今宵、星降らぬ流星の夜に


伍
闇無天

8月5日(金)

キーパー:井上さんに出迎えられて今日もお仕事開始です。
新城:『喪星記』と『流星文書』、分量的にはどんなもんなんでしょう?
キーパー:どちらも読み込むのに丸一日かかると思ってください。『喪星記』の方が内容的にも分量的にも強敵ですが、ゲーム的に言うと『流星文書』は最初から最後まで全部読まなければ情報を得られないのに対して、『喪星記』は斜め読みで情報を得るという作業になります。
泰野教授:なるほど。手分けします?
新城:おそらく〈日本語の読み書き〉になると思うので、EDUの高いお二人が読んだ方が効率は良いんですよ。それをやっていただいている間に、私は本堂へ行って曼荼羅の方を調べてみようかなと思うんですけど。
須堂:「私が『流星文書』を読むので良いですか?」
泰野教授:「お願い。個人的に『喪星記』の方に興味があるので、私はこちらを読ませてもらいます」
新城:「一次資料ですからね」
泰野教授:「そうそう」 ではそういう分担で。

闇無天星喰曼荼羅キーパー:では……曼荼羅から行きましょうか。
新城:はい。
キーパー:井上さんが本堂の照明を明るくしてくれます。(井上)「こちらですが、闇無天星喰曼荼羅(あんむてんほしくいまんだら)と名称を伝えられています」
一同:闇無天……。
キーパー:字面はおどろおどろしいですが、まぁ仏教では特に珍しいことではありません。単なる当て字です。大暗黒天は護法善神ですし。
新城:なるほど。
キーパー:パッと見て分かるのは、胎蔵界曼荼羅の一番外縁は最外院といいますが、その下部、西側には星宿とか九曜といった天文天が描かれているのが一般的です。しかしそれが描かれていません。
新城:ほうほう。代わりに何かが描かれているというわけではなく?
キーパー:空欄になっています。
新城:それは破られたり消されたりしたわけではなく、故意に描かれていない、と。
キーパー:井上さんによると、「未完成のまま奉納されたのかもしれませんが、詳しくは分かっていません。対となる金剛界曼荼羅は見つかっていません」
新城:星宿、九曜の星関係がない……。十二宮も?
キーパー:そうですね。ではここで〈宗教学〉〈芸術〉ロールを振ってください。〈芸術〉は何でも良いですよ。
新城:さすがにどっちも持っていないな(笑)。とりあえず〈芸術〉5%で振ってみるか……。
キーパー:カード使えますよ。
新城:ここか? 【乾坤一擲】(※次の技能ロールに+50%のボーナスを得る)でとりあえず5割は越えるか。せっかくだから使ってみます。〈芸術〉55%……(コロコロ)……34、成功です!
一同:おお~!
キーパー:すると新城には分かります。この曼荼羅は、これで完成しています。つまり、天文天らは故意に描かれていないのです。「未完成のまま奉納されたのかもしれない」という井上惺子の言葉は、どうやら正しくないようです。
新城:つまり“こういうもの”というわけですな。それならば、この仰々しい「星喰曼荼羅」の題名とも一致しますね。そういう意図のもとに、これは描かれたんだな。なるほど。「詳しく調べなくては分かりませんが、これはこれで完成しているのかもしれませんね」と井上さんには伝えておきます。
キーパー:曼荼羅を詳しく調べた新城は正気度ロールをしてください。
新城:きゃっほーーーっ!! (コロコロ)成功です。
キーパー1D2ポイントの正気度を失います(※2ポイント失いました)。世界の縮図が曼荼羅ですから、天文天なしで完成した世界というものを垣間見て、ゾクッとしたという所です。
新城:「いや~な感じだな~、恐いな~、恐いな~」(※稲川淳二風に)

キーパー:『喪星記』を読んでいるのは誰でしたっけ?
泰野教授:ハイ! 斜め読みしています、ゲーム的に言うと。
キーパー:ゲーム的に言うと〈日本語の読み書き〉ロールをしてください。
泰野教授:(コロコロ……)20、成功です。
キーパー:『喪星記』は闇無天に関する儀式、祭式、実践の集成です。その他、聞いたことのない神格について論じています。内容の大部分は闇無天に関することで、いつの日か妙星尼に導かれた闇無天が、星々とすべての光を喰らうために戻ってくると予言をしています。続いて、読者がどのようにすればこのプロセスを支援できるかが説明されています。
泰野教授:「星々とすべての光を喰らうために戻ってくる……」
キーパー:思っていた経典とは違いました。不吉な内容の書物を読んで肝を冷やした先生は正気度ロールを振ってください。
泰野教授:普通の経典だと思って読んでいたわけだからね。(コロコロ……)04!
キーパー1D2ポイントで良いです(※2ポイント喪失しました)。倉庫の照明が瞬いたりして、恐怖を演出します。
泰野教授:支援プロセスについて具体的な記述はあるんですか?
キーパー:信者を増やして、護符を持たせて、といったようなことが書いてありますね。護符の作り方も記されています。
泰野教授:「護符って……コレ?」(※首から下げた護符を見下ろす)

