hara=violate tapu,sin,offence,a stick bent at the top used as a sign that a chief had died at the place)、「明らかに・禁忌を破る(禁じられた恋に落ちる)ことを・しでかす」(一般名詞としては「開けた・(水辺を占領する植物の)茅が生えている・(首長の墓がある)原」の転訛と解します。)
「ツパララ」、TUPARARA(violent wind)、「激しい風(のような情熱に駆られて)」(反復語尾の「ラ」が脱落して「ツパラ」から「ツバラ」となった)
の転訛と解します。
暦月下旬の月は、夜遅く出て夜が明けても西空に残り、東の空に出た「日と向かい合う」ことから「日向(ひむか)」(11-2500。ー日向ふ黄楊櫛旧りぬれど何しか君が見れど飽かざらむ)にかかる枕詞とされます。
この「あさづきの」、「ひむかふ」は、
「アタ・ツキ・ノ」、ATA-TUKI-NO(ata=gently,clearly,openly,slowly;tuki=beat,knock,attack;no=of)、「ゆっくりと・(髪に櫛を)あてる・(もの)の」
「ヒ・ムカ・アフ」、HI-MUKA-AHU(hi=raise,rise;muka=prepared fibre of flax;ahu=heap,heap up,treat with,move in a certain direction)、「(髪を)持ち上げて・(麻の繊維を精錬するように)梳(くしけず)り・整える(櫛)」(「ムカ」の語尾のA音が「アフ」の語頭のA音と連結して「ムカフ」となった)
の転訛と解します。
「朝の月と日」の意で「向かひの山」(7-1294。ー向かひの山に月立てり見ゆ遠妻を持ちたる人し見つつ偲はむ)にかかる枕詞とされます。
この「あさづくひ」は、
「アタ・ツ・クヒ」、ATA-TU-KUHI(ata=gently,clearly,openly,slowly;tu=stand,settle;kuhi==gush forth,insert)、「ゆっくりと・(山の端から)吐き出されて・(空に)浮かんだ(状態の。月)」
の転訛と解します。
「消えやすい」ので「消やすし・消ぬ」(5-885。ー消やすきわが身他国に過ぎかてぬかも親の目を欲り。9-1804。弟の命はー消やすき命)にかかる枕詞とされます。
この「あさつゆの」は、
「アタ・ツイ・ウ・ノ」、ATA-TUI-U-NO(ata=form,shadow,early morning;tui=pierce,thread on a string,sew;u=be firm,be fixed;no=of)、「朝(にできる)・(水滴が)連なって・生じた・もの(露)の(ような)」(「ツイ」の語尾のI音と「ウ」のU音が連結して「ツユ」となった)
の転訛と解します。
(1)「朝の鳥の習性」から「音(ね)泣く」(3-481。わき挟む児の泣くごとに男じもの負ひみ抱きみー音のみ泣きつつ恋ふれども)にかかり、
(2)同じく「通ふ」(2-196。ぬえ鳥の片恋つまー通はす君が夏草の思ひしなえて)にかかり、
(3)同じく「朝立つ」(9-1785。ー朝立ちしつつ群鳥の群立行かば留りゐて吾は恋ひむな見ず久ならば)にかかる枕詞とされます。
この「あさとりの」は、
(1)(2)「アタ・トリノ」、ATA-TORINO(ata=gently,clearly,openly,slowly;torino=flute,twisted,flowing or gliding smoothly)、「優しい(明るい)・笛(の音)」
(3)「アタ・ト・オリ・ノ」、ATA-TO-ORI-NO(ata=form,shadow,early morning;to=drag,open or shut a door or a window;ori=cause to wave to and fro,sway,move about;no=of)、「朝の・あちこち・行き来する鳥・の」(「ト」のO音が「オリ」の語頭のO音と連結して「トリ」となった)
の転訛と解します。
(1)「麻裳」の産地の「紀伊」とその同音から地名の「紀伊(き)」(1-55。ー紀人ともしも亦打山行き来と見らむ紀人ともしも)にかかり、
(2)同じく「城上(きのへ)」(2-199。ー城上の宮を常宮と高くしまつりて神ながら鎮まりましぬ)にかかる枕詞とされます。
この「あさもよし」、「きのへ」は、
「アタ・マウイ・オチ」、ATA-MAUI-OTI(ata=gently,clearly,openly,slowly;maui=left hand,cat's cradle,witchcraft;oti=finished,gone or come for good)、(1)「明るい・綾取りを・したような地域の(次々に変わった風景が現れる、複雑な地形の地域の)」または(2)「鄭重に・死者を弔う儀式を・執り行った(宮)」(「マウイ」のAU音がO音に変化して「モイ」となり、その語尾のI音が「オチ」の語頭のO音と連結して「モヨチ」から「モヨシ」となった)
「キ・ノペ」、KI-NOPE(ki=to,of place,of person,on to,for,full,very;nope=constricted(nopenope=appropriate selfishly for oneself))、「故人のため(に造られた)の・ささやかな(手頃な大きさの。宮)」(「ノペ」のP音がF音を経てH音に変化して「ノヘ」となった)
の転訛と解します。
(1)葦の垣は「古びてみえる」ことから「古りにし里」(6-928。押照る難波の国はー古りにし郷と人皆の思ひ息みて)にかかり、
(2)同じく「乱れやすい」ことから「思ひ乱る」(9-1804。射る猪鹿の心を痛みー思ひ乱れて春鳥の音のみ鳴きつつ)にかかり、
(3)「葦垣の外」の意で「外(ほか)」(17-3975。吾背子に恋すべなかりー外にもなげかふ吾し悲しも)にかかる枕詞とされます。
この「あしかきの」は、
(1)「アチ・カキ・ノ」、ATI-KAKI-NO(ati=descendant,clan;kaki=neck,throat;no=of)、「(瀬戸内海へ出る)咽喉と・同じ(部類の)ような・(地域)の」
(2)(3)「ア・チカ・キ・ノ」、A-TIKA-KI-NO(a=the...of,belonging to;tika=straight,direct,just;ki=full,very;no=of)、「ただ・真っ・直(す)ぐ・に」
の転訛と解します。
難波江の風物の代表である「葦」によって「難波(なには)」(20-4331。ー難波の御津に大船に真櫂繁貫き)にかかる枕詞とされます。
この「あしがちる」は、
「ア・チ(ン)ガ・チロウ」、A-TINGA-TIROU(a=the...of,belonging to;tinga=likely;tirou=pointed stick used as a fork,take up with a stick,move a canoe sideways by plunging the paddle into the water and drawing it towards one)、「実に・(船を横に動かして隙間なく並べてゆく)船がびっしりと並んでいる・ような(場所の)」(「チ(ン)ガ」のNG音がG音に変化して「チガ」から「シガ」と、「チロウ」のOU音がU音に変化して「チル」となった)
の転訛と解します。
「葦の芽の弱々しい状態」と同音で「足ひく」(2-128。わが聞きし耳によく似るー足ひく吾背つとめたぶべし)にかかる枕詞とされます。
この「あしのうれの」、「みみ(耳)」は、
「ア・チノ・ウレ・ノ」、A-TINO-URE-NO(a=the...of,belonging to;tino=essentiality,reality;ure=man,male,courage;no=of)、「実に・まことの・男らしい男性・の」
「ミミヒ」、MIMIHI(=mihi=sigh for,greet,admire)、「(古代の)崇敬すべき(「ミミ」の名をもつ神々)」(H音が脱落して「ミミ」となった)
の転訛と解します。
「葦の根が絡むさま」から「ねもころ」(7-1324。ーねもころ思ひて結びてし玉の緒といはば人解かめやも)にかかる枕詞とされます。
この「あしのねの」、「ねもころ」は、
「アチ・ノネ・ノ」、ATI-NONE-NO(ati=descendant,clan;none=consume,waste;no=of)、「(身体が衰弱する)病気になる・部類・(の人間になる)の」
「ネイ・モコロア」、NEI-MOKOROA(nei=to denote proximity,to indicate continuance of action;mokoroa=a god said to cause disease)、「神が罰(病気・心痛)を・下す」(「ネイ」が「ネ」と、「モコロア」の語尾のA音が脱落して「モコロ」となった)
の転訛と解します。(260 すがのねの(菅の根の)の項の11-2473の歌を参照してください。)
語義未詳で「ちか」と類音の地名の「値嘉」(5-894。墨縄を延へたるごとくー値嘉の岬より大伴の御津の浜びに直泊に)にかかる枕詞とされます。
この「あぢかをし」は、
「ア・チカ・オチ」、A-TIKA-OTI(a=the...of,belonging to;tika=straight,direct,just;oti=finished,gone or come for good)、「実に・一直線に・(航海を)成し遂げて」
の転訛と解します。
語義未詳で(1)「目」(2-196。城上の宮を常宮と定めたまひてー目ごとも絶えぬしかれかもあやに悲しみ)にかかり、
(2)「夜」(9-1804。葦垣の思ひ乱れて春鳥の音のみ鳴きつつー夜昼知らずかきろひの心もえつつ嘆き別れぬ)にかかる枕詞とされます。
この「あぢさはふ」は、
「アチ・タハ・フ」、ATI-TAHA-HU(ati=descendant,clan;taha=side,pass on one side,go by;hu=silent,secretly,desire)、「ひそかに・(心、目が)別の方を向く(外らす、外れる)・部類(状態)の」
の転訛と解します。
「味鴨の群れが騒ぐ」ことから「騒ぐ」(20-4360。貢の船は・・・夕潮に棹さし下りー騒ぎ競ひて)にかかる枕詞とされます。
この「あぢむらの」は、
「ア・チム・ラ・ノ」、A-TIMU-RA-NO(a=the...of,belonging to;timu=ebb,ebbing;ra,rara=make a continued dull sound,roar;no=of)、「あの・潮が引いてゆく・音・の」
の転訛と解します。
同音の「逢はじ」(15-3633。ー逢はじと思ふ妹にあれや安寐も寝ずて吾が恋ひ渡る)にかかる枕詞とされます。
この「あはしまの」は、
「アワ・チ・マノ」、AWHA-TI-MANO(awha=gale,storm,rain;ti=throw,cast,overcome;mano=thousand,host)、「暴風が・しょっちゅう・吹き荒れる(状況の中で)」(「アワ」のWH音がH音に変化して「アハ」となった)
または「ア・ワチ・マノ」、A-WHATI-MANO(a=the...of,belonging to;whati=be broken off short,turn and go away,run;mano=thousand,host)、「何回となく・踵を返して帰る・ような(状況の中で)」(「ワチ」のWH音がH音に変化して「ハチ」から「ハシ」となった)
の転訛と解します。
天空の雲の属性に従って(1)「遠い存在」として「よそ(外)」(4-546。三香の原旅の宿りに玉ほこの道の行合にー外のみ見つつ言問はむ)にかかり、
(2)「拠り所なく動く」ところから「別る」(9-1804。はふ蔦のおのが向向ー別れし行けば)にかかり、
(3)「漂う」ところから「たゆたふ」(11-2816。うらぶれて物な思ほしーたゆたふ心吾が思はなくに)にかかり、
(4)「動きがゆったりしている」ところから「ゆくらゆくら」(13-3272。ーゆくらゆくらに葦垣の思ひ乱れて)にかかり、
(5)「奥が知れない」ところから「奥かも知らず」(12-3030。思ひ出でて術なきなき時はー奥処も知らず恋つつぞをる)にかかり、
(6)「つかみどころがない」ところから「たどきも知らず」(17-3898。大船の上にしをればーたどきも知らず歌ひこそ吾背)にかかり、
(7)「流れてゆく」ところから「行く」(13-3344。いづくにか君がまさむとー行きのまにまに射ゆ猪鹿の)にかかる枕詞とされます。
この「あまくもの」は、
(1)-(6)「アマ・クモホ・ノ」、AMA-KUMOHO-NO((Hawaii)ama=talkative,prattling,tattling;(Hawaii)kumoho=to rise,overflow as water;no=of)、「(とりとめのない)お喋りが・湧き出る・ような(ものの)」(「クモホ」のH音が脱落して「クモ」となった)
(7)「ア・マク・モノ」、A-MAKU-MONO(a=the...of,belonging to;maku=wet,moist,wetness;mono=plug,caulk,disable by means of incantations)、「湿った天気(雨模様の空)に・降らないように願い(まじない)を掛け・て(天気の成り行きを心配しているような。どう変わるか分からない不安定な状況で)」
の転訛と解します。
「雨の日にかぶる」ところから「笠」(6-980。ー三笠の山を高みかも月の出で来ぬ夜はふけにつつ)にかかる枕詞とされます。
この「あまごもり」は、
「ア・マ(ン)グ・マウリ」、A-MANGU-MAURI(a=the...of,belonging to;mangu=black;mauri=the moon on the 29th day)、「黒い・(陰暦)二十九日の夜の月・のような(殆ど真っ暗な夜の)」(「マ(ン)グ」のNG音がG音に、語尾のU音がO音に変化して「マゴ」と、「マウリ」のAU音がO音に変化して「モリ」となった)
の転訛と解します。
「大空を伝うように進む」意で「日」(2-135。雲間より渡らふ月の惜しけど隠らひ来ればー入日かくらひ)にかかる枕詞とされます。
この「あまづたふ」は、
「ア・マツ・タフ」、A-MATU-TAHU(a=the...of,belonging to;matu=cut,cut in pieces;tahu=set on fire,light,burn,)、「(日の光が)切れ切れに・射す・ような(状態の)」
の転訛と解します。
「天の恵みの雨を待ち望む」ことから「仰ぎて待つ」(2-167。大船の思ひたのみてー仰ぎて待つに)にかかる枕詞とされます。
この「あまつみづ」は、
「ア・マツ・ミヒ・ツ」、A-MATU-MIHI-TU(a=the...of,belonging to;matu=fat,richness of food,gist of matter;mihi=sigh for,greet,admire;tu=stand,settle)、「(日並皇子に対する)崇敬が・いよいよ・増す(状態)」(「ミヒ」のH音が脱落して「ミ」となった)
の転訛と解します。
「日光を蔽う」意で「日の御陰(みかげ)」(1-52。高知るや天のみかげー日のみかげの水こそは常にはあらめ御井の清水)にかかる枕詞とされます。
この「あめしるや」は、
「アマイ・チ・ルイア」、AMAI-TI-RUIA(amai=swell on the sea,giddy,dizzy;ti=throw,cast,overcome;rui.ruia=shake,scatter,sprinkle)、「(太陽の)輝きが・あまねく・行き渡る」(「アマイ」のAI音がE音に変化して「アメ」となった)
