今宵、星降らぬ流星の夜に


陸
木棺の内側から書かれたもの

8月8日(月)

妙星尼 泰野教授:「もしお手すきでしたら、今日は妙星尼さんにお話を伺いたいのですが」
キーパー:(井上)「ええ、構いませんよ。呼んできますので、本堂でお待ちください」 しばらく本堂で待っていると瀬戸内寂聴+2歳くらいの妙星尼が姿を見せます。
泰野教授:微妙、微妙だ。分かりにくい(笑)
キーパー:妙星尼は皆さんに挨拶をすると板の間に座布団を敷いて正座します。
泰野教授:「倉庫に保管してあった『喪星記』をざっと読ませていただきました。前回の説法も含めて、あの本の中からの抜粋をお話ししていらっしゃるということなんですが、妙星尼さんはあの本を読まれて、それを実践されているということなんですよね?」
キーパー:(妙星尼)「もちろんです。どうやら『喪星記』が流星寺の元となる教えのようですので。女性の力の高まりを説いており、またこの説法によって実際に救われている方々がいらっしゃると聞いております」
新城:確かに。亜衣ちゃんもそう言っていましたよね。
泰野教授:「『喪星記』には、あなたと同じ妙星尼という名前を持つ者に導かれて闇無天という御仏が帰って来て、星々とすべての光を喰らうと書かれていました。これはどういうことを表しているのでしょうか?」
キーパー:(妙星尼)「それは修行中の身の私には正しく理解できていないというのが本当の所です。御仏の真意が那辺にあるかなど、『喪星記』を書いた作者にも分かっていなかったのではないでしょうか」
新城:なるほど。
泰野教授:「『喪星記』を読んだのはこの流星寺に来られてからですか?」
キーパー:(妙星尼)「ええ、あなたがお読みになった、“その”本を擦り切れるほど繰り返し読みました。それこそ、諳んじられるほど」
新城:「曼荼羅にもお名前がついていますし、『喪星記』でもご利益が説かれていますが、闇無天様自体は分からないことが多いということでしょうか?」
キーパー:(妙星尼)「そうですね。“星々とすべての光を喰らう”という一節、闇無天というお名前・字面、星喰曼荼羅という名称にはまるで不吉なことがあるかのように聞こえますが、御仏はその裏返しのことを伝えようとしているのかもしれません。良くある話です」
新城:「はい、なるほど」
泰野教授:なるほどね。
キーパー:(妙星尼)「我々定命の者には分からない深い意味を、このような言葉を使って強く訴えかけようとしているのかもしれません」
新城:分からない人間に対してあえて厳しい御姿を取る仏様もいますもんね。憤怒尊とか。
泰野教授:「少し話は違いますが、廃寺になる前の流星寺にいらっしゃった妙星尼様については何かご存知ですか?」
キーパー:(妙星尼)「いいえ。でも名前が同じなので、何か縁があって私はこのお寺に呼ばれたのかもしれません」 実際、“妙●尼”という名前は珍しくないですしね。
泰野教授:「では“妙星尼”というお名前は、このお寺に来る前から名乗っていらしたんですか?」
キーパー:(妙星尼)「私は初めから、ずっと妙星尼です」
泰野教授:そうなのか。勘違いしていた。「こちらのお寺に来るに当たって法名を変えたというわけではないんですね?」
キーパー:(妙星尼)「おそらく惺子さんも私の名前を知って吃驚したことでしょう」
須堂:「妙星尼さんはどちらのお寺で修業したのですか?」
キーパー:(妙星尼)「修業は高野山です。しばらく別のお寺で御厄介になって、縁あってこちらに来ました」