キーパー:次。『流星文書』。〈日本語〉ロール
須堂:(コロコロ……)51、成功です。
キーパー:これは安政元年、1854年から書き綴られている日記です。筆者は妙星尼です。内容をかいつまんで話すと、妙星尼は闇無天に力を注ぎ込むために流星寺に尼僧を集め、自らは土中入定して闇無天の復活に備えようとしていた、というものです。要するに即身仏になるつもりでいたわけです。
一同:ほほ~。
キーパー:妙星尼の最後の書き込みは土中入定する前日の安政6年、1859年です。土中入定して3年3か月後に掘り出されて即身仏として整えられる、というのが手順です。即身仏となって、闇無天に永遠に仕えるという計画を妙星尼は立てていたというわけです。
泰野教授:ふむ。
キーパー:しかし、妙星尼の最後の書き込みに続いて、妙星尼と闇無天の計画を恐れた尼僧・蓮惺(れんしょう)が妙星尼を裏切って、土の中から掘り返さないことにしたとの記述があります。最後の書き込みは文久2年(1862年)に「土中から妙星尼の恨めしい声が聞こえる」という怪談じみたものです。
泰野教授:廃寺になったのは確かちょうど1862年だったよね。
キーパー:そうでしたね。須堂は〈天文学〉技能ロールを。
須堂:1%です。(コロコロ……)失敗。
キーパー:特に何も分からず(※成功していれば、1862年が大規模なペルセウス座流星群のあった年であることが分かりました)

新城:一種の末世信仰ですかね。弥勒信仰に近いものがありますよね。土中入定して何らかの救いをもたらすものを待つって。即身仏ってそういうものですからね。代々そういうことを司る尼僧のことを「妙星尼」と呼んだのかもしれない。
泰野教授:蓮惺さんは何を恐れたんだろう? 裏切ったのはなんで? 即身仏になるって別に良いことじゃん、お寺としては。そこが疑問なんだけど。
キーパー:残念ながら『蓮惺日記』はないので、そこは分かりませんな。
新城:事情は分からないけど、たぶん、教団内での勢力争いがあったのではないかと。妙星尼が即身仏になるってことは、後継者争いがあったんじゃないですかね?
泰野教授:この当時の妙星尼は住職だったのかね?
キーパー:そうでしょうね。当時の流星寺の責任者ではあったようですね。
新城:でも、住職であったかどうかは問題じゃないと思うんですよ、この信仰形態の中核をなす人物が妙星尼であることが大事なのであって。今もそうじゃないですか。
泰野教授:確かにね。
新城:今の妙星尼様も、「妙星尼」と名乗っていることで信仰の中心となっているわけですよね。ということは、カリスマのある教祖がいなくなって、後継者争いがあって細分化してだんだん消えていくっていうのは、古今東西、新宗教ではざらにある話ですよね。主流派と反主流派で何らかの争いがあったのかもしれない。
泰野教授:「掘り出すのやーめた」っていう。
新城:そうそう。それを傍証する何等かの資料が出てくると良いんですが。学問的にはそういう解釈ですよね。
泰野教授:「……ということは、即身仏がどこかに埋まっているんだよね、まだ。掘り出さなかったわけだから」
新城:「可能性はありますね。流星寺の場所は変わっていないということですから、ひょっとしたら……」
泰野教授:「この敷地内のどこかにあるかもしれない」
新城:「この『流星文書』を信じるとすればですけどね」
泰野教授:「学問的には非常に興味深い対象なのよね……」
キーパー:尼僧の即身仏は見つかっていませんからね。
泰野教授:そうなの!?
新城:女性のミイラは見つかっているんですけど、即身仏になった女性は見つかっていませんな。
泰野教授:「ちょっとこれ、学会で名を売るチャンスなのでは……!」
新城:「もうちょっと補強する一次資料がないと何とも言えませんけど、テーマとしては結構面白そうですね」
泰野教授:「そうでしょ? ヘビーな話で良いんじゃないかしら。これが上手くいけば、新城君も共同執筆者として名前を載せて上げても良いのよ」
新城:「……!」 ゴーストライターに甘んじます(笑) 「壺カルビで手を打ちましょう」 安っ(笑)
泰野教授:「え、そんなので良いの!? 特上カルビでも良いのよ!?」
須堂:何にしても、私はお二人が論文を書くことで月給をもらっていますので、協力は惜しみません(笑)