「ミヒ・カ(ン)ガ・(ン)ガイ」、MIHI-KANGA-NGAI(mihi=sigh,greet,admire;kanga=place of abode;ngai=tribe,clan)、「(太陽の光の)尊敬すべき(対象が)・宿る・部類のもの(恩恵。御陰)」(「ミヒ」のH音が脱落して「ミ」と、「カ(ン)ガ」の語尾のNGA音が脱落して「カ」と、「(ン)ガイ」のNG音がG音に、AI音がE音にに変化して「ゲ」となった)
の転訛と解します。
「天地は悠久である」ことから「遠長く」(2-196。ーいや遠長くしのひ行かむ)にかかる枕詞とされます。
この「あめつちの」は、
「アマイ・ツ・チヒ・ノ」、AMAI-TU-TIHI-NO(amai=swell on the sea,giddy,dizzy;tu=stand,settle;tihi=summit,top,lie in a heap;no=of)、「天上高くに・ある・(きらきらと輝く)太陽・のように」(「アマイ」のAI音がE音に変化して「アメ」と、「チヒ」のH音が脱落して「チ」となった)
の転訛と解します。
天にある「日」と同音の「姫(ひめ)」(7-1277。ー姫菅原の草な刈りそねみなの腸か黒き髪に芥し著くも)にかかる枕詞とされます。
この「あめなる」は、
「アマイ・(ン)ガルル」、AMAI-NGARURU(amai=swell on the sea,giddy,dizzy;ngaruru=surfeited,dislike,abundant,flourishing)、「きらきらと輝く・元気あふれる(姫)」(「アマイ」のAI音がE音に変化して「アメ」と、「(ン)ガルル」のNG音がN音に変化し、反復語尾の「ル」が脱落して「ナル」となった)
の転訛と解します。
「垣根の外から見る」意で「よそに見る」(11-2562。里人の言よせ妻をーよそにやわが見む憎くからなくに)にかかる枕詞とされます。
この「あらかきの」は、
「アラ・カキ・ノ」、ARA-KAKI-NO(ara=rise,awake,raise;kaki=neck,throat;no=of)、「首を・伸ばして(伸び上がって)」
の転訛と解します。
「洗った衣類を取り替える」ことから地名の「取替川(とりかひがわ)」(12-3019。ー取替川の川淀のよどまむ心おもひかねつも)にかかる枕詞とされます。
この「あらひきぬ」、「とりかひ(川)」は、
「アラ・ヒキ・ヌイ」、ARA-HIKI-NUI(ara=way,path;hiki=raise,carry in the arms,remove,convey;nui=large,many)、「(洪水によって谷間の)道が・いたるところで・(切られて)付け替えられた(状況の場所)」(「ヌイ」のUI音がU音に変化して「ヌ」となった)
「トリ・カヒ」、TORI-KAHI(tori=cut;kahi=wedge)、「くさび(のように細長く山に入り込んだ谷間)を・切り刻んで流れる(川)」
の転訛と解します。
「霰」と同音の地名の「安良礼(あられ)」(1-65。ー安良礼松原住吉の弟日娘と見れど飽かぬかも)にかかる枕詞とされます。
この「あられうつ」、「あられ(安良礼。地名)」は、
「アラアライ・ウツ」、ARAARAI-UTU(araarai=screen on every side;utu=return for anything,make response,dip up water etc.)、「(四方に衝立を立てたように降る)霰に・反応する(逃げ惑う。娘)」(「アラアライ」のAA音がA音に、AI音がE音に変化して「アラレ」となった)
「ア・ラライ」、A-RARAI(a=the...of,belonging to;rai,rarai=ribbed,furrowed)、「皺が寄った・ような(起伏がある。土地)」(「ラライ」のAI音がE音に変化して「ラレ」となった)
の転訛と解します。
(1)「霰の降る音がきしむ」ことから地名の「吉志美(きしみ)」(3-385。ー吉志美が嶽を険しみと草とりはなち妹が手を取る)にかかり、
(2)「霰が物に打ち当たる音トホトホ」から「遠」(7-1293。ー遠江の阿渡川楊刈れどもまたも生ふとふ阿渡川楊)にかかり、
(3)「霰が物に打ち当たる音がかしましい」ことから地名の「鹿島」(7-1174。ー鹿島の崎を波高み過ぎてや行かむ恋しきものを)にかかる枕詞とされます。
この「あられふり」は、
「アラアライ・フリ」、ARAARAI-HURI(araarai=screen on every side;huri=turnround,overturn,overflow,revolve,repair)、(1)「四方を囲む衝立が・ひっくり返ったような(険しい。山)」、(2)「四方を囲む衝立が・溢れんばかりに(続いている。川楊)」または(3)「(四方を囲む)衝立(のような海)が・ぐるりと取り巻いている(地域。鹿島)」(「アラアライ」のAA音がA音に、AI音がE音に変化して「アラレ」となった)
の転訛と解します。
(1)「衣を重ね着する」意から「三重」(雄略記長谷百枝槻条歌謡。ー三重の子が指挙せる瑞玉盞)にかかり、
(2)「高級織物」の意から「宝」(16-3791。打麻やし麻績の児らー宝の子らが打栲はへて織る布)にかかり、
(3)同音の「あり」(15-3741。命をし全くしあらばーありて後にもあはざらめやも)にかかり、
(4)「絹ずれの音」に関連して「さゑさゑ」(14-3481。ーさゑさゑ鎮み家の妹に物いはず来にて思ひ苦しも)にかかる枕詞とされます。
この「ありきぬの」、「さゑさゑ」は、
「アリキ・ヌイ・ノ」、ARIKI-NUI-NO(ariki=first-bone male or female in a family,chief,priest,leader;nui=large,many;no=of)、(1)(2)「年長の・指導者・の(采女、子)」または(3)(4)「立派な・家長・の」(「ヌイ」のUI音がU音に変化して「ヌ」となった)
「タヱタヱ」、TAWETAWE(noisy,make a noise as bark)、「大きな声で怒鳴る」
の転訛と解します。
同音で「あり」(13-3253。ーありても見むと百重波千重波にしき)にかかる枕詞とされます。
この「ありそなみ」は、
「アリ・タウ・ナ・アミ」、ARI-TAU-NA-AMI(ari=clear,white,appearance;tau=reef,come to rest,beautiful;na=satisfied,belonging to;ami=gather,collect)、「清らかな・磯の・(満足して)ゆったりと・次々に打ち寄せる(波)」(「タウ」のAU音がO音に変化して「ト」から「ソ」と、「ナ」のA音と「アミ」の語頭のA音が連結して「ナミ」となった)
の転訛と解します。
「在り峰よし」の意で地名の「対馬」(1-62。ー対馬の渡海なかに幣取りむけて早還り来ね)にかかる枕詞とされます。
この「ありねよし」は、
「アリ・ネイ・イオ・チ」、ARI-NEI-IO-TI(ari=clear,white,appearance,fence;nei=to denote proximity to,to indicate continuance of action(neinei=stretched forward);io=muscle,line,ridge,lock of hair;ti=throw,cast,overcome)、「山(の峰)が・垣根のように・伸びて・(海の中に)横たわっている(島。対馬)」(「ネイ」のEI音がE音に変化して「ネ」となった)
の転訛と解します。
成年男子の髪(みづら)を「寄せて編む」意、または「碧海浦(あをうみうら)」の意で地名の「よさみ(依網)」(7-1287。ー依網の原に人もあはぬかも石走り淡海縣の物がたりせむ)にかかる枕詞とされます。
この「あをみづら」、「よさみ」は、
「アオ・ミイ・ツラハ」、AO-MII-TURAHA(ao=daytime,cloud,dawn,bright,be fitting;(Hawaii)mii=attractive,good-looking;turaha=keep away,keep clear,be separated,open,wide)、「明るく・美しく・開けた(場所。原)」(「ツラハ」のH音が脱落して「ツラ」から「ヅラ」となった)
「イオ・タミ」、IO-TAMI(io=muscle,line,ridge,lock of hair;tami=press down,suppress,smother,completed in weaving)、「平滑な・起伏(稜線)がある(原)」(この語は「編み上げた・髪(みづら)」の意味でもあります。)
の転訛と解します。
(1)流れの中の石を「跳んで渡る」ことから「間近し」(4-597。うつせみの人目を繁みー間近き君に恋ひわたるかも)にかかり、
(2)飛び石の間の「遠さ」から「遠し」(11-2701。明日香川明日も渡らむー遠き心は思ほえぬかも)にかかり、
(3)係り方未詳で「神奈備(かむなび)山」(13-3230。ー神奈備山に朝宮に仕え奉りて)にかかる枕詞とされます。
この「いはばしの」は、
「イ・ワ・パチ・ノ」、I-WHA-PATI-NO(i=past tense,beside;wha=be disclosed,get abroad;pati=shallow water,ooze,splash,try to obtain by fllattery etc.;no=of)、(1)(2)「求愛(の行動)を・あらわに・した・(状況)の」または(3)「(神に対する)奉仕(の行動)を・あらわに・した・(状況)の」(「パチ」のP音がF音を経てH音に変化して「ハシ」となった)
の転訛と解します。
語義・係り方未詳で「明く」(10-2022。相見らく飽き足らねどもー明け行きにけり船出せむ妻)にかかる枕詞とされます。
この「いなのめの」は、
「イ・ナノ・メ・ノ」、I-NANO-ME-NO(i=past tense,beside;nano,whakanano=discredit,disparage,disbelieve;me=if,as if like;no=of)、「(夫に対して)不信感を・持った・らしい・(状況)の」
の転訛と解します。
係り方未詳で「川」(8-1520。牽牛は織女と天地の別れし時ゆー川に向き立ち)にかかる枕詞とされます。
この「いなむしろ」は、
「イナ・ムフ・チロ」、INA-MUHU-TIRO(ina=for,since,when;muhu=grope,push one's way through bushes etc.;tiro=look)、「(それから)ずっと・(銀河の前で)うろうろと歩き回っている・ように見える(状況の)」(「ムフ」のH音が脱落して「ム」となった)
の転訛と解します。
「岩を這って伸びるツナ(蔓の別称)が元の場所へ戻ってくる」ことから「返る」(6-1046。ーまた変若(を)ちかへりあをによし奈良の都をまた見なむかも)にかかる枕詞とされます。
この「いはつなの」は、
「イ・ワ・ツ・ナノ」、I-WHA-TU-NANO(i=past tense,beside;wha=be disclosed,get abroad;tu=fight with,energetic;nano,whakanano=discredit,disparage,disbelieve)、「(さんざん)悪評を買いながら・強制されて・外へ(平城京から平安京へ)移転・した(奈良の都)」
の転訛と解します。
「家で飼う鳥」の意で「かけ(鶏)」(13-3310。野つ鳥雉はとよみ鶏(かけ)は鳴く)にかかる枕詞とされます。
この「いへつとり」は、
「イ・ヘイ・ツ・ト・オリ」、I-HEI-TU-TO-ORI(i=past tense,beside;hei=tie round,snare by the neck,be bound or entangled;tu=stand,settle;to=drag,open or shut a door or a window;ori=cause to wave to and fro,sway,move about)、「(家に)紐で繋がれ・たように・そこにいる・あちこち・行き来する(鳥。鶏)」(「ヘイ」のEI音がE音に変化して「ヘ」と、「ト」のO音と「オリ」の語頭のO音が連結して「トリ」となった)
の転訛と解します。(「鶏」については雑楽篇(その二)の636にわとりの項を、「にはつとり(庭つ鳥)」については国語篇(その四)の094にはつとりの項を参照してください。)
「射る準備をして獲物の足跡を見る」ことから地名の「跡見(とみ)」(8-1549。ー跡見の岳辺のなでしこの花ふさ手折り吾は持ち行く寧楽人の為)にかかる枕詞とされます。
この「いめたてて」は、
「イ・マイタイ・テテ」、I-MAITAI-TETE(i=past tense,beside;maitai=good,beautiful,agreeable;tete=lie,be in a position)、「美しく・(その場に)咲いて・いた(花)」(「マイタイ」の最初のAI音がE音に変化し、語尾のI音が脱落して「メタ」となった)
の転訛と解します。
「射目に伏して借りの獲物を狙う」ことから地名の「伏見(ふしみ)」(9-1699。巨椋の入江響むなりー伏見が田井に雁渡るらし)にかかる枕詞とされます。
この「いめひとの」は、
「イ・メ・ピト・ノ」、I-ME-PITO-NO(i=past tense,beside;me=if,as if like;pito=end,extremity,navel;no=of)、「(巨椋池の)へそ・のような・(場所の)周辺・の(場所)」(「ピト」のP音がF音を経てH音に変化して「ヒト」となった)
の転訛と解します。
そこに「いく」の同音で地名の「伊久里(いくり)」(17-3952。ー伊久里の森の藤の花今来む春も常斯くし見む)にかかる枕詞とされます。
この「いもがいへに」は、
「イ・マウ(ン)ガ・イ・ヘイ・ヌイ」、I-MAUNGA-I-HEI-NUI(i=past tense,beside;maunga=mountain;hei=tie round,snare by the neck,be bound or entangled;nui=large,many)、「山の・麓に・(結びつけられて)広がって・いる・広大な(森)」(「マウ(ン)ガ」のAU音がO音に、NG音がG音に変化して「モガ」と、「ヘイ」のEI音がE音に変化して「ヘ」と、「ヌイ」のUI音がI音に変化して「ニ」となった)
の転訛と解します。
「妻の家の門を出入りする」の同音で「出入(いでいり)川」(7-1191。ー出入の川の瀬をはやみわが馬つまづく家思ふらしも)にかかる枕詞とされます。
この「いもがかど」、「いでいり(川)」は、
「イ・マウ(ン)ガ・カト」、I-MAUNGA-KATO(i=past tense,beside;maunga=mountain;kato=flowing,flood)、「山の・麓を・流れる(川)」(「マウ(ン)ガ」のAU音がO音に、NG音がG音に変化して「モガ」となった)
「イ・タイリ」、I-TAIRI(i=past tense,beside;tairi=be suspended,block up)、「(交通を)阻んで・きた(川)」(「タイリ」のAI音がEI音に変化して「テイリ」から「デイリ」となった)
の転訛と解します。
「妹がかぶる笠」と同音で地名の「三笠」(6-987。待ちかてにわがする月はー三笠の山に隠りてありけり)にかかる枕詞とされます。
この「いもがきる」、「みかさ(山)」は、
「イ・マウ(ン)ガ・キヒルア」、I-MAUNGA-KIHIRUA(i=past tense,beside;maunga=mountain;kihirua=change the mind)、「山が・心変わりを・した(状況の)」(「マウ(ン)ガ」のAU音がO音に、NG音がG音に変化して「モガ」と、「キヒルア」のH音と語尾のA音が脱落して「キル」となった)
