今宵、星降らぬ流星の夜に


貳
カノジョがキレイになったワケ

8月初め

キーパー:今は8月の初旬です。皆さんは万座区にあるビルの一室、SPHFの事務所にいることにしましょう。
一同:はい。
キーパー:SPHFの事務所に正職員はわずかしかいなくて、協会は主に有志のボランティア会員によって活動しています。何かテーマが決まったら暇な人が休日に集まって、ちょっとやってみて、焼き肉食って解散するというのがいつもの流れです。
泰野教授:ゆる~いわけね。
キーパー:「白凰市の伝承を後世に残すという、公益に資する活動をしていく!」というお題目があるわけではなく、あくまで趣味の延長です。
泰野教授:だから私でも顧問が務まっているんだな(笑)
一同:(笑)
眞仲 亜衣キーパー:さて、前回の会合の参加者が少なくて余っていたペットボトルのお茶などを飲みながら事務所にいると、「あ、お久しぶりです!」と言って女性が1人、入って来ます。最近仕事の都合で活動に参加していなかった、眞仲亜衣という女性です。
泰野教授:面識はあるわけだよね?
キーパー:面識はありますが、凄く久しぶりに顔を見ます。「最近仕事が立て込んでいて参加できなかったんですけど、一段落ついたのでまた活動に参加したいと思います。よろしくお願いします」ってな感じです。
新城:「いや、こちらこそお願いします」
キーパー:亜衣は25歳、金融機関職員ですね。で、しばらく見ない間に、なんだか魅力的になったと感じます。
泰野教授:ちょっとメイクが派手になったとか、服装が変わったってこと?
キーパー:何と言いますか、雰囲気が変わったという感じです。なんだか、自分に自信を持っているような、オーラ的なものが感じられます。
一同:ああ、なるほど。
須堂:「お仕事の方は順調に行くようになったのですか?」
キーパー:(亜衣)「ええ、実は……」ということで彼女は説明します。亜衣は職場の元先輩に誘われて、とあるスピリチュアル・サークルに通い始めたそうです。「そのスピリチュアル・サークルで気の持ちようをアドバイスされて、うまく仕事の方も回るようになったんですよ」
新城:「ほほう」
キーパー:(亜衣)「そのスピリチュアル・サークルは流星寺というお寺で毎週水曜日に会合を持っているんです」 流星寺という名称を聞いた皆さんは〈歴史〉〈考古学〉技能ロールをしてください。(コロコロ……全員成功)流星寺は1862年に一度廃寺になっていますが、ここ1年の内に再興された、ということを知っています。
新城:一度廃寺になったっていうことは、本来流星寺が建っていた場所には、現在別の何かがあるってことでしょうか?
キーパー:いえ、流星寺跡地は野ざらしになっていました。
泰野教授:廃墟だったのか。というか、1862年ってことはもう更地に近いか?
キーパー:そうですね。「柱が残っている」というレベルですらないでしょうし、辛うじて建物の残骸が残っているのが確認できた程度でしょう。そこは元白凰区にある山に近い区域です。
新城:山の中に、いつ朽ち果てたとも分からない物があったってわけですね。なるほど。そこにまた立派な建物が建ったということか。
須堂:珍しい話ですね。
キーパー:珍しい話だけど、皆無ってわけでもない。
泰野教授:どこからか住職さんがやって来たんだろうね。
新城:宗派ってどうなんでしょう? 完全に独立系ですか?
キーパー:そうですね。とりあえず、届を出して住職が来れば復興は可能だそうです、制度的に。でも、もう150年も前に廃寺になった寺を今頃なんで? っていうのはありますね。
新城:それなら、誰かの所有になったってことだよね。考古学的に調査をしてみようって思っても許可が下りない的な。
泰野教授:勝手には入れないよね。
キーパー:亜衣が言うには、流星寺は廃寺になった時に、所有物が近隣の寺などに散逸したんだそうです。引き取られなかった物は風雨に晒されて朽ち果ててしまったとのことです。
新城:御本尊とかは他の寺に引き取られた可能性がありますな。
キーパー:流星寺復興時に、それらをできるだけ集めて、持って来たのだそうです。
一同:ほほう。
キーパー:(亜衣)「そんな経緯があるので、流星寺をSPHFの研究対象としてみてはどうでしょう?」
新城:「それは良いな」
泰野教授:「どうせ今はこれと言って取り掛かっているテーマもないし、渡りに船なんじゃない? 研究対象として、こんなにはっきりと明確なものが転がり込んできたのだから、これをやってみるのはどう? 流星寺の今の住職さんは、そういうことには協力的な方なの?」
キーパー:(亜衣)「実は、SPHFの活動について話してみたら、協力すると約束してくれました」
新城:「それなら話が早い」
キーパー:(亜衣)「次回のサークルの会合の時にでも住職様と世話人の方を紹介できると思いますので、皆さん、一緒にサークルに参加しましょうよ!」
須堂:「ご住職と世話人さんのお名前は?」
キーパー:(亜衣)「ご住職は妙星尼様、世話人の方は井上さんです」
須堂:「尼僧さんですか」
キーパー:(亜衣)「では先生、新城さん、須堂さんと私で、次回の会合に行きましょう。会合の後に紹介します」 会合は水曜日の夜に定例開催なので、会社員の亜衣でも参加できます。水曜日はノー残業デーでもありますので。
泰野教授:なるほど。それなら大丈夫か。
キーパー:サークル会合自体も1~2時間程度です。
須堂:「ではアポイントメントは眞仲さんにお任せできますか?」
キーパー:(亜衣)「ええ、もちろん!」という経緯で、皆さんはスピリチュアル・サークルの会合に参加することとなります。


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