須堂 建次キーパー:それぞれ分担を終えたところで、撤収の時間が迫ってまいりました。倉庫に井上さんが来て、「今日もお疲れ様でした」と最後の麦茶を挿し入れてくれます。
須堂:井上さんに「『流星文書』をお読みになられましたか?」と聞きます。
キーパー:(井上)「いいえ、読んではいませんが」
須堂:「井上さんの御先祖様に、蓮惺さんという尼僧はおられましたか?」
キーパー:(井上)「さぁ、どうでしょうか。分かりません」 オレも祖父さんの祖父さんの名前なんて知らんしね。
新城:まぁ、確かに(笑)
須堂:実家がお寺だというから、何か記録が残っているかもと思ったんですが。「この日記の筆者が途中から蓮惺という方に変わっていますので、最終筆記者と縁故があったのかと思いまして」
キーパー:(井上)「そういうことであれば、可能性はあると思います。同じ字(※惺)を持っているというのにも運命を感じますしね」
須堂:「もしできましたら、ご実家の方へ問い合わせてみて頂いて、何か分かったら教えていただきたいのですが」
キーパー:(井上)「分かりました。できる範囲で調べてみます」ここで皆さん、〈心理学〉ロールを……(コロコロ、全員失敗)。
泰野教授:ここで【名誉挽回】(※失敗した技能ロールを振りなおす)を使って! 55%をもう一度! (コロコロ)66、失敗。
一同:あるある(笑)(※成功していれば、蓮惺の名を聞いて井上惺子が動揺していることが見抜けました)
泰野教授:「妙星尼様は『喪星記』をお読みになったということですよね?」
キーパー:(井上)「ええ、もちろんです」
泰野教授:「闇無天様というのは、あまり聞き慣れない仏様ですけど、どういうご利益があるのでしょうか?」
新城:「それに、御姿も」
キーパー:(井上)「御姿はまったく伝わっておりません。闇無天様は女性の内なる力の高まりを喚起すると伝えられています。だから、女性の心に対して響くものがあるのではないかと」
泰野教授:「この護符も、私が女性だから頂けたということなんでしょうね」
キーパー:(井上)「おそらく、妙星尼様はそのようなお考えだったのではないでしょうか」

キーパー:では明日から週末ですので、来週からの調査方針等を決めてみてはいかがでしょうか。
泰野教授:ではいつもの焼肉屋で。
須堂:「この人たち、毎晩焼き肉で飽きないんだろうか?」と思っています(笑)
泰野教授:「壺カルビもう1つ!」
新城:「マジっすか!? これが来週からの活力に!!」(笑)
泰野教授:「……来週からの活動方針ね」(もぐもぐ)
新城:(もぐもぐ)「もうこの席にはSPHFメンバーしかいないから言いますけど、資料に書いてある内容からして、幕末に活動していた宗教団体としては、かなりアバンギャルドですよね。現代で言うところのカルトですよ」
泰野教授:「題材としてはかなり面白いけどね。ああ、掘り返してみたいなぁ」
新城:「即身仏ですか?」
キーパー:大発見ですからな。何しろ日本初になります。
泰野教授:入定した場所は分かるのかな? 「お寺の柱の西側5メートル」とかって書かれているわけではないんだよね?
キーパー:『流星文書』によれば、流星寺にいた蓮惺が「恨めしい声が聞こえる」と記していたわけですから、声が聞こえて不思議ではない場所であることは推測できます。
泰野教授:寺の敷地内なんだろうけど、ところかまわず掘り返すっていう許可は取れないでしょ、きっと。
新城:とりあえず埋まっているかいないかの問題もありますから、「資料にこんなことが書いてあって……」と伝えて許可を出してくれるように交渉してみても良いかもしれませんね。
キーパー:ちなみに、今は即身仏を掘り返すのは法律的にアウトだそうです。墓暴きとか死体損壊とかになるんでしょうな。だから、土中入定して埋まったままの即身仏もあるといわれています。
泰野教授:そうなんだ!? じゃあ、あまり事を大事にしてもなぁ。
新城:「とりあえず井上さんに、何か心当たりはありますか、と話してみるのが良いんじゃないですかねぇ」
泰野教授:「第一段階としてはそんなところね」


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