「ミイ・カ(ン)ガ・タ」、MII-KANGA-TA((Hawaii)mii=attractive,fine-appearing,good-looking;kanga=curse,abuse,execrate;ta=dash,beat,lay)、「きれいな・のろいを・受けた(結果裸になった。山)」(「ミイ」が「ミ」と、「カ(ン)ガ」の語尾のNGA音が脱落して「カ」となった)
の転訛と解します。
「共寝の際に妻の袖を巻く」ことから地名の「巻来(まきき)」(10-2187。ー巻来の山の朝露ににほふもみちの散らまく惜しも)にかかる枕詞とされます。
この「いもがそで」、「まきき(山)」は、
「イ・マウ(ン)ガ・タウテ」、I-MAUNGA-TAUTE(i=past tense,beside;maunga=mountain;taute=mature,bring to perfection,mourn)、「すっかり・(成熟した)紅葉した・山(の)」(「マウ(ン)ガ」のAU音がO音に、NG音がG音に変化して「モガ」と、「タウテ」のAU音がO音に変化して「トテ」から「ソデ」となった)
「マキキ」、MAKIKI(stiff,standing straight out,obstinate)、「真っ直ぐに突出している(山)」
の転訛と解します。
妻の手を「取る」ので「とる」(9-1683。ー取りて引きよぢうち手折りわがかざすべき花咲けるかも。10-2166。ー取石(とろし)の池の波の間ゆ鳥が音異に鳴く秋過ぎぬらし)にかかる枕詞とされます。
この「いもがてを」、「とろし(取石)」は、
「イ・マウ(ン)ガ・テオ」、I-MAUNGA-TEO(i=past tense,beside;maunga=mountain;teo=stake,stick into the ground,small of birds)、(1)「山(肌)に・打ち込んだ・杭(または棒)(9-1683)」または(2)「山の・そばの・小鳥たち(10-2166)」(「マウ(ン)ガ」のAU音がO音に、NG音がG音に変化して「モガ」となった)
「トロチ」、TOROTI(spurt out,exude(of a steady stream))、「湧き水(の池)」
の転訛と解します。
妻の衣の紐を「結う」ことから「結八(ゆふや)川」(7-1115。ー結八川内をいにしへの人さへ見きとここを誰知る)にかかる枕詞とされます。
この「いもがひも」、「ゆふや(川)」は、
「イ・マウ(ン)ガ・ヒ・マウ」、I-MAUNGA-HI-MAU(i=past tense,beside;maunga=mountain;hi=rise,raise;mau=carry,fixed,continuing,expressing feelings of horror or admiration)、「山の・そばの・高い(ところに)・ある(すばらしいもの。風景。自然)」(「マウ(ン)ガ」のAU音がO音に、NG音がG音に変化して「モガ」と、「マウ」のAU音がO音に変化して「モ」となった)
「イ・フイア」、I-HUIA(i=past tense,beside;huia=feathers of the huia(a some-what rare bird),anything much prized)、「たいへん賞賛され・た(極めて美しい。風景。自然)」
の転訛と解します。
「女の姿を見そめる」意で「始見(はつみ)」(8-1560。ー始見の崎の秋萩はこの月ごろは散りこすなゆめ)にかかる枕詞とされます。
この「いもがめを」、「はつみ(始見)」は、
「イ・マウ(ン)ガ・マイオ」、I-MAUNGA-MAIO(i=past tense,beside;maunga=mountain;maio=calm)、「静かな・山の・そばの」(「マウ(ン)ガ」のAU音がO音に、NG音がG音に変化して「モガ」と、「マイオ」のAI音がE音に変化して「メオ」となった)
「パツ・ミイ」、PATU-MII(patu=screen,wall,edge,boundary;(Hawaii)mii=attractive,fine-appearing,good-looking)、「きれいな・衝立のような(崎)」(「パツ」のP音がF音を経てH音に変化して「ハツ」となった)
の転訛と解します。
「清廉な二人」の意で「清し」(3-437。ー清(きよみ)の川の川岸の妹が悔ゆべき心は持たじ)にかかる枕詞とされます。
この「いももあれも」、「きよみ(川)」は、
「イ・モモ・アレ・マウ」、I-MOMO-ARE-MAU(i=past tense,beside;momo=in good condition,well proportioned;are=open;mau=carry,fixed,continuing,expressing feelings of horror or admiration)、「(環境が)好ましく・開けて・いる・すばらしい(川)」(「マウ」のAU音がO音に変化して「モ」となった)
「キオ・ミイ」、KIO-MII(kio,kiokio=palm lily(Hawaii:kio=a small pool for stocking fish spawn);(Hawaii)mii=attractive,fine-appearing,good-looking)、「きれいな・百合(の花が咲いている。川)」
の転訛と解します。
妹の下へ「今来」の類音で地名の「今木(いまき)」(9-1795。ー今木の嶺に茂り立つ妻松の木は古人見けむ)にかかる枕詞とされます。
この「いもらがり」、「いまき(嶺)」は、
「イ・マウラ(ン)ガ・アリ」、I-MAURANGA-ARI(i=past tense,beside;mauranga=carry,bring,take up,lay hold of;ari=clear,white,appearance)、「清らかに・立つ(生え)て・いる(松)」(「マウラ(ン)ガ」のAU音がO音に、NG音がG音に変化して「モラガ」となり、その語尾のA音と「アリ」の語頭のA音が連結して「モラガリ」となった)
「イ・マキ」、I-MAKI(i=past tense,beside;maki=invalid,sick person,sore)、「岩肌が露出・した(山)」
の転訛と解します。
(1)「弓で射られた獣の傷が痛む」ので「痛し」(9-1804。やみ夜なす思ひ迷はひー心を痛み葦垣の思ひ乱れて)にかかり、
(2)「射られた猪や鹿が死ぬ」ので「行き死ぬ」(13-3344。いづくにか君がまさむと天雲の行きのまにまにー行きも死なむと思へども)にかかる枕詞とされます。
この「いゆししの」は、
「イ・ヰウ・チチ・ノ」、I-WHIU-TITI-NO(i=past tense,beside;whiu=throw,place,drive,assemble;titi=go astray;no=of)、「道に迷って・しまつ・た(状態の。心)」(「ヰウ」のWH音が脱落して「イウ」から「ユ」となった)
の転訛と解します。
狩て獲物を狙うために「足跡を見る」ことから地名の「跡見(とみ)」(10-2346。ー跡見山雪のいちしろく恋ひば妹が名人知らむかも)にかかる枕詞とされます。
この「うかねらふ」、「とみ(山)」は、
「ウカ・ネイ・ラフ」、UKA-NEI-RAHU(uka=hard,firm,be fixed;nei=to denote proximity,to indicate continuance of action;rahu,rarahu=basket,seize,lay hold of)、「積みに・積み重ねて・固定した(雪)」(「ネイ」のEI音がE音に変化して「ネ」となった)
「トフ・ミイ」、TOHU-MII(tohu=mark,sign,point out,show;(Hawaii)mii=attractive,fine-appearing,good-looking)、「美しさを・見せつけている(山)」(「トフ」のH音が脱落して「ミ」と、「ミイ」が「ミ」となった)
の転訛と解します。
「うき」の類音で「生く」(11-2504。解衣の恋ひ乱れつつー生きても吾はありわたるかも)にかかる枕詞とされます。
この「うきまなぐ」は、
「ウキ・マナ・(ン)グ」、UKI-MANA-NGU(uki=distant times past or future(ukiuki=old,continuous,undisturbed);mana=authority,influence,psychic force;ngu=silent)、「永続する・静かな・生命力(の。その働きによって)」(「(ン)グ」のNG音がG音に変化して「グ」となった)
の転訛と解します。
「海岸に大きな波が打ち寄せる」ことから地名の「駿河(するが)」(20-4345。吾妹子と二人わが見しー駿河の嶺らは恋しくめあるかも)にかかる枕詞とされます。187 うちよする(うち寄する)の項を参照してください。
この「うちえする」は、
「ウ・チエ・ツル」、U-TIE-TURU(u=be firm,be fixed,reach its limit;tie=abundance,plenty;turu=post,upright)、「(直立して)高く・どっしりと・そびえている(駿河の嶺。富士山)」
の転訛と解します。(「駿河(するが)」については、地名篇(その十七)の静岡県の(16)駿河国の項を参照してください。)
「やし」は間投助詞、「うちそ(打麻)」(「そ」は「を(麻)」の古形)を「うむ(紡ぐ)」意の「をうみ」の約音の「をみ(麻績)」(16-3791。ー麻績の子らあり衣の宝の子らが打栲はへて織る布)にかかる枕詞とされます。
この「うちそやし」は、
「ウチ・トイ・アチ」、UTI-TOI-ATI(uti=bite;toi=tip,finger,a beater used to separate the pulp from the fibre of ti para after it had been cooked;ati=descendant,clan)、「(麻や楮の枝などを蒸して)叩いて・(繊維を)精選して取り出す・部類の(作業を行う)」(「トイ」の語尾のI音と「アチ」の語頭のA音が連結して「トヤチ」から「ソヤシ」となった)
の転訛と解します。
打つた「そ(「を(麻)」の古形か)」を「うむ(紡ぐ)」意の「をうみ」の約音の「をみ(麻績)」(1-23。ー麻績王白水郎なれや伊良虞が島の玉藻刈ります)にかかる枕詞とされます。
この「うちそを」、「をみ(王)」は、
「ウチ・ト・アウ」、UTI-TO-AU(uti=bite(utiuti=annoy,worry);to=drag;au=cloud,whirlpool,sea,firm,certainly)、「(旋風のような)粛清の嵐に・巻き込まれて・罰を受けた(麻績王)」(「アウ」のAU音がO音に変化して「オ」となった)
「ワウ・ミヒ」、WAU-MIHI(wau=foolish,silly;mihi=sigh for)、「愚かな・(罪を得て)嘆いた(王)」(「ワウ」のAU音がO音に変化して「ヲ」と、「ミヒ」のH音が脱落して「ミ」となった)
の転訛と解します。
(1)「木の葉や草葉のなびく季節」なので「春」(3-260。ー春さりくれば桜花)にかかり、
(2)「なびく草」の意で地名の「草香(くさか)」(8-1428。ー草香の山を夕暮れにわが越え来れば)にかかる枕詞とされます。
この「うちなびく」は、
「ウチ・ナピ・ク」、UTI-NAPI-KU(uti=bite(utiuti=annoy,worry);napi=cling tightly;ku=silent,wearied,exhausted)、「居座ろうとする(春または日を)・振り払うのに・難渋する(春(3-260)、日(8-1428))」
の転訛と解します。(「草香(くさか)」については、地名篇(その四)の大阪府の(11)のb日下(くさか)越えの項を参照してください。)
語義・係り方未詳で「宮・都」(3-460。ー京しみみに里家は多にあれども)にかかる枕詞とされます。
この「うちひさす」は、
「ウ・チヒ・タツ」、U-TIHI-TATU(u=be firm,be fixed,reach its limit;tihi=summit,top,lie in a heap;tatu=reach the bottom,be content,agree,strike one foot aginst the other)、「最高に・満足し・きっている(状況の。宮、都)」
の転訛と解します。
語義・係り方未詳で「宮」(5-886。ー宮へ上るとたらちしや母が手離れ)にかかる枕詞とされます。
この「うちひさず」は、
「ウ・チヒ・タツ」、U-TIHI-TATU(u=be firm,be fixed,reach its limit;tihi=summit,top,lie in a heap;tatu=reach the bottom,be content,agree,strike one foot aginst the other)、「最高に・満足し・きっている(状況の。宮)」
の転訛と解します。
語義・係り方未詳で「宮」(13-3295。ー三宅の原ゆ直土に足ふみ貫き。14-3505。ー宮の瀬川のかほ花の恋ひてか寝らむ昨夜も今夜も)にかかる枕詞とされます。
この「うちひさつ」は、
「ウチ・ヒタ・ツ」、UTI-HITA-TU(uti=bite(utiuti=annoy,worry);hita=move convulsively or spasmodically;tu=stand,settle,fight with,energetic)、「(足に尖った石が)食い込んで・ときどき跳び上がる・(場所が)ある(原)(13-3295)」または「(波が)岸を噛んで・ときどきしぶきを上げる・(場所が)ある(川)(14-3505)」
の転訛と解します。
「駿河の国の海岸に波が打ち寄する」意で「する」と同音の地名の「駿河(するが)」(3-319。なまよみの甲斐の国ー駿河の国とこちごちの国のみ中ゆ出で立てる不尽の高嶺は)にかかる枕詞とされます。180 うちえする(うち寄する)の項を参照してください。
この「うちよする」は、
「ウ・チオ・ツル」、U-TIO-TURU(u=be firm,be fixed,reach its limit;tio=rock-oyster;turu=post,upright)、「(直立して)高く・(大きな)岩牡蠣のような(山が)・そびえている(国。その山、富士山)」(「チオ」が「チヨ」となった)
の転訛と解します。(「駿河(するが)」については、地名篇(その十七)の静岡県の(16)駿河国の項を参照してください。)
係り方未詳で「籠もる」(9-1809。振分髪に髪たくまでに竝びゐる家にも見えずー隠りてをれば)にかかる枕詞とされます。
この「うつゆふの」は、
「ウツ・ヰウ・フ・ノ」、UTU-WHIU-HU-NO(utu=return for anything,make response,dip up water etc.,dip into for the purpose of filling;whiu=throw,place,drive,assemble;hu=swamp,hollow,silent,secretly;no=of)、「成人を待つ(という目的を果たそうと)・ひっそりと・穴の中に・入れておくように(家の中に隠す)」(「ヰウ」のWH音が脱落して「ユ」となった)
の転訛と解します。
鶉の住む環境は「ものさびている」ことから「ふる(旧)・古し」(4-775。ー故りにし郷ゆおもへども何ぞも妹に逢ふ縁も無き)にかかる枕詞とされます。
この「うづらなく」は、
「ウ・ツラハ・ナク」、U-TURAHA-NAKU(u=be firm,be fixed,reach its limit;turaha=keep away,keep clear,be separated,open,wide;naku=dig,scratch(nakunaku=reduce to fragment))、「(何もかも)一掃されて・(何も残らない)きれいに・なってしまった(状態。場所)」(「ツラハ」のH音が脱落して「ツラ」となった)
の転訛と解します。
