国語篇(その十二)


国語篇(その十二)

<民謡(その二)> ー西日本篇ー

(平成20-7-1書込み。24-5-1修正)(テキスト約49頁)


トップページ 国語篇一覧 この篇のトップ 語 句 索 引

[おことわり]

 この篇は、西日本(近畿・中国四国・九州・沖縄地方)の民謡の曲名および歌詞、囃子詞等の中に残る意味不詳の縄文語の意味を解明しようとするものです。

 ここで取り上げた民謡の出典は、次の通りです。
 (1) 町田嘉章・浅野建二編『日本民謡集』岩波文庫、1960年(全225曲収録)
 (2) 服部龍太郎編著『日本民謡全集』角川文庫、1965年(全320曲収録)

 上記二著に収められた民謡の中には、大正から昭和に入ってから流行歌として全国的に広まる中で、歌詞の方言が標準語化されたり、改変されたかと思われるものも多く、その中に残る縄文語は必ずしも多くありません。
 しかし、その中の縄文語と思われる囃子詞には、
 a 唄の趣旨・前後の歌詞との関係からみて、歌詞そのものもしくはその一部をなしているか、または歌詞の意味を強調・補完する明確な意味を持つものがあるので、これについては解釈を行ったほか、
 b 単なる掛詞、間の手や擬音語・擬声語・擬態語と思われるため、意味の解釈が困難なものは、原則として解釈の対象から除外しました。これについてもなんらかの解釈が可能となった場合には、随時解釈の追加をしたいと考えております。

 なお、解釈する歌詞等で岩波版と角川版で差異があるものについては、原則として、些少な差異に止まるものは岩波版により、大きな差異があるものは岩波版、角川版ともに解釈することとします。

 縄文語のポリネシア語による解釈は、他の諸篇と同様、原則として、その起源となったと推定される原ポリネシア語から変化したマオリ語(すでに失われた語彙でハワイ語に残るものについてはハワイ語とし、その旨を注記しました)とその意味を英語および日本語によって表記しました。主として使用したマオリ語・ハワイ語の辞典は次の通りです。

 (1)H.W.Williams M.A,Dictionary of the Maori Language,seventh edition,1997,GP Publications.
 (2)P.M.Ryan,The Reed Dictionary of Modern Maori,1995,TVNZ.
 (3)Mary Kawena Pukui and Samuel H.Elbert,Hawaiian Dictionary, revised and enlarged edition,1986,University of Hawaii Press.  

目 次

[近畿地方]

[三重県]

231海女唄(あまうた)・ノンコーリャ・ドシタコーリャ232桑名の殿様・ヤンレー ヤットコセー ヨーイヤナ・ヨーイトナー アーレワ アリャリャンリャン・ヨイトコ ヨイトコナー233尾鷲節(おわせぶし)・ヤサホーラエー ヤサホーラエー・ヨーイソレ・ノンノーコ サーイサイ234伊勢道中唄(いせどうちゅううた)・ホンマカヤー・トーコセーエ・エヨーイヤナー・アーリャリャリャー・アコレワイセー・ソーリャヨーイトセー・ハァヨイナー・ヨーイ・ハァヨーイセー トーコセー・ハア・ソレ・ヨーイ コレサーヨ235伊勢音頭(いせおんど)・ナーア・ヤンレ・ヤッコラヤートコセー・ヨイヤナ・アリャリャ・コレワイナ・コノヨイトコセー

[滋賀県]

241琵琶湖網引唄(びわこあみひきうた)・アラ ドッコイショ・アラ ヨイヨイヨイ242江州音頭(ごうしゅうおんど)・ヤ コリャドッコイセ・ホラ・エー・ハ キタショ・アー・ヨイヤセ・コラ ヨイトヨイヤマカ ドッコイサノセ・ヨ・エイヤー・ハーイ・オオ・ヤーイ・アー デレレン デレレン デレレン

[京都府]

251田植唄(たうえうた)・ソヨーノー252寒天屋唄(かんてんやうた)・トカラトカラ・ア ドッコイ コーリャ・ア ヤレショー コラショー・ノヤ・ヨー・ヤレヤレヤレショー・ハア コーリャコリャ・かく(寒天)・ハア コーリャ コリャコリャ・ヨーヤレ253宮津節(みやづぶし)・ピン254福知山音頭(ふくちやまおんど)・チョイ チョイ・ドッコイセ ドッコイセ・チョイチョイノ チョイノチョイノセ・トコドッコイ ドッコイ ドッコイセ

[大阪府]

261三十石船舟唄(さんじゅっこくぶねふなうた)・ヤレー・ナ・エ・ヤレサ ヨーイヨーイ

[兵庫県]

271網干音頭(あぼしおんど)・サアサ・ヤレコラマカセノ ヨイヤマカサイサイ・チョイトチョイト チョイトチョイト272デカンショ節・ア ヨイヨイ・ア ヨーイ ヨーイ デッカンショ

[奈良県]

281素麺掛唄(そうめんかけうた)・オーオイナショ オイナショ282鎌倉節(かまくらぶし)・アーヨイサヨイサ・エーニナンヨエ283坂本踊(さかもとおどり)・ヤ ナンチキドッコイ ナンチキドッコイ

[和歌山県]

291蜜柑取唄(みかんとりうた)・エー・ヨーイ・エイヨーエ・エーヨーイナー・オーリャオーリャ・アーエ・ヨーイエーイヤーエ・ヨーエ・アリャヨーエー292串本節(くしもとぶし)・アラ ヨイショヨーイショ ヨイショヨーイショ ヨーイショ・ハ オチャヤレ オチャヤレ・しょら(恋人)293新宮節(しんぐうぶし)・セノヨイヤサノセ・エッサ エッサ ヤレコノセ ヒーヤーリ ハリハリセ294紀州子守唄(きしゅうこもりうた)・あぜら(お前ら)・ナー定(じょう)

[中国・四国地方]

[鳥取県]

301追掛節(おいかけぶし)・まと302貝殻節(かいがらぶし)・貝殻漕(かいがらこ)ぎ・カワイヤノー・ヤサホーエーヤ・ホーエヤエーエ・ヨイヤサノサッサ・ヤンサノエーエ

[島根県]

311安来節(やすぎぶし)・アラ エッサッサー・滑車(せみ)・ヤサホヤサホ312関の五本松(せきのごほんまつ)・ハ ドッコイショ・ショコ ショコホイノ マツホイ313どっさり節・新保広大寺(しんぽこだいじ)・エ サアノーエー・コレワイ ドウジャイナア・チョイト

[岡山県]

321石切唄(いしきりうた)・ハイ ヨイヨイヨーイトセ・ヤレコラエーヨーエー・ヨ ヨーヨーイ・ヤーレ・ヨーヤレヨーホイヨー322下津井節(しもついぶし)・ヨー・まとも・まぎり・トコハイ トノエー ナノエー ソーレソレ323米のなる木・ジョリワラズ

[広島県]

331田植唄(たうえうた)・サゲ(音頭取り)・三ばい(田の神。音頭取り)・ヤハーレヤレ332三原やっさ節・やっさ踊・エー・ハ ヨイショヨイショ・ハア ヨイヨイヨンヤナー ヨンヤナー・サーマヨ・ヤッサヤッサ ヤッサヤッサ ドントセー333音戸舟唄(おんどふなうた)・可愛や・イアーレーナ(ヤーレーナ)

[山口県]

341ヨイショコショ節・ヨイショコショーデ ヨサノサー342男なら(オーシャリ節)・オーシャーリシャーリ

[徳島県]

351お姿節・ア ヨイヨイ・ハア ヨイヨイナ・ヤットサノサー352藍こなし唄・ドッコイセ・ヤートコセ・ションガエー353阿波盆踊(よしこの)・アー エライヤッチャ エライヤッチャ ヨイヨイヨイヨイ

[香川県]

361金比羅船々(こんぴらふねふね)・シュラ シュ シュ シュ・キララララ・ヨイセッセ362一合蒔いた(讃岐盆踊唄)・ドッコイショ・ソラヨーイ ヨーイ ヨイコラセー・チョイト・ツチツンツン363小豆島盆踊(しょうどしまぼんおどり)・ヨーイヨイ・ア ヨイヤサ ヨイヤサ ホーレイ ホーレイ

[愛媛県]

371今治よいやな・ヨイヤナー372ハゼ採り唄・ヤーレー・エ・サーヤーレ373宇和島サンサ・ションガイナー・エー

[高知県]

381鰹節造り唄・ヨーエ・アノエヨーエ・ヨー・うすばえ・ヤレ・ガイダ・ア コーリャコリャ・ヨイヨイ382よさこい節・ハア ヨサコイ ヨサコイ・おらんく・といち(情人)

[九州地方]

[福岡県]

391博多節(はかたぶし)・アリャ ドッコイショ392博多どんたく・スッポンポン・アカチョコベ393博多子守唄(はかたこもりうた)・がらがら柿・ヨーイヨーイ

[佐賀県]

401のんのこ節(皿踊)・ヤーレ・ノンノコサイサイ シテマタサイサイ・アラ オチャラカサイサイ402岳の新太郎さん・ザーンザザンザ・気はざんざ・アラ ヨーイヨイヨイ ヨーイヨイヨイ403新地節(しんちぶし)・可愛い・コラショ・ロレロン・アラサイサイ・ばらいしょばらいしょ

[長崎県]

411田植唄(たうえうた)・ヨイマタ・アラ ヨイヨイヨーイ・おぼうず・アラヨイトコリャ・せまち412ぶらぶら節・はた(紙鳶)・シャギリ・しゃんす(情人)・じんぺん(神変)・すばん(差出口)413高島節(たかしまぶし)・アラショカ ショカネ414ハイヤ節・ハイヤエー ハイヤ・サーマ・ヨヤサカサッサ415盆十五夜綱引唄(ぼんじゅうごやつなひきうた)・ヤッサンソリヒケ(ゾリゾリゾリ)・こって(牛)

[熊本県]

421おてもやん・ぐじゃっぺ・きゃあ・ぼうぶら・げんぱく・アカチャカペッチャカ チャカチャカチャ422キンキラキン節・ソラ キンキラキン・蟹正(がねまさ)どん423ポンポコニャ節・オヤポンポコニャ・オオサポンポコポンポコニャ424のんしこら・柴茶(しばちゃ)・ノーンシコラ・アラ・ノーンシノンシ ホッホ425五木の子守唄・おどま・かんじん(非人)・さるこ・ねずむ・こさぐ・こくる426球磨六調子(くまろくちょうし)・コイサッサコイサッサ・ヨイヤサー ヨイヤサー・ビックリビックリ シャックリシャシャメク・ろっちゅし(六調子)

[大分県]

431コツコツ節・サンヤリアー コツコツ・アー コツコツ432鶴崎踊(つるさきおどり)・ソレエ ソレエー ヤトヤ ソレサー

[宮崎県]

441稗搗節(ひえつきぶし)・ヨー オーホイ・おどま・いやばお・どま・しおる・こま(茶どき)442夜神楽せり唄・サイナ・ノンノコ サイサイ・ア ヨイヨイサッサ ヨイサッサ ヨイヨイサッサ ヨイサッサ443安久節(やっさぶし)・つぶれ・泥田(むただ)・オハラ・ヤッサ ヤッサ・情人(しゃんす)・砂原おしし・トコサッサ ヨイサッサ・御息女(おごじょ)

[鹿児島県]

451潮替節(しおかえぶし)・さゆる・まぎる(間切る)・けなげる・どえ452鹿児島小原良節(かごしまおはらぶし)・オハラハー・ハ ヨイヤサー ヨイヤサー・青年(にせ)・はっちこそ・蛙(どんこ)453鹿児島よさこい・ア ヨサコイ ヨサコイ・鉄瓶(かなちょか)・いっぺこっぺ・すったい(大層)・はっちこ・とのじょ(亭主)

454鹿児島ハンヤ節・ハンヤエー ハンヤ ハンヤ・ハ ヨイヨイ ヨイヤサット・サーマ455鹿児島浜節(かごしまはまぶし)・トコヨーイヤサッサ・ヤサホイノ・シテマタヨイヤサ コラショ

[沖縄地方]

461谷茶前節(たんちゃめーぶし)・するる小(ぐわ)・エ・ナンチャ マシマシ ディ アングワ ソイ ソイ・ナンチャ マシマシ ディ アングワ ヤクスク462安里屋節(あさどーやーぷし)・サアユイユイ・マタ ハーリヌ ツィンダラ カヌシャマヨー・ユンタ

<修正経緯>

<民謡(その二)> ー西日本篇ー

[近畿地方]

[三重県]

231海女唄(あまうた)・ノンコーリャ・ドシタコーリャ

 磯人(いそど。志摩地方で海女をいう)の唄、磯唄ともいい、志摩の海女たちが鰒取りのために磯桶を頭に乗せて沖に泳いで行く時の唄です。

 歌詞には、
 ♪せぐろめたかへ 鑿うちかけて ノンコーリャ 起こす心の 嬉しさや ドシタコーリャ
とあります。
 この「せぐろめたか」は、鰒の種類で「せぐろ」は「背の黒い鰒」をいいます。

 この「ノンコーリャ」、「ドシタコーリャ」は、

  「ナウナウ・コリ・イア」、NAUNAU-KORI-IA(naunau=take up;kori=move,wriggle,bestir oneself,use action in oratory;ia=indeed)、「(鰒を)採る」(「ナウナウ」のAU音がO音に変化して「ノノ」から「ノン」となった)

  「タウ・チタハ・コリ・イア」、TAU-TITAHA-KORI-IA(tau=come to rest,float,be suitable,;titaha=lean to one side,decline,pass on one side;kori=move,wriggle,bestir oneself,use action in oratory;ia=indeed)、「(鑿を鰒の下に)こじ・入れると・楽しい(気持ちが)・よぎる」(「タウ」のAU音がO音に変化して「ト」から「ド」と、「チタハ」のH音が脱落して「チタ」から「シタ」となった)

の転訛と解します。

232桑名の殿様・ヤンレー ヤットコセー ヨーイヤナ・ヨーイトナー アーレワ アリャリャンリャン・ヨイトコ ヨイトコナー

 江戸時代末期から桑名地方で唄われていたお座敷唄です。元来゛木遣唄を三味線化したものとされます。

 歌詞には、
 ♪桑名の殿様ヤンレー ヤットコセー ヨイヤナ 桑名の殿さん 時雨で茶々漬ヨーイトナー アーレワ アリャリャンリャン ヨイトコ ヨイトコナー
とあります。
この「時雨で茶々漬」とは桑名名産の蛤の時雨煮で茶漬を食べる意と解されています。

 この「ヤンレー ヤットコセー ヨイヤナ」、「ヨーイトナー アーレワ アリャリャンリャン」、「ヨイトコ ヨイトコナー」は、

  「イア・ネレ・イ・アト・コテ・イ・オイ・イアナ」、IA-NERE-I-ATO-KOTE-I-OI-IANA(ia=indeed;nere=foiled,disappointed;i=past tense;ato=enclose in a fence;kote=squeeze out,crush;oi=shout,shudder,move continuously,agitate:iana=then)、「実に・失望した・(桑名の土地を)囲い込んで・(年貢を)絞り・取った・次は(どこから取るのか)と・叫ん・だ」(「イア・ネレ」が「ヤンレ」となつた)

  「イ・オイ・トナ・アレ・ワ・アリア・リア(ン)ガ・リア(ン)ガ」、I-OI-TONA-ARE-WA-ARIA-RIANGA-RIANGA(i=past tense;oi=shout,shudder,move continuously,agitate:tona=his,hers,its;are=what!,open;wa=definite space;aria=deep water between two shoals,open space among rocks;rianga=screen)、「叫ん・だ・自分の(領地は)・開けた(何もない)・場所だ・(深い水)川や海が・(年貢を取る)障害だ・障害だ」(「アリア」が「アリャ」と、「リア(ン)ガ」のNG音がN音に変化して「リアナ」から「リャン」となった)

  「イ・オイ・トコ・イ・オイ・トコ・ナ」、I-OI-TOKO-I-OI-TOKO-NA(i=past tense;oi=shout,shudder,move continuously,agitate:toko=pole,push or force to a distance,begin to move,swell,increase in bulk;na=to indicate position near or connection with the person addressed)、「(広い)領地へ替えてくれと・叫ん・だ・(広い)領地へ替えてくれと・叫ん・だ・とさ」

の転訛と解します。

233尾鷲節(おわせぶし)・ヤサホーラエー ヤサホーラエー・ヨーイソレ・ノンノーコ サーイサイ

 北牟婁郡の南部、熊野灘に臨む尾鷲港に古くから伝わる踊唄です。

 本唄の歌詞には、
 (合唱)♪ヤサホーラエー ヤサホーラエー
 (独唱)♪尾鷲よいとこ 朝日を受けてヨーイソレ 浦で五丈の網を引くノンノーコ サーイサイ
 (合唱)♪ヤサホーラエー ヤサホーラエー
とあります。

 この「ヤサホーラエー ヤサホーラエー」、「ヨーイソレ」、「ノンノーコ サーイサイ」は、

  「イア・タホラ・エ・イア・タホラ・エ」、IA-TAHORA-E(ia=indeed;tahora=gather fruit off a tree etc.;e=calling attention or expressing surprise)、「ちゃんと・(網にかかった)魚を集めろ・注意しろ・ちゃんと・(網にかかった)魚を集めろ・注意しろ」(「タホラ」が「サホラ」となった)

  「イ・オイ・トレヘ」、I-OI-TOREHE(i=past tense;oi=shout,shudder,move continuously,agitate:torehe=fishing net)、「網を・引き・上げた」(「トレヘ」のH音が脱落して「トレ」から「ソレ」となった)

  「ノノコ・タイタイ」、NONOKO-TAITAI(noko,nonoko=stern of a canoe;taitai=dash,strike,knock,brush)、「(浜へ引き揚げる船の)艫(船尾)を・押せや押せ」(「ノノコ」が「ノンノコ」となった)または「ノノホ・コタイタイ」、NONOHO-KOTAITAI(nonoho=remain;kotaitai=brackish,unpleasant to the taste)、「(網に)塩気が・残るぞ(よく水を切れ!)」(「ノノホ」のH音が脱落して「ノノ」から「ノンノ」となった)

の転訛と解します。

234伊勢道中唄(いせどうちゅううた)・ホンマカヤー・トーコセーエ・エヨーイヤナー・アーリャリャリャー・アコレワイセー・ソーリャヨーイトセー・ハァヨイナー・ヨーイ・ハァヨーイセー トーコセー・ハア・ソレ・ヨーイ コレサーヨ

 伊勢神宮に参詣する道中唄として古くから唄われたものです。歌詞は、かつて発瀬街道を通る参宮客を呼んだ女の唄である宿引唄に酷似します。

 歌詞には、
 (合唱)♪ホンマカヤー トーコセーエ エヨーイヤナー アーリャリャリャー アコレワイセー ソーリャヨーイトセー
 (独唱)♪ハア ヨイナー 明日はお立ちか(ヨーイ ヨーイ)お名残惜しや(ハア ヨーイセー トーコセー)ハア 六軒茶屋まで送りましょ(ソレ)六軒茶屋の曲所(まがりと)で(ソレ)紅葉のような手をついて(ソレ)糸より細い声を出し(ソレ)皆さん左様なら御機嫌よろしゅうお静かに(ソレ)また来春も来ておくれ(ソレ)来春来るやら来ないやら(ソレ)姐さん居るやら居ないやら(ソレ)これが別れの杯と(ソレ)思えば涙が先に立つ 雨のナー十日もヨーイ コレサーヨ降ればよい
 (合唱)♪ホンマカヤー トーコセーエ エヨーイヤナー アーリャリャリャー アコレワイセー ソーリャヨーイトセー
とあります。

 この「ホンマカヤー」、「トーコセーエ」、「エヨーイヤナー」、「アーリャリャリャー」、「アコレワイセー」、「ソーリャヨーイトセー」、「ハァヨイナー」、「ヨーイ」、「ハァヨーイセー トーコセー」、「ハア」、「ソレ」、「ヨーイ コレサーヨ」は、

  「ホネ・マ・カイア」、HONE-MA-KAIA(hone=plunder,acquire wrongfully;ma=for,by;kaia=steal,thief)、「悪い奴(泥棒)・に・(大事な物を)盗まれるよ」(「ホネ」が「ホン」と、「カイア」が「カヤ」となつた)

