今宵、星降らぬ流星の夜に


玖
井上 惺子のケース

8月10日(水)

泰野教授:護符はクッキーの空き缶か何かにでも入れた上で、鞄に入れて事務所に持っていきます。おそらくぐっすりとは眠れないと思うので、珍しく朝早くから出勤します。
キーパーマジック・ポイントを5失ったので、同僚たちは久しぶりに覇気のない先生を見ることになります。
新城:「おや、今日は殊の外早いですね。どうしたんですか? 顔色が悪いですよ。昨日まではあんなに溌剌としていたのに。まるで追加マジック・ポイントを5ポイント失ったかのようじゃないですか?」(笑)
泰野教授:「実は昨夜、追加のマジック・ポイントを5ポイント失うような出来事があってね……」(笑)。護符の入ったクッキーの缶を出して、昨夜あったことを話します。
新城:お約束で「……先生、夢でも見たんじゃないですか?」
泰野教授:「そう思いたいのだけど、確かに皮膚は菱形に抉れているし、夢ではないと思う。最後に見た繊毛みたいなものが蠢いていたという所は、もしかしたら夢かもしれないけど」
キーパー:護符は粘つきを失って、ただの冷たい石と化しています。
泰野教授:正直言って、今はそれに触りたくもない。
新城:「仮に、万が一、この護符が先生の言うような得体のしれない物だとすると、これを素肌にずっと着け続けているメンバーたちはどうなんでしょうね?」
一同:「う~む」
新城:「オカルトめいて来ましたね、先生」
泰野教授:「かなりね。護符の件もあるし、妙星尼にはもう一度話を聞かなくてはならないわね」
新城:「流星寺に行ってみましょう。直接聞いてみるのが一番早い」

キーパー:というところで、コンコン、と事務所のドアがノックされます。
須堂:「はい?」と言ってドアを開けて客を招き入れます。
キーパー:ドアの外に立っていたのは井上惺子です。
泰野教授:「井上さん?」
キーパー:(井上)「おはようございます。皆さんお揃いですね。……実はどうしてもお話したいことがあるのです。しかも緊急に」
泰野教授:「実はこちらもお話したいことがあります。とりあえずお入りになってください」
キーパー:応接室に井上惺子を通して向かい合わせに座ります。「信じられないかもしれませんが、どうか私の正気を疑わずに最後まで聞いてください」と前置きして井上惺子は話を始めます。

 寺族であった惺子は長男の病死を機に流星寺復興を思い立ちました。御仏にすがるという気持ちに嘘はありませんでしたが、その時期、惺子はちょっとした狂気に陥っていたのでしょう。憑かれたように流星寺の復興を進め、その過程で妙星尼のミイラを掘り出しました。そしてミイラは“生きて”いました。不死の尼僧を復活させてしまったのです。
 『喪星記』と『流星文書』に書かれていることはすべて真実であり、妙星尼は邪神・闇無天を招来しようとしています。惺子は闇無天復活によって何が起きるかは知りません。しかし、復活した妙星尼はそれがどんな意味を持つのかを知っているのでしょう。
 闇無天の招来は数日後に迫ったペルセウス座流星群極大の夜(8月12日)に予定されており、SSCのメンバーを使って妙星尼は着々と準備を進めています。1862年、流星寺が廃寺になった年というのは、記録に残る大規模なペルセウス座流星群があった年なのです。その年に、惺子の祖先である蓮惺に裏切られた妙星尼は土中から闇無天に祈り、流星寺にいた尼僧たちを一人残らず殺したのです。
 土中に埋められたままの妙星尼を残して無人になってしまった流星寺は廃寺となり、井上惺子の登場まで人知れず放置されていました。