語義未詳で地名の「子負(こふ)の原」(5-813。二つの石を・・・海の底沖つ深江のー子負の原にみ手づから置したまひて)にかかる枕詞とされます。
この「うなかみの」、「こふ」は、
「ウナ・カミ・ノ」、UNA-KAMI-NO((Hawaii)una=shell of turtle or tortoise;kami=eat;no=of)、「亀の甲羅が・波に(食べられて)洗われている・ような(地形の場所。子負の原)」
「コプ」、KOPU(belly,womb,full,filled up)、「(神功皇后の)お腹(なか)(に当てた石がある。原)」(P音がF音を経てH音に変化して「コフ」となった)
の転訛と解します。(「うなかみ」については地名篇(その十)の千葉県の(8)海上(うなかみ)郡の項を参照してください。)
「結構な物」の意で「阿部橘」(11-2750。吾妹子にあはず久しもー阿部橘のこけ生すまでに)にかかる枕詞とされます。
この「うましもの」は、
「ウマ(ン)ガ・チ・モノ」、UMANGA-TI-MONO(umanga=pursuit,custum,habituated;ti=throw,cast,overcome;mono=plug,caulk,disable by means of incantation)、「(逢ってはならないという)呪いを・かけられたように・(逢わないことが)習慣となってしまった(状況)」(「ウマ(ン)ガ」のNGA音が脱落(名詞形の語尾のNGA音はしばしば脱落します)して「ウマ」となった)
の転訛と解します。
馬を操る動作の「たく」の同音で「高」(10-1859。ー高き山辺を白たへににほはしたるは梅の花かも)にかかる枕詞とされます。
この「うまなめて」は、
「ウマ(ン)ガ・マイタイ」、UMANGA-MAITAI(umanga=pursuit,custum,habituated;maitai=good,beautiful,agreeable)、「(例年の)いつものように・美しい(景色)」(「ウマ(ン)ガ」のNG音がN音に変化して「ウマナ」と、「マイタイ」のAI音がE音に変化して「メテ」となった)
の転訛と解します。
長い歩行で馬のひづめが摩滅して「尽く」の同音で地名の「筑紫」(20-4372。不破の関越えて吾は行くー筑紫(つくし)の崎に留りゐて吾は斎はむ)にかかる枕詞とされます。 この「うまのつめ」、「つくし(崎)」は、
「ウマ・(ン)ガウ・ツメ」、UMA-NGAU-TUME(uma=breast,chest;ngau=bite,hurt,attack;tume=slow,dilatory)、「ゆっくりと・浸食された(なだらかな)・胸のような(山の)」(「(ン)ガウ」のNG音がN音に、AU音がO音に変化して「ノ」となった)
「ツ・クチ」、TU-KUTI(tu=stand,settle;kuti=draw tightly together,contract,pinch)、「狭くなった(ところに)・位置している(崎)」
の転訛と解します。
紡いでよった麻の繊維は「長い」ことから「長し」(6-928。人皆の思ひ息みてつれもなくありし間にー長柄の宮に真木柱太高敷きて)にかかる枕詞とされます。
この「うみをなす」は、
「フミ・アウ(ン)ガ・ツ」、HUMI-AUNGA-TU(humi=abundance,copious;aunga=not including;tu=stand,settle)、「長期間・空(あき)家で・あった(長柄の宮)」(「フミ」のH音が脱落して「ウミ」と、「アウ(ン)ガ」のAU音がO音に、NG音がN音に変化して「オナ」となった)
の転訛と解します。
埋もれ木は「地下にある」ことから「下」(11-2723。あまたあらぬ名をも惜しみー下ゆぞ恋ふる行方知らずて)にかかる枕詞とされます。
この「うもれぎの」は、
「ウ・モレ・キ・ノ」、U-MORE-KI-NO(u=be firm,be fixed,reach its limit;more=tap-root,main-root,extremity,bare;ki=full,very;no=of)、「(木の)主な根の・一番の・先端・の(ように何処まで伸びているか分からない状況の)」
の転訛と解します。
(1)沖にいる「味鴨」と同音の地名の「味経(あぢふ)」(6-928。ー味経の原にもののふの八十伴の雄はいほりして都なしたり旅にはあれども)にかかり、
(2)「沖にいる鳥」の意で「鴨」(16-3866。ー鴨とふ船の還り来ば也良の崎守早く告げこそ)にかかる枕詞とされます。
この「おきつとり」、「あぢふ」は、
(1)「オキ・ツ・タウリ」、OKI-TU-TAURI((Hawaii)oki=to finish,end,extraordinary,to cut,trim,separate;tu=stand,settle;tauri=band,bind)、「(陸地から)離れて・いる・帯のような(半島状の土地)(6-928)」(「タウリ」のAU音がO音に変化して「トリ」となった)
(2)「オキ・ツ・ト・オリ」、OKI-TU-TO-ORI((Hawaii)oki=to finish,end,extraordinary,to cut,trim,separate;tu=stand,settle;to=drag,open or shut a door or a window;ori=cause to wave to and fro,sway,move about)、「(陸地から)離れた・(場所(沖)に)いる・あちこち・動き回る(鳥の)(16-3866)」(「ト」のO音と「オリ」の語頭のO音が連結して「トリ」となった)
「アチ・フ」、ATI-HU(ati=descendant,clan;hu=promontory,hill)、「半島の・部類(に属する。土地。その原)」
の転訛と解します。(「鴨」については雑楽篇(その二)の641鴨(かも)の項を参照してください。)
(1)「沖の波が頻りに立つ」ので「しく(頻・敷)」(11-2596。ーしきてのみやも恋渡りなむ月に日にけに)にかかり、
(2)「盛り上がった沖の波が崩れるさま」から「撓(とを)む」(19-4220。ーとをむ眉引大船のゆくらゆくらに)にかかる枕詞とされます。
この「おきつなみ」、「まよびき(眉引)」は、
「オキ・ツ・ナ・アミ」、OKI-TU-NA-AMI((Hawaii)oki=to finish,end,extraordinary,to cut,trim,separate;tu=stand,settle;na=belonging to;ami=gather,collect)、「(陸地から)離れた・(場所(沖)に)立つ・(集まって)連続して押し寄せる・(類の)もの(波)」(「ナ」のA音と「アミ」の語頭のA音が連結して「ナミ」となった)
「マイオ・ピキ」、MAIO-PIKI(maio=calm;piki=climb,ascend,closely curled of hair,pressed close tigether)、「(波の動きにつれて)静かに(ゆっくりと)・上昇する(大船)」(「マイオ」が「マヨ」となった)
の転訛と解します。
(1)「沖の藻が波によって靡く」ことから「なびく」(2-207。ーなびきし妹はもみち葉の過ぎていにきと)にかかり、
(2)「なびく」の類音の「隠(かく)り」の古語の地名の「名張(なばり)」(1-43。吾背子はいづく行くらむー名張の山を今日か越ゆらむ)にかかる枕詞とされます。
この「おきつもの」は、
「オキ・ツ・モノ」、OKI-TU-MONO((Hawaii)oki=to finish,end,extraordinary,to cut,trim,separate;tu=stand,settle,fight with,energetic;mono=plug,caulk,disable by means of incantation)、「(妻を夫から)強引に・引き離す・呪(まじな)い(をかけたような)」
の転訛と解します。
同音の地名の「置勿(おくな)」(16-3886。今日今日と飛鳥に到りー置勿に到り策かねども桃花鳥野に到り)にかかる枕詞とされます。
この「おくとも」は、
「オク・トモ」、OKU-TOMO((Hawaii)oku=to stand erect,protrude,thunderstruck,horrified;tomo=be filled,enter,begin,assault)、「十分に・高い(場所の)」
「オク・ナ」、OKU-NA((Hawaii)oku=to stand erect,protrude,thunderstruck,horrified;na=belonging to,satisfied)、「高い・(部類に属する)場所」
の転訛と解します。
「真木は奥山に生えている」ので「真木」(11-2519。ー真木の板戸をおし開きしゑや出で来ね後は何せむ)にかかる枕詞とされます。
この「おくやまの」は、
「オク・イア・マ・ノ」、OKU-IA-MA-NO((Hawaii)oku=to stand erect,protrude,thunderstruck,horrified;ia=indeed,current;ma=white,clean;no=of)、「高くて・実に・清らかな・(山)の」の転訛と解します。
(1)「行き会ふ」意で「行きあひ」(10-2117。ー行きあひの早稲を刈る時に成りにけらしも萩の花さく)にかかり、
(2)娘子に「逢ふ」の同音の地名の「逢坂山」(13-3237。もののふの宇治川渡りー逢坂山にたむけぐさ)にかかる枕詞とされます。
この「をとめらに」は、
「アウ・トマイラ(ン)ギ」、AU-TOMAIRANGI(au=firm,intense;tomairangi=dew,moisture)、「しつこい・露(が降りている状態。の)」または「深い・霧(に閉ざされた状態。の)」(「アウ」のAU音がO音に変化して「ヲ」と、「トマイラ(ン)ギ」のAI音がE音に、NG音がN音に変化して「トメラニ」となった)
の転訛と解します。
「しもと(若枝)」の同音で「本山(もとやま)」(14-3488。ーこの本山のましばにも告らぬ妹が名象に出でむかも)にかかる枕詞とされます。
この「おふしとも」は、
「オ・フチ・トモ」、O-HUTI-TOMO(o=the...of,belonging to;huti=hoist,pull out of the ground,fish(v.);tomo=be filled,enter,begin,assault)、「あの・十分に・高くなっている(山の)」
の転訛と解します。
「大海の奥は知りがたい」ことから「奥かも知らず」(17-3897。ー奥かもしらず行く吾をいつ来まさむと問ひし児らはも)にかかる枕詞とされます。
この「おほきうみの」、「おくか」は、
「オ・ホキ・ウミ・ノ」、O-HOKI-UMI-NO(o=the...of,belonging to;hoki=return,restorative charm;(Hawaii)umi=to strangle,choke,suppress;no=of)、「あの・(息が止まる)死にそうになって・生き返る呪(まじな)い(を唱える)・(場所)の」
「オク・カ」、OKU-KA((Hawaii)oku=to stand erect,protrude,thunderstruck,horrified;ka=take fire,be lighted,burn)、「恐ろしい(危険な場所にある)・(火を燃やしている)住処」
の転訛と解します。
「大君の召す笠」の意から地名の「三笠(みかさ)」(7-1102。ー三笠の山の帯にせる細谷川の音の清けさ)にかかる枕詞とされます。
この「おほきみの」、「みかさ(山)」は、
「オホ・キミ・ノ」、OHO-KIMI-NO(oho=spring up,wake up,arise;kimi=calabash;no=of)、「起き上がった・ひょうたん・の(ような山)」
「ミイ・カ(ン)ガ・タ」、MII-KANGA-TA((Hawaii)mii=attractive,fine-appearing,good-looking;kanga=curse,abuse,execrate;ta=dash,beat,lay)、「きれいな・のろいを・受けた(結果裸になった。山)」(「ミイ」が「ミ」と、「カ(ン)ガ」の語尾のNGA音が脱落して「カ」となった)
の転訛と解します。(東南アジア・オセアニアをはじめ世界で栽培される「ひょうたん」には、くびれがないのが普通です。)
狼の古称「大口」にちなみ「真神(まかみ)」(8-1636。ー真神の原にふる雪はいたくなふりそ家もあらなくに)にかかる枕詞とされます。
この「おほくちの」、「まかみ」は、
「オ・ハウク・チノ」、O-HAUKU-TINO(o=the...of,belonging to;hauku=dew,damp;tino=essentiality,reality,exact)、「あの・本質的に・湿気が多い(場所。原)」(「ハウク」のAU音がO音に変化して「ホク」となった)
「マカ・ミ」、MAKA-MI(maka=throw,cast,put,place;mi=urine,stream,river)、「川が・(縦横に)流れている(場所。原)」
の転訛と解します。
大伴の地にあった朝廷の港の「御津」の同音で「見つ」(4-565。ーみつとは言はじあかねさし照れる月夜に直にあへりとも)にかかる枕詞とされます。
この「おほともの」は、
「オ・ホト・モノ」、O-HOTO-MONO(o=the...of,belonging to;hoto=begin,be apprehensive,suspicious,dislike,join;mono=plug,caulk,disable by means of incantation)、「あの・(相手が私を)嫌う気持を・翻意させる呪(まじな)い(を行ったこと。その効果)」
の転訛と解します。
「羽根が交差する」意で「羽易(はがひ)の山」(2-210。あふよしを無みー羽易の山にわが恋ふる妹はいますと人の言へば)にかかる枕詞とされます。
この「おほとりの」、「はがひ」は、
「オ・ホト・オリ・ノ」、O-HOTO-ORI-NO(o=the...of,belonging to;hoto=begin,be apprehensive,suspicious,dislike,join;ori=cause to wave to and fro,sway,move about;no=of)、「あの・(死者が残してきた者を)心配して・うろうろする・(場所)の」(「ホト」の語尾のO音と「オリ」の語頭のO音が連結して「ホトリ」となった)
「ハ(ン)ガ・ヒ」、HANGA-HI(hanga=make,build,work,practise;hi=rise,raise)、「(死者がしばらくの間)過ごす・高い(場所。山)」(「ハ(ン)ガ」のNG音がG音に変化して「ハガ」となった)(アイヌの信仰では、死者の霊魂は死後しばらくの間高い山にとどまり、そののち天に昇って神となるとされていました。古代人も同様の信仰を持っていたのではないかと考えられます。)
の転訛と解します。
(1)「大船が停泊する港」の意で「津」(2-109。ー津守の占に告らむとは正しによりてわが二人宿し)にかかり、
(2)大船は「海を渡る」ので地名の「渡(わたり)」(2-135。ー渡の山のもみち葉の散りの乱に妹が袖さやにも見えず)にかかり、
(3)大船は「頼りになる」ので「頼む」(2-167。天の下四方の人のー思ひ頼みて天つ水仰ぎて待つに)にかかり、
(4)大船は「ゆったりしている」ので「ゆくら」(13-3274。人の寐る味眠は寝ずてーゆくらゆくらに思ひつつわが寝る夜らを数みもあへむかも)にかかり、
(5)「大船が波にゆれるさま」から「たゆたに」(2-196。ーたゆたふ見れば慰むる情もあらず)にかかり、
(6)船の「舵取」と同音の地名の「香取」(11-2436。ー香取の海に錨おろしいかなる人か物おもはざらむ)にかかる枕詞とされます。
この「おほぶねの」、「わたり(2)」、「かとり(6)」は、