  「ト・コテ・エ」、TO-KOTE-E(to=drag;kote=squeeze out,crush;e=calling attention or expressing surprise)、「根こそぎ・取られるよ・注意しな」

  「エ・イ・オイ・イアナ」、E-I-OI-IANA(e=calling attention or expressing surprise;i=past tense;oi=shout,shudder,move continuously,agitate:iana=then)、「それから・注意しなと・叫ん・だ」

  「アリア・リア・リア」、ARIA-RIA-RIA(aria=deep water between two shoals,open space among rocks;ria=screening,protecting)、「(深い水)川や海が・守ってくれる・(泥棒には)障害だ」

  「ア・コレ・ワイテテ」、A-KORE-WAITETE(a=the...of,and:kore=not,no;waitete=quarrel)、「それから・喧嘩は・してはいけない」(「ワイテテ」の反復語尾が脱落して「ワイテ」から「ワイセ」となった)

  「ト・リア・イ・オイ・タウテ」、TO-RIA-I-OI-TAUTE(to=drag;ria=screening,protecting;i=past tense;oi=shout,shudder,move continuously,agitate:taute=mature,tend,look after)、「(泥棒から)守る・ために・面倒をみると・叫ん・だ」(「タウテ」のAU音がO音に変化して「トテ」から「トセ」となった)

  「ハ・イ・オイ・ナ」、HA-I-OI-NA(ha=what!;=past tense;oi=shout,shudder,move continuously,agitate:na=satisfied,content)、「なんと・大丈夫よと・叫ん・だ」

  「イ・オイ」、I-OI(i=past tense;oi=shout,shudder,move continuously,agitate)、「叫ん・だ」

  「ハ・イ・オイ・タイ・トコ・タイ」、HA-I-OI-TAI-TOKO-TAI(ha=what!;i=past tense;oi=shout,shudder,move continuously,agitate:tai=dash,strike,knock;toko=begin to move,swell,belch)、「なんと・勢いよく・叫け・び・(心の内を)吐き・出した」(「タイ」のAI音がE音に変化して「テ」から「セ」となった)

  「ハ」、HA(what!,then,so)、「そして」

  「トレ」、TORE(cut,split,quick)、「(ここで歌詞を)切る(息をつく)」

  「イ・オイ・コレ・タイオ」、I-OI-KORE-TAIO(i=past tense;oi=shout,shudder,move continuously,agitate:kore=not,no;taio=lock of hair,single hair)、「(形見の)髪は・だめ(上げられない)と・叫ん・だ」(「タイオ」が「タヨ」から「サヨ」となつた)

の転訛と解します。

235伊勢音頭(いせおんど)・ナーア・ヤンレ・ヤッコラヤートコセー・ヨイヤナ・アリャリャ・コレワイナ・コノヨイトコセー

 伊勢音頭は、伊勢神宮を中心とする伊勢地方に唄われた歌謡類の総称です。とくに古市や川崎の妓楼で、遊女の客寄せに演じた音頭が有名です。

 歌詞には、
 ♪伊勢はナーアー津でもつ 津は伊勢でもつ 尾張名古屋はヤンレ城でもつ ヤッコラヤートコセー ヨイヤナ アリャリャ コレワイナ コノヨイトコセー
とあります。

 この「ナーア」、「ヤンレ」、「ヤッコラヤートコセー」、「ヨイヤナ」、「アリャリャ」、「コレワイナ」、「コノヨイトコセー」は、

  「ナ」、NA(to call attention or to introduce some new element or emphatic statement)、「なあ」

  「イア・ネレ」、IA-NERE(ia=indeed;nere=foiled,disappointed)、「実に・失望した」(「イア・ネレ」が「ヤンレ」となつた)

  「イア・コラ・イア・トコ・タイ」、IA-KORA-IA-TOKO-TAI(ia=indeed;kora=yonder ,that place at a distance;toko=pole,push or force to a distance,begin to move,swell,belch;tai=dash,strike,knock)、「実に・遠くて・はるかかなたに・(押しやられた)離れた(土地だ)」(「タイ」のAI音がE音に変化して「テ」から「セ」となった)

  「イ・オイ・イアナ」、I-OI-IANA(i=past tense;oi=shout,shudder,move continuously,agitate:iana=then)、「それから・と叫ん・だ」

  「アリア・リア」、ARIA-RIA(aria=deep water between two shoals,open space among rocks;ria=screening,protecting)、「(深い水)川や海が・(交通の)障害だ」

  「コレ・ワイ・ナ」、KORE-WAI-NA(kore=not,no;wai=water;na=to call attention or to introduce some new element or emphatic statement)、「(伊勢には)水(大きい川)が・ない・よ」

  「コナウ・イ・オイ・トコ・タイ」、KONAU-I-OI-TOKO-TAI(konau=yearn for,desire;i=past tense;oi=shout,shudder,move continuously,agitate:toko=pole,push or force to a distance,begin to move,swell,belch;tai=dash,strike,knock)、「(伊勢は)はるかかなたに・(押しやられた)離れた(土地だ)と・叫び・たい」(「コナウ」のAU音がO音に変化して「コノ」と、「タイ」のAI音がE音に変化して「テ」から「セ」となった)

の転訛と解します。

[滋賀県]

241琵琶湖網引唄(びわこあみひきうた)・アラ ドッコイショ・アラ ヨイヨイヨイ

 旧滋賀郡小松村(現大津市)を中心とする琵琶湖西岸の俗に近江舞子と呼ばれる景勝地一帯に行われる地引き網唄です。特に轆轤を用いて網を引くときに唄われます。

 歌詞には、
 ♪比良や小松の 磯浜がよい(アラ ドッコイショ)裾がぬれます 打つ浪で(アラ ヨイヨイヨイ)
とあります。

 この「アラ ドッコイショ」、「アラ ヨイヨイヨイ」は、

  「アラ・ト・コイ・チオ」、ARA-TO-KOI-TIO(ara=expressing surprise etc.,and then;to=drag;koi=move about,good,suitable;tio=cry,call)、「さあ・いい・唄を・唄ってよ」

  「アラ・イ・オイ・イ・オイ・イ・オイ」、ARA-I-OI-I-IO-I-OI(ara=expressing surprise etc.,and then;i=past tense;oi=shout,shudder,move continuously,agitate)、「さあ・(動け)網を巻け・や・網を巻け・や・網を巻け・や」

の転訛と解します。

242江州音頭(ごうしゅうおんど)・ヤ コリャドッコイセ・ホラ・エー・ハ キタショ・アー・ヨイヤセ・コラ ヨイトヨイヤマカ ドッコイサノセ・ヨ・エイヤー・ハーイ・オオ・ヤーイ・アー デレレン デレレン デレレン

 江州八日市祭文音頭ともいい、旧蒲生郡八日市市(現東近江市)を中心として近県にも行われている盆踊り唄です。幕末のころ、山伏の貝祭文からこの唄が生まれたといいます。

 古調の歌詞には、
 ♪ヤ コリャドッコイセ(ホラ シッカリセ)エー皆様頼みます(ハ キタショ)アーこれからは ヨイヤセの 掛け声頼みます(コラ ヨイトヨイヤマカ ドッコイサノセ)
  アーさては此の場の皆様へ(ア ドシタイ)伺いまする演題は(ヨ)派手なコレ引き舟 淀川花火 関取千両幟の抜き読みで(ヨ)茲に芸者の松吉が(ヨ)留関病気を治さんと(ヨ)松吉貞女のチョイトお粗末はエイヤー(ヨ)これじゃからとて(ソコダ)(ハーイ)皆様よ 事や細かに(ハーイ)わたしゃ訥弁で程よく読めねどオオもオオ これから(ヤーイ)読み上げ奉る アー デレレン デレレン デレレン
とあります。

 この「ヤ コリャドッコイセ」、「ホラ」、「エー」、「ハ キタショ」、「アー」、「ヨイヤセ」、「コラ ヨイトヨイヤマカ ドッコイサノセ」、「ヨ」、「エイヤー」、「ハーイ」、「オオ」、「ヤーイ」、「アー デレレン デレレン デレレン」は、

  「イア・コリ・イア・ト・コイ・テ」、IA-KORI-IA-TO-KOI-TE(ia=indeed,that;kori=move wriggle,bestir oneself;to=drag;koi=move about,good,suitable;te=crack,emit a sharp explosive sound)、「あの・ほんとに・(歌詞が)湧いてきて・いいぞ・と・高い声を出す」

  「ホラ」、HORA(scatter,spread out,display,go,escape)、「さあ進め」

  「エヘ」、EHE(expressing surprise)、「エー(突然ですが)」(H音が脱落して「エエ」となった)

  「ハ・キタ・チオ」、HA-KITA-TIO(ha=what!,then,so;kita=tightly,intensely;tio=cry,call)、「そして・短く・間の手を(入れてね)」

  「ア」、A(the...of,well,then)、「そして」

  「イ・オイ・イア・テ」、I-OI-IA-TE(i=past tense;oi=shout,shudder,move continuously,agitate;ia=indeed;te=crack,emit a sharp explosive sound)、「実に・高い声で・叫び声を・上げる」

  「コラ・イ・オイ・ト・イ・オイ・イア・マカ・ト・コイ・タ・ノ・テ」、KORA-I-OI-TO-I-OI-IA-MAKA-TO-KOI-TA-NO-TE(kora=yonder,that place at a distance;i=past tense;oi=shout,shudder,move continuously,agitate;to=drag;ia=indeed;maka=wild,active,throw,put;ta=dash,beat,lay;no=of;te=crack,emit a sharp explosive sound)、「遠い(近江の国で)・(叫び)唄っ・て・唄っ・て・ほんとに・元気よく・いい唄を・高い声で・披露する」

  「イホ」、IHO(denoting immediate sequence of events or ideas)、「それから(どうした)」(H音が脱落して「イオ」から「ヨ」となつた)

  「エヒ・イア」、EHI-IA(ehi=well!;ia=indeed)、「ほんとに・いいぞ」(「エヒ」のH音が脱落して「エイ」となつた)

  「ハイ」、HAI(=hei=go towards,turn tiwards)、「先へ(進め)」

  「オホ」、OHO(wake up,arise of feeling,begin speaking)、「(歌詞の)読み上げ」(H音が脱落して「オオ」となつた)

  「イア・イ」、IA-I(ia=that.every,each;i=wiyjout any special meaning at the end of a line or stanza of a song)、「あのな」

  「ア・テレ・レ(ン)ガ・テレ・レ(ン)ガ・テレ・レ(ン)ガ」、A-TERE-RENGA-TERE-RENGA-TERE-RENGA(a=the...of,drive,urge;tere=drift,float,moving quickly;renga=overflow,be full)、「さあ・(歌詞が)溢れて・流れる・溢れて・流れる・溢れて・流れる」(「レ(ン)ガ」のNG音がN音に変化して「レナ」から「レン」となった)

の転訛と解します。

[京都府]

251田植唄(たうえうた)・ソヨーノー

 山城から丹波・丹後地方一帯に行われる古調の田植唄です。

 歌詞には、
 ♪おもしろや 京には車 淀に船 ソヨーノー 淀に船 桂の川に 迎い船 ソヨーノー
とあります。

 この「ソヨーノー」は、

  「トイ・イホ・(ン)ゴ」、TOI-IHO-NGO(toi=move quickly,encourage;iho=denoting immediate sequence of events or ideas;ngo=cry,grunt)、「(田植の)手を休めず・に・唄おうよ」(「トイ」の語尾のI音と、「イホ」のH音が脱落して「イオ」となったその語頭のI音が連結して「トヨ」から「ソヨ」と、「(ン)ゴ」のNG音がN音に変化して「ノ」となった)

の転訛と解します。

252寒天屋唄(かんてんやうた)・トカラトカラ・ア ドッコイ コーリャ・ア ヤレショー コラショー・ノヤ・ヨー・ヤレヤレヤレショー・ハア コーリャコリャ・かく(寒天)・ハア コーリャ コリャコリャ・ヨーヤレ

 寒天唄、寒天節ともいい、亀岡市・北桑田・船井郡のいわゆる口丹波地方に行われる寒天製造の作業唄です。

 天草晒し唄の歌詞には、
 A♪トカラトカラと 踏む唐臼は
 B♪ア ドッコイ コーリャ
 A♪あれは寒天屋の草ざらし
 A・B♪ホンニソウカイナ 踏む唐臼は
 B♪ア ドッコイ コーリャ
 A・B♪あれは寒天屋の草ざらし

 天草地干し唄の歌詞には、
 A♪朝のかかりは めでたい唄を
 B♪ア ヤレショー コラショー
 A♪歌うて掛かろや ノヤ殿御ヨー
 B♪ホンニソウカイナーめでたい唄を
 A・B♪歌うて掛かろや ノヤ殿御ヨー

 天草棚干し唄の歌詞には、
 A♪冬は寒天 夏ところてん
 A・B♪ヤレヤレヤレショー
 A♪わしは貴方に有頂天ヨー
 A・B♪ホンニソウカイナ 夏ところてん
 B♪ヤレヤレヤレショー
 A・B♪わしは貴方に有頂天ヨー

 寒天絞り唄の歌詞には、
 A♪夜中起きしてヨー 圧し棒にもたれ
 B♪ハア コーリャコリャ
 A♪親の家での事思う
 A・B♪ホンニカワイソニヨー 圧し棒にもたれ
 B♪ア ナーイタ ナーイタ
 A・B♪親の家での事思う

 寒天裏返し唄の歌詞には、
 A♪かくの返しは 寄らんよにゃ返せ
 B♪ハア コーリャ コリャコリャ
 A♪かくは歩でない数でゆく
 B♪ハア コーリャ コリャコリャ
 A♪ホンニカワイソナヤー 寄らんよにゃ返せ
 A・B♪ホンニカワイソニヨー 圧し棒にもたれ
 B♪ハア コーリャ コリャコリャ
 A♪かくは歩でない ヨーヤレ数でゆく
 B♪ハア コーリャ コリャコリャ

とあります。上記の「かく」は方言で「寒天」の意です。

 この「トカラトカラ」、「ア ドッコイ コーリャ」、「ア ヤレショー コラショー」、「ノヤ」、「ヨー」、「ヤレヤレヤレショー」、「ハア コーリャコリャ」、「かく」、「ハア コーリャ コリャコリャ」、「ヨーヤレ」は、

  「トカラ・トカラ」、TOKARA-TOKARA(tokara,whakatokara=make a clicking sound with the tongue)、「トントン(というような擬音語)」

  「ア・ト・コイ・コリ・イア」、A-TO-KOI-KORI-IA(a=the...of,belonging to,yes,well;to=drag;koi=move about,good,suitable;kori=move wriggle,bestir oneself;ia=indeed)、「そうだ・いい・ことに・歌詞が・実に・(心の底から)湧いてきた」

  「ア・イア・レイ・チオ・コリ・イア・チオ」、A-IA-REI-TIO-KORI-IA-TIO(a=the...of,belonging to,yes,well;ia=indeed;rei=leap,rush,run;tio=cry,call;kori=move wriggle,bestir oneself)、「全く・ほんとに・走って・唄うよ・ほんとに・(心の底から)湧いた・(唄を)唄うよ」

  「ノイア」、NOIA(=noi=elevated,on high,erected)、「(身分の高い)いい(殿御)」

  「イホ」、IHO(up above,to intensify adverbs)、「(強調語。身分の高い殿御)さんよ」(「イホ」のH音が脱落して「イオ」から「ヨ」となった)

  「イア・レイ・イア・レイ・イア・レイ・チオ」、IA-REI-IA-REI-IA-REI-TIO(ia=indeed;rei=leap,rush,run;tio=cry,call)、「ほんとに・走って・走って・走って・唄うよ」

  「ハ・コリ・イア・コリ・イア」、HA-KORI-IA-KORI-IA(ha=whay!;kori=move wriggle,bestir oneself;ia=indeed)、「なんと・ほんとに・(唄が心の底から)湧いてきた・湧いてきた」

  「カク」、KAKU(scrape up,scoop up)、「(寒天の乾燥を早めるために)ひっくり返す(作業。その対象物。寒天)」

  「ハ・コリ・イア・コリ・イア・コリ・イア」、HA-KORI-IA-KORI-IA-KORI-IA(ha=whay!;kori=move wriggle,bestir oneself;ia=indeed)、「なんと・ほんとに・(唄が心の底から)湧いてきた・湧いてきた・湧いてきた」

  「イホ・イア・レイ」、IHO-IA-REI(iho=denoting immediate sequence of events or ideas;ia=indeed;rei=leap,rush,run)、「休まずに・走りに・走れ」(「イホ」のH音が脱落して「イオ」から「ヨ」となった)

の転訛と解します。

253宮津節(みやづぶし)・ピン

 山陰地方の屈指の良港、宮津港(宮津市)に古くから唄われた唄で、一説に遠州浜松から国替えになった松平伯耆守が盆踊として流行らせたともいいます。

 歌詞には、
 ♪二度とゆくまい 丹後の宮津 縞の財布が空になる
 (囃子)丹後の宮津でピンと出した
とあります。
 この「ピンと出した」とは、昔天橋立文殊寺の境内で開帳された天下御免の賭場や、宮津の新浜遊郭で財布の底をはたいて「すっからピン」になった遊客の嘆声とも、幕末の慶応2年、長州事件の際に、藩主本荘氏が長州の軍使、家老宍戸備後守を釈放した美挙を激賞した(「丹後の宮津が備後出した」)ともいわれます。

 この「ピン」は、

  「ピネ」、PINE(close together,compressed(pinepine=little))、「(財布が圧縮されて)小さくなった」(「ピネ」が「ピン」となった)

の転訛と解します。

254福知山音頭(ふくちやまおんど)・チョイ チョイ・ドッコイセ ドッコイセ・チョイチョイノ チョイノチョイノセ・トコドッコイ ドッコイ ドッコイセ

 丹波の中心地、福知山地方の盆踊唄です。元唄は、天正3年以来丹波を領した明智光秀を偲んだものといいます。

 歌詞には、
 ♪福知山出て 長田野越えて(チョイ チョイ)駒を早めて 亀山へ(ドッコイセドッコイセ チョイチョイノ チョイノチョイノセ トコドッコイ ドッコイ ドッコイセ)
とあります。

 この「チョイ チョイ」、「ドッコイセ ドッコイセ」、「チョイチョイノ チョイノチョイノセ」、「トコドッコイ ドッコイ ドッコイセ」は、

  「チオイ・チオイ」、TIOI-TIOI(tioi=shake,sway from side to side)、「(福知山城から亀山城へ使が)行ったり・来たり」

  「ト・コイ・タイ・ト・コイ・タイ」、TO-KOI-TAI-TO-KOI-TAI(to=drag;koi=move about,good,suitable;tai=anger,rage)、「いい・ね・勇ましいね・いい・ね・勇ましいね」(「タイ」のAI音がE音に変化して「テ」から「セ」となった)

  「チオイ・チオイ・ノ・チオイ・ノ・チオイ・ノ・タイ」、TIOI-TIOI-NO-TIOI-NO-TIOI-NO-TAI(tioi=shake,sway from side to side;no=of;tai=anger,rage)、「行ったり・来たり・で・行ったり・来たり・で・勇ましいね」(「タイ」のAI音がE音に変化して「テ」から「セ」となった)

  「トコ・ト・コイ・ト・コイ・ト・コイ・タイ」、TOKO-TO-KOI-TAI(toko=begin to move,swell,belch;to=drag;koi=koi=move about,good,suitabl;tai=anger,rage)、「さあさあ始まる・いい・ね・いい・ね・いい・ね・勇ましいね」(「タイ」のAI音がE音に変化して「テ」から「セ」となった)

の転訛と解します。

[大阪府]