キーパー:(井上)「闇無天が復活することで、私自身、救われると思っていました。あのミイラ(=妙星尼)は長男を生き返らせてくれると、私に約束したのです。しかし、妙星尼はあなた(=泰野教授)のような、まったくこの件と無関係の人間にまで護符を渡して、闇無天の影響力を寺の外部にまで及ぼそうとしています。おそらく、それは恐ろしいことになります。この恐ろしい事実に気づいて、私はあなたたちに警告に来たのです」
一同:「……」
キーパー:井上惺子は50歳半ばくらいに見えますが、実は36歳だそうです。
泰野教授:え?
新城:ほほう。
キーパー:(井上)「即身仏(=ミイラ)となった外見を隠すために、あの化け物は私から精気を吸い取って、人の目に見える顔や手の部分だけ取り繕っているのです」
新城:なるほど。
キーパー:そこまで話すと、惺子は冷や汗をかいて、ゼェゼェ息をつき始めます。「どうか……どうか! あの……化け物を……殺して……殺してちょうだい!!」 そう言うと、惺子は胸を掻き毟ってばたりと椅子から転げ落ちて倒れ、そのまま息絶えてしまいます。正気度ロールをお願いします(※泰野教授が2ポイント喪失しました)
泰野教授:「救急車!」
キーパー:大騒ぎになって、今日の調査は無理だろうということになります。
新城:しかし今日の井上さんの話によって、すべての辻褄が合いましたな。
泰野教授:「昨夜の護符の件がなければ信じていなかったと思うけど、今なら完全に信じられるわ」
キーパー:惺子の死因は心不全らしいです。診断によると、末期の癌を患っていたようですね。
一同:あぁ……。



眞仲 亜衣のケース

8月11日(木)

キーパー:翌日の新聞のお悔やみ欄に、惺子の葬儀は実家のお寺で営まれることが載ります。
泰野教授:とりあえず葬儀には参列します。それに心配なので、葬儀に行く準備をしながら亜衣ちゃんに電話をします。
亜衣@電話キーパー:(亜衣@電話)「はい……ゴホ、ゴホゴホッ!……眞仲、です」
泰野教授:「体調大丈夫? この間よりも咳が酷くなっているようだけど? 病院、行った?」
キーパー:(亜衣@電話)「大丈夫です。別に熱とかないですから」
泰野教授:「……亜衣ちゃんはあの護符、ずっと身に着けているんだよね?」
キーパー:(亜衣@電話)「ええ、身に着けていますよ?」
泰野教授:「あの護符に何か変わったことない?」
キーパー:(亜衣@電話)「そうですね、なんだかすごく一体化したような感じがします」
泰野教授:「そ、そうなんだ」
キーパー:(亜衣@電話)「流星寺の大祭は明日の夜ですので、皆さんもぜひ参加してください。ゴホ、ゴホッ」 咳をしながら、亜衣は電話を切りました。で、その後はすっ飛ばして夕刻になりますが、井上惺子の葬儀に流星寺関係者は誰も出席しませんでした。
新城:SSCのメンバーもってことですよね?
キーパー:そうですね。
泰野教授:葬儀に誰も出なかった? では葬儀から戻りがてら、もう一度亜衣ちゃんに電話します。「井上さんのことって、何か連絡行っていないの?」
キーパー:(亜衣@電話)「その件に関しては妙星尼の方で手配してくれて、葬儀に参加する必要はないと聞いています。それよりも大祭の準備で忙しくて」
泰野教授:「え、そうなの? 私の所には何も連絡が来ていないけど……」
キーパー:(亜衣@電話)「そうなんですか? でも采配を取っているのは小宮さんだから、詳しくは……」
泰野教授:「小宮さん?」
キーパー:(亜衣@電話)「井上さんの代わりに世話役になった方です」
泰野教授:「そうなんだ……。じゃあ、準備があるなら私も今すぐ流星寺に行くわ」
キーパー:(亜衣@電話)「準備は私たちでやっておきますので、先生たちは明日の夜に来てくれれば。必ず来てください」
泰野教授:「……分かったわ」と言って電話を切ります。


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