(1),(3)「オ・ホプ・ネイ・ノ」、O-HOPU-NEI-NO(o=the...of,belonging to;hopu=catch,seize,snatch,surprise,detect;nei=to denote proximity,to indicate continuance of action;no=of)、「あの・(秘密が)察知・された・(原因)の(2-109)」または「あの・(皇子の偉大さが)知れ・渡る・(状況)の(2-167)」(「ネイ」のEI音がE音に変化して「ネ」となった)
(2),(4),(5),(6)「オホ・フネイ・ノ」、OHO-HUNEI-NO(oho=spring up,wake up,arise;hunei,huneihunei=anger,vexation,resentment;no=of)、「怒りが・こみ上げてくる・(原因・状況)の(2-135,13-3274,2-196)」または「怒ったような(激しい潮が)・(水位を上げて)押し寄せてくる・(場所)の(11-2436)」(「フネイ」のEI音がE音に変化して「フネ」となった)
「ワタ・アリ」、WHATA-ARI(whata=elevate,support,bring into prominence,hang,rest;ari=clear,visible,white,appearance,fence)、「明らかに・その姿を現す(山)」(「ワタ」の語尾のA音と「アリ」の語頭のA音が連結して「ワタリ」となった)
「カト・リ」、KATO-RI(kato=pluck,break off,flowing,flood(of the tide only);ri=screen,protect,bind)、「(荒れる)潮流を・防いでいる(場所。そこに鎮座する神)」
の転訛と解します。
女郎花が「咲き」の類音の地名の「佐紀(さき)」(4-675。ーさき沢に生ふる花かつみかつても知らぬ恋もするかも)にかかる枕詞とされます。
この「をみなへし」、「さきさわ」、「(花)かつみ」は、
「アウミヒ(ン)ガ・ハエ・チ」、AUMIHINGA-HAE-TI(aumihi,aumihinga=applied to first two wives in a polygamous marriage;hae=slit,cut,jearousy or ill feeling;ti=throw,cast,overcome)、「(夫が二人目の妻を持つと)最初の妻が・嫉妬・する」(「アウミヒ(ン)ガ」のAU音がO音に変化し、H音が脱落し、NG音がN音に変化して「ヲミナ」と、「ハエ」のAE音がE音に変化して「ヘ」となった)
「タキ・タワ」、TAKI-TAWHA(taki=take to one side,track,lead,entice;tawha=burst open,crack)、「(山の奥などの目的地へ)通ずる・(裂け目の)沢(本妻の嫉妬を招く場所)」
「カツア・ミイ」、KATUA-MII(katua=full-grown,adult;(Hawaii)mii=attractive,fine-appearing,good-looking)、「(十分に)成熟して・魅力的になった(花のような女性)」
の転訛と解します。
また、「をみな(女)」は通常「若い女」と、「おみな(嫗)」は「老女」と解されてきました。
この「をみな」、「おみな」は、
「アウ・ミイ・ナ」、AU-MII-NA(au=firm,intense;(Hawaii)mii=attractive,good-looking;na=to indicate position near or connection with the person addressed)、「ひきしまって(ピチピチして)・美しい・類の(女)」(「アウ」のAU音がO音に変化して「ヲ」と、「ミイ」の語尾のI音が脱落して「ミ」となつた)
「オミ・ナ」、OMI-NA((Hawaii)omi=to wither,droop;na=to indicate position near or connection with the person addressed)、「元気がなくなった・類の(女。嫗)」
の転訛と解します。
古歌中、「若い女」の「をみな、AU-MII-NA」の用例は、『古事記』下巻、雄略天皇吉野宮行幸条の「呉床座の神の御手もち弾く琴に舞する袁美那(をみな)常世にもがも」や、(20-4317)「秋野には今こそ行かめもののふの男乎美奈(をみな)の花にほひ見に」がみられ、「(多妻の場合の)本妻」の「をみな、AUMIHINGA」の用例は、上記(4-675)のほか、(3-419)「岩戸割る手力もがも手弱き女(をみな)にしあればすべの知らなく」をあげることができます。この(3-419)歌は、持統天皇8(694)年4月ごろに大宰師河内王が任地で没して豊前国の鏡山に葬られた時に手持女王が作った歌三首(3-417~9)のうちの一で、手持女王はおそらく河内王の本妻(当然かなりの年齢のはず)で、河内王の遺骸を大和に運んで自分の手で葬りたかったのに、現地妻の采配で豊前国に葬られたのに憤り、これらの歌を詠んだと考えますと「墓を破壊して夫を取り戻したい」との女王の嫉妬からの憤り、悲嘆が理解できます。
なお、植物の「をみなへし」は、
「アウ・ミナ・ヱチ」、AU-MINA-WHETI(au=firm,intense;mina=desire,feelinclination for;wheti=rotund,protuberant)、「密に・(しきりに枝分かれをして体積を増やし)膨れ・たがっている(植物)」(「アウ」のAU音がO音に変化して「ヲ」と、「ヱチ」のWH音がH音に変化して「ヘチ」から「ヘシ」となり、後にH音が脱落して「エシ」となった)(上記(4-675)の歌では、その植物のように燃え上がろうとする恋愛感情の比喩がこめられているとも考えられます。)
の転訛と解します。(植物名については、雑楽篇(その二)の599-14おみなえし(女郎花)の項を参照してください。)
カ行
「鏡」の比喩で「見る」(2-196。春べは花折りかざし秋立てばもみち葉かざししきたへの袖たづさはりー見れども飽かず)にかかる枕詞とされます。
この「かがみなす」は、
「カ(ン)ガ・ミナ・ツ」、KANGA-MINA-TU(kanga=ka=take fire,be lighted,burn;mina=desire,feel inclination for;tu=stand settle,fight with,energetic)、「強く・盛んに・(火に)照らされたような(美しく照り映えて)」(「カ(ン)ガ」のNG音がG音に変化して「カガ」となった)
の転訛と解します。
「ひとつ、ふたつと数える」の類音で地名の「二上(ふたがみ)山」(17-4006。ー二上山に神さびて立てるつがの木)にかかる枕詞とされます。
この「かきかぞふ」は、
「カキ・カト・フ」、KAKI-KATO-HU(kaki=neck,throat;kato=pluck,break off,flowing,flood(of the tide only);hu=promontory,hill)、「(山の)首のあたり(麓)を・(毛をむしった)木を伐採し、石材を採取した・山(の)」
の転訛と解します。
カキツバタが「咲き」の類音の地名の「佐紀(さき)」(11-2818。ー聞沼(さきぬ)の菅を笠に縫ひ著む日を待つに年ぞ経にける)にかかる枕詞とされます。
この「かきつはた」は、
「カハ・アキツ・パタ」、KAHA-AKITU-PATA(kaha=strong,rope,a general term for several charms used when fishing or snaring etc.;akitu=close in on,fight;pata=seed,cause,advantage,fruit)、「呪(まじな)いの・効果が・すぐ現れる(と伝えられる場所またはそのまじない)」(「カハ」のH音が脱落し、その語尾のA音と「アキツ」の語頭のA音が連結して「カキツ」となった)
の転訛と解します。
なお、植物の「かきつはた(かきつばた)」は、
「カキ・ツハ・タ」、KAKI-TUHA-TA(kaki=neck,throat;tuha=spit,expectorate;ta=dash,beat,lay)、「首(にあたる花弁)に・(唾を吐いたような)一本の白線が・ある(花。その植物。かきつばた)」または「カキ・ツ・パタ」、KAKI-TU-PATA(kaki=neck,throat;tu=stand,settle;pata=drop of water etc.,drip,cause)、「首(にあたる花弁)に・(水が流れた跡のような)一本の白線が・ある(花。その植物。その花が咲く場所)
の転訛と解します。(かきつはたの花の特徴については、雑楽篇(その二)の599-6あやめ(菖蒲)の項を参照してください。)
「かぎろひの」は地表近くで暖められた水蒸気によって光が屈折して物が揺れて見える現象で、(1)「その現象が現れる季節」から「春」(6-1047。平城の京師はー春にしなれば)にかかり、
(2)「それを炎のように感じ」て「燃ゆ」(9-1804。葦垣の思ひ乱れて春鳥の音のみ鳴きつつ味さはふ夜昼知らずー心もえつつ嘆き別れぬ)にかかる枕詞とされます。
この「かぎろひの」は、
「カ(ン)ギア・ロイ・ノ」、KANGIA-ROI-NO(kangia=ka=take fire,be lighted,burn;roi,whakaroiroi=wandering,unstable,unsettled;no=of)、「揺れる・炎・の(現れる状況の。またはそのような状態の)」(「カ(ン)ギア」のNG音がG音に、IA音がA音に変化して「カギ」となった)
の転訛と解します。(なお、「かげろう(陽炎)」については雑楽篇(その一)の348かぎろひ・かげろうの項を参照してください。)
「鹿は一度に一頭しか出産しない」ので「一人」(20-4408。父の命は・・・嘆き宣ばくーただ一人して朝戸出のかなしき吾子)にかかる枕詞とされます。
この「かこじもの」は、
「カハ・コチ・モノ」、KAHA-KOTI-MONO(kaha=strong,strength,rope,edge;koti=divide,cut off;mono=plug,caulk,disable by means of incantation)、「強力に・家族と引き離す・呪(まじな)いを行った(かのように。その結果として)」(「カハ」のH音が脱落して「カ」となった)
の転訛と解します。
橿の実は「椀の形の苞にどんぐりが一つづつ入っている」ので「ひとり」(9-1742。ただひとりい渡らす児は若草の夫かあるらむーひとりか寐らむ)にかかる枕詞とされます。
この「かしのみの」は、
「カチ・ヌミ・ノ」、KATI-NUMI-NO(kati=leave off,cease,well;numi=bend,fold,go,pass by;no=of)、「通り・過ぎた・(児)の」(「ヌミ」のU音がO音に変化して「ノミ」となった)
の転訛と解します。
(1)「その季節の風物」から「春日(はるひ)」(13-3258。あらたまの年は来去きて玉づさの使の来ねばー長き春日を天地に思ひ足らはし)にかかり、
(2)「かすみ」と同音の地名の「春日(かすが)」(8-1437。ー春日の里の梅の花山の下風に散りこすなゆめ)にかかる枕詞とされます。
この「かすみたつ」は、
「カ・ツ・ミイ・タツ」、KA-TU-MII-TATU(ka=take fire,be lighted,burn;tu=stand,settle,fight with,energetic;(Hawaii)mii=clasp,attractive,good-looking;tatu=reach the bottom,be content,agree,strike one foot against the other)、「(山野を焼く)火が・盛んに燃えて・(その煙が)美しく(充満しているような。霞が)・次から次へと湧いてくる(状況の)」
の転訛と解します。
係り方未詳で「遠し」(14-3453。ー遠き吾妹が著せし衣たもとの行(くだり)まよひ来にけり)にかかる枕詞とされます。
この「かぜのとの」は、
「カタエ・(ン)ゴト・ノ」、KATAE-NGOTO-NO(katae=how great;ngoto=head,be deep,be intense of emotions,firmly;no=of)、「何と・深い愛情・(を互いに抱いている関係)の」(「カタエ」のAE音がE音に変化して「カテ」から「カゼ」と、「(ン)ゴト」のNG音がN音に変化して「ノト」となった)
の転訛と解します。
「鴨ではないのに鴨のように」の意で「水に浮く・浮き寝」(1-50。そを取ると騒ぐ御民も家忘れ身もたな知らずー水に浮きゐて。15-3649。ー浮き寝をすればみなの腸か黒き髪に露ぞ置きにける)にかかる枕詞とされます。
この「かもじもの」、「うき(浮き)」は、
「カハ・モチ・モノ」、KAHA-MOTI-MONO(kaha=strong,strength,rope,edge;moti=consumed,scarce,surfeited;mono=plug,caulk,disable by means of incantation)、「徹底的に・活力を奪う・呪(まじな)いをされたように(まるで死んでしまったかのように)」(「カハ」のH音が脱落して「カ」となった)
「ウキ」、UKI(distant times,past or future)、「長時間にわたって」
の転訛と解します。
同音の「つらい」意の「からし」(15-3695。昔より言ひける言のー辛くもここに別れするかも)にかかる枕詞とされます。
この「からくにの」は、
「カラク・ヌイ・ノ」、KALAKU-NUI-NO((Hawaii)kalaku=to proclaim,to release as evil by prayer,chilled,shivering;nui=large,many;no=of)、「震えが・止まらない・(ほど)の(恐れ、嘆き、悲しみなどの)」(「ヌイ」が「ニ」となった)
の転訛と解します。
衣を「裁つ」の同音で地名の「竜田(たつた)山(10-2194。雁がねの来鳴きしなへにー立田の山はもみち始めたり)にかかる枕詞とされます。
この「からころも」は、
「カラコア・ラウモア」、KALAKOA-RAUMOA((Hawaii)kalakoa=Calico,varigated in color;raumoa=a fine variety of flax)、「上等の繊維で織った・さまざまの色に(斑に)染めた布のような)」(「カラコア」の語尾のA音が脱落して「カラコ」と、「ラウモア」のAU音がO音に変化し、語尾のA音が脱落して「ロモ」となった)
の転訛と解します。
(1)「刈った薦の乱雑なさま」から「乱る」(3-256。飼飯の海のには好くあらしー乱れ出づ見ゆ海人の釣船)にかかり、
(2)「刈った薦はじきにしおれる」ので「しのに」(13-3255。夏麻びく命かたまけー心もしのに人知れずもとなぞ恋ふる気の緒にして)にかかる枕詞とされます。
この「かりこもの」は、
(1)「カリ・コモウ・ノ」、KARI-KOMOU-NO(kari=dig,wound,rush along violently;komou=cover a fire with ashes or earth to keep it smouldering;no=of)、「埋め火を・掘り起こしてかき立てた・(状態)の(急に元気を取り戻したように)(3-256)」(「コモウ」の語尾のOU音がO音に変化して「コモ」となった)
(2)「カハ・リコ・モノ」、KAHA-RIKO-MONO(kaha=strong,strength,rope,edge;riko=wane,dazzled;mono=plug,caulk,disable by means of incantation)、「強力に・気力を奪う・呪(まじな)いをかけられた(ように。急に力が抜けて)(13-3255)」(「カハ」のH音が脱落して「カ」となった)