261三十石船舟唄(さんじゅっこくぶねふなうた)・ヤレー・ナ・エ・ヤレサ ヨーイヨーイ

 淀川舟唄、食らわんか船道中舟唄ともいい、淀川河畔の高槻・枚方地方に遺存する古い民謡で、江戸時代に京の伏見と大阪の八軒屋を結んで往来した三十石船の舟唄です。

 歌詞には、
 ♪ヤレー 伏見下ればナ 淀とはいやだエ いやな小橋をナ 艫下げにエ ヤレサ ヨーイヨイ
とあります。

 この「ヤレー」、「ナ」、「エ」、「ヤレサ ヨーイヨーイ」は、

  「イア・レイ」、IA-REI(ia=indeed;rei=leap,rush,run)、「(船が)よく・走る」

  「ナ」、NA(to indicates position near or connection with the person addressed)、「なあ」

  「エ」、E(calling attention or expressing surprise)、「なんと」または「注意して」

  「イア・レイ・タ・イ・オイ・イ・オイ」、IA-REI-TA-I-OI-I-OI(ia=indeed;rei=leap,rush,run;ta=dash,beat,lay;i=past tense;oi=shout,shudder,move continuously,agitate)、「(船が)よく・走る・伝わるよ・震える・震える」

の転訛と解します。

[兵庫県]

271網干音頭(あぼしおんど)・サアサ・ヤレコラマカセノ ヨイヤマカサイサイ・チョイトチョイト チョイトチョイト

 播磨の各地に行われる「播州音頭」の一で、姫路市網干町の荒神祭や夏祭、盆踊に踊られるものです。

 歌詞には、
 (音頭)♪サアサこれから音頭の初め 音頭とるから踊子よ頼む
 (踊子)♪ヤレコラマカセノ ヨイヤマカサイサイ
 (音頭)♪網干垣内の長太郎さんは
 (踊子)♪チョイトチョイト チョイトチョイト
 (音頭)♪馬に乗ろとて馬から落ちて 竹の切株てのひら突いて
 (踊子)♪ヤレコラマカセノ ヨイヤマカサイサイ
とあります。
 この「長太郎」は、徳川家光の落胤と伝えられる浪人で、後庄屋となり、村人から神のように慕われていましたが、ある日落馬して掌を竹で突き、それが原因で死に、以来その祟りで竹藪を持つ家が次々に没落したという伝説があります。「現在網干町には竹藪を持つ家は一軒も無いという(岩波版)」ことです。

 この「サアサ」、「ヤレコラマカセノ ヨイヤマカサイサイ」、「チョイトチョイト チョイトチョイト」は、

  「タタ」、TATA(near,suddenly)、「突然ですが」

  「イア・レイ・コラ・マカ・タイ・ノ・イ・オイ・イア・マカ・タイタイ」、IA-REI-KORA-MAKA-TAI-NO-I-OI-IA-MAKA-TAITAI(ia=indeed;rei=leap,rush,run;kora=yonder,that place at a distance;maka=wild,active,throw,put;tai=anger,rage;no=of;i=past tense;oi=shout,shudder,move continuously,agitate;taitai=dash,strike,knock,tide)、「(馬に乗って)なんと・走った・あの遠い場所を・至極・乱暴に・全く・乱暴に・突進したとさ」

  「チオ・イト・チオ・イト・チオ・イト・チオ・イト」、TIO-ITO-TIO-ITO-TIO-ITO-TIO-ITO(tio=cry,call;ito=object of revenge,enemy)、「(不運を嘆いて)呪(のろい)の言葉を・口走った・呪(のろい)を・かけた・呪(のろい)を・かけた・呪(のろい)を・かけた」

の転訛と解します。

272デカンショ節・ア ヨイヨイ・ア ヨーイ ヨーイ デッカンショ

 篠山デカンショ節ともいい、青山氏六万石の城下町、丹波篠山(現丹波市)に古くから行われた民謡です。

 歌詞には、
 ♪丹波篠山 山家の猿が(ア ヨイヨイ) 花のお江戸で 芝居する(ヨーイ ヨーイ デッカンショ)
とあります。
 この「デカンショ」は、「天下将」、「徹今宵」、篠山方言の「デゴザンショ」または「てこんしょ」、丹波杜氏の「出稼ぎしょ」、「デカルト・カント・ショーペンハウエルの略」などの説がありますが、未詳です。

 この「ア ヨイヨイ」、「ヨーイ ヨーイ デッカンショ」は、

  「ア・イ・オイ・イ・オイ」、A-I-OI-I-OI(a=the...of,belonging to,well,then;i=past tense;oi=shout,shudder,move continuously,agitate)、「ほんとに・がんばっ・た・がんばっ・た」

  「イ・オイ・イ・オイ・タイカ・ア(ン)ガ・チオ」、I-OI-I-OI-TAIKA-ANGA-TIO(i=past tense;oi=shout,shudder,move continuously,agitate;taika=lie in a heap;anga=driving force,forcr driven etc.,turn to doing anything;tio=cry,call)、「がんばっ・た・がんばっ・た・(花のお江戸の)檜舞台で・力を込めて・声を張り上げた」(「タイカ」のAI音がE音に変化して「テカ」と、「ア(ン)ガ」のNG音がN音に変化して「アナ」から「アン」となり、2語が連結して「テカン」から「デカン」となった)

の転訛と解します。

[奈良県]

281素麺掛唄(そうめんかけうた)・オーオイナショ オイナショ

 三輪素麺の産地の旧磯城郡三輪町馬場先地方(現櫻井市)の作業唄です。

 歌詞には、
 ♪初瀬は照る照る 黒崎は曇る 三輪の馬場先は 雨が降る オーオイナショ オイナショ
とあります。

 この「オーオイナショ オイナショ」は、

  「オホ・オイ・ナ・チオ・オイ・ナ・チオ」、OHO-OI-NA-TIO-OI-NA-TIO(oho=wake up,arise of feeling,begin speaking;oi=shout,shudder,move continuously,agitate;na=satisfied,content,by;tio=cry,call)、「立ち上がって・唄い・ながら・(素麺掛けの)作業をしょうよ・唄い・ながら・作業をしょうよ」

の転訛と解します。

282鎌倉節(かまくらぶし)・アーヨイサヨイサ・エーニナンヨエ

 北山川が流れる吉野郡上北山村・下北山村にふるくから唄われる民謡です。

 歌詞には、
 ♪鎌倉殿は よい男 白木に鉋を かけたよな 色の白さよ 絵になんよ アーヨイサヨイサ
 ♪お江戸で妻は 持たねども お江戸から 吹き来る風の なつかしさ エーニナンヨエ アーヨイサヨイサ
とあります。
 この「鎌倉殿」は、源義経を指すとする説、または鎌倉武士を指すとする説があります。

 この「アーヨイサヨイサ」、「エーニナンヨエ」は、

  「ア・イ・オイ・タ・イ・オイ・タ」、A-I-OI-TA-I-OI-TA(a=the...of,belonging to;i=past tense;oi=shout,shudder,move continuously,agitate;ta=dash,beat,lay)、「全く・(江戸から吹く風が)吹き・付け・当たる・吹き・付け・当たるよ」

  「エ(ン)ギア・ナナ・イ・オイ・エ」、ENGIA-NGANGA-I-OI-E(engia=expressing assent;nana=tend carefully,nurse;i=past tense;oi=shout,shudder,move continuously,agitate;e=calling attention or expressing surprise)、「ほんとうに・(江戸から吹く風は)やさしく・吹き・附ける・よ」(「エ(ン)ギア」のNG音がN音に変化して「エニア」から「エニ」と、「ナナ」が「ナン」と、「イ・オイ・エ」が「ヨヱ」となった)

の転訛と解します。

283坂本踊(さかもとおどり)・ヤ ナンチキドッコイ ナンチキドッコイ

 ナンチキドッコイ節ともいい、旧吉野郡大塔村阪本(現五條市)に伝わる唄です。 

 歌詞には、
 ♪ヤ ナンチキドッコイ ナンチキドッコイ 大和坂本一度はござれ 高野大峰 あの中の宿 ヤ ナンチキドッコイ ナンチキドッコイ
とあります。

 この「ヤ ナンチキドッコイ ナンチキドッコイ」は、

  「イア・(ン)ガ(ン)ガ・チキ・ト・コイ」、IA-NGANGA-TIKI-TO-KOI(ia=indeed;nganga=breathe heavily or difficulty;tiki=fetch,proceed to do anything;to=drag;koi=move about,good,suitable)、「ほんとうに・息を切らしながら・道を登って・よく・やって来たよ」(「(ン)ガ(ン)ガ」のNG音がN音に変化して「ナナ」カラ「ナン」となった)

の転訛と解します。

[和歌山県]

291蜜柑取唄(みかんとりうた)・エー・ヨーイ・エイヨーエ・エーヨーイナー・オーリャオーリャ・アーエ・ヨーイエーイヤーエ・ヨーエ・アリャヨーエー

 旧有田郡保田村(現有田市)およびその周辺の蜜柑採り唄です。

 歌詞には、
 ♪エー沖の暗いに(ヨーイ)エイヨーエ白帆がヨー(エーヨーイナー)エー見え(オーリャオーリャ)アーエ るエー(ヨーイエーイヤーエ)オーリャオーリャ(あれは紀の)エー国ヨーエ(アリャヨーエー み)オーリャオーリャ(かーん)エーヨーイナー(ぶねヨー)
とあります。

 この「エー」、「ヨーイ」、「エイヨーエ」、「エーヨーイナー」、「オーリャオーリャ」、「アーエ」、「ヨーイエーイヤーエ」、「ヨーエ」、「アリャヨーエー」は、

  「エ」、E(calling attention or expressing surprise)、「ほら(見てご覧)」

  「イ・オイ」、I-OI(i=past tense;oi=shout,shudder,move continuously,agitate)、「動くものが・ある」

  「エ・イホ・エ」、E-IHO-E(e=calling attention or expressing surprise;iho=up,above,from above)、「ほら・上へ下へ・と(動いている)」(「イホ」のH音が脱落して「イオ」から「ヨ」となった)

  「エ・イ・オイ・ナ」、E-I-OI-NA(e=calling attention or expressing surprise;i=past tense;oi=shout,shudder,move continuously,agitate;na=na=to call attention or to introduce some new element or emphatic statement)、「ほら・(白帆が)動いて・いる・よな」

  「オホ・リア・オホ・リア」、OHO-RIA-OHO-RIA(oho=wake up,arise of feeling,begin speaking;ria=screening,protecting)、「波(障害)が・持ち上がる・持ち上がる(白帆が見えなくなる)」(「オホ」のH音が脱落して「オオ」となった)

  「アエ」、AE(yes,assent,agree)、「そうだ(ほんとうだ)」

  「イ・オイ・アエ・イア・アエ」、I-OI-AE-IA-AE(i=past tense;oi=shout,shudder,move continuously,agitate;ae=yes,assent,agree;ia=indeed)、「ほんとに・動いて・いる・ほんとに・そうだ」(最初の「アエ」のAE音がE音に変化して「エ」となつた)

  「イ・アウエ」、I-AUE(i=past tense;aue=expressing astonishment or distress)、「びっくり・した」(「アウエ」のAU音がO音に変化して「オエ」となった)

  「アリア・イ・オホ・エ」、ARIA-I-OHO-E(aria=appear,be seen indistinctly;i=past tense;oho=wake up,arise of feeling,begin speaking;e=calling attention or expressing surprise)、「かすかに見える・(白帆が波の上に)持ち上がっ・た・ほらね」(「オホ」のH音が脱落して「オオ」となった)

の転訛と解します。

292串本節(くしもとぶし)・アラ ヨイショヨーイショ ヨイショヨーイショ ヨーイショ・ハ オチャヤレ オチャヤレ・しょら(恋人)

 本州の最南端、潮岬がある西牟婁郡串本町に唄われる酒宴歌で、幕末のころ門付け芸人が伝えたオチャヤレ節(エジャナイカ節)が郷土民謡化したものとされます。

 歌詞には、
 ♪わたしゃ串本 両浜育ち 色の黒いは 御免なれ ・アラ ヨイショヨーイショ ヨイショヨーイショ ヨーイショ(ハ オチャヤレ オチャヤレ)
とあります。
 歌詞の中には、「わしのしょらさん 岬の沖で 浪に揺られて 鰹釣る」があり、この「しょら」は方言で恋人の意とされます。

 この「アラ ヨイショヨーイショ ヨイショヨーイショ ヨーイショ」、「ハ オチャヤレ オチャヤレ」、「しょら」は、

  「アラ・イ・オイ・チオ・イ・オイ・チオ・イ・オイ・チオ・イ・オイ・チオ・イ・オイ・チオ」、ARA-I-OI-TIO-I-OI-TIO-I-OI-TIO-I-OI-TIO-I-Oi-TIO(ara=and,then,expressing surprise etc.;i=past tense;oi=shout,shudder,move continuously,agitate;tio=cry,call)、「そして・声を張り上げて・唄う・声を張り上げて・唄う・声を張り上げて・唄う・声を張り上げて・唄う・声を張り上げて・唄う」

  「ハ・オチ・イア・レイ・オチ・イア・レイ」、HA-OTI-IA-REI-OTI-IA-REI(ha=what!,then,so;oti=finished,then;ia=indeed;rei=rei=leap,rush,run)、「そして・はね回るのは・もう・やめなさい・はね回るのは・もう・やめなさい」

  「チオラ」、TIORA(split,marauding party)、「(女を)略奪する(男。転じて情人。恋人)」

の転訛と解します。

293新宮節(しんぐうぶし)・セノヨイヤサノセ・エッサ エッサ ヤレコノセ ヒーヤーリ ハリハリセ

 熊野三山の一、熊野速玉大社や火祭りで知られる神倉神社がある新宮氏に伝わる民謡です。

 歌詞には、
 ♪新宮よいとこ 十二社さまの(セノヨイヤサノセ)神のましますよいところ(エッサ エッサ ヤレコノセ ヒーヤーリ ハリハリセ)
とあります。

 この「セノヨイヤサノセ」、「エッサ エッサ ヤレコノセ ヒーヤーリ ハリハリセ」は、

  「テ・ノ・イ・オイ・イア・タノア・テ」、TE-NO-I-OI-IA-TA-NO-TE(te=not;no=of;i=past tense;oi=shout,shudder,move continuously,agitate;ia=indeed;tanoa=belittle,make of no account)、「してはいけない・のは・唄を・唄って・ほんとに・(神様を)汚しては・いけない」(「タノア」の語尾のA音が脱落して「タノ」から「サノ」となった)

  「エ・タ・エ・タ・イア・レコ・ノ・テ・ヒ・イア・リ・ハリハリタエ」、E-TA-E-TA-IA-REKO-NO-TE-HI-IA-RI-HARIHARITAE(e=article before verbs or adjectives to denote action or progressta=dash,beat,lay;ia=indeed;reko=white of hair etc.(whakareko=treat with contempt);no=of;te=not;hi=rise,raise;ri=screen,protect,shut out with a screen;hariharitae=gibe,vilify,hold in contempt)、「(神様は)ちゃんと・いらっしゃる・ちゃんと・いらっしゃる・ほんとに・(神様を)大事にしない・と・いけない・(神様を)奉って・冒涜から・守らなければいけない」(「ハリハリタエ」のAE音がE音に変化して「ハリハリテ」から「ハリハリセ」となった)

の転訛と解します。

294紀州子守唄(きしゅうこもりうた)・あぜら(お前ら)・ナー定(じょう)

 東牟婁郡那智勝浦町下里付近で唄われている子守唄です。

 歌詞には、
 ♪あぜら行かんか お寺の背戸になよ 小梅小桜の枝折りに それはナー定かいな
 ♪旦那よう聞け 奥様よう聞けなよ 守にきつけりゃ 子にあたる それはナー定かいな
とあります。
 この「あぜら」は方言で「お前ら」の意、「ナー定かいな」は「ナー 情かいな」の意、また「ほんまかいな」の意とする説がありますが、不詳です。

 この「あぜら」、「なーじょう」は、

  「ア・テラ」、A-TERA(a=the...of,belonging to;tera=that,he,she)、「彼(彼女)たち(転じて「お前たち」の意)」

  「ナチ・アウ」、NATI-AU(nati=pinch or contract,restrain,stifle;au=firm,intense)、「(年季奉公で)固く・縛られている身の上(という状況)」(「アウ」のAU音がOU音に変化して「オウ」となり、「ナチ」と連結して「ナチョウ」から「ナジョウ」となつた)

の転訛と解します。

[中国・四国地方]

[鳥取県]

301追掛節(おいかけぶし)・まと

 牛追掛節ともいい、東伯郡・西伯郡および出雲・石見・備中等に広く分布する牛追唄で、伯耆の大川寺、銅鳥居付近の牛馬市に売買する牛馬を運搬する道中唄です。

 歌詞には、
 ♪今日此方に納まる牛は 角顔ようて気がまとで 所は寺領のたたら戸で 五歳のときまで育て上げ ……
とあります。
 この「追掛」は、「追い掛け」または「笈掛」の意、「まと」は、「円(まどか)」または「まとも」の意かとされます。

 この「おいかけ」、「まと」は、

  「オヒ・カケ」、OHI-KAKE(ohi=grow,be vogorous;kake=ascend,climb upon,be superior to)、「(牛を)元気に・立派に育て上げた(ことを誇り語る唄)」(「オヒ」のH音が脱落して「オイ」となった)

  「マト」、MATO(=matomato=deep.growing vigorously,of pleasing appearance)、「(人に)なつっこい(気質。性質)」

の転訛と解します。

302貝殻節(かいがらぶし)・貝殻漕(かいがらこ)ぎ・カワイヤノー・ヤサホーエーヤ・ホーエヤエーエ・ヨイヤサノサッサ・ヤンサノエーエ

 浜村音頭ともいい、旧気高郡浜村町浜村温泉(現鳥取市)の唄で、かつてこの海岸一帯に帆立貝が繁殖したとき、採取に当たった漁師が手こぎの櫓にあわせて唄った作業唄です。

 歌詞には、
 ♪何の因果で 貝殻漕ぎなろた カワイヤノー カワイヤノー 色は黒うなる 身は痩せる ヤサホーエーヤ ホーエヤエーエ ヨイヤサノサッサ ヤンサノエーエ ヨイヤサノサッサ
とあります。

 この「かいがらこぎ」、「カワイヤノー」、「ヤサホーエーヤ」、「ホーエヤエーエ」、「ヨイヤサノサッサ」、「ヤンサノエーエ」は、

  「カイ・(ン)ガラ・コキ」、KAI-NGARA-KOKI(kai=fulfil its proper function,have full play;nhara=snarl;koki=move ahead,limp)、「懸命に・唸りながら・前に進む(ジョレンという馬鍬に似た道具に網を附け海底に沈め舟で曳いてホタテ貝を採る)」(「(ン)ガラ」のNG音がG音に変化して「ガラ」と、「コキ」が「コギ」となった)(この「ジョレン」は「チホウ・レ(ン)ガ」、TIHOU-RENGA(tihou=an implement for cultivating;renga=overflow)、「(大きな鍬で海底の砂を)掘り起こし・(溢れた砂を棄ててホタテ貝を濾し)採る(道具)」(「チホウ」のH音が脱落して「チオウ」から「チョ」、「ジョ」と、「レ(ン)ガ」のNG音がN音に変化して「レナ」から「レン」となった))

  「カワ・イア・ノホ」、KAWA-IA-NOHO(kawa=unpleasant to the taste,bitter;ia=indeed;noho=sit.settle)、「(ホタテ貝の採取は)実に・苦しい・ものだ(苛酷な重労働だ)」(「ノホ」のH音が脱落して「ノオ」となった)

  「イア・タホ・エヘ・イア」、IA-TAHO-EHE-IA(ia=indeed;taho=yielding,weak;ehe=expressing surprise)、「実に・従順に(文句も言わずに)・なんとまあ・本当に」(「タホ」が「サホ」と、「エヘ」のH音が脱落して「エエ」となった)

  「ホウ・エヘ・イア・エヘ」、HOU-EHE-IA-EHE(hou=enter,force downwards or under(houhou=dig up,obtain by digging);ehe=expressing surprise;ia=indeed)、「(ジョレンで)底曳きで・なんと(貝が採れる)・ほんとに・なんと(貝が採れる)」(「エヘ」のH音が脱落して「エエ」となった)

  「イ・オイ・イア・タ(ン)ゴ・タタ」、I-OI-IA-TANGO-TATA(i=past tense;oi=shout,shudder,move continuously,agitate;ia=indeed;tango=take up,take in the hand;tata=dash down,strike repeatedly)、「実に・(身体を)動かし・て・何遍も漕いで・(貝が)採れるよ」(「タ(ン)ゴ」のNG音がN音に変化して「タノ」から「サノ」となった)