新城:井上さんもこの場にいますよね? 「実は『流星文書』は廃寺になる前にいた妙星尼さんの日記のようなものらしいんです。それを拝見したところ、当時から闇無天様を信仰していたみたいで、闇無天様がこの世にお戻りになるのを待つために即身仏になられる決意をされ、実際土中に入定されたという記述がありました。そのような言い伝えが、ご実家の方に伝わってはいませんでしょうか?」
キーパー:(井上)「ああ、それならこの流星寺の裏の里山にその入定された場所を見つけて、実は速攻で重機入れちゃいました」
一同:「え!?」
キーパー:(井上)「なんかダメだったらしいけどね、ホントはね(テヘペロ)」というような意味のことを丁寧な言葉で(笑)。「土の中から竹筒が出ていた」ので、実際には何が埋まっているか分からないまま重機を吶喊させたらしいですね。
新城:なるほど。土中入定の通気口で使うやつですな。
キーパー:(井上)「何かこの流星寺にまつわる物があるのではないかと思いまして、掘り返してみました」
新城:「それで!?」
泰野教授:「何か出てきたのですか!?」 前のめりになりながら(笑)
キーパー:(井上)「石室が組まれていて、その中からバラバラになった木棺が出てきました。ただ、ご遺体はありませんでした」
新城:「お骨も?」
キーパー:(井上)「ありませんでした。なので、私はお縄にならずに済んだと言いますか」(笑)
一同:「なるほど」(笑)
キーパー:(井上)「寺族であったとはいえ、僧職に就いて日も浅いので、知識不足な所は確かにありました。仏門に入った身ではありながら、焦りもあったのでしょう」
泰野教授:「遺体はなかった……?」
須堂:「その木棺は倉庫にあるのでしょうか?」
キーパー:(井上)「いいえ。掘り返した穴の中に放置しています。バラバラに壊れてしまっているので」
新城:「それを拝見することはできますか?」
キーパー:(井上)「裏山にありますよ」 歩いて20分ほど入った場所だそうです。
泰野教授:「行ってみましょう、早速」
キーパー:妙星尼は後のことを井上さんに任せて本堂の奥へ行き、星喰曼荼羅の前で瞑想を始めます。
新城:可能性は2つあると思うんですよ。『流星文書』という言い伝えを残して、木棺を埋めて、竹筒も出しておく。それで信仰の補強を図った。あるいは、蓮惺が裏切ったと書かれているものの、誰かが掘り返して、別の場所に埋められているか。
泰野教授:単純に腐っちゃったという可能性はないのかね? でも人骨は残るか。
新城:井上さんが掘った時点で遺体はなかったということだから、最初からなかったのか、他所に移されたのか、どっちかだと思うんですよね。
キーパー:ちなみに即身仏って「やっぱダメだ、出してくれ!」ってこともあったらしいですからね。「やっぱ苦しい」って。
泰野教授:ま、そりゃあるわな。その方が普通だわな、どう考えても。
キーパー:では井上さんが裏山を案内してくれて、ここですよって場所に来ました。「調査が終わったら声をかけてくださいね」と言って、彼女はお寺に戻っていきました。今は15時くらいだと考えてください。
 一般的な土中入定の穴ですが、石室の中に木棺を安置するんだそうです。ということで石室が組んであります。見た感じ、かなり古いもののように見えます。石室の中には木棺が、原形を留めていない木片となって散乱しています。
新城:「これは……それなりには古いもののようですね」 石室内に降りて、木片を手に取って見てみますわ。
泰野教授:そうだね。
キーパー:木片は湿って半ば腐りかけています。ここで〈目星〉技能ロールを。
新城 三郎新城須堂:成功。
キーパー:成功した2人は、手に取った木片の、おそらくは木棺の内側になっていたと思われる面に、アンの梵字と引っ掻き傷が無数に残されていることに気づきます。
新城:キタキタキターーーーー! 「……コレ……何だと思います?」
須堂:「何か引っ掻いた跡のようですね。虫やネズミが残したもののようには思えませんね」
泰野教授:「え? どこ?」(笑)
新城:「コレっすよ。これは確かに、人が引っ掻いた跡ですよね。これで土中入定したっていう話がガセではない可能性が高くなりましたね」
泰野教授:「誰かがこの穴に入ったことは間違いないわね」
新城:「でも骨がないってことは、ひょっとしたら途中で苦しくなって即身仏になることを断念したパターンかもしれませんね」
キーパー:さらにここで〈アイデア〉ロールをしてみてください。
泰野教授:失敗。
新城須堂:成功。
キーパー:泰野先生、思った以上に無能ですな(笑)。成功した2人はこのアンの梵字と引っ掻き傷に法則性があるような気がします。散らばった木片を繋ぎ合わせることができそうです。
新城:あー、はいはいはい。木片同士をってことですね?
泰野教授:「……2人して何してんの?」(笑)
新城:2人で返事もせずに黙々とパズルをしています(笑)
須堂:カメラで状況を記録しながら作業します。
泰野教授:「発見時の状況は大切よね~」 もらった護符をいじくりながら手持無沙汰にしています(笑)
キーパー:いくつかの木片を繋ぎ合わせると、当然アンという梵字と引っ掻き傷が並んでいきます。それを見て、〈オカルト〉ロールをしてください。
新城:(コロコロ……)05!
一同:おお~!!
キーパー:この無数のアンという梵字と引っ掻き傷の配列は、まるで何らかの魔術になっているかのように思えます。
新城:「!」 ただ無闇に引っ掻き回したわけではなくって、何か意図があってやったものであると。ふむふむ。規則性が感じられるということですね。
泰野教授:「埋められた人が何か意図を持って引っ掻き傷を描いた」
新城:「ということは、もがき苦しんで付けた傷ではない、という可能性が出てきましたね」
泰野教授:即身仏になるための作法的なものに、こんなのはないよね。
キーパー:即身仏は魔術ではないですから。
泰野教授:じゃあ、なんで木棺の裏側からそんなものを描く必要があったんだろう? 脱出したかったのかな? でも無我夢中に掻き毟ったわけではないっぽいんだよね? ……状況が良く分からないな。通常の即身仏のなり方に、こんなものはないんだよね?
キーパー:即身仏になるためのやり方って結構マニュアル化されているらしいんですが、その手順にこんなものはないですね。
新城:そうですよね。でも、これは何かがあったことを示しているような気がしますよね。とりあえず調べられないか当たってみます。
泰野教授:中に入っていたミイラ(?)がどこに行っちゃったか問題は残ったままだしね。
キーパー:西日が照り付ける中、そのような事実を知ったSPHFメンバーでありました。オレンジ色の夕日の中、里山の木々が風にあおられてザザーッという不気味な声を上げています。


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