の転訛と解します。
「かるはすは(かるうすは)」(原文は可流羽須波)(16-3817。ー田盧の本に我が背子はにふぶに笑みて立ちませり見ゆ)は、これまで一般には通常の万葉仮名の読み方(「羽」は他の用例ではすべて「は」または「ば」と訓じます)に従い、「かるはすは」と訓じ、これを「かるうす(軽碓)は」と改訓(契沖『代匠記』初稿本)し、「唐臼なり」(賀茂真淵『万葉考』)と注釈されてきました。岩波新大系本は、「かるうすは」の訓に従いますが、意義未詳とし、「刈る」に関係する枕詞かとしています。
この「かるはす」、「かるうす」は、
「カル・パツ(ン)ガ」、KARU-PATUNGA(karu=snare;patunga=victim(patu=strike,kill))、「罠にかかった・(犠牲の)獲物(の鳥獣)」(「パツ(ン)ガ」のP音がF音を経てH音に変化し、名詞形語尾のNGA音が脱落して「ハツ」から「ハス」となった)
「カル・ウツ」、KARU-UTU(karu=snare;utu=return for anything,reward)、「罠にかかった・獲物(の鳥獣)」
の転訛と解します。(この「はす」は、「はず(巴豆)」(その種子から採る巴豆油が猛毒なことで知られます)の語源かも知れません。)
君がかぶる「御笠」の同音で地名の「三笠(みかさ)」(11-2675。ー三笠の山にゐる雲のたてば継がるる恋もするかも)にかかる枕詞とされます。
この「きみがきる」、「みかさ(山)」は、
「キミ・(ン)ガキ・ル」、KIMI-NGAKI-RU(kimi=calabash;ngaki=clear off weeds or brushwood,cultivate,avenge;ru=shake,agitate,scatter)、「躍起になって(徹底的に)・灌木を刈り払った(草だけになった)・ひょうたん(のような形の山)」(「(ン)ガキ」のNG音がG音に変化して「ガキ」となった)
「ミイ・カ(ン)ガ・タ」、MII-KANGA-TA((Hawaii)mii=attractive,fine-appearing,good-looking;kanga=curse,abuse,execrate;ta=dash,beat,lay)、「きれいな・のろいを・受けた(結果裸になった。山)」(「ミイ」が「ミ」と、「カ(ン)ガ」の語尾のNGA音が脱落して「カ」となった)
の転訛と解します。
肝と向かい合う「心臓」の意で「心」(2-135。延ふつたの別れし来ればー心を痛み思ひつつかへりみすれど)にかかる枕詞とされます。
この「きもむかふ」は、
「キ・マウ・ム・カフ」、KI-MAU-MU-KAHU(ki=full,very;mau=carry,take up,lay hold of;mu=silent;kahu=germinate,grow,sprout)、「しっかりと・掴まえて・静かに・(愛情を)育(はぐく)んだ(妹の)」(「マウ」のAU音がO音に変化して「モ」となった)
の転訛と解します。
釧(くしろ)は手首に付けることから手首の古語「手節(てふし)」と同音の地名の「答志(たふし)」(1-41。ー答志の崎に今日もかも大宮人の玉藻刈るらむ)にかかる枕詞とされます。
この「くしろつく」、「たふし(崎)」は、
「クチ・ラウ・ツク」、KUTI-RAU-TUKU(kuti=draw tightly together,contract,pinch;rau=project,extend;tuku=side,edge,shore,ridge)、「挟んで(圧して)・高くした・海岸(である。岬の)」(「ラウ」のAU音がO音に変化して「ロ」となった)
「タフ・チ」、TAHU-TI(tahu=ridge-pole of a house;ti=throw,cast,overcome)、「(家の)棟柱が・横たわっているような(岬)」
の転訛と解します。
「葛の根が長い」ことから「遠長に」(3-423。ーいや遠長に萬世に絶えじと思ひて)にかかる枕詞とされます。
この「くずのねの」は、
「ク・ウツ・ノネ・ノ」、KU-UTU-NONE-NO(ku=silent;utu=dip up water etc.,dip into for the purpose of filling;none=consume,waste;no=of)、「(船を沈ませないために)疲れながらも・黙って・(船の底にたまる)あか水を汲み捨てる・(作業を営々と続けること)の(ように)」(「ク」のU音と「ウツ」の語頭のU音が連結して「クツ」から「クズ」となった)
の転訛と解します。
曇った夜の暗さから(1)「たどきも知らず」(12-3186。ーたどきも知らず山越えて往ます君をばいつとか待たむ)にかかり、
(2)「迷ふ」(13-3324。宮の舎人またへの穂の麻衣著るは夢かも現かもとー迷へる間に)にかかり、
(3)「下延へ」(14-3371。足柄のみ坂かしこみー吾が下延へを言出つるかも)にかかる枕詞とされます。
この「くもりよの」、「たどき」は、
「クモウ・リオ・ノ」、KUMOU-RIO-NO(kumou,komou=cover a fire with ashes or earth to keep it smouldering;rio=withered,dried up,wrinkled;no=of)、「埋め火(いったんは諦めた愛情または感情・意志)が・自然に無くなる(消滅する)・(状況)の」(「クモウ」のOU音がO音に変化して「クモ」と、「リオ」が「リヨ」となった)
「タタウ・ウキ」、TATAU-UKI(tatau=tie with a cord,count,repeat one by one;uki=distant times,past or future)、「(愛情が冷え切るまでの)長い時間を・計る(こと)」(「タタウ」の語尾のU音と「ウキ」の語頭のU音が連結したAU音がO音に変化して「タトキ」から「タドキ」となった)
の転訛と解します。
狩りのために「毛衣を着る季節」の意で「春冬(とき)」(2-191。ー春冬片設けて幸しし宇陀の大野は思ほえむかも)にかかる枕詞とされます。
この「けころもを」、「ときかたまけ(春冬片設け)」、「おもほえむ(思ほえむ)」は、
「カイ・コロ・マウ・ワオ」、KAI-KOLO-MAU-WAO(kai=eat,food;kolo=(Hawaii)kolo=creep,crawl;mau=fixed,continuing,retained,expressing feelings of horror or admiration;wao=forest)、「(自然のままの)畏敬すべき・森(の中)を・這い回っている・(食用にする)鳥獣たち(狩りの獲物)」(「カイ」のAI音がE音に変化して「ケ」と、「マウ」のAU音がO音に変化して「モ」と、「ワオ」のAO音がO音に変化して「ヲ」となった)
「トキ・カハ・タ・マ・アケ」、TOKI-KAHA-TA-MA-AKE(toki=axe;kaha=a general term for several charms used when fishing or snaring etc.;ta=dash,beat,lay;ma=go,come;ake=indicating immediate continuation in time,intensifying the force)、「(狩りに使う)斧に・(豊猟の)祈願を・込めて・すぐに・やって来た」(「カハ」のH音が脱落して「カ」と、「マ」のA音と「アケ」の語頭のA音が連結して「マケ」となった)
「オモ・ホ・エム」、OMO-HO-EMU(omo,omoomo=calabash;(Hawaii)omo=gourd,plug as of a calabash;ho=shout;(Hawaii)emu=to shoo away)、「(ひょうたんの口に蓋をするように)狩りの包囲網に・(鳥獣を)追い込むための・喊声を上げる」または「(ひょうたんのような)法螺貝の・(鳥獣を)追う・音が響く」
の転訛と解します。
今日の次の「明日」の同音で地名の「明日香(あすか)」(16-3886。ー飛鳥に到り立てども置勿に到り)にかかる枕詞とされます。
この「けふけふと」は、
「ケフケフ・ト」、KEHUKEHU-TO(kehukwhu=kwukwu=move oneself;to=drag)、「自分(の力)で・(目的地に)向かって(歩いて)」
の転訛と解します。
語義・係り方未詳で「押垂小野(おしたれをの)」(16-3875。ー押垂小野出づる水ぬるくは出でず)にかかる枕詞とされます。
この「ことさけを」、「おしたれをの(押垂小野)」は、
「コト・タ・アケ・ワオ」、KOTO-TA-AKE-WAO(koto=sob,make a low sound;ta=dash,beat,lay;ake=indicating immediate continuation in time,intensifying the force;wao=forest)、「(水の流れる)低い音を・立て・続けている・森(の)」(「タ」のA音と「アケ」の語頭のA音が連結して「タケ」から「サケ」と、「ワオ」のAO音がO音に変化して「ヲ」となった)
「オチ・タライ・ワオ・ノホ」、OTI-TARAI-WAO-NOHO(oti=finished,gone or come for good;tarai=dress,shape,fashion;wao=forest;noho=sit,settle)、「きれいに・整地された・森(の中)に・ある(土地)」(「タライ」のAI音がE音に変化して「タレ」と、「ワオ」のAO音がO音に変化して「ヲ」と、「ノホ」のH音が脱落して「ノ」となった)
の転訛と解します。
異国は言葉が通じないので(1)「韓(から)」(2-135。つのさはふ石見の海のー韓の崎なるいくりにぞ深みる生ふる荒磯にぞ玉藻は生ふる)にかかり、
(2)「百済(くだら)」(2-199。憶もいまだ尽きねばー百済の原ゆ神葬り)にかかる枕詞とされます。
この「ことさへく」、「から(の崎)」、「くだらのはら(百済の原)」は、
「コ・ト・タヘ・ク」、KO-TO-TAHE-KU(ko=to the place of,at the placeof;to=drag;tahe=exude,drop,flow;ku=silent)、「静寂に・引きずり・込まれる・場所(静寂に満ちている場所)」または「コト・タハエ・ク」、KOTO-TAHAE-KU(koto=sob,make a low sound;tahae=steal,thief;ku=silent)、「低い声も・(盗まれ)奪われる・静寂な(場所)」(「タハエ」のAE音がE音に変化して「タヘ」から「サヘ」となった)
「カラ」、KARA(basaltic-stone)、「(玄武岩質の)堅い黒い岩の(岬)」
「ク・タラ・ノ・ハラ」、KU-TARA-NO-HARA(ku=silent;tara=point,peak of a mountain;no=of;hara=a stick bent at the top used as a sign that a chief had died at the place)、「静かな・山の上・の・(首長を葬った)墓地の場所」
の転訛と解します。
「貢納物などを屯倉(みやけ)に運ぶ牡牛」の意で地名の「三宅(みやけ)」(9-1780。ー三宅の坂にさし向かふ鹿島の崎にさ丹塗の小船を設け)にかかる枕詞とされます。
この「ことひうしの」は、
「コ・トヒ・ウチ・ノ」、KO-TOHI-UTI-NO(ko=to the place of,at the place of;tohi=pile up,divide,separate;uti=bite(utiuti=annoy,worry);no=of)、「(人を悩ます)貢物を・積み上げる・場所(屯倉)・の」
の転訛と解します。(「屯倉(みやけ)」については雑楽篇(その一)の336みやけ(屯倉)の項を参照してください。)
「埴輪の駒を造る」意で「土師(はじ)」(16-3845。ー土師の志婢麻呂白くあればうべほしからむその黒色を)にかかる枕詞とされます。
この「こまつくる」は、
「コマ・ツクルア」、KOMA-TUKURUA(koma=pale,whitish;tukurua=repeat an operation,balls of red-ochre which have been badly baked and require to be rebaked)、「出来損ないの・白い(顔の)奴」(「ツクルア」の語尾のA音が脱落して「ツクル」となった)
の転訛と解します。
高麗の剣の環頭にある「輪(わ)」の同音で「我(わ)」、地名の「和射見(わざみ)」(2-199。真木立つ不破山越えてー和射見が原の行宮に天降りいまして。12-2983。ーわが心から外のみに見つつや君を恋ひわたりなむ)にかかる枕詞とされます。
この「こまつるぎ」、「わざみ(和射見)」は、
「コ・マツ・ウル・フ(ン)グイ」、KO-MATU-URU-HUNGUI(ko=to the place of,at the place of;matu=cut;uru=head,top,grove of trees;hungui=the top of the ko(ko=wooden implement for digging))、「堀棒の・柄の頭(上部の横棒または環)を・切り落としたような(真っ直ぐで細長い地形の)・場所(またはそれに似た真っ直ぐな心)」(「マツ」の語尾のU音と「ウル」の語頭のU音が連結して「マツル」と、「フ(ン)グイ」のH音が脱落し、NG音がG音に、UI音がI音に変化して「ギ」となった)
「ワ・タミ」、WA-TAMI(wa=definite space,area;tami=press down,suppress,smother)、「平滑な・地域」
の転訛と解します。
高級な高麗錦を称辞として「紐(ひも)」(14-3465。ー紐解き放けて寝るがへに何どむろとかもあやに愛しき)にかかる枕詞とされます。
この「こまにしき」は、
「コ・マニヒ・チキ」、KO-MANIHI-TIKI(ko=addressing to girl and males;manihi=smooth,narrow,contract;tiki=a rough representation of a human figure)、「ほっそりとした・人形のような・女性」(「マニヒ」のH音が脱落して「マニ」となった)
の転訛と解します。
「出口のない沼の水が地下をくぐって流れ出る」ことから「下延ふ・下に恋ふ・下ゆ恋ふ」(9-1809。黄泉に待たむとー下延へ置きてうち嘆き。11-2441。ー下ゆ恋ふればすべをなみ妹が名告りつ忌むべきものを。11-2719。ー下に恋ふれば飽き足らず人に語りつ忌むべきものを)にかかる枕詞とされます。
この「こもりぬの」、「した(下)」は、
「コモウ・リ・ヌイ・ノ」、KOMOU-RI-NUI-NO(komou,kumou=cover a fire with ashes or earth to keep it smouldering;ri=screen,protect,bind;nui=large,many;no=of)、「埋め火を・たくさん・集めたように(こころの中に激しい恋情を堅く秘めている)・(状態)の」(「コモウ」のOU音がO音に変化して「コモ」と、「ヌイ」のUI音がI音に変化して「ニ」となった)
「チタハ」、TITAHA(lean to one side,go in oblique direction,vary from)、「考えを変えて(秘めていた感情を明るみに出して)」(H音が脱落して「チタ」から「シタ」となった)または「チタ(ン)ガ」、TITANGA(loose)、「(秘めていた感情を)解放して(明るみに出して)」(語尾のNGA音が脱落して「チタ」から「シタ」となった)
の転訛と解します。
共寝するときに女の手を枕にするので「まく」の同音の地名の「巻向(まきむく)山」(7-1093。三諸のその山並にー巻向山は継のよろしも)にかかる枕詞とされます。