  「イアナ・タ(ン)ゴ・エヘ」、IANA-TANGO-EHE(iana=then;tango=take up,take in the hand;ehe=expressing surprise)、「そうして・なんと(やっと)・(貝が)採れるよ」(「タ(ン)ゴ」のNG音がN音に変化して「タノ」から「サノ」と、「エヘ」のH音が脱落して「エエ」となった)

の転訛と解します。

[島根県]

311安来節(やすぎぶし)・アラ エッサッサー・滑車(せみ)・ヤサホヤサホ

 中海に面した砂鉄から作った鉄の積出港として著名な港町、安来の民謡です。古い出雲節が元歌で、明治になった後に「さんこ節」、「なぜまま節」、「和田見節」などを経て、大正初年に旧能義郡安来町(現安来市)の名手渡辺佐兵衛とその娘お糸が東京で興行して有名になりました。踊りの「泥鰌すくい」は、砂鉄採取の「土壌すくい」を模したものとされます。

 歌詞には、
 ♪安来千軒 名の出たところ 社日桜に 十神山(アラ エッサッサー)
とあります。
 歌詞の中には、「十神山から沖見れば 何処の船かは知らねども 滑車(せみ)の下まで帆を巻いて ヤサホヤサホと鉄積んで 上のぼる」とあります。

 この「アラ エッサッサー」、「せみ」、「ヤサホヤサホ」は、

  「アラ・エ・タタ」、ARA-E-TATA(ara=and then,expressing surprise etc.;e=calling attention or expressing surprise;tata=dash down,strike repeatedly)、「そして・なんと・(笊でどじょう(または土壌)を)掬った掬った」

  「テ・エミ」、TE-EMI(te=the...of;emi=be assembled,be gathered together)、「(帆柱の上部に)取り付けられた・もの(滑車)」

  「イア・タホ」、IA-TAHO(ia=indeed;taho=yielding,weak)、「実に・(船主の言うなりに)従順に」(「タホ」が「サホ」となった)

の転訛と解します。

312関の五本松(せきのごほんまつ)・ハ ドッコイショ・ショコ ショコホイノ マツホイ

 五本松節ともいい、元来は「しょこばのお井戸」という唄であったのが、島根半島の突端、美保の関港の沖合を通る船の目標となっていた港口の小山の五本松が、ある年領主の通行の邪魔になるとして家臣に一本を切らせたので、漁師達が残りの夫婦松が無事であることを願って替歌として唄ったものといいます。

 歌詞には、
 ♪ハア関の五本松(ハ ドッコイショ)一本切りゃ四本 あとは切られぬ 夫婦松(ショコ ショコホイノ マツホイ)
とあります。

 この「ハ ドッコイショ」、「ショコ ショコホイノ マツホイ」は、

  「ハ・ト・コイ・チオ」、HA-TO-KOI-TIO(ha=what!,then so;to=drag;koi=move about,good,suitabl;tio=cry,call)、「なんと(そして)・まあ・良く・唄うよ」

  「チオコ・チオコ・ホイ・ノ・マツ・ホイ」、TIOKO-TIOKO-HOI-NO-MATU-HOI(tioko=assemble;hoi=heoi=denoting completeness or sufficiency of a statement or enumeration;no=of;matu=fat,richness of food)、「(残った四本の松は)対になった・完全に・対になった・(もの)の・完全な・(油脂分の多い樹の)松だよ」(「チオコ」が「ショコ」となった)

の転訛と解します。

313どっさり節・新保広大寺(しんぽこだいじ)・エ サアノーエー・コレワイ ドウジャイナア・チョイト

 隠岐の代表的な祝い唄です。曲名の「どっさり」は、方言の「どっさりこっさり」(どうやらこうやら)によるもので、島前の知夫里島の港に避難した越後の船の男から越後の唄を習った島の娘が、習い終わらないままに島を去った男を偲んで唄つたものといいます。

 歌詞には、
 ♪お客望みなら やり出(だ)いて見ましょ 当世はやりの 広大寺(こだいじ)をエ サアノーエー 歌にコレワイ ドウジャイナア 不調法なチョイト わしなれど サアノーエー
とあります。
 この「広大寺」は、「新保広大寺(しんぽこだいじ)」で、元禄頃越後魚沼郡新保村広大寺に題材を取った民謡と舞踊で、各地に流行して遺存します。「広大寺」は「子大事」、「小大臣」、「古代神」、「幸大寺」、「高大寺」などとも記されます。

 この「どっさり」、「(しんぽ)こだいじ」、「エ サアノーエー」、「コレワイ ドウジャイナア」、「チョイト」は、

  「タウ・タリ」、TAU-TARI(tau=come to rest,float,be suitable;tari=carry,bring,urge,incite)、「(唄の節が)ふらふらと・定まらない(唄が下手だ)」(「タウ」のAU音がO音に変化して「ト」から「ドッ」となった)
(この「どっさり」と対をなす「こっさり」は、「カウ・タリ」、KAU-TARI(kau=alon,bare,only;tari=carry,bring,urge,incite)、「(唄の節が)単調で・変化がない(唄が下手だ)」(「カウ」のAU音がO音に変化して「コ」から「コッ」となった)と解します。)

  「(チノ・ポ・)コ・タヒチ」、TINO-PO-KO-TAHITI(tino=essentiality,exact,quite;po,popo=pat with the hand,soothe,lullaby:ko=sing;tahiti=tawhiti=distant,from abroad,generous)、「(本来は・手拍子の(楽器を使わない唄の)・)他所から入ってきた・(流行の)唄」(「チノ」が「シン」と、「タヒチ」のH音が脱落して「タイチ」から「ダイジ」となった)

  「エ・タノイ・エヘ」、E-TANOI-EHE(e=calling attention or expressing surprise;tanoi=be sprained;ehe=expressing surprise)、「なんと・捻挫(したように唄が出てこない)だ・エート」(「タノイ」の語尾のI音が脱落して「サノ」から「サアノ」と、「エヘ」のH音が脱落して「エエ」となった)

  「コレ・ワイ・ト・チ・アイ(ン)ガ」、KORE-WHAI-TO-TI-AINGA(kore=not;whai=possessing,equiped with;to=drag;ti=throw,cast;ainga=violence,driving force)、「準備が・できていない(すぐに唄い出せない)・(唄い出せるように背中を)押して・引っ張って・ほしい」(「アイ(ン)ガ」のNG音がN音に変化して「アイナ」となった)

  「チオイ・ト」、TIOI-TO(tioi=shake,sway from side to side;to=drag)、「(脇へ)寄って・引く(遠慮する)」

の転訛と解します。

[岡山県]

321石切唄(いしきりうた)・ハイ ヨイヨイヨーイトセ・ヤレコラエーヨーエー・ヨ ヨーヨーイ・ヤーレ・ヨーヤレヨーホイヨー

 北木島御影(北木石)を産する旧小田郡北木島(現笠岡市)を中心に瀬戸内海の島々で唄われる石切り作業唄です。石屋節は、「玄能(げんのう)節」または「ハッパ大割節」とも、鑿とぎり節は、大割した石を鑿で小割する「小割唄」ともいいます。(「玄能」・「鑿」については、雑楽篇(その二)の1047鋸の項を参照してください。)

 石屋節の歌詞には、
 ♪北木よいとこ(ハイ ヨイヨイヨーイトセ) 大石の出どこエー 歌うて聞かそか 石屋節ヨー (ヤレコラエーヨーエー)聞かそか歌うて 歌うて聞かそか 石屋節ヨー(ヨ ヨーヨーイ)

 鑿とぎり節の歌詞には、
 ♪ヤーレ思い出しては 夜は時々と 寝られませぬよ 夏の夜は(ヨーヤレヨーホイヨー)
とあります。

 この「とぎり」、「ハイ ヨイヨイヨーイトセ」、「ヤレコラエーヨーエー」、「ヨ ヨーヨーイ」、「ヤーレ」、「ヨーヤレヨーホイヨー」は、

  「ト(ン)ギ・リ」、TONGI-RI(tongi=point,peck as a bird,nibble at bait;ri=screen,protect,bind)、「(鳥が嘴で突くように石に)鑿で穴を・連続して開ける(ことによって石を割る)」(「ト(ン)ギ」のNG音がG音に変化して「トギ」となった)

  「ハイ・イ・オイ・イ・オイ・イ・オイ・ト・タエ」、HAI-I-OI-I-OI-I-OI-TO-TAE(hai=hei=at,with,for,forming future imperative chiefly in negative sentences;i=past tense;oi=shout,shudder,move continuously,agitate;to=drag;tae=arrive,come,go)、「(切り出した石を)そっちへ・動か・せ・動か・せ・動か・して・引いて・(そこへ)付けろ」(「タエ」のAE音がE音に変化して「テ」から「セ」となつた)

  「イア・レ・コラ・エヘ・イオ・エヘ」、IA-RE-KORA-EHE-IO-EHE(ia=indeed;re=see!;kora=yonder,that place at a distance;ehe=expressing surprise;io=spur,ridge)、「見ろ・や・(遠い)あっち(の山)を・なんと・こっち(の峰)を・なんと」(「エヘ」のH音が脱落して「エエ」となった)

  「イ・オ・イ・オ・イ・オイ」、I-O-I-O-I-OI(i=past tense;o=be capable of being contained or enclosed,get in;oi=shout,shudder,move continuously,agitate)、「空きが・ある・空きが・ある・(石を)動か・せ」

  「イア・レ」、IA-RE(ia=indeed;re=see!)、「ちゃんと・見ろ」

  「イ・オ・イア・レ・イ・オ・ホイ・イ・オ」、I-O-IA-RE-I-O-HOI-I-O(i=past tense;o=be capable of being contained or enclosed,get in;ia=indeed;re=see!;hoi=heoi=denoting completeness or sufficiency of a statement or enumeration)、「空きが・ある・ちゃんと・見ろ・空きが・ある・完全に・空きが・ある」(この空きは、寝床の空きを暗喩したものかと推察されます。)

の転訛と解します。

322下津井節(しもついぶし)・ヨー・まとも・まぎり・トコハイ トノエー ナノエー ソーレソレ

 下津井小唄ともいい、古くから児島半島の西南端の四国への渡船港として栄えた下津井港(現倉敷市)を中心として瀬戸内海一帯で唄われたお座敷唄です。

 歌詞には、
 (独唱)♪下津井港はヨー 入りよて出よてヨー まとも巻きよて まぎりよてヨー
 (合唱)♪トコハイ トノエー ナノエー ソーレソレ
とあります。

 この「ヨー」、「まとも」、「まぎり」、「トコハイ トノエー ナノエー ソーレソレ」は、

  「イ・オ」、I-O(i=past tense;o=be capable of being contained or enclosed,get in)、「(港に)空きが・ある」

  「マ・トモ」、MA-TOMO(ma,mama=light,not heavy;tomo=pass in,enter)、「(港に船が)入り・易い」

  「マ(ン)ギ・リ」、MANGI-RI(mangi=floating,drifting;ri=screen,protect,bind)、「(船を)繋留して(または他の船と離れて安全に)・停泊する」(「マ(ン)ギ」のNG音がG音に変化して「マギ」となった)

  「ト・コハイ・トノ・エヘ・ナノ・エヘ・トレトレ」、TO-KOHAI-TONO-EHE-NANO-EHE-TO-RE-TO-RE(to=drag;kohai=a pattern of scroll ornament;tono=bid,demand,drive away by means of a charm;ehe=expressing surprise;nano,whakanano=discredit,disparage,disbelieve;toretore=rough sea,bad,carping)、「乗っ切れ・渦を巻く海を・注意して・(舵を)取れ・注意して・(疑え)油断するな・荒れる海だぞ」

の転訛と解します。

323米のなる木・ジョリワラズ

 古く備前国一帯で唄われた民謡です。この唄の起源については、岡山藩主池田光政公が参勤交代の途中で雲助たちに唄わせたものとする説、ある女囚が獄中で女児を産み、獄中で育ったため稲を知らなかったことを唄ったものとする説、船漕ぎ唄であるとする説などがあります。

 歌詞には、
 ♪ヨーわたしゃ備前のヨーイ 岡山育ちよ 米のなる木を まだ知らなよ
とあります。
 歌詞の中には「ヨー米のなる木をヨーイ 教えてやろかよ 米のなる木は ジョリワラズよ」があります。

 この「ヨー」、「ヨーイ」、「ジョリワラズ」は、

  「イオ」、IO((Hawaii)true,reallysurely)、「本当に」

  「イ・オイ」、I-OI(i=past tense;oi=grow,be abundant)、「成長・した」

  「チオリ・ワラ・ツ」、TIORI-WARA-TU(tiori=hold up to view,wave to and fro,conspicuous,resounding;wara=murmur,desire;tu=fight with,energetic)、「見られ・たがって・いる(もの。いたるところで見られるもの。稲)」(「チオリ」が「ショリ」から「ジョリ」となった)

の転訛と解します。

[広島県]

331田植唄(たうえうた)・サゲ(音頭取り)・三ばい(田の神。音頭取り)・ヤハーレヤレ

 山県郡大朝町新庄地方に遺存する古調の田植唄で、室町時代からの伝承と推定されています。田植の共同作業の際に唄われるもので、朝・昼・晩各四番からなり、ササラを持ったサゲまたはサンバイと呼ばれる音頭取りと早乙女達の掛け合い形式で唄われます。「サンバイ」は田植の監督者、唄の指揮者、音頭取りであるとともに、田の神をも意味します。

 朝歌の歌詞には、
 (音 頭)♪エー歌い始めを まず三ばいに参らしょう
 (早乙女)♪ヤハーレヤレまず三ばいに参らしょう
 (音 頭)♪エ エーまず三ばいに参らしょう
 (早乙女)♪ヤハーレヤレまず三ばいに参らしょう
とあります。
 上の「三ばい」は、「田の神」の意と解されます。

 この「サゲ」、「さんばい」、「ヤハーレヤレ」は、

  「タ(ン)ガエ(ン)ガエ」、TANGAENGAE(umbilical cord,an incantation to confer vigour)、「(人々に勇気を与える呪文を唱える)指導者(音頭取り)」(AE音がE音に変化し、反復語尾が脱落して「タゲ」から「サゲ」となった)

  「タ・(ン)ガ・パイ」、TA-NGA-PAI(ta=the...of;nga=satisfied;pai=good,excellent,suitable)、「(世に)平穏をもたらして・満足する・神(田の神)」(「(ン)ガ」のNG音がN音に変化して「ナ」から「ン」となつた)または「タ(ン)ガ・パイ」、TANGA-PAI(tanga=be assembled;pai=good,excellent,suitable)、「(人々の行動を)円滑に・まとめる(者。音頭取り)」(「タ(ン)ガ」のNG音がN音に変化して「タナ」から「タン」「サン」となった)

  「イア・ハレ・イア・レ」、IA-HARE-IA-RE(ia=indeed;hare=haere=come,go,be diffused;re=see!)、「ほんとうに・(田の神が)いらっしゃった・ほれ・ご覧よ」

の転訛と解します。

332三原やっさ節・やっさ踊・エー・ハ ヨイショヨイショ・ハア ヨイヨイヨンヤナー ヨンヤナー・サーマヨ・ヤッサヤッサ ヤッサヤッサ ドントセー

 三原市を中心とした地方で唄われる盆踊唄です。ハイヤ節の変化と考えられています。

 歌詞には、
 ♪見たかエー(ハ ヨイショヨイショ)見たか聞いたか エ三原の城はエー(ハア ヨイヨイヨンヤナー ヨンヤナー)地から生えたか サーマヨ(ハ ヨイショヨイショ)ア浮城かノー(ヤッサヤッサ ヤッサヤッサ ドントセー)
とあります。

 この「やっさ」、「エー」、「ハ ヨイショヨイショ」、「ハア ヨイヨイヨンヤナー ヨンヤナー」、「サーマヨ」、「ヤッサヤッサ ヤッサヤッサ ドントセー」は、

  「イア・アタ」、IA-ATA(ia=indeed;ata=gently,clearly,openly,deliberately)、「実に・(三原の城が)綺麗(に見える)」

  「エ」、E(calling attention or expressing surprise)、「なんと」

  「ハ・イ・オイ・チオ・イ・オイ・チオ」、HA-I-OI-TIO-I-OI-TIO(ha=what!;i=past tense;oi=shout,shudder,move continuously,agitate;tio=cry,call)、「なんと・声を張り上げて・唄うよ・唄うよ)」

  「ハ・イ・オイ・イ・オイ・イ・オ(ン)ガ・イアナ」、HA-I-OI-I-OI-I-ONGA-IANA(ha=what!;i=past tense;oi=shout,shudder,move continuously,agitate;ongo=agitate,shake about;iana=intensive,then)、「なんと・(声を張り上げて)がんばって・がんばって・大いに・がんばれよ」(「オ(ン)ガ」のNG音がN音に変化して「オナ」から「オン」となった)

  「タ・マイオ」、TA-MAIO(ta=dash,beat,lay;maio=calm)、「(三原の城は地から生えたように)静かに・横たわっているよ」

  「イア・アタ・イア・アタ・タウ・(ン)ゴト・タエ」、IA-ATA-IA-ATA-IA-ATA-IA-ATA-TONGA-TOTAE(ia=indeed;ata=gently,clearly,openly,deliberately;tau=come to rest,float,settle down,be suitable;ngoto=be deep,firmly;tae=arrive,come,extend to)、「実に・(三原の城が)綺麗(に見える)・実に・綺麗(に見える)・(海の上に)浮いて・どっしりと・伸びているよ」(「タウ」のAU音がO音に変化して「ト」から「ド」と、「(ン)ゴト」のNG音がN音に変化して「ノト」から「ント」と、「タエ」のAE音がE音に変化して「テ」から「セ」となった)

の転訛と解します。

333音戸舟唄(おんどふなうた)・可愛や・イアーレーナ(ヤーレーナ)

 潮流が激しいことで知られる音戸の瀬戸に伝わる船頭の櫓漕ぎ唄です。

 歌詞には、
 ♪イアーレーナ船頭可愛や 音戸の瀬戸はよ 一丈五尺の ヤーレーナ櫓はしなるよ
とあります。

 この「かわいや」、「イアーレーナ(ヤーレーナ)」は、

  「カワ・イア」、KAWA-IA(kawa=unpleasant to the taste,bitter;ia=indeed)、「(音戸の瀬戸の激流を漕ぐのは)実に・苦しい(苛酷な重労働だ)」

  「イア・レイ(ン)ガ」、IA-REINGA(ia=indeed,rushing stream;reinga=leap,rush,place of leaping)、「実に・潮流の激しい場所だ」(「レイ(ン)ガ」のNG音がN音に変化して「レイナ」から「レーナ」となった)

の転訛と解します。

[山口県]

341ヨイショコショ節・ヨイショコショーデ ヨサノサー

 周防(大島地方)から長門へかけて本県一帯に唄われた祝い唄で、特に新夫婦が若衆仲間を招いて祝宴を催すときに唄われます。

 歌詞には、
 ♪磨き上げたる 剣の光 雪か氷か 下関
  ヨイショコショーデ ヨサノサー 下関
とあります。

 この「ヨイショコショーデ ヨサノサー」は、

  「イ・オイ・チオ・コ・チオ・タエ・イオ・タ・ノ・タ」、I-OI-TIO-KO-TIO-TAE-IO-TA-NO-TA(i=past tense;oi=shout,shudder,move continuously,agitate;tio=cry,call;ko=sing;tae=arrive,come,extend to;io=twitch;ta=dash,beat,lay;no=of)、「声を震わせ・て・唄うよ・唄を・唄うよ・さらに・声を震わせて・押し出す・の・さ」(「タエ」のAE音がE音に変化して「テ」から「デ」となった)

の転訛と解します。

342男なら(オーシャリ節)・オーシャーリシャーリ

 維新節ともいい、戦後は長州節ともいいました。起源は、文久三年六月、毛利藩が米・仏軍艦と戦った下関戦争の際、萩の人々が菊ケ浜に土塁を築きましたが、これに参加した子女たちの心意気を唄つたものです。

 歌詞には、
 ♪男なら お槍かついでお仲間(ちゅうげん)となって ついて行きたや下関 御国の大事と聞くからは 女ながらも武士の妻 まさかの時には締襷 神功皇后さんの雄々しき姿が 亀鑑(かがみ)じゃないかいな オーシャーリシャーリ
とあります。

