バートリの秘法

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動画
キーパー:部屋にはあなただけが残されました。化粧品の瓶、ドリンク、『行星史』、それらを入れてきた羽場塚のキャリーバッグも残されていません。
泰野教授:テーブルの上には何もない?
キーパー:いえ、エリザのスマートフォンが残されています。まだ録画モードになっています。
泰野教授:これを残していっちゃったのか。いったん録画を止めて、電話帳を開いて羽場塚さんの連絡先を探します。
キーパー:それらしきエントリーはないですね。
泰野教授:ないのか。もしバッテリーが大丈夫なら、スマホに録画された動画を見たいんですけど。
キーパー:どういうわけか、スマホのバッテリーはほぼ満タンです。
泰野教授:じゃあ見てみます。
ヤディスの住人

 録画開始から30~40分は体験した通りの流れとなっている。映像には読書をするエリザと泰野教授、窓際で椅子に座っている羽場塚が映っている。
 やがて空が赤く染まり、エリザと教授は気を失う。窓の外にはリング形のUFOがフワフワと浮かんでいる。窓から入ってきた風により、スマートフォンがスタンドから外れ、カメラ面を下にして倒れる。映像は2時間ほど暗転する。
 しばらくすると以下のような羽場塚の声が入る。

(羽場塚)「まったく度し難い女! 常に自分が恩恵を受けられるなんて、どうしてそう思い込むことができるのかしら?」

 映像が明るくなり、何者かがスマホを再びスタンドに立てかける。その“何者か”は昆虫を思わせる体節を持った、皺と鱗で身体の所々が覆われた、長く伸びた豚のような鼻を持つ人間大の生命体だ。
 スマホを立て直した後、生命体は窓際まで歩いていき、光に包まれてその姿を消す。それに続いてUFOも徐々にその姿を消す。

キーパー:というわけで、この奇怪な昆虫じみた生命体を見たことにより正気度ロールです。
泰野教授:(コロコロ……)18、成功です(※正気度喪失なし)
キーパー:それでは、ここまでの一連の出来事の流れを理解した時点で、先生は不定の狂気に陥ります。
泰野教授:そうだよね……。はぁ~(笑)。
キーパー:まぁ、緊急性のある状況に置かれているわけではないので、しばらくすると正気を取り戻すということで良いでしょう。蛍光灯は消えていて、月明かりの射し込む部屋の中で我に返ります。エリザのスマホのバッテリーは空になっていて、以後、充電しても電源が入らなくなっています。


永遠に、美しく
泰野加代子キーパー:おそらくは、先生と葉鳥恵利の皮膚の若さ、美しさというものが交換されたのでしょう。ヴェストファーレンの兄弟のように。
泰野教授:あーあーあー、なるほどね。APPが交換されたのか、ゲーム的に言うと。ということは、結構劣化していたんだ、彼女のAPPは。7ポイント減ったっていうことか。
キーパー:そういうことになりますね。さて、先生は不定の狂気に陥った影響により、醜形恐怖症という精神的な障害を持つことになります。
泰野教授:(笑)
キーパー:今回の「器官の転位」によって泰野先生に向けられる周囲からの視線は確実に変化するでしょう。美魔女ってヤツです。先生の講義を受けたいという学生や聴講生が爆発的に増え、追加で講座が開設されるくらいです。専門誌『季刊・民俗学』に巻頭グラビア・インタビューが掲載された号は、重版がかかったとのことです。
泰野教授:(笑)
キーパー:おかげで収入が増えましたが、これ以後、先生のもとには定期的にEBコスメティック社から「ヴァージン・ブラッド」という名称のスキンケア用の乳液が送られてくるようになります。どろりとした、真っ赤なスキンケア・ミルクです。
泰野教授:おぉ!
キーパー:その価格は……「結構、意外と」します。でも「これがあれば精神の平衡を保っていられる」と思い込み、その法外なお値段にもかかわらず、増えた収入すべてを唯々諾々とその代金として振り込んでしまうのです。
泰野教授:なるほど(笑)。代金さえ支払っていれば、定期購入できるってわけね。「これさえ塗っていればハリとツヤが保てる!」って。ヤベーことになっちまった(笑)。
キーパー:葉鳥エリザのその後ですが、どうやら未だに大学には在籍しているようです。特に調べてみる気にはならない、ということで。
泰野教授:そうだろうな(笑)。タレント活動とかもやっていないんだろうなぁ。だいぶ劣化しちゃったもんね、APP
キーパー:でも、彼女はAPPを上昇させる手段を持っているわけですからね。
泰野教授:あ、そうか!
キーパー:このシナリオが終わったと同時に、彼女は「白凰市で暗躍する影たち」の方に所属が変わるってわけです(笑)。


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