この「こらがてを」は、
「コラ(ン)ガ・テ・ワオ」、KORANGA-TE-WAO(koranga=raise,lift up;te=crack;wao=forest)、「高い・切れ目がある・森林(の)」(「コラ(ン)ガ」のNG音がG音に変化して「コラガ」と、「ワオ」のAO音がO音に変化して「ヲ」となった)
の転訛と解します。(「巻向(まきむく)山」については、地名篇(その五)の(34)巻向の項を参照してください。)
サ行
「枝が三本に分かれる植物の真ん中」の意で「中」(5-904。父母もうへは勿さかりー中にを寝むと)にかかる枕詞とされます。
この「さきくさの」は、
「タキ・クフ・タ(ン)ゴ」、TAKI-KUHU-TANGO(taki=denoting that what is said applies to each one individually;kuhu=insert,conceal,join a company;tango=take up,take hold of,remove)、「(父母が)交互に・(子を)抱き・かかえて」(「クフ」のH音が脱落して「ク」と、「タ(ン)ゴ」のNG音がN音に変化して「タノ」から「サノ」となった)
の転訛と解します。
「割き竹」の意で「そがひ(背向)」(7-1412。吾背子をいづく行かめとーそがひに宿しく今し悔しも)にかかる枕詞とされます。
この「さきたけの」、「そがひ(背向)」は、
「タキ・タカイ・ノ」、TAKI-TAKAI-NO(taki=denoting that what is said applies to each one individually;takai=wrap up,wrap round;no=of)、「二人ともそれぞれが・(自分を)縛り上げた(行動を自制した)・(状況)の」(「タカイ」のAI音がE音に変化して「タケ」となった)
「タウ・(ン)ガヒ」、TAU-NGAHI(tau=turn away,look in another direction;ngahi,ngawhi=suffer penalty,be punished)、「罰を受けた者が・(万感を込めて)振り返る(ような)」(「タウ」のAU音がO音に変化して「ト」から「ソ」と、「(ン)ガヒ」のNG音がG音に変化して「ガヒ」となった)
の転訛と解します。
「さ」は接頭語、「衣の緒(を)」の同音で「小筑波(をつくば)」(14-3394。ー小筑波嶺ろの山の岬わすら来ばこそ汝を懸けなはめ)にかかる枕詞とされます。
この「さごろもの」、「をつくば(小筑波)」は、
「タ・コロ・マウ(ン)ガ・ノ」、TA-KOLO-MAUNGA-NO(ta=the...of;(Hawaii)kolo=to creep,crawl,move along;maunga=mountain;no=of)、「あの・裾を長く引いている・山・の」(「マウ(ン)ガ」のAU音がO音に変化し、語尾のNGA音が脱落して「モ」となった)
「ワオ・ツク・パ」、WAO-TUKU-PA(wao=rorest;tuku=let go,allow,side,ridge of a hill;pa=touch,hold personal commumication with)、「(歌垣の)交際を・許す・森林(山)」(「ワオ」のAO音がO音に変化して「ヲ」となった)
の転訛と解します。
「波が立つ」ので「立つ」(17-3993。渚には葦鴨騒ぎー立ちても居てもこぎ廻り見れども飽かず)にかかる枕詞とされます。
この「さざれなみ」は、
「タ・タレヘ・ナ・ミ」、TA-TAREHE-NA-MI(ta=the...of,dash,beat,lay;tarehe=wrinkled;na=to indicate position near,belonging to,satisfied;mi=stream,river)、「あの・皺が寄っている・(川のような)水の・流れ(細かい波)」(「タレヘ」のH音が脱落して「タレ」から「ザレ」となった)
の転訛と解します。
「日が真っ直ぐに昇る」意で「日」(2-167。ー日女の命)にかかる枕詞とされます。
この「さしあがる」は、
「タ・チア・(ン)ガルル」、TA-TIA-NGARURU(ta=the...of;tia=stick in,adorn by sticking in feathers;ngaruru=abundant,strong growth,flourrishing)、「あの・華麗に・(鳥の羽根で飾った)装っている(女神)」(「(ン)ガルル」の反復語尾の「ル」が脱落して「ガル」となった)
の転訛と解します。
「相並んでいる」意で「隣」(9-1738。ー隣の君はあらかじめおの妻離れて)にかかる枕詞とされます。
この「さしならぶ」は、
「タ・チナ・ラプ」、TA-TINA-RAPU(ta=the...of;tina=fixed,fast,firm,satisfied,overcome;rapu=seek ,look for,apply to any one for advice,ascertain)、「あの・(珠名という美女を)求める(気持に)・凝り固まった(隣の君)」
の転訛と解します。
「狩人の持つ弓」の意で地名の「弓月が岳(ゆつきがたけ)」」(10-1816。珠かきる夕さり来ればー弓月が岳に霞たなびく)にかかる枕詞とされます。
この「さつひとの」は、
「タツア・ヒタウ・ノ」、TATUA-HITAU-NO(tatua=girdle,put on as agirdle;hitau=short peticoat or apron;no=of)、「前掛け(のような森林)を・帯のように締めている・(山)の」(「タツア」のUA音がU音に変化して「タツ」から「サツと、「ヒタウ」のAU音がO音に変化して「ヒト」となった)
の転訛と解します。(「弓月が岳(ゆつきがたけ)」については、地名篇(その五)の(34)巻向の項を参照してください。)
(1)同音で「さぬ(寝)」(2-94。玉くしげ見む円山のー寐ずは遂にありかつましじ)にかかり、
(2)「蔓が伸びて別れても後にまた会う」ので「後も逢ふ」(13-3280。今更に君来まさめやー後もあはむと慰むる心を持ちて)にかかり、
(3)「蔓は長い」ので「いや長遠し」(13-3288。大船のおもひたのみてーいや遠長くわが思へる君によりては)にかかる枕詞とされます。
この「さなかづら」は、
「タナ・カハ・ツラ」、TANA-KAHA-TURA(tana=his,her,its;kaha=strong,strength,persistency;tura,turatura=molest,spiteful)、「彼(または彼女)の・意地悪が・長引いている(状況)」(「カハ」のH音が脱落して「カ」となった)
の転訛と解します。
244 さなかづら(核葛)の異形で、「蔓が伸びて別れても後にまた会う」ので「後も逢ふ」(2-207。数多く行かば人知りぬべみー後もあはむと大船の思ひたのみて)にかかり、
この「さねかづら」は、
「タネ・カハ・ツラ」、TANEA-KAHA-TURA(tane=male,showing manly qualities,hisband;kaha=strong,strength,persistency;tura,turatura=molest,spiteful)、「夫の(または男らしさを見せようと)・意地悪が・長引いている(状況)」(「カハ」のH音が脱落して「カ」となった)
の転訛と解します。
「真夏五月の蠅の比喩」で「騒ぐ」(3-478。皇子の御門のー騒ぐ舎人は)にかかる枕詞とされます。
この「さばへなす」は、
「タパエ・ナツ」、TAPAE-NATU(tapae=lay on one another,stack,surround;natu=scratch,stir up,tear out,angry)、「群集して・興奮している(舎人)」
の転訛と解します。
外国人の言葉が分からないことは「鳥のさえづりのよう」の意で「漢(あや)」(7-1273。住吉の波豆麻の公が馬乗衣ー漢女をすゑて縫へる衣ぞ)にかかる枕詞とされます。
この「さひづらふ」、「あや(漢)」は、
「タヒ・ツ・ラフイ」、TAHI-TU-RAHUI(tahi=one,unique,repeated;tu=fight with,energetic;rahui=a mark to warn people against trespassing)、「(敵の侵入に対する警戒)警報を・しつこく・繰り返すように(けたたましい声を・何回となく・繰り返すように)」(「ラフイ」のUI音がU音に変化して「ラフ」となった)
「アイア」、AIA(expressing satisfaction or complacency,it is good,it serves one right)、「満足(または賛嘆)の声を上げる(女)」
の転訛と解します。
247 さひづらふの異形で、外国人の言葉が分からないことは「鳥のさえづりのよう」の意で「韓(から)」(16-3886。この片山のもむ楡を五百枝剥ぎ垂れ天光るや日の気に干しー韓碓(からうす)に舂き)にかかる枕詞とされます。
この「さひづるや」は、
「タヒ・ツ・ルイア」、TAHI-TU-RUIA(tahi=one,unique,repeated;tu=fight with,energetic;ruia=rui=shake,shake down,cause to fall in drops,scatter)、「(杵で)搗いて粉にする(動作を)・倦まずに・繰り返す(作業の)」
の転訛と解します。
同音で地名の「檜隈」(12-3097。ー檜隈川に馬とどめ馬に水飲(か)へ吾外に見む)にかかる枕詞とされます。
この「さひのくま」、「ひのくま(檜隈)」は、
「タヒ・ノ・クマ(ン)ガ」、TAHI-NO-KUMANGA(tahi=one,unique,repeated;no=of;kumanga=kumama=desire,long for(used only of an invalid's fancy for certain food))、「(変わっている)特別・な・(病人など)弱者の好物(馬が欲しがる川の水)」(「クマ(ン)ガ」の語尾のNGA音が脱落して「クマ」となった)
「ヒノヒ・クマ」、HINOHI-KUMA(hinohi=compressed,contracted;(Hawaii)kuma=cracking of the skin between fingers and toes)、「狭い・(手指の間のような)山と山との間の隈(そこを流れる川)」(「ヒノヒ」のH音が脱落して「ヒノ」となった)または「ピ(ン)ゴ・クマ」、PINGO-KUMA(pingo,pingongo=shrunk,insert;(Hawaii)kuma=cracking of the skin between fingers and toes)、「皺が寄っている・(手指の間のような)山と山との間の隈(そこを流れる川)」(「ピ(ン)ゴ」のP音がF音を経てH音に、NG音がN音に変化して「ヒノ」となった)
の転訛と解します。
同音で「ゆり(後)」(18-4088。ー後(ゆり)もあはむと思へこそ今のまさかもうるはしみすれ)にかかる枕詞とされます。
この「さゆりばな」、「ゆり(後)」は、
「タイ・ウリ・パ(ン)ガ」、TAI-URI-PANGA(tai=prefix.sometimes with aqualifying force;uri=offspring,descendant,ralative,race(uriuri=short in time or distance);panga=throw,lay,riddle,game of guessing)、「ほんの・(短い)ちょっとした・(謎々の)座興」(「タイ」の語尾のI音と「ウリ」の語頭のU音が連結して「サユリ」と、「パ(ン)ガ」のNG音がN音に変化して「パナ」から「バナ」となった)
「イ・ウリ」、I-URI(i=past tense,denoting act,state or condition in time past;uri=offspring,descendant,ralative,race)、「後の・子孫(の時代)の」(「イ」のI音と「ウリ」の語頭のU音が連結して「ユリ」となった)
の転訛と解します。
なお、花かづらの「さ百合花」(18-4087)は、
「タ・イフ・リ・ハナ」、TA-IHU-RI-HANA(ta=the...of;ihu=nose,bow of a canoe etc.;ri=bind;hana=shine,glow,flame)、「あの・カヌーの舳先のような(反り返った)花弁が・集まった・光り輝くもの(百合の花。そのかづら)」(「イフ」のH音が脱落して「ユ」となった)
の転訛と解します。(植物の「ゆり(百合)」については雑楽篇(その二)の520ゆりの項を参照してください。)
「鹿が入る野」の意で地名の「入野(いりの)」(10-2277。ー入野のすすき初尾花いつしか妹が手を枕かむ)にかかる枕詞とされます。
この「さをしかの」、「いりの」、「はつ(初)」は、
「タワオ・チカ・ノ」、TAWHAO-TIKA-NO(tawhao=brushwood,scrub,refuse;tika=phormium tenax,ordinary swamp flax;no=of)、「灌木や・菅(すげ。その類)が・(生えている場所)の」(「タワオ」のWH音がW音に、AO音がO音に変化して「タヲ」から「サヲ」となった)
「イリ・ノア」、IRI-NOA(iri=be published,heard,be empty,hungry;noa=free from tapu or ant other restriction,ordinary,indefinite)、「(草木のほかは)何もない(開けた)・のびのびとしている(野)」(「ノア」の語尾のA音が脱落して「ノ」となった)
「パツイ」、PATUI(walk arm in arm)、「(ススキと尾花が)腕を組んで歩いている」(P音がF音を経てH音に、UI音がU音に変化して「ハツ」となった)
の転訛と解します。
「串刺しの肉の味がよい」ので同音の「よみ(黄泉)」(9-1809。ますらをの争ふ見れば生けりともあふべくあれやー黄泉(よみ)に待たむと隠沼の)にかかる枕詞とされます。
この「ししくしろ」、「よみ(黄泉)」は、
「チチ・クチ・ラウ」、TITI-KUTI-RAU(titi=peg,stick in,adorn by sticking feathers,steep,go astray;kuti=draw tightly together,contract,pinch;rau=catch as in a net,entangle,receptacle,project,extend)、「(死者が)さまよった(挙げ句に)・集められる・(受け皿の)収容場所(黄泉の国)」(「ラウ」のAU音がO音に変化して「ロ」となった)
「イオ・ミヒ」、IO-MIHI(io=muscle,line,spur,ridge;mihi=sigh for ,lament)、「嘆き悲しむ・山(の上の場所。死者の住むという黄泉の国)」(「イオ」が「ヨ」と、「ミヒ」のH音が脱落して「ミ」となった)(古代人は「黄泉の国は山の上にある」と信じていたと考えられます。古典篇(その二)の1の(2)のa「黄泉の国」は、山の上にあるの項を参照してください。)
の転訛と解します。
同音で「下」(15-3708。物思ふと人には見えじー下ゆ恋ふるに月ぞ経にける)にかかる枕詞とされます。
この「したびもの」、「した(下)」は、
「チ・タヒ・マウヌ」、TI-TAHI-MAUNU(ti=throw,cast,overcome;tahi=one,unique,repeated,sweep,trim timber with an axe;maunu=bait)、「(女性に対する)誘惑を・繰り返し・試みる」(「マウヌ」のAU音がO音に、語尾のU音がO音に変化して「モノ」となった)