 この「オーシャーリシャーリ」は、

  「オ・チアリ・オ・チアリ」、O-TIARI-O-TIARI(o=the ...of;tiari=hold up,expose to view)、「雄々しさ(勇ましさ)を・世間に見せつけなさい」

の転訛と解します。

[徳島県]

351お姿節・ア ヨイヨイ・ハア ヨイヨイナ・ヤットサノサー

 裸麦の産地である勝浦郡・那賀郡地方に行われる麦搗き唄です。地唐臼に二、三人が重なって踏むところから麦踏み唄ともいいます。

 歌詞には、
 ♪アーお姿ちらりと 三吉野の(ア ヨイヨイ)歩く姿が糸桜(ハア ヨイヨイナ)いつも見あかぬ山桜ヤットサノサー
 (合唱)♪山桜 山桜 ヤットサノサー
とあります。

 この「ア ヨイヨイ」、「ハア ヨイヨイナ」、「ヤットサノサー」は、

  「ア・イ・オイ・イ・オイ」、A-I-OI-I-OI(a=and,and then,yes,well;i=past tense;oi=shout,shudder,move continuously,agitate)、「さて・(三吉野さまが動い・た)歩かれ・た・歩かれ・た」

  「ハ・イ・オイ・イ・オイ・ナ」、HA-I-OI-I-OI-NA(ha=what!;i=past tense;oi=shout,shudder,move continuously,agitate;na=used after words and clauses to indicate position near or connection with the person addressed)、「なんと・(三吉野さまが動い・た)歩かれ・た・歩かれ・た・なあ」

  「イア・タウ・タ・ノ・タ」、IA-TAU-TA-NO-TA(ia=indeed;tau=come to rest,float,settle down,be suitable;ta=dash,beat,lay;no=of)、「ほんとうに・(三吉野さまが)ゆったりと・座って・座って・おられるよ」(「タウ」のAU音がO音に変化して「ト」となった)

の転訛と解します。

352藍こなし唄・ドッコイセ・ヤートコセ・ションガエー

 旧板野郡住吉村(現藍住町)地方で唄われている阿波藍の栽培・刈取・乾燥の作業唄です。水取唄は、藍苗を苗代田から畑に移植した後の灌水作業の唄で、ほかに馬子唄、藍切唄、箕さび唄、藍干唄があります。

 水取唄(岩波版)の歌詞には、
 ♪親は子のため ドッコイセ 子は国のため 尽くす忠義は 君のため ヤートコセ

 藍こなし唄(角川版)の歌詞には、
 ♪藍の水ならナーエ 関所も止まる 流れる水なら 関止めん ションガエー
とあります。

 この「ドッコイセ」、「ヤートコセ」、「ナーエ」、「ションガエー」は、

  「ト・コイ・タエ」、TO-KOI-TAE(to=drag;koi=move about,good,suitable;tae=arrive,come,extend to)、「(水を)運んで・来て・着いたよ」(「タエ」のAE音がE音に変化して「テ」から「セ」となった)

  「イア・トコ・タエ」、IA-TOKO-TAE(ia=indeed;toko=pole,push or force to a distance,begin to move,spring up in the mind;tae=arrive,come,extend to)、「ほんとに・(水を天秤棒で)運んで・着いたよ」(「タエ」のAE音がE音に変化して「テ」から「セ」となった)

  「ナエ」、NAE(=naenae=failing of breath)、「息を止める」

  「チオ・(ン)ガエヘ」、TIO-NGAEHE(tio=cry,call;ngaehe=rustle,murmur,tide)、「小さな声で・唄う」(「チオ」が「ショ」と、「(ン)ガエヘ」のH音が脱落して「ンガエエ」となった)

の転訛と解します。

353阿波盆踊(よしこの)・アー エライヤッチャ エライヤッチャ ヨイヨイヨイヨイ

 阿波踊、阿波よしこの(節)、徳島盆踊ともいい、徳島市で毎年陰暦7月14日から3日間、男女思い思いの紛装で隊伍を組んで市中を踊り歩く盆踊の唄です。その急調で陽気な三味線の伴奏と熱狂的な踊りから、気違い踊りともいわれます。「よしこの」節は、江戸時代の潮来節から変化した流行歌の称で、後に都々逸となりました。 

 歌詞には、
 (前囃子)♪踊る阿呆に見る阿呆 おなじ阿呆なら 踊らにゃ損々(新町橋まで行くかんか 来い来い)
 (本 唄)♪阿波の殿様 蜂須賀公が いまに残せし 盆踊
 (後囃子)♪アー エライヤッチャ エライヤッチャ ヨイヨイヨイヨイ
とあります。

 この「よしこの」、「アー エライヤッチャ エライヤッチャ ヨイヨイヨイヨイ」は、

  「イ・オチ・コノ」、I-OTI-KONO(i=past tense;oti=finished,gone or come for good;kono=bend,curve,loop)、「上手い具合に・(手足を)曲げて・踊った(踊り)」

  「ア・エ・ライア・チア・エ・ライア・チア・イ・オイ・イ・オイ・イ・オイ・イ・オイ」、A-E-RAIA-TIA-E-RAIA-TIA-I-OI-I-OI-I-OI-I-OI(a=and,and then,yes,well;e=calling attention or expressing surprise;raia=to give emphasis;tia=stick in,take a vigorous stroke in paddling,persistency;i=past tense;oi=shout,shudder,move continuously,agitate)、「さて・ご覧よ・なんと・力強い動きだ・ご覧よ・なんと・力強い動きだ・踊っ・た・踊っ・た・踊っ・た・踊っ・た」

の転訛と解します。

[香川県]

361金比羅船々(こんぴらふねふね)・シュラ シュ シュ シュ・キララララ・ヨイセッセ

 仲多度郡琴平町地方を中心に幕末頃から明治初年にかけて全国的に流行したお座敷唄です。

 歌詞には、
 ♪金比羅船々 追手に帆かけて シュラ シュ シュ シュ
  まわれば四国は 讃州那珂の郡 象頭山 金比羅大権現
  一度まわれば 金比羅船々 シュラ シュ シュ シュ
 ♪金比羅石段 桜の真盛り キララララ 振袖島田が サッと上がる 裾には降り来る花の雲
 ♪金比羅大祭 夜更けの行列 ヨイセッセ 鳥毛の掛け声 頭人の下座触れ 神事場は花火で白みゆく
とあります。(上の歌詞の2番以下は、昭和の初めの新作ですが、歌詞の一部分として意味をなしているので、参考までに解釈を示しました。)

 この「シュラ シュ シュ シュ」、「キララララ」、「ヨイセッセ」は、

  「チウラ・チウ・チウ・チウ」、TIU-RA-TIU-TIU-TIU(tiu=soar,wander,swing;ra=there,yonder)、「(金比羅さんへ向かう船が)向こうで・(波に)揺られている・揺られている・揺られている」(「チウ」が「シュ」となった)

  「キ・ララ・ララ」、KI-RARA-RARA(ki=full,very;rara=there,yonder)、「たくさん(の桜、御幣などが)・向こうに(見える)・向こうに(見える)」

  「イ・オイ・タエ・タエ」、I-OI-TAE-TAE(i=past tense;oi=shout,shudder,move continuously,agitate;tae=arrive,come,reach)、「(行列が)動い・て・着いた・着いた」(「タエ」のAE音がE音に変化して「テ」から「セ」となった)

の転訛と解します。

362一合蒔いた(讃岐盆踊唄)・ドッコイショ・ソラヨーイ ヨーイ ヨイコラセー・チョイト・ツチツンツン

 讃岐節、京踊り(中讃地方)ともいい、讃岐地方独自の盆踊り唄で、西讃地方の一部を除く県下一帯で唄われています。

 歌詞には、
 ♪ハアー一合蒔いた籾の種 その桝あり高は ドッコイショ 一石一斗一升一合と一勺 ソラヨーイ ヨーイ ヨイコラセー
とあります。
 歌詞の中には「丸くなれ 丸くなれ チョイトまるくなれ …」、「讃岐高松芸どころ どの町通っても ツチツンツン 手頃に踊ってお出でなんしょ …」などがあります。

 この「ドッコイショ」、「ソラヨーイ ヨーイ ヨイコラセー」、「チョイト」、「ツチツンツン」は、

  「ト・コイ・チオフ」、TO-KOI-TIOHU(to=drag;koi=move about,good,suitable;tiohu=stoop)、「ほどよく・動かして・止める(米を桝で計る)」(「チオフ」のH音が落して「チオウ」から「ショ」となった)

  「トラ・イ・オイ・イ・オイ・イ・オイ・コラ・タエ」、TORA-I-OI-I-OI-I-OI-KORA-TAE(tora=be erect,used of showing warlike feelings;i=past tense;oi=shout,shudder,move continuously,agitate;kora=yonder,that a place at a distance;tae=arrive,come,reach)、「そら・動かし・て・動かし・て・動かし・て・向こうに・着いた(米を積み上げて所定の数量に達した)」(「トラ」が「ソラ」と、「タエ」のAE音がE音に変化して「テ」から「セ」となった)

  「チオイ・ト」、TIOI-TO(tioi=shake,sway from side to side;to=drag)、「少し・動かして」

  「ツ・チ・ツ(ン)ガツ(ン)ガ」、TU-TI-TUNGATUNGA(tu=sit,fight with,energetic;ti=throw,cast;tungatunga=beckon,make signs)、「盛んに・手招きを・される」(「ツ(ン)ガツ(ン)ガ」のNG音がN音に変化して「ツナツナ」から「ツンツン」となった)

の転訛と解します。

363小豆島盆踊(しょうどしまぼんおどり)・ヨーイヨイ・ア ヨイヤサ ヨイヤサ ホーレイ ホーレイ

 安田おどりともいい、旧小豆郡内海町安田地方(現小豆島町)に古くから唄われる盆踊り唄です。

 歌詞には、
 ♪秋の薄に わしゃ招かれて ヨーイヨイ おさな心の それ一筋に ア ヨイヤサ ヨイヤサ ホーレイ ホーレイ
とあります。

 この「ヨーイヨイ」、「ア ヨイヤサ ヨイヤサ ホーレイ ホーレイ」は、

  「イ・オイ・イ・オイ」、I-OI-I-OI(i=past tense;oi=shout,shudder,move continuously,agitate)、「(動いた)踊っ・た・踊っ・た」

  「ア・イ・オイ・イア・タ・イ・オイ・イア・タ・ハウ・レイ・ハウ・レイ」、A-I-OI-IA-TA-I-OI-IA-TA-HAU-REI-HAU-REI(a=and,and then,yes,well;i=past tense;oi=shout,shudder,move continuously,agitate;ia=indeed;ta=dash,beat,lay;hau=eager,brisk;rei=rush,run,there)、「さて・踊っ・た・実に・勢いよく・踊っ・た・実に・勢いよく・元気に・走った・元気に・走った」(「ハウ」のAU音がOU音に変化して「ホウ」となった)

の転訛と解します。

[愛媛県]

371今治よいやな・ヨイヤナー

 今治市を中心として越智郡一帯に唄われる祝儀唄です。その起源は、慶長5年に藤堂高虎が関ヶ原の軍功により伊予半国を領有し、今治に城を築いた時の地固め音頭と伝えられ、後には正月、祭礼、婚礼等の際に必ず唄われる座敷唄となつたといいます。

 歌詞には、
 ♪積んで行こうか お城の石を 船は千石 今治さして 帰えれば満載 米の山 ヨイヤナー
とあります。

 この「ヨイヤナー」は、

  「イ・オイ・イア・ナ」、I-OI-IA-NA(i=past tense;oi=shout,shudder,move continuously,agitate;ia=indeed:na=satisfied,content)、「(船を)動かし・て・実に・良かった(良いことがあった)」

の転訛と解します。

372ハゼ採り唄・ヤーレー・エ・サーヤーレ

 八幡浜市付近で唄われたハゼ(黄櫨)採りの作業唄です。ハゼの木は折れやすいので、枝から枝に命綱を張りめぐらし、曲芸師のように移動しながらハゼの実を採取する(角川版による)といいます。

 歌詞には、
 ♪ヤーレー歌のうたいぞめ 仕事のしぞめよエ
  金のかけぞめ サーヤーレ 倉びらきよ
とあります。

 この「ヤーレー」、「エ」、「サーヤーレ」は、

  「イア・レイ」、IA-REI(ia=indeed;rei=leap,rush,run)、「跳ぶ・ように(動き回ろう)」

  「エ」、E(calling attention or expressing surprise)、「そうだ(注意喚起)」

  「タイア・レイ」、TA-IA-REI(ta=dash,beat,lay;ia=indeed;rei=leap,rush,run)、「取り掛かろう・跳ぶ・ように(動き回ろう)」

の転訛と解します。

373宇和島サンサ・ションガイナー・エー

 宇和島藩の藩祖伊達秀宗は、政宗の長男でしたが、本家は次男の忠宗が継ぎ、宇和島の新封十万石へ移されました。五代藩主村候(むらとき)公のとき、仙台藩と意見が衝突し、宇和島藩は仙台の分家に非ずとして幕府の裁定を求める騒ぎを引き起こしましたが、そのとき藩士の勇気を鼓舞するために唄われたものといわれます。

 歌詞には、
 ♪宇和島でる時ゃ 一人で出たが ションガイナー 今じゃお前と エー 諸共によ
とあります。

 この「サンサ」、「ションガイナー」、「エー」は、

  「タ(ン)ガタ」、TANGATA(man,human being)、「(男らしい)武士」(NG音がN音に変化して「タナタ」から「サンサ」となった)

  「チオ・(ン)ガイ・ナ」、TIO-NGAI-NA(tio=cry,call;ngai=tribe or clan;na=satisfied,to indicate position near or connection with the person addressed,of these)、「感嘆(または満足)の・部類に属する・声を上げるよ」

  「エヘ」、EHE(expressing surprise)、「なんと」(H音が脱落して「エエ」となった)

の転訛と解します。

[高知県]

381鰹節造り唄・ヨーエ・アノエヨーエ・ヨー・うすばえ・ヤレ・ガイダ・ア コーリャコリャ・ヨイヨイ

 鰹節の産地として知られる清水港(現土佐清水市)および宇佐港(旧高岡郡宇佐町。現土佐市)などで、主として鰹の骨抜(ばらぬき)作業の際に唄われる唄です。

 土佐清水市付近の歌詞には、
 ♪隈の灘辺をヨーエ 急げよ鰹 アノエヨーエ 土佐のヨー うすばえで ヤレ待ち受ける

 土佐市付近の歌詞には、
 ♪伊予のねえさん ガイダの虫よ ア コーリャコリャ 節が出来たら 飛んでくる ヨイヨイ 飛んでくる 節が出来たら 飛んでくる ヨイヨイ
とあります。

 この「ヨーエ」、「アノエヨーエ」、「ヨー」、「うすばえ」、「ヤレ」、「ガイダ」、「ア コーリャコリャ」、「ヨイヨイ」は、

  「イ・アウエ」、I-AUE(i=past tense;aue=expressing astonishment or distress,groan,make lamentation,cry)、「(鰹が獲れるよう)祈っ・た」(「アウエ」のAU音がO音に変化して「オエ」となり、語頭の「イ」と連結して「ヨエ」となった)

  「アノ・アウエ・イ・アウエ」、ANO-AUE-I-AUE(ano=still,again,also,quite;aue=expressing astonishment or distress,groab,make lamentation,cry;i=past tense)、「(鰹が獲れるよう)祈っ・た・祈っ・た」(「アウエ」のAU音がO音に変化して「オエ」となり、語頭の「アノ」と連結して「アノエ」と、「イ」と連結して「ヨエ」となった)

  「イオ」、IO(muscle,tough,hard)、「(波が)荒い(海域の)」

  「ウツ・バエ」、UTU-PAE(utu=return for anything,satisfaction,dip into for the purpose of filling,spur of a hill;pae=horizen,region,lie across)、「(海底に)横たわっている・(岩)山」(海岸地名の一般名詞としての「はえ(碆)」については、地名篇(その十九)の岩石海岸地名の項を参照してください。)

  「イア・レ」、IA-RE(ia=indeed;re=see!)、「ほら・(よく)見ていてご覧!」

  「(ン)ガイ・タ」、NGAI-TA(ngai=tribe or clan;ta=dash,beat,lay)、「(鰹節に付着して)害をなす・種類の(虫)」(「(ン)ガイ」のNG音がG音に変化して「ガイ」となった)

  「ア・コリア・コリア」、A-KORIA-KORIA(a=and,and then,yes,well;koria=young kahawai(=a fish,a kind of the groper))、「そして・鰹だ・鰹だ」

  「イ・オイ・イ・オイ」、I-OI-I-OI(i=past tense;oi=shout,shudder,move continuously,agitate)、「(虫が動いた)飛んで・きた・飛んで・きた」

の転訛と解します。

382よさこい節・ハア ヨサコイ ヨサコイ・おらんく・といち(情人)

 全国的に有名な土佐の代表的民謡です。農村の仕事唄か、木遣り唄の変化かなど由来は、未詳です。

 歌詞には、
 ♪土佐の高知の 播磨屋橋で 坊さんかんざし 買うを見た ハア ヨサコイ ヨサコイ
とあります。
 歌詞の中には「言うたちいかんちゃ おらんくの池には 潮吹く魚が 泳ぎよる」、「わしのといちは 浦戸の沖で 雨にしょんぼり濡れて 鰹釣る」などがあります。この「おらんく」は「おら(俺)」の意と、「といち」は、方言で「情人」の意とされます(「上様」の「上」の字を分解して「ト・一」からとも)。

 この「ハア ヨサコイ ヨサコイ」、「おらんく」、「といち」は、

  「ハ・イ・アウタ・コイ・イ・アウタ・コイ」、HA-I-AUTA-KOI-I-AUTA-KOI(ha=what!;i=past tense;auta=toss,writhe,encroach upon;koi=move about,good,suitable)、「なんと・(坊さんが)気もそぞろに・うろうろして・いたよ・気もそぞろに・うろうろして・いたよ」(「アウタ」のAU音がO音に変化して「オタ」から「オサ」となり、語頭の「イ」と連結して「ヨサ」となった)

  「アウ・ラ(ン)ガ・アク」、AU-RANGA-AKU(au=sea,current;ranga=raise,rising ground,fishing ground,company of persons;aku=my)、「私の・仲間の(漁場である)・海」(「アウ」のAU音がO音に変化して「オ」と、「ラ(ン)ガ」のNG音がN音に変化して「ラナ」となり、その語尾のA音と「アク」の語頭のA音が連結して「ラナク」から「ランク」となった)

  「トイチ」、TOITI(little finger or toe)、「小指(が示すもの。情人)」

の転訛と解します。

[九州地方]

[福岡県]

391博多節(はかたぶし)・アリャ ドッコイショ

 筑前博多の代表的民謡です。古く文政の頃、また嘉永・安政のころに博多節があった記録がありますが、残っておらず、現在の博多節は、明治20年頃山陰地方の舟唄が伝えられた「古調」と称するものと、大正初年頃から下関付近の「天狗様」という端唄を改めた「正調」と称する二種があります。

 古調の歌詞には、
 ♪博多帯締め 筑前絞り 筑前博多の帯締めて 歩む姿は 柳 アリャ ドッコイショ 腰
 (囃子)お月さんがチョイト出て 松の影 ハイ今晩は
とあります。

 この「アリャ ドッコイショ」は、

  「アリア・ト・コイ・チオフ」、ARIA-TO-KOI-TIOHU(aria=appear,be seen indistinctly,resemblance;to=drag;koi=move about,good,suitable;tiohu=stoop)、「姿は・ほどよく・動いて・止まる」(「チオフ」のH音が落して「チオウ」から「ショ」となった)

の転訛と解します。

392博多どんたく・スッポンポン・アカチョコベ

 室町時代の松囃子の習俗を伝えるとされる博多随一の年中行事で、四月三十日・五月一日の二日間ね仮装した人々が歌いながら市中を練り歩く陽気な唄です。(この「どんたく」については、雑楽篇(その一)の148博多どんたくの項を参照してください。)

 歌詞には、
 ♪ぼんち可愛い寝んねしな 品川女郎衆は十匁 十匁の鉄砲玉 玉屋が川へスッポンポン
とあります。
 歌詞の中には「モーシモーシ車屋さん これから柳町アなんぼです 大勉強で十五銭 十銭に負けとけアカチョコベ」などがあります。この「アカチョコベ」は、方言で「アカンベ」と同じとされます。

 この「どんたく」、「スッポンポン」、「アカチョコベ」は、

  「トヌ・タク」、TONU-TAKU(tonu=denoting continuance,just;taku=slow)、「ゆっくりと・(仮装などの練りを)続ける(祭り)」

  「ツ・ポ(ン)ガポ(ン)ガ」、TU-PONGAPONGA(tu=fight with,energetic;pongaponga=a method of adzing timber)、「懸命に・(樹皮を剥いだ)裸になった」(「ポ(ン)ガポ(ン)ガ」のNG音がN音に変化して「ポナポナ」から「ポンポン」となった)

  「アカ・チオコ・パイ」、AKA-TIOKO-PAI(aka=anga=face or move in a certain direction,set about,aspect;tioko=assemble;pai=good,excellent,satisfactory)、「良い(満足した様子を)・(集めた)備えた・顔をする(これが転じて軽蔑・拒否を表す顔をするの意となった。マオリ族は、舌を出して「歓迎」、「敵意がない」ことを示す風習がありました。)」(「パイ」のAI音がE音に変化して「ペ」から「ベ」となった)

の転訛と解します。

393博多子守唄(はかたこもりうた)・がらがら柿・ヨーイヨーイ

 博多地方の子守唄ですが、お座敷唄化しています。

 歌詞には、
 ♪うちの御寮さんな がらがら柿よ 見かけよけれど 渋ござる ヨーイヨイ
とあります。この「がらがら柿」は、小さくてたくさんぎっしり生る渋柿をいいます。

 この「がらがら」、「ヨーイヨーイ」は、

  「(ン)ガラ・(ン)ガラ」、NGARA-NGARA(ngara=snarl(ngarangara=anything small))、「いつも・文句をつける(御寮さん。渋いといつも文句を言われる柿)」(「(ン)ガラ」のNG音がG音に変化して「ガラ」となった)

  「イ・オイ・イ・オイ」、I-OI-I-OI(i=past tense;oi=shout,shudder,move continuously,agitate)、「(背中の子をあやすために)揺すっ・た・揺すっ・たよ」

の転訛と解します。

[佐賀県]

401のんのこ節(皿踊)・ヤーレ・ノンノコサイサイ シテマタサイサイ・アラ オチャラカサイサイ

 佐賀県の西南部から長崎県の波佐見・大村・諫早・長崎方面にかけて唄われる新婚、出産などの祝い唄であり、宴席唄です。皿踊は、四ツ竹踊りが変化したもので、両手に小皿を持って踊ることからこの名があります。

 歌詞には、
 ♪祝いますぞえ 氏神さまよヤーレ 氏子栄えて宮しげる ノンノコサイサイ シテマタサイサイ
とあります。
 この「シテマタサイサイ」に代わって「アラ オチャラカサイサイ」の囃子を付ける場合があります。

 この「のんのこ」、「ヤーレ」、「ノンノコサイサイ シテマタサイサイ」、「アラ オチャラカサイサイ」は、

  「(ン)ゴ(ン)ゴ・コ」、NGONGO-KO(ngongo=sick person,invalid;ko=adressing to males and females)、「病人(または子供など弱者)の・男女」(「(ン)ゴ(ン)ゴ」のNG音がN音に変化して「ノノ」から「ノンノ」となった)

  「イア・レ」、IA-RE(ia=indeed;re=see!)、「ほら・(よく)見ていてご覧!」

  「(ン)ゴ(ン)ゴ・コ・タイタイ・チ・テ・マタ・タイタイ」、NGONGO-KO-TAITAI-TI-TE-MATA-TAITAI(ngongo=sick person,invalid;ko=adressing to males and females;taitai=dash,knock,perform certain ceremonies to remove tapu etc.;ti=throw,cast,overcome;te=crack;mata=face,eye)、「病人(または子供など弱者)の・男女に・病を癒す祈祷をし・(裂け目を・入れた)紙垂(しで)の・表面に・お祓いをした」(「(ン)ゴ(ン)ゴ」のNG音がN音に変化して「ノノ」から「ノンノ」となった)

  「アラ・オチイア・ラカ・タイタイ」、ARA-OTIIA-RAKA-TAITAI(ara=and then,expressing surprise etc.;otiia=but,but on the other hand;raka=be entangled,ache from weariness;taitai=dash,knock,perform certain ceremonies to remove tapu etc.)、「そして・別の・悩みを・除くお祓いをした」

の転訛と解します。

402岳の新太郎さん・ザーンザザンザ・気はざんざ・アラ ヨーイヨイヨイ ヨーイヨイヨイ

 ザンザ節ともいい、多良岳山麓の藤津郡太良町地方の唄です。江戸時代中期以後または幕末に、多良岳の頂上近くにあった金泉寺に新太郎という美男子の寺侍がいて村娘の憧憬の的となつていたことからこの唄が生まれたと伝えられますが、伊勢神宮の木遣り唄が各地の草刈り唄となったものの一つと考えられます。

 歌詞には、
 ♪岳の新太郎さんの 下らす道にゃ ザーンザザンザ 銅の千灯籠ないとン 明れかし
  色者(いろしゃ)の粋者(すいしゃ)で気はざんざ アラ ヨーイヨイヨイ ヨーイヨイヨイ
とあります。

 この「ザーンザザンザ」、「ざんざ」、「アラ ヨーイヨイヨイ ヨーイヨイヨイ」は、

  「タ(ン)ガ・タ・タ(ン)ガ・タ」、TANGA-TA-TANGA-TA(tanga=be assembled;ta=dash,beat,lay)、「たくさん・(水を)撒く・たくさん・撒く(道を悪くする)」(「タ(ン)ガ」のNG音がN音に変化して「タナ」から「ザン」となった)

  「タ(ン)ガタ」、TANGATA(man,human being)、「男らしい」(「タ(ン)ガタ」のNG音がN音に変化して「タナタ」から「ザンザ」となった)

  「アラ・イ・オイ・イ・オイ・イ・オイ・イ・オイ・イ・オイ・イ・オイ」、ARA-I-OI-I-OI-I-OI-I-OI-I-OI-I-OI(ara=and then,expressing surprise etc.;i=past tense;oi=shout,shudder,move continuously,agitate)、「そして・(元気に)歩いて・行った・歩いて・行った・歩いて・行った・歩いて・行った・歩いて・行った・歩いて・行った」

の転訛と解します。

403新地節(しんちぶし)・可愛い・コラショ・ロレロン・アラサイサイ・ばらいしょばらいしょ

 諫早湾の干拓事業で働く土工たちの労働唄で、最初は諫早の小野島(現諫早市)から始まったものです。諫早市を中心とする長崎県だけでなく、諫早藩の領地であった佐賀県藤津郡などでも広く唄われています。

 歌詞(角川版)には、
 ♪新地土手から小野島んば見れば 可愛い コラショ お春やんが潟担う
 (後囃子)♪どうして新地に来た ロレロン 難儀の辛さに来た ロレロン アラサイサイ
とあります。
 後囃子の中には「ひきわり御膳の 炊き置きは いっとき冷ませば ばらいしょばらいしょ アラサイサイ」などがあります。

 この「かわい」、「コラショ」、「ロレロン」、「アラサイサイ」、「ばらいしょばらいしょ」は、

  「カワ・イ」、KAWA-I(kawa=unpleasant to the taste,bitter;i=past tense)、「(埋め立て工事は)苦しい・ものだ(苛酷な重労働だ)」

  「コラ・チオ」、KORA-TIO(kora=yonder,that place at a distance,small fragment,person of no account,vagabond;tio=cry,call)、「流れ者(の土工達)が・悲鳴を上げる」

  「ロレ・ロ(ン)ゴ」、RORE-RONGO(rore=snare,rainbow,entangle,deceive;rongo=hear,feel,obey,fame)、「(虹のような)噂話に・だまされた」(「ロ(ン)ゴ」のNG音がN音に変化して「ロノ」から「ロン」となった)

  「アラ・タイタイ」、ARA-TAITAI(ara=expressing surprise,and then,rise;taitai=dash,strike,knock,tide)、「なんと・(だまされた)やられた」

  「パライ・チオ・パライ・チオ」、PARAI-TIO-PARAI-TIO(parai=fend off,push back;tio=cry,call)、「お断りだと・叫ぶ・お断りだと・叫ぶ」

の転訛と解します。

[長崎県]

411田植唄(たうえうた)・ヨイマタ・アラ ヨイヨイヨーイ・おぼうず・アラヨイトコリャ・せまち

 長崎県には、北松浦郡、北高来郡、南高来郡に古くからの田植唄が残ります。

 北松浦郡の歌詞には、
 ♪ヨイマタ 山道も ふめば街道(アラ ヨイヨイヨーイ)今年はおぼうず(アラ ヨイトコリャ)よい殿御(アラ ヨイヨイヨーイ)
とあります。
 南高来郡の歌詞の中には「腰の痛さよ せまちの長さ 早く届いて 腰を伸びゆ」などとあります。上記の「おぼうず」は方言で「土筆」の意、「せまち」は、方言で「狭く長い田」の意と解されています。

 この「ヨイマタ」、「アラ ヨイヨイヨーイ」、「おぼうず」、「アラヨイトコリャ」、「せまち」は、

  「イ・オイ・マタ」、I-OI-MATA(i=past tense;oi=shout,shudder,move continuously,agitate;mata=heap,face.surface)、「山(道)を・(懸命に)歩い・た」

  「アラ・イ・オイ・イ・オイ・イ・オイ」、ARA-I-OI-I-OI-I-OI(ara=and then;i=past tense;oi=shout,shudder,move continuously,agitate)、「そして・(懸命に)歩い・た・歩い・た・歩い・た」

  「オ・ポウ・ツ」、O-POU-TU(o=the...of;pou=post,pole,stake;tu=stand,settle)、「棒が・立っている・ようなもの(土筆など)」

  「アラ・イ・オイ・トコ・リア」、ARA-I-OI-TOKO-RIA(ara=and then;i=past tense;oi=shout,shudder,move continuously,agitate;toko=pole,begin to move,increase in bulk;ria=screening,protecting)、「そして・(懸命に)歩い・た・(土筆が)伸びて・(あるくのを)邪魔した」

  「タエ・マチ」、TAE-MATI(tae=arrive,extend to,amount to,equal;mati,matimati=toe,finger)、「(広げた)指が・やっと届く(ほどの狭い。田)」(「タエ」のAE音がE音に変化して「テ」から「セ」となった)

の転訛と解します。

412ぶらぶら節・はた(紙鳶)・シャギリ・しゃんす(情人)・じんぺん(神変)・すばん(差出口)

 長崎開港以来、唐人客でにぎわった丸山遊郭を中心として古くから唄われているというお座敷唄です。

 歌詞には、
 ♪長崎名物 紙鳶(はた)揚げ盆祭り 秋はお諏訪のシャギリで 氏子がぶうらぶら ぶらりぶらりと言うたもんだいちゅう
とあります。
 歌詞の中には「あんたのしゃんす(情人)は、じんぺん(神変)来たばいな よかばのうすばん(差出口)ばかりと 言うたもんだいちゅう すばんすばんと言うたもんだいちゅう」などがあります。
 上記の「はた」は方言で「紙鳶(いかのぼり)・凧」の意、「シャギリ」は毎年10月7・8・9日に行われる諏訪神社大祭の「おくんち」(雑楽篇(その一)の177おくんちの項を参照してください。)で囃子に合わせて鳴らす「鉦・太鼓の音」の意、「しゃんす」は方言で「情人」の意、「じんぺん(神変)」は、中世語で「珍しく、ふしぎに、ようこそ」等の意、「すばん」は方言で「差出口、干渉」などの意と解されています。

 この「はた」、「シャギリ」、「しゃんす」、「じんぺん」、「すばん」は、

  「パ・タ」、PA-TA(pa=blow as the wind,reach one's ears;ta=dash,beat,lay)、「風が・当たる(結果空に揚がるもの。凧)」(「パ」のP音がF音を経てH音に変化して「ハ」となった)

  「チア・(ン)ゲリ」、TIA-NGERI(tia=stick in,adorn by sticking in feathers,persistency;ngeri=rhythmic chant with actions)、「延々と続く・所作を伴う唄(転じて「鉦・太鼓の音」となった)」(「(ン)ゲリ」のNG音がG音に変化して「ゲリ」から「ギリ」となった)

  「チ・ア(ン)ギツ」、TI-ANGITU(ti=throw,cast;angitu=luck,success)、「(幸運)幸福を・くれる(人。情人)」({ア(ン)ギツ」のNG音がN音に変化して「アニツ」から「アンス」となった)

  「チネイ・ペナ」、TINEI-PENA(tinei,tineinei=unsettled,disordered;pena=like that,in that way)、「不規則な(訪問の)・やり方」(「チネイ・ペナ」が「チンペン」から「ジンペン」となった)

  「ツ・パ(ン)ガ」、TU-PANGA(tu=fight with,energetic;panga=pa=touch,hold personal communication with,accost)、「熱心に・(身辺の)世話をする」(「パ(ン)ガ」のNG音がN音に変化して「パナ」から「バン」となった)

の転訛と解します。

413高島節(たかしまぶし)・アラショカ ショカネ

 かつて栄えた高島炭坑(旧西彼杵郡高島町。現長崎市)の炭坑節が俗謡化したものです。

 歌詞には、
 ♪島と名の付きゃ どの島も可愛い まして まして高島 猶可愛い アラショカ ショカネ
 (囃子)何う仕様か御亭どん 五月の月とん孕まにゃよかとん 孕めば田植の邪魔になる アラショカ ショカネ
とあります。

 この「アラショカショカネ」は、

  「アラ・チ・オカカ・チ・オカカ・ネイ」、ARA-TI-OKAKA-TI-OKAKA-NEI(ara=and then,expressing surprise etc.;ti=throw,overcome;okaka=feel a longing,be eager;nei=to denote proximity to or connection with the speaker)、「ほんとに・(恋しく)可愛く・て・可愛く・て・ならないよ」(「オカカ」の反復語尾が脱落して「オカ」となり、語頭に「チ」が連結して「ショカ」となった)

の転訛と解します。

414ハイヤ節・ハイヤエー ハイヤ・サーマ・ヨヤサカサッサ

 ハイヤ節の発祥地とされる北松浦郡田助港(現平戸市)地方の酒盛り唄です。

 歌詞には、
 ♪ハイヤエー ハイヤ可愛いや 今朝出た船はエー どこの港にサーマ 着いたやらエー
とあります。
 後囃子の中に「川端に九把ある稲が二把残る 七把流れてヨヤサカサッサ」などがあります。
 曲名となっている囃子の「ハイヤエー」は、もと出船の掛け声といい、後囃子の「七把」は「質(しち)は」にかけたものと解されています。

 この「ハイヤエー ハイヤ」、「サーマ」、「ヨヤサカサッサ」は、

  「ハ・アイア・エヘ・ハ・アイア」、HA-AIA-EHE-HA-AIA(ha=what!;aia=kaitoa=expressing satisfaction or complacency at all event,it is good,it serves one right etc.;ehe=expressing surprise)、「なんと・良かった・よ・ほんとに・良かったよ」(「エヘ」のH音が脱落して「エエ」となった)

  「タマ」、TAMA(son,child,man)、「(あの恋しい)お方」

  「イ・オイ・イア・タカ・タタ」、I-OI-IA-TAKA-TATA(i=past tense;oi=shout,shudder,move continuously,agitate;ia=indeed;taka=fall off,fail of fulfilment as a promise etc,;tata=near of place or time,suddenly)、「実に・急に・約束が果たされなく・なって・しまっ・たよ」

の転訛と解します。

 

415盆十五夜綱引唄(ぼんじゅうごやつなひきうた)・ヤッサンソリヒケ(ゾリゾリゾリ)・こって(牛)

 盆綱曳唄、壱岐節、ぞりぞり節ともいい、壱岐島一円で陰暦7月15日の晩に盆供養近隣の者が集まって綱引きをし、その勝負によつて吉凶を卜う行事の前に合唱する唄です。元来は、牛飼いの唄でした。

 歌詞には、
 ♪盆の十五日は 精霊さんの祭り 先祖供養に綱を引く ヤッサンソリヒケ ゾリゾリゾリ
とあります。
 歌詞の中には「志原こっての牛 初山牝牛 綱が長いので かかり合う」などがあります。
 上記の囃子の「ゾリゾリゾリ」は、綱が地を擦る音(擬音語)と、歌詞の「こって」は方言で「牡牛」(東日本篇の023南部牛追唄の項の「こで」および「こっとい」の解釈を参照してください。)の意と解されます。

 この「ヤッサンソリヒケ」、「こって」は、

  「イア・タ(ン)ガ・タウリ・ヒカイカイ」、IA-TANGA-TAURI-HIKAIKAI(ia=indeed;tanga=be assembled.row,tier;tauri=fillet,band,bind;kikaikai=move the feet to and fro,writhe,be impatient)、「実に・(人々が)列を作って・(紐)褌を締めて・足を踏ん張って(綱を)引く」(「タ(ン)ガ」のNG音がN音に変化して「タナ」から「サン」と、「タウリ」のAU音がO音に変化して「トリ」から「ソリ」と、「ヒカイカイ」の反復語尾が脱落し、AI音がE音に変化して「ヒケ」となった)

  「コ・タイ」、KO-TAI(ko=a particle used before proper names or pronouns and common nouns to give emphasis;tai=tide,anger,rage,violence)、「凶暴な・牛(牡牛)」(「タイ」のAI音がE音に変化して「テ」となった)

の転訛と解します。

[熊本県]

421おてもやん・ぐじゃっぺ・きゃあ・ぼうぶら・げんぱく・アカチャカペッチャカ チャカチャカチャ

 熊本市を中心に県下一円に唄われる名物唄です。

 歌詞には、
 ♪おてもやん あんたこの頃 嫁入したではないかいな 嫁入りしたこつァしたばってん 御亭どんがぐじゃっぺだるけんまァだ盃ァせんだった 村役鳶役肝入りどん あん人たちの居らすけんで 後はどうなッときゃアなろたい 川端町つァんきゃァめぐろ 春日南瓜(かすがぼうぶら)どん達ァ 尻ひっ張ァて花盛り花盛り チイツクチイツク雲雀の子 ゲンパク茄子(なすび)のイガイガどん
  一つ山越え も一つ山越え あの山越えて わたしゃ貴方に惚れとるばい 惚れとるばってん言われんたい 追々彼岸も近まれば 若者衆も寄らすけん 熊本の夜聴聞詣(よじょもんみや)りに ゆるゆる話もきゃァしゅうたい 男振りには惚れんばな 煙草入れの銀金具が それがそもそも因縁たい アカチャカペッチャカ チャカチャカチャ
とあります。
 この「おてもやん」の「おても」は女の名で「おてもさん」の意、「ぐじゃっぺ」は「あばた面」の意、「きゃあ」は動詞の強調語、「春日南瓜(かすがぼうぶら)」は熊本駅近くの「春日町に産するかぼちゃ」の意、「ゲンパク茄子(なすび)」は「低品質の茄子の一種」と解されています。

 この「おてもやん」、「ぐじゃっぺ」、「きゃあ」、「ぼうぶら」、「げんぱく」、「アカチャカペッチャカ チャカチャカチャ」は、

  「オ・タイマウ・イ・ア(ン)ガ」、O-TAIMAU-I-ANGA(o=the...of;taimau=betrothed;i=past tense;anga=face or move in a certain direction,turn to doing anything)、「婚約したが・引っ返して・きた・女」(「タイマウ」のAI音がE音に、AU音がO音に変化して「テモ」と、「ア(ン)ガ」のNG音がN音に変化して「アナ」から「アン」となった)

  「(ン)グツ(ン)グツ・アパイ」、NGUTUNGUTU-APAI(ngutungutu=flame,burn,angry dispute;apai=front wall of a house)、「(家の正面)顔に・問題がある(ひどいあばた面など)」(「(ン)グツ(ン)グツ」の反復語尾が脱落し、NG音がG音に変化して「グツ」と、「アパイ」のAI音がE音に変化して「アペ」となり、「グツ・アペ」から「グジャッペ」となった)