「チタハ」、TITAHA(lean to one side,pass on one side,vary from)、「(次から次と相手を)変えて(恋をした)」(H音が脱落して「チタ」から「シタ」となった)
の転訛と解します。
「潮舟は並べて置く」ことから「並ぶ・置く」(14-3450。をくさを(乎久佐正丁)とをぐさすけを(乎具佐助丁)とー並べて見ればをぐさ勝ちめり。14-3556。ー置かればかなしさ寝つれば人言しげし汝を何かも為む)にかかる枕詞とされます。
この「しほふねの」、「をくさを(乎久佐正丁)」、「をぐさすけを(乎具佐助丁)」は、
「チホ・フネ・ノ」、TIHO-HUNE-NO(tiho=flaccid,soft;hune=down of birds etc.;no=of)、「(布団に入れる)柔らかい・(鳥のうぶ毛などの)綿(わた)の類・の」
「ワオ・クタ・ワオ」、WAO-KUTA-WHAO(wao=forest;kuta=encumbrance,a rush;whao=put into a bag or other receptacle,fill,go into)、「森の・雑草を・(布団に詰めた)綿(わた)」(WAO音がWO音に、WHAO音がWO音に変化していずれも「ヲ」となった)または「ワオ・クク・タ・ワオ」、WAO-KUKU-TA-WHAO(wao=forest;kuku=pigeon;ta=flock,used of certain birds;whao=put into a bag or other receptacle,fill,go into)、「森の(陸に住む)・鳩の・類の・(毛を布団に詰めた)綿(わた)」(WAO音がWO音に変化して「ヲ」と、「クク」の反復語尾が脱落して「ク」と、WHAO音がWO音に変化して「ヲ」となった)
「ワホ・(ン)グ・タ・ツケ・ワオ」、WAHO-NGU-TA-TUKE-WHAO(waho=the outside,the open sea;ngu,ngungu=a small species of puffin,a sea bird;ta=flock,used of certain birds;tuke=elbow,angle;whao=put into a bag or other receptacle,fill,go into)、「海洋の(海に住む)・つのめ鳥の・類の・(腕)羽根(のうぶ毛)を・(布団に詰めた)綿(わた)」(「ワホ」のWAHO音がWO音に変化して「ヲ」と、「(ン)グ」のNG音がG音に変化して「グ」と、「ワオ」のWHAO音がWO音に変化して「ヲ」となった)
の転訛と解します。
「島にいる鳥」の意で「鵜(う)」(17-4011。鮎走る夏の盛とー鵜養が伴は行く川の清き瀬ごとにかがりさしなづさひ上る)にかかる枕詞とされます。なお、この「なづさひ」は「水に浸(ひた)る、漂う」と解されています。
この「しまつとり」、「なづさひ」は、
「チ・マツ・ト・オリ」、TI-MATU-TO-ORI(ti=throw,cast,overcome;mat=fat,richness of food,gist;to=drag,open or shut a door or a window;ori=cause to move to and fro,sway,move about)、「ご馳走(である鮎)を・(飲み込む)捕らえる・あちこち・行き来する鳥(鵜)」または「チマ・ツ・ト・オリ」、TIMA-TU-TO-ORI(tima=a wooden implement for cultivating the soil;tu=fight with,energetic;to=drag,open or shut a door or a window;ori=cause to move to and fro,sway,move about)、「精力的に・(堀棒で大地に穴を開けるように)川の中にくちばしを突き入れる・あちこち・行き来する鳥(鵜)」(「ト」のO音と「オリ」の語頭のO音が連結して「トリ」となった)
「ナツ・タヒ」、NATU-TAHI(natu=scratch,stir up,tear out,show ill feeling;tahi=one,unique,repeated,sweep,trim timber with an axe)、「(川の水を)かき回し・続ける」
の転訛と解します。
語義・係り方未詳で「木綿(ゆふ)」(3-379。奥山のさかきの枝にしらかつけゆふとりつけて斎戸をいはいほりすゑ。12-2996。しらかつく木綿は花物(はなもの)言こそはいつの真枝も常忘らえね)にかかる枕詞とされます。
この「しらかつけ」、「しらかつく」、「はなもの(花物)」は、
「チラカラカ・ツ・ケ」、TIRAKARAKA-TU-KE(tirakaraka=fantail;tu=stand,settle;ke=strange,different,in or to a different place)、「扇尾鳩を・(榊の枝の)ところどころに・取り付ける」(「チラカラカ」の反復語尾が脱落して「チラカ」から「シラカとなった)
「チラカラカ・ツク」、TIRAKARAKA-TUKU(tirakaraka=fantail;tuku=let go,send,settle down,catch in a net)、「扇尾鳩を・(榊の枝の)ところどころに・取り付ける」(「チラカラカ」の反復語尾が脱落して「チラカ」から「シラカとなった)
「ハ(ン)ガ・モノ」、HANGA-MONO(hanga=make,buid,work,practice;mono=plug,caulk,disable by means of incantation)、「(人の)行為について・呪(まじな)いをかける(もの)」(「ハ(ン)ガ」のNG音がN音に変化して「ハナ」となった)
の転訛と解します。
(古代人と同じ信仰を今に伝えているアイヌの伝承に見られるとおり、鳥は神と人の交流を媒介するものであるところから鳥をかたどってイナウが捧げられ、御幣が祭祀に用いられてきました。この「鳥を(榊の枝に)取り付ける」ということは、木綿(ゆふ)を鳥に見立てたもので「木綿(ゆふ)を(榊の枝に)取り付ける」ことと同義と考えられます。なお、「木綿」と別に「扇尾鳩」に見立てた別の物(たとえば勾玉など)を取り付けた可能性もあります。)
「土地の代表的な景物」であるところから地名の「真野(まの)」(3-280。いざ児ども大和へ早くー真野の榛原手折りて行かむ)にかかる枕詞とされます。
この「しらすげの」、「たを(手折)りて」は、
「チラ・ツ(ン)ゲヘ・ノ」、TIRA-TUNGEHE-NO(tira=company of travellers,a pole used in the sacred place for the purposes of divination and other mystic rites;tungehe=quail,be alarmed;no=of)、「(通過する際に)注意すべき・(不注意に犯すと祟りがある)枝を挿した聖地(または忌地)・(が多い場所)の」(「ツ(ン)ゲヘ」のNG音がG音に変化し、H音が脱落して「ツゲ」から「スゲ」となった)
「タワオ・リテ」、TAWHAO-RITE(tawhao=brushwood,scrub,refuse;rite=like,corresponding in position,balanced by an equivalent,performed,completed)、「藪(の中)を・(綱渡りをするように身体の平均をとって)道から外れないように(進む)」(「タワオ」のWHAO音がWO音に変化して「ヲ」となった)
の転訛と解します。
語義・係り方未詳で「小新田山(をにひたやま)」(14-3436。ー小新田山の守る山の末枯れせなな常葉にもがも)にかかる枕詞とされます。
この「しらとほふ」、「をにひた(小新田)(山)」は、
「チ・ラト・ハウフ(ン)ガ」、TI-RATO-HAUHUNGA(ti=throw,cast,overcome;rato=be served or provided,be distributed;hauhunga=frost)、「霜が・一面に・下りる」(「ハウフ(ン)ガ」のAU音がO音に変化し、語尾のNGA音が脱落して「ホフ」となった)
「ワオ・ニヒ・タ」、WAO-NIHI-TA(wao=forest;nihi,ninihi=steep;move stealthly;ta=dash,beat,lay)、「峻険な(嶺が)・ある・森林(山)」または「オ・ニヒ・タ」、O-NIHI-TA(o=the place...of;nihi,ninihi=steep;move stealthly;ta=dash,beat,lay)、「あの・(霜が)ひそかに・降りる(山)」
の転訛と解します。
(1)弓を「張る」の同音で「春(はる)」(10-1923。ーいま春山に行く雲の行きや別れむ恋しきものを)にかかり、
(2)弓を「射る」の同音で地名の「石辺(いそへ)」(11-2444。ー石辺の山のときはなる命なれやも恋ひつつをらむ)にかかり、
(3)係り方未詳で地名の「斐太(ひだ)」(12-3092。ー斐太の細江の菅鳥の妹に恋ふれや寐をねかねつる)にかかる枕詞とされます。
この「しらまゆみ」は、
「チラ・マイ・ウミキ」、TIRA-MAI-UMIKI(tira=file of men,company of travellers;mai=to indicate direction or motion towards;umiki=traverse,go round)、(1)「旅人が・脇目も振らずに・行き来する(ように)(10-1923)」、(2)(3)「旅人が・脇目も振らずに・行き来する(場所の)(11-2444,12-3092)」(「マイ」の語尾のI音と「ウミキ」の語頭のU音が連結し、語尾のK音が脱落して「マユミ」となった)
の転訛と解します。
「菅の根の状態の比喩」で(1)「乱る」(4-679。いなといはば強ひめや吾背ー思ひ乱れて恋ひつつもあらむ)にかかり、
(2)「長し」(10-1921。おほほしく君を相見てー長き春日を恋ひわたるかも)にかかり、
(3)「ねもころ」(11-2473。ーねもころ君が結びてしわが紐の緒は解く人あらじ)にかかる枕詞とされます。
この「すがのねの」、「ねもころ」は、
「ツ(ン)ガ・ノネ・ノ」、TUNGA-NONE-NO(tunga=circumstance or time etc. of standing,site,wound,circumstance etc. of being wounded,send,beckon,decayed aching of a tooth;none=consume,waste;no=of)、(1)「歯痛に・悩んでいる・(状況)の(ように)(4-679)」、(2)「(春の日の)時間の経過が遅いことに・うんざりしている・(状況)の(10-1921)」または(3)「怪我(病気・心痛)に・悩む・(状況)の(11-2473)」(「ツ(ン)ガ」のNG音がG音に変化して「ツガ」から「スガ」となった)
「ネイ・モコロア」、NEI-MOKOROA(nei=to denote proximity,to indicate continuance of action;mokoroa=a god said to cause disease)、「神が罰(病気・心痛)を・下す」(「ネイ」が「ネ」と、「モコロア」の語尾のA音が脱落して「モコロ」となった)(141あしのねの(葦の根の)の項を参照してください。)
の転訛と解します。
同音の「すかなし」(17-4015。情にはゆるふことなくーすかなくのみや恋ひ渡りなむ)にかかる枕詞とされます。
この「すかのやま」は、
「ツカ・ノイ・アマ」、TUKA-NOI-AMA(tuka,tukatuka=start up,proceed forward;noi=elevated,on high,erected;ama=outrigger of a canoe,the carved post supporting the gable of a house)、「天高く・飛び去った・(家の彫刻を施した棟柱のような)立派な鷹」(「ノイ」の語尾のI音と「アマ」の語頭のA音が連結して「ノヤマ」となった)
の転訛と解します。
「そらでおおよそ数える」意で「おほ」の同音の「大」(2-219。ー凡津の子らがあひし日におほに見しかば今ぞ悔しき)にかかる枕詞とされます。
この「そらかぞふ」は、
「トラ・カ・トフ」、TORA-KA-TOHU(tora=burn,blaze;ka=take fire,be lighted,burn;tohu=mark,sign,point out,show,look towards)、「(志賀の宮が)燃える・火を・眺める(状況下の)」
の転訛と解します。
1 平成16年7月1日
209をみなへし(女郎花)の解釈の一部を修正しました。
2 平成16年10月1日
201をとめらに(娘子等に)の解釈を修正しました。
3 平成17年10月1日
212かきつはたの植物のかきつはたの解釈を修正しました。
4 平成18年2月1日
209をみなへしの項の説明を補完し、221-2かるはすは(かるうすは)の項を新規に追加しました。
5 平成18年4月1日
130あさぎりのの項、146 あまくもの項、230ことさへくの項の解釈を一部修正しました。
6 平成19年2月15日
インデックスのスタイル変更に伴い、本篇のタイトル、リンクおよび奥書のスタイルの変更、<修正経緯>の新設、<次回予告>の削除などの修正を行ないました。本文の実質的変更はありません。
7 平成20年5月1日
219からくにのの項および220からころもの項の解釈を修正しました。
<おことわり> 前回の国語篇(その四)を限りにしばらくお休みする予定でしたが、同篇へのアクセスが予想外に多く、同篇収録の120句以外の枕詞の解説の要望も寄せられましたので、今回と次回の二回に分けてさらに290句ほどを追加することとしました。
次回(平成16年7月1日)は、国語篇(その六)<枕詞・続(下)>(タ行からワ行まで146句収録)とし、<付>として『万葉集』難訓歌解読試案(1-1,1-9,2-156)を提示したいと考えています。
実は『万葉集』の完全な理解のためには、枕詞の解釈だけでは足りず、そのほかの語句についても改めて逐一検討を加える必要があります。本文中では枕詞とともに用例に即して最低限必要と思われるその他の語句についても解釈を加え、これによって従来思いも及ばなかった歌の本来の意味の奥深さが数多く発見できました。『万葉集』は正に縄文語の宝庫でした。その中にはまだまだ我々の知らない古代人の豊かな感情が息づいています。
次回を含めての枕詞の総数は約400句ですが、一つの歌の中に複数の枕詞を含むものがかなりありますので、勘定はしていませんが、ある程度見直すことができた歌の総数は4516首のうち300首足らずではないかと推測しています。残念ながら現在4516首すべてを見直す余裕はありませんので、これについてはまたの機会に譲りたいと思います。
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U R L: http://www.iris.dti.ne.jp/~muken/
タイトル: 夢間草廬(むけんのこや) ポリネシア語で解く日本の地名・日本の古典・日本語の語源 作 者: 井上政行(夢間) Eメール: muken@iris.dti.ne.jp ご 注 意: 本ホームページの内容を論文等に引用される場合は、出典を明記してください。 http://www.iris.dti.ne.jp/~muken/timei05.htm,date of access:05/08/01 など) このHPの内容をそのまま、または編集してファイル、電子出版または出版物として 許可なく販売することを禁じます。 Copyright(c)1998-2007 Masayuki Inoue All right reserved |