  「キア」、KIA(to introduce a proposition,to denote wish or purpose or effect etc.)、「そう、どう(など。強調語)」

  「ポイ・フラ」、POI-HURA(poi=ball,lump;hura=remove a covering,uncover,bare,bald)、「皮が剥けた(皮ごと食べられる)・玉(の形をした野菜。かぼちゃ)」(「ポイ」のI音が脱落して「ポ」から「ボー」と、「フラ」が濁音化して「ブラ」となった。近畿以西の方言では「ボウブラ」ですが、地方によっては「ボブラ」、「ボーフラ」ともいいます(岩波版)。)

  「(ン)ゲネ・パク」、NGENE-PAKU(ngene=wrinkle,fat;paku=dried,small)、「皺が寄って・小さい(低品質の。茄子)」(「(ン)ゲネ」のNG音がG音に変化して「ゲネ」から「ゲン」となった)

  「アカ・チアカ・パイ・チアカ・チアカ・チアカ・チア」、AKA-TIAKA-PAI-TIAKA-TIAKA-TIAKA-TIA(aka=anga=face or move in a certain direction,turn to doing anything;tiaka=mother,leader of a flock of kaka(native parrot) etc.;pai=good,excellent,suitable;tia=stick in,take a vigorous stroke in puddling)、「(婚約を取り消して)引っ返した・肝っ玉母ちゃん・すごい・母ちゃん・母ちゃん・母ちゃんが・邁進する」(「パイ」のAI音がE音に変化して「ペ」となった)

の転訛と解します。

422キンキラキン節・ソラ キンキラキン・蟹正(がねまさ)どん

 ポンポコニャ節などとともに熊本の花柳界で唄われている酒席唄です。起源は、明和年間、名君とうたわれた八代藩主細川重賢公が出した奢侈禁止令に反発したものといわれます。

 正調の歌詞には、
 ♪肥後の刀の 下げ緒の長さ 長さばい ソラ キンキラキン まさか違えば 玉襷 それもそうかい キンキラキン
 (囃子)♪キンキラキンの蟹正(がねまさ)どん 蟹正どんの横ばいばい 田圃の端まで ごそごそ
とあります。
 この「蟹正(がねまさ)どん」は方言で「蟹」の意ですが、八代藩主細川重賢公が財政再建のために家老に登用した堀平太左衛門の顧問となった布屋の政さんを指すという説があります。

 この「ソラ キンキラキン」、「がねまさどん」は、

  「トラ・キニ・キ・イラ・キニ」、TORA-KINI-KI-IRA-KINI(tora=burn,blaze,be erect(used of showing warlike feelings);(Hawaii)kini=many,multitude;ki=full,very;ira=variegated,shine,glitter)、「(燃えるように)光る・たいへん・すごく・しきりに・輝く(着物)」(「トラ」が「ソラ」と、「キニ」が「キン」と、「キ」のI音と「イラ」の語頭のI音が連結して「キラ」となった)

  「(ン)ガネヘネヘ・マタ・トノ」、NGANEHENEHE-MATA-TONO(nganehenehe=querulous,peevish;mata=face,eye;tono=command,demand)、「気難しい・顔をした・(命令をする)殿(蟹)」(「(ン)ガネヘネヘ」の反復語尾およびH音が脱落し、NG音がG音に変化して「ガネ」と、「トノ」が「ドン」となった)または「(ン)ガ(ン)ガナ・マタ・トノ」、NGANGANA-MATA-TONO(ngangana=red,glow;mata=face,eye;tono=command,demand)、「赤い・顔をした・(命令をする)殿(蟹)」(「(ン)ガ(ン)ガナ」の反復語頭が脱落し、NG音がG音に変化して「ガナ」から「ガネ」と、「トノ」が「ドン」となった)

の転訛と解します。

423ポンポコニャ節・オヤポンポコニャ・オオサポンポコポンポコニャ

 主として熊本市で唄われる酒席唄です。

 歌詞には、
 ♪花の熊本 涼みがてらに 眺むればオヤポンポコニャ 清水湧き出す 水前寺 少し下がればオヤ 画津湖の舟遊びオオサポンポコポンポコニャ
とあります。

 この「オヤポンポコニャ」、「オオサポンポコポンポコニャ」は、

  「オ・イア・ポノ・ポコ・(ン)ギア」、O-IA-PONO-POKO-NGIA(o=the...of;ia=indeed;pono=true,hospitable,bountiful;poko=go out as fire,extinguish;ngia=seem,appear to be)、「あの・実に・気前よく・(水が)噴き出すのが・見えた」(「ポノ」が「ポン」と、「(ン)ギア」のNG音がN音に変化して「ニア」から「ニヤ」となった)

  「オホ・タ・ポノ・ポコ・ポノ・ポコ・(ン)ギア」、OHO-TA-PONO-POKO-PONO-POKO-NGIA(oho=start from fear or surprise etc.,spring up;ta=dash,beat,lay;pono=true,hospitable,bountiful;poko=go out as fire,extinguish;ngia=seem,appear to be)、「びっくりした・ことがある・気前よく・(水が)噴き出す・気前よく・噴き出すのが・見えた」(「ポノ」が「ポン」と、「(ン)ギア」のNG音がN音に変化して「ニア」から「ニヤ」となった)

の転訛と解します。

424のんしこら・柴茶(しばちゃ)・ノーンシコラ・アラ・ノーンシノンシ ホッホ

 県北の玉名郡長洲町を中心に玉名海岸一帯で唄われる祝儀唄です。

 歌詞には、
 ♪親は鈍なもの 柴茶に迷うてノーンシコラ 知らぬ他村に娘やる アラ良かノーンシノンシ ホッホよかよか 良うなかばってん どうしゅうかい 堪忍さァい 堪忍さァい
とあります。

 この「しばちゃ」、「ノーンシコラ」、「アラ」、「ノーンシノンシ ホッホ」は、

  「チチパ・チア」、TITIPA-TIA(titipa=deceitful,turn aside;tia=stick in,adorn by sticking in feathers)、「偽りの・飾り立て」(「チチパ」が「チパ」から「シバ」となった)

  「ノノチ・コラ」、NONOTI-KORA(noti,nonoti=pinch or contract as with a band or ligature;kora=yonder,that place at a distant)、「(嫁にやった娘は、遠い)知らぬ他村で・いじめられる」(「ノノチ」が「ノンチ」から「ノンシ」となった)

  「アラ」、ARA(and then,yonder,expressing surprise etc.)、「そして」

  「ノノチ・ノノチ・ホホ」、NONOTI-NONOTI-HOHO(noti,nonoti=pinch or contract as with a band or ligature;hoho=speak angrily,buzz,standing out,prominent)、「いじめられる・いじめられる・可哀想に」(「ノノチ」が「ノンチ」から「ノンシ」となった)

の転訛と解します。

425五木の子守唄・おどま・かんじん(非人)・さるこ・ねずむ・こさぐ・こくる

 球磨郡五木村を中心として唄われる子守唄です。

 歌詞には、
 ♪おどま盆限り盆限り 盆かる先アおらんと 盆が早よ来りゃ 早よ戻る
  おどま非人(かんじん)々々 あん人達ァ良か人(し) 良か人良か帯 良か着物(きもん)
とあります。
 歌詞の中には、「…ぐゎんぐゎら打ってさるこ…」、「…眠らぬ餓鬼は 頭叩いて 尻ねずむ」、「…他人の飯は 煮えちゃおれども 喉こさぐ」、「…守がこくれば 子もこくる」などがあります。
 上記の「おどま」は方言で「私。自分たち」の意、「かんじん」は勧進で方言で「乞食。農奴(卑称)」の意、「ぐゎんがゎら」は「ブリキ缶のようなもの」の意、「さるこ」は方言で「歩く」の意、「ねずむ」は方言で「抓(つね)る」の意、「こさぐ」は方言で「つかえる」の意、「こくる」は方言で「つまずいて倒れる」の意と解されています。

 この「おどま」、「かんじん」、「さるこ」、「ねずむ」、「こさぐ」、「こくる」は、

  「オ・タウマハ」、O-TAUMAHA(o=the...of;taumaha=heavy,of a genealogy)、「同じ・家系の者(我々)」(「タウマハ」のAU音がO音に変化し、H音が脱落して「オトマ」から「オドマ」となった)

  「カ(ン)ガ・チノ」、KANGA-TINO(kanga=curse,abuse,execrate(kakanga=slave);tino=essentiality,self)、「元来・呪われた者(非人。奴隷)」(「カ(ン)ガ」のNG音がN音に変化して「カナ」から「カン」と、「チノ」が「チン」から「ジン」となった)

  「タル・カウ」、TARU-KAU(taru=shake,overcome;kau=swim,wade)、「(鉦を)振り鳴らして・放浪する」(「カウ」のAU音がO音に変化して「コ」となった)

  「ネ・ツム」、NE-TUMU(ne=to give emphasis;tumu=halt suddenly,twitch,start)、「(赤ん坊を)力を入れて・つねる」

  「コ・タハ(ン)ゴイ」、KO-TAHANGOI(ko=to give emphasis;tahangoi=hesitateing,awkward,unaccustomed)、「(食物が)どうしても・(喉を)通ろうとしない」(「タハ(ン)ゴイ」のH音が脱落し、NG音がG音に、OI音がU音に変化して「タアグ」から「サグ」となった)

  「コ・クル」、KO-KURU(ko=to give emphasis;kuru=strike with a fist,pound,throw,weary)、「疲れ・果てる(その場に体が崩れ落ちる)」

の転訛と解します。

426球磨六調子(くまろくちょうし)・コイサッサコイサッサ・ヨイヤサー ヨイヤサー・ビックリビックリ シャックリシャシャメク・ろっちゅし(六調子)

 人吉市を中心として球磨郡一帯に唄われる祝儀唄です。鹿児島県の「薩摩六調子(さつまろっちゅし)」と同系のものと考えられます。

 歌詞には、
 ♪球磨で名所は 青井さんの御門 コイサッサコイサッサ 前は蓮池 桜馬場 ヨイヤサー ヨイヤサー
とあります。
 歌詞の中には「田舎庄屋どんの城下見物見やれ … 相良城下を あっちゃビックリこっちゃビックリビックリ シャックリシャシャメクところをあらまあ笑止や …」などがあります。

 この「コイサッサコイサッサ」、「ヨイヤサー ヨイヤサー」、「ビックリビックリ シャックリシャシャメク」、「ろっちゅし」は、

  「コイ・タタ・コイ・タタ」、KOI-TATA-KOI-TATA(koi=move about,good,suitable;tata=near of place or time,suddenly)、「(御門の)近くに・やってきた・近くに・やってきた」

  「イ・オイ・イア・タ・イ・オイ・イア・タ」、I-OI-IA-TA-I-OI-IA-TA(i=past tense;oi=shout,shudder,move continuously,agitate;ia=indeed;ta=dash,beat,lay)、「移動して・丁度・(そこに)いた・移動して・丁度・(そこに)いた」

  「ピヒ・クリ・ピヒ・クリ・チア・クリ・チア・チア・マイクク」、PIHI-KURI-PIHI-KURI-TIA-KURI-TIA-TIA-MAIKUKU(pihi=spring up,begin to grow;kuri=dog;tia=stick in,take a vigorous stroke in puddling;maikuku=nail of a finger or toe,claw,hoof)、「犬が・飛び起きて・犬が・飛び起きて・犬が・(飛びかかろうと)前足で地面を掻いて・爪を立てて・地面を掻いた・掻いた」(「ピヒ」のH音が脱落して「ピ」と、「マイクク」のAI音がE音に変化し、反復語尾が脱落して「メク」となった)

  「ロツ・チウ・ウチウチ」、ROTU-TIU-UTIUTI(rotu=favourable,put to sleep by means of a spell;tiu=soar,wander,swing,unsettled;utiuti=annoy,fuss,ado)、「好ましい・(テーマが)定まらない・バカ騒き(の唄)」(「チウ」の語尾のU音と「ウチウチ」の語頭のU音が連結し、「ウチウチ」の反復語尾が脱落して「チウチ」から「チュシ」となつた)

の転訛と解します。

[大分県]

431コツコツ節・サンヤリアー コツコツ・アー コツコツ

 日田盆地の中央、日田市で唄われる端唄風の民謡です。

 歌詞には、
 ♪お月さんでさえ 夜遊びなさる サンヤリアー コツコツ 年は若うて十三七ツ よしておくれや 雲隠れ アー コツコツ
とあります。

 この「サンヤリアー コツコツ」、「アー コツコツ」は、

  「タ(ン)ガ・イア・リア・コツア・コツア」、TANGA-IA-RIA-KOTUA-KOTUA(tanga=be assembled;ia=indeed;ria=screening,protecting;kotua=with the back towards one,ill omen,ill luck)、「(お月様がその光りを)遮る(雲の)・ほんとに・(一緒になった)蔭に隠れた・不吉だ・不吉だ」(「タ(ン)ガ」のNG音がN音に変化して「タナ」から「サン」と、「コツア」の語尾のA音が脱落して「コツ」となった)

  「ア・コツア・コツア」、A-KOTUA-KOTUA(a=the...of,and then,yes;kotua=with the back towards one,ill omen,illluck)、「ほんとに・不吉だ・不吉だ」(「コツア」の語尾のA音が脱落して「コツ」となった)

の転訛と解します。

432鶴崎踊(つるさきおどり)・ソレエ ソレエー ヤトヤ ソレサー

 大野川の河口の鶴崎港(現大分市)に古くから行われる盆踊唄です。毎年旧暦七月十七日から数日間にわたって思い思いの仮装で踊るもので、福岡県直方市の日若(ひわか)踊りとともに九州を代表する二大盆踊りの一つといわれます。

 左衛門の歌詞には、
 ♪ソレエ ソレエー ヤトヤ ソレサー 豊後鶴崎 その名も高い 踊る乙女の 品のよさ ソレエ ソレエー ヤトヤ ソレサー
とあります。

 この「ソレエ ソレエー ヤトヤ ソレサー」は、

  「トレ・エ・トレ・エ・イア・ト・イア・トレ・タ」、TORE-E-TORE-E-IA-TO-IA-TORE-TA(tore=burn,be erect(used of showing warlike feelings),shine,quick;e=calling attention or expressing surprise;ia=indeed;to=drag;ta=dash,beat,lay)、「パッと・輝く・パッと・輝く・ほんとに・ほんとに・引きつけられる・輝きが・ある」

の転訛と解します。

[宮崎県]

441稗搗節(ひえつきぶし)・ヨー オーホイ・おどま・いやばお・どま・しおる・こま(茶どき)

 東臼杵郡椎葉村地方でかつて常食とする稗を臼・竪杵で搗きながら唄った作業唄で、近年はお座敷唄となっています。

 歌詞には、
 ♪庭の山椒(さんしゅ)の木に 鳴る鈴かけてヨー オーホイ 鈴の鳴るときゃ 出てヨー おじゃれヨー
とあります。
 歌詞の中には「おどまいやばお この山奥で 鳥の鳴く声 聞くばかり」、「稗の五升どま 唄でも搗くが …」、「前の丸木橋 様となら渡ろ 中でしおるりゃ 諸共に」、「ここで別れて 又いつ逢おか 明けて三月 小ま茶どき」などがあります。
 上記の「おどま」は方言で「私。自分たち」の意、「いやばお」は「いやだ」の意、「どま」は方言で「くらい」の意、「しおる」は方言で「曲がる」の意、「こま」は「細茶の芽ぐむ頃」の意と解されています。

 この「ヨー オーホイ」、「おどま」、「いやばお」、「どま」、「しおる」、「こま」は、

  「イ・オ・オ・ホイ」、I-O-O-HOI(i=past tense;o=find room, be capable of being contained or enclosed,get in;hoi=far off,distant,=heoi=denoting completeness or sufficiency of a statement or enumeration,there is no more)、「(ここで)生きる場所を見付け・た・辺鄙な場所に・到着した」

  「オ・タウマハ」、O-TAUMAHA(o=the...of;taumaha=heavy,of a genealogy)、「同じ・家系の者(我々)」(「タウマハ」のAU音がO音に変化し、H音が脱落して「オトマ」から「オドマ」となった)(前出425五木の子守唄の「おどま」の項を再掲しました。)

  「イア・パオ」、IA-PAO(ia=indeed;pao=stare vacantly,have a far -off look(paopao=refuse,reject anything offered,make littlr of))、「実に・(ポカンと)遠くを見つめる」(「パオ」が「バオ」となった)

  「タウマハ」、TAUMAHA(heavy,of a genealogy)、「重さまたは量」(AU音がO音に変化し、H音が脱落して「トマ」から「ドマ」となった)

  「チ・オル」、TI-ORU(ti=throw,cast;oru=boggy,bog,deep hole)、「(深い)谷底へ・投げ出される」

  「カウ・マ」、KAU-MA(kau=alone,only,as soon as;ma=go,come)、「やがて・やってくる(茶摘みの季節)」(「カウ」のAU音がO音に変化して「コ」となった)

の転訛と解します。

442夜神楽せり唄・サイナ・ノンノコ サイサイ・ア ヨイヨイサッサ ヨイサッサ ヨイヨイサッサ ヨイサッサ

西臼杵郡高千穂町地方には、岩戸神社に岩戸神楽三十三番が保存されていますが、秋の収穫後には各部落の民家でも野神楽または夜神楽と称する神楽が老若男女が集まって演じられます。夜神楽を演じる部屋と戸外で見物する席との間には、竹竿の仕切りが置かれますが、ここで村の若者が神楽を見ながらせりあう(もみあう)ときの唄です。

 歌詞には、
 ♪今宵 夜神楽にゃ せろとて来たが サイナ せらにゃ そこのけ わしがせる ノンノコ サイサイ
 (せりの掛け声)ア ヨイヨイサッサ ヨイサッサ ヨイヨイサッサ ヨイサッサ
とあります。

 この「サイナ」、「ノンノコ サイサイ」、「ア ヨイヨイサッサ ヨイサッサ ヨイヨイサッサ ヨイサッサ」は、

  「タイナ」、TAINA(younger brother of a man,younger sister of a woman)、「弟よ」

  「(ン)ゴ(ン)ゴ・コ・タイタイ」、NGONGO-KO-TAITAI(ngongo=sick person,invalid;ko=adressing to males and females;taitai=dash,knock,perform certain ceremonies to remove tapu etc.)、「病人(または子供など弱者)の・男女に・病を癒す祈祷をした」(「(ン)ゴ(ン)ゴ」のNG音がN音に変化して「ノノ」から「ノンノ」となった)

  「ア・イ・オイ・イ・オイ・タタ・イ・オイ・タタ・イ・オイ・イ・オイ・タタ・イ・オイ・タタ」、A-I-OI-I-OI-TATA-I-OI-TATA-I-OI-I-OI-TATA-I-OI-TATA(a=the...of,well,then;i=past tense;oi=shout,shudder,move continuously,agitate;tata=dash down,strike repeatedly,near of place or time,suddenly)、「そこで・(動いた)もみ合っ・た・もみ合っ・た・何回ももみ合った・もみ合っ・た・何回ももみ合った・もみ合っ・た・もみ合っ・た・何回ももみ合った・もみ合っ・た・何回ももみ合った」

の転訛と解します。

443安久節(やっさぶし)・つぶれ・泥田(むただ)・オハラ・ヤッサ ヤッサ・情人(しゃんす)・砂原おしし・トコサッサ ヨイサッサ・御息女(おごじょ)

 旧北諸県郡中郷村安久(現都城市)を中心として唄われる酒宴唄です。慶長14年島津家久の琉球征伐に参加した安久武士の陣中唄であったと伝えられます。

 歌詞には、
 ♪安久(やっさ)武士なら 尻高うつぶれ 前は泥田(むただ)で オハラ 深うござる ヤッサ ヤッサ
 (囃子)♪お前情人(しゃんす)の腰元 情人が見たなら 砂原おししで お溜りゃあるまい トコサッサ ヨイサッサ
とあります。
 歌詞の中には「御息女(おごじょ)こらこら 簪が落ちた …」などがあります。
 上記の「つぶれ」は方言で「端折る」の意、「御息女(おごじょ)」は方言で「お嬢様」の意とされます。

 この「つぶれ」、「オハラ」、「むただ」、「ヤッサ ヤッサ」、「しゃんす」、「すなはらおしし」、「トコサッサ ヨイサッサ」、「おごじょ」は、

  「ツプ・レイ」、TUPU-REI(tupu=grow,be firmly fixed;rei=breast,chest)、「(袴を)腰に(高く)・固定する(からげる)」(「レイ」が「レ」となった)

  「ムフ・タタ」、MUHU-TATA(muhu=grope,feel after, push one's way through bushes etc.;tata=dash down,strike repeatedly,hew out)、「(手探りするよいに)一足一足ゆっくりと・力を入れて進む(場所。泥田)」(「ムフ」のH音が脱落して「ム」となった)

  「オ・ハラ」、O-HARA(o=the...of;hara=excess above a round number(harahara=abundunce))、「実に・大変(深い)」

  「イア・タ・イア・タ」、IA-TA-IA-TA(ia=indeed;ta=dash,beat,lay)、「実に・力を入れて歩く・実に・力を入れて歩く」

  「チ・ア(ン)ギツ」、TI-ANGITU(ti=throw,cast;angitu=luck,success)、「(幸運)幸福を・くれる(人。情人)」({ア(ン)ギツ」のNG音がN音に変化して「アニツ」から「アンス」となった)(長崎県の412ぶらぶら節のしゃんす(情人)の項を再掲しました)

  「ツ(ン)ガ(ン)ガ・ハラ・オ・チチ」、TUNGANGA-HARA-O-TITI(tunganga=be out of breath;hara=excess above a round number;o=the...of;titi=peg,shine,adorn by sticking feathers etc.)、「たいへん・着飾った・姿に・息をのむ」(「ツ(ン)ガ(ン)ガ」のNG音がN音に変化し、反復語尾が脱落して「ツナ」から「スナ」となった)

  「トコ・タタ・イ・オイ・タタ」、TOKO-TATA-I-OI-TATA(toko=begin to move,swell,spring up inthe mind of feelings and emotions;tata=near of place or time,suddenly;i=past tense;oi=shout,shudder,move continuously,agitate)、「すぐに・気持が高ぶって・すぐに・(動く)寄ってゆくよ」

  「オ・(ン)ガウ・チオ」、O-NGAU-TIO(o=the...of;ngau=bite,hurt,affect,attack;tio=cry,call)、「あの・(人に激しく)くってかかる・(大きな声で)叫ぶ(女性)」(「(ン)ガウ」のNG音がG音に、AU音がO音に変化して「オゴ」となった)

の転訛と解します。

[鹿児島県]

451潮替節(しおかえぶし)・さゆる・まぎる(間切る)・けなげる・どえ

 鰹漁潮替節ともいい、川辺郡枕崎海岸地方で鰹を釣るときの撒き餌のキビナゴを飼つておく樽の潮を汲み替えるときの作業唄です。

 歌詞には、
 ♪潮も替え前 夜も明ける前 家じゃ妻子も 起きる前
とあります。
 歌詞の中には「東新曽根も 西新曽根も 風がさゆれば 間切られぬ」、「他人の馴染みは けなげて通る …」、「船が三艘出て どえがどえと知れぬ …」などがあります。
 上記の「まぎる(間切る)」は方言で「風に向かって帆走するために蛇行する」の意、「けなげる」は方言で「蹴飛ばす」の意と解されています。

 この「さゆる」、「まぎる」、「けなげる」、「どえ」は、

  「タイウル」、TAIURU(lean,decline from the perpendicular)、「(潮・風の)向きが変わる」(「タイウル」が「タユル」から「サユル」となった)

  「マ(ン)ギ・ル」、MANGI-RU(mangi=floating,drifting,unsettled,quick;ru=shake,agitate,scatter)、「(風に奮起して)逆らって・(風上へ向かって)蛇行して進む」(「マ(ン)ギ」のNG音がG音に変化して「マギ」となった)

  「カイ・ナ・(ン)ガエ・ル」、KAI-NA-NGAE-RU(kai=fulfil its proper function,have full play:na=by,by way of;ngae,ngaengae=heel;ru=shake,agitate,scatter)、「かかと・が・しっかり・(役割を果たした)蹴飛ばした」(「カイ」のAI音がE音に変化して「ケ」と、「(ン)ガエ」のNG音がG音に、AE音がE音に変化して「ゲ」となった)

  「トエ」、TOE(split,divide)、「(船を)区別する(見分ける)」

の転訛と解します。

452鹿児島小原良節(かごしまおはらぶし)・オハラハー・ハ ヨイヤサー ヨイヤサー・青年(にせ)・はっちこそ・蛙(どんこ)

 元来宮崎県旧北諸県郡中郷村安久(やっさ。現都城市)を中心として唄われた「ヤッサ節」が、鹿児島郊外の伊敷村に入って「原良(はらら)節」となり、さらに鹿児島地方一帯の唄となるに及んで「小原良(おはら)節」となったものです。労作唄であり、かつ酒宴唄でもあります。

 歌詞には、
 ♪花は霧島 煙草は国分 燃えて上がるは オハラハー 桜島(ハ ヨイサー ヨイヤサー)
 (囃子)♪良かならおじゃんせ 来やしゃんせ 親の譲りもんじゃ 買うたもんじゃごっせん 今来た青年(にせ)どん はっちこそな青年どん
とあります。
 歌詞の中には「石垣蛙(どんこ)が顔出した …」などがあります。

 この「オハラハー」、「ハ ヨイサー ヨイヤサー」、「にせ」、「はっちこそ」、「どんこ」は、

  「オ・ハラ・ハ」、O-HARA-HA(o=the...of;hara=excess above a round number(harahara=abundunce);ha=what!)、「(桜島から上る煙は)なんと・まあ・大きい(多い)こと」

  「ハ・イ・オイ・タ・イ・オイ・イア・タ」、HA-I-OI-IA-TA-I-OI-IA-TA(ha=what!;i=past tense;oi=shout,shudder,move continuously,agitate;ia=indeed;ta=dash,beat,lay)、「(桜島から上る煙は)なんと・勢いよく・上がって・ゆく・実に・勢いよく・上がって・ゆくよ」

  「ニヒ・タイ」、NIHI-TAI(nihi=move stealthly,timidity;tai=a term of address to males or females)、「おずおずと行動する・者(青年)」(「ニヒ」のH音が脱落して「ニ」と、「タイ」のAI音がE音に変化して「テ」から「セ」となった)(なお、若者の意の「にいせ(新背)」は、上記の「ニヒ」のH音が脱落して「ニイ」と、「タイ」のAI音がE音に変化して「テ」から「セ」となったもの、青二才の「にさい」は、上記の「ニヒ」のH音が脱落して「ニ」と、「タイ」が「サイ」となったもので、いずれも同語源です。)

  「パチコ・ト」、PATIKO-TO(patiko=headlong,in haste;to=drag)、「まっしぐらに・(引く)逃げ出す」(「パチコ」のP音がF音を経てH音に変化して「ハチコ」から「ハッチコ」となった)

  「トノ・カウ」、TONO-KAU(tono=bid,command,demand;kau=swim,wade)、「水の中に飛び込んで泳ぎ・たがる(習性を持つ動物)」(「トノ」の語尾のO音が脱落して「トン」から「ドン」に、「カウ」のAU音がO音に変化して「コ」となつた)(これは雑楽篇(その二)の610どんこ(蛙)の項を再掲しました。)

の転訛と解します。

453鹿児島よさこい・ア ヨサコイ ヨサコイ・鉄瓶(かなちょか)・いっぺこっぺ・すったい(大層)・はっちこ・とのじょ(亭主)

 土佐の名物唄382よさこい節が鹿児島へ伝えられたものかと考えられていますが、不詳です。

 歌詞には、
 ♪よさこい所か 今日この頃は 人の知らない苦労する ア ヨサコイ ヨサコイ
とあります。
 歌詞の中には「鹿児島言葉で 鉄瓶(かなちょか)茶瓶(ちゃじょか) いっぺこっぺ歩きましたや 大層(すったい)疲(だ)れもした」、「行こやはっちこや 太鼓三味線担(かる)て…」、「好かん亭主(とのじょ)を 八畳敷据えて 見れば蛙(どんこ)どんの 蠅取りの姿」などがあります。
 上記の「いっぺこっぺ」は方言で「彼方此方」の意、「すったい」は方言で「全く」の意と解されています。

 この「ア ヨサコイ ヨサコイ」、「ちょか」、「いっぺこっぺ」、「すったい」、「はっちこ」、「とのじょ」は、

  「ア・イ・アウタ・コイ・イ・アウタ・コイ」、A-I-AUTA-KOI-I-AUTA-KOI(a=and,and then,yes,well;i=past tense;auta=toss,writhe,encroach upon;koi=move about,good,suitable)、「そうだ・悩みを抱えて・うろうろする・悩みを抱えて・うろうろする」(「アウタ」のAU音がO音に変化して「オタ」から「オサ」となり、語頭の「イ」と連結して「ヨサ」となった)

  「チオカ」、TIOKA(pierce)、「(酒・茶などを入れる容器で縁に)穴を開けた(容器)」(紐で肩から吊して用いるもので、沖縄から薩摩に伝来したものかと考えられます。)

  「イ・パエ・コ・パエ」、I-PAE-KO-PAE(i=past tense,beside;pae=horizen,region,direction(paenga=margin,boundary);ko=yonder)、「こっちの・場所・あっちの・場所」(「パエ」のAE音がE音に変化して「ペ」となった)

  「ツ・タヒ」、TU-TAHI(tu=fight with,energetic;tahi=unique,together,throughout)、「ずっと・根を詰める(奮闘する)」(「タヒ」のH音が脱落して「タイ」となった)

  「パチコ」、PATIKO(headlong,in haste)、「まっしぐらに」(P音がF音を経てH音に変化して「ハチコ」から「ハッチコ」となった)

  「トノ・チオ」、TONO-TIO(bid,command,demand;tio=cry,call)、「(座ったままで)大きな声で・用を言いつける(人。亭主)」

の転訛と解します。

454鹿児島ハンヤ節・ハンヤエー ハンヤ ハンヤ・ハ ヨイヨイ ヨイヤサット・サーマ

 452鹿児島小原良節と同じく盛んに唄われる名物唄てす。出水郡阿具根港(現阿具根市)付近で始まったとする説、長崎県の414ハイヤ節が移入されたとする説があります。

 歌詞には、
 ♪ハンヤエー ハンヤ ハンヤで 半年ア暮れたナー(ハ ヨイヨイ ヨイヤサット)
  あとの半年ア サーマ 寝て暮らすナー(ハ ヨイヨイ ヨイヤサット)
とあります。

 この「ハンヤエー ハンヤ ハンヤ」、「ハ ヨイヨイ ヨイヤサット」、「サーマ」は、

  「ハ(ン)ガ・イア・エヘ・ハ(ン)ガ・イア・ハ(ン)ガ・イア」、HANGA-IA-EHE-HANGA-IA-HANGA-IA(hanga=make,work,business;ia=indeed,rushing stream;ehe=expressing surprise)、「なんと・懸命に・働いて・なあ・懸命に・働いて・懸命に・働いて」(「ハ(ン)ガ」のNG音がN音に変化して「ハナ」から「ハン」となった)

  「ハ・イ・オイ・イ・オイ・イ・オイ・イア・タタウ」、HA-I-OI-I-OI-I-OI-IA-TATAU(ha=what!;i=past tense;oi=shout,shudder,move continuously,agitate;ia=indeed;tatau=settle down upon)、「なんと・(動いて)働いて・働いて・働いて・やっと・腰を下ろしたよ」(「タタウ」のAU音がO音に変化して「タト」から「サット」となった)

  「タマ」、TAMA(son,child,man)、「貴方」

の転訛と解します。

455鹿児島浜節(かごしまはまぶし)・トコヨーイヤサッサ・ヤサホイノ・シテマタヨイヤサ コラショ

 主として花柳界で歌われるお座敷唄です。大正の頃に作られたものといいます。 

 歌詞には、
 ♪鹿児島離れて 南に八里 トコヨーイヤサッサ 波に花咲く ヤサホイノ 吹上浜 トコヨーイヤサッサ(シテマタヨイヤサ コラショ)
とあります。

 この「トコヨーイヤサッサ」、「ヤサホイノ」、「シテマタヨイヤサ コラショ」は、

  「トコ・イ・オイ・イア・タタ」、TOKO-I-OI-IA-TATA(toko=pole,propel with a pole,begin to move;i=past tense;oi=shout,shudder,move continuously,agitate;ia=indeed;tata=near of place or time,suddenly)、「(鹿児島を)出発して・実に・すぐ・(ここに)やって・きた」

  「イア・タ・ホイ・ノ」、IA-TA-HOI-NO(ia=indeed;ta=dash,beat,lay;hoi=far off,distant,deaf,noisy;no=of)、「実に・(波の)音が・高い・(場所)の(ところだよ)」

  「チ・タエ・マタ・イ・オイ・イア・タ・コラ・チオ」、TI-TAE-MATA-I-OI-IA-TA-KORA-TIO(ti=throw,cast,overcome;tae=arrive,extend to,touch of feelings,proceed to;mata=particle adding little force to the clause,just;i=past tense;oi=shout,shudder,move continuously,agitate;ia=indeed;ta=dash,beat,lay;kora=yonder,that place at a distance;tio=cry,call)、「まさに・気持が・揺れて・動い・て・座り・込んで・(この)遠い場所で・(声を張り上げて)唄うよ」(「タエ」のAE音がE音に変化して「テ」となった)

の転訛と解します。

[沖縄地方]

<おことわり> 沖縄地方および奄美諸島には、数多くの地方色豊かな民謡が存在しますが、その方言が難解で現在の私の能力では解釈が困難ですので、沖縄地方から461谷茶前節と462安里屋節の2曲のみを収録するに止めました。

461谷茶前節(たんちゃめーぶし)・するる小(ぐわ)・エ・ナンチャ マシマシ ディ アングワ ソイ ソイ・ナンチャ マシマシ ディ アングワ ヤクスク

 沖縄本島の漁村風景を唄った有名な舞踊唄です。

 歌詞には、
 ♪谷茶前(たんちゃめーぬ)の浜に するる小(ぐわ)が 寄ててんどエ するる小(ぐわ)が 寄ててんどエ ナンチャ マシマシ ディ アングワ ソイ ソイ(ナンチャ マシマシ ディ アングワ ヤクスク)
とあります。
 上記の歌詞は「谷茶前の浜辺にスルルという小魚が寄って来たぞエ。ああそれは良いことだ。姉さん、急いで一緒に行こう。」の意と解されています(岩波版)。
 また、上記の囃子詞の「ソイソイ」の代わりに「ヤクスク」と唄うことがあり、「姉さん約束したぞ(だから連れ添って行こう)」の意と解されています(岩波版)。

 この「するるぐわ」、「エ」、「ナンチャ マシマシ ディ アングワ ソイ ソイ」、「ナンチャ マシマシ ディ アングワ ヤクスク」は、

  「ツルル・(ン)グ・ワ」、TURURU-NGU-WA(tururu=cover oneself from the cold,crouch,be downcast;ngu=squid,egg case of paper nautilus,some marine animalcule;wa,wawa=a fish)、「元気がない(ふらふらになった)・ヤリイカ(などの)・魚」(「(ン)グ」のNG音がG音に変化して「グ」となった)

  「エ」、E(calling attention or expressing surprise)、「なんと」

  「ナナチ・イア・マチマチ・チア(ン)ガ・トイトイ」、NANATI-IA-MATIMATI-TIANGA-TOITOI(nanati=pinched,constricted,stifle,destroy;ia=indeed;matimati=toe and probably finger,a game involving quick movement of the fingers and hands;tianga=mat to lie on;toitoi=top,summit,move quickly,fish for eels etc.)、「(魚が)息も絶え絶えになつて・実に・(鰭・足など)体をばたつかせて・動く・一面の敷物(状になつている)」(「ナナチ」が「ナンチ」と、「チア(ン)ガ」が「ディアングワ」となった)

  「ナナチ・イア・マチマチ・チア(ン)ガ・イ・アク・ツク」、NANATI-IA-MATIMATI-TIANGA-I-AKU-TUKU(nanati=pinched,constricted,stifle,destroy;ia=indeed;matimati=toe and probably finger,a game involving quick movement of the fingers and hands;tianga=mat to lie on;i=past tense;aku=scrape out,cleanse;tuku=cat in a net)、「(魚が)息も絶え絶えになつて・実に・(鰭・足など)体をばたつかせて・一面の敷物(状になつている魚群)を・すべて・網に入れ・た(一網打尽にした)」(「ナナチ」が「ナンチ」と、「チア(ン)ガ」が「ディアングワ」となった)

の転訛と解します。

462安里屋節(あさどーやーぶし)・サアユイユイ・マタ ハーリヌ ツィンダラ カヌシャマヨー・ユンタ

 八重山群島の竹富島に伝わる唄で、歌詞は旧藩時代の役人の専横と農村の娘の理想や庶民の屈従などを唄つた長い叙事詩です。

 歌詞には、
 ♪安里屋(あさどーやー)ぬ くやまによ(サア ユイユイ)あん美(ちゅ)らさ 生(んま)りばしょ マタ ハーリヌ ツィンダラ カヌシャマヨー
と以下クドキ調の歌詞が繰り返されます。

 また上記を改作した替唄の「新安里屋ユンタ」の歌詞には、
 ♪サー君は野中の 茨の花か サーユイユイ 暮れて帰れば ヤレホンニ 引き留める マタ ハーリヌ ツィンダラ カヌシャマヨー
とあります。

 この「サアユイユイ」、「マタ ハーリヌ ツィンダラ カヌシャマヨー」、「ユンタ」は、

  「タハ・イ・フイ・イ・フイ」、TAHA-I-HUI-I-HUI(taha=pass on one side,go by;i=past tense;hui=come together,meet,take as plunder)、「(村の中を)歩き回って・(素敵な女に)巡り会・った・巡り会・った」(「タハ」のH音が脱落して「タア」から「サア」と「フイ」のH音が脱落し、UI音がU音に変化して「ウ」となった)

  「マタ・ハリ・ヌイ・チナ・タラ・カノイ・チア・マイオ」、MATA-HARI-NUI-TINA-TARA-KANOI-TIA-MAIO(mata=particle adding little force to the clause,just;hari=dance,sing a song to dance to,feel or show gladness;nui=big,many;tina=fixed,firm,satisfied;tara=loosen,brisk;kanoi=strand of a rope,twist;tia=stick in etc.,take a vigourous stroke in paddling,persistency;maio=calm)、「そこで・たっぷりと・唄い舞い・和やかな・気持になり・(男女が)絡み合って・長く・静かになった(眠った)」(「ヌイ」が「ヌ」と、「チナ」が「チン」と、「カノイ」のOI音がU音に変化して「カヌ」となった)

  「イ・フイ・(ン)ガタ」、I-HUI-NGATA(ipast tense;hui=come together,meet,take as plunder;ngata=appeased,satisfied)、「(素敵な女と)巡り会・って・幸せ(になつた。唄)」(「フイ」のH音が脱落し、UI音がU音に変化して「ウ」となり、前の「イ」と連結して「ユ」と、「(ン)ガタ」のNG音がN音に変化して「ナタ」から「ンタ」となった)

の転訛と解します。

トップページ 国語篇一覧 この篇のトップ 語 句 索 引

<修正経緯>

1 平成23年7月1日

 382よさこい節の項に「おらんく」の解釈を追加しました。

2 平成24年5月1日

 452鹿児島小原良節の項の「青年(にせ)」の解釈を修正しました。

国語篇(その十二)終り


U R L:  http://www.iris.dti.ne.jp/~muken/
タイトル:  夢間草廬(むけんのこや)
       ポリネシア語で解く日本の地名・日本の古典・日本語の語源
作  者:  井上政行(夢間)
Eメール:  muken@iris.dti.ne.jp
ご 注 意:  本ホームページの内容を論文等に引用される場合は、出典を明記してください。
(記載例  出典:ポリネシア語で解く日本の地名・日本の古典・日本語の語源
http://www.iris.dti.ne.jp/~muken/timei05.htm,date of access:05/08/01 など)
 このHPの内容をそのまま、または編集してファイル、電子出版または出版物として
許可なく販売することを禁じます。
Copyright(c)2008 Masayuki Inoue All right reserved