境界上に建つ館

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風見館到着

キーパー:風見館はクイーン・アン様式の洋館です。建物は鉄柵に囲まれています。鵜堂弁護士の運転する車に乗った倫子が何かリモコンのようなものを操作すると、鉄柵に付いた門がガーッと音を立てて開きます。
一同:おお~。
佐川:「こんな金持ちの家に入るのは初めてだな~」
キーパー:正面玄関前のロータリーの端の車止めに停車します。風見館はこぢんまりした感じですが、造り自体は高級です。
間之原:巨大な洋館ではないわけね。
キーパー:贅沢な造りです。皆さんは白凰市に住んでいるのでご存知ですが、ここは元白凰区の洋館街の一角です。街灯はガス灯を模した物になっていて、雰囲気が演出されています。
照葉:本場の雰囲気が感じられますね。
キーパー:この洋館街というのは広大な敷地に20棟ほどの洋館がぽつん、ぽつんと間隔を置いて建っているので、夜はかなり人通りが少なくなり、また暗くなるであろうことは想像に難くありません。
 さて、車を止めると、皆さんは降車してロータリーに降り立ちました。横一列に並んで、館を正面から見上げる感じになったと思ってください。
田中:「ここが今回の現場か」
キーパー:POWの5倍ロールをしてください。(Wヒロシと照葉が成功)成功した人はこの館に、言い知れぬ居心地の悪さ、違和感みたいなものを覚えます。館を見る目の焦点が合わせづらいとでも言いましょうか。
佐川:「……気味悪い雰囲気ッスね」
田中:「何かな……? こういった金持ちエリアは性に合わないのかな」
照葉:「何だろう、これ……? 心に留めておこう。あるいは、これが倫子さんを不安にさせている一因の可能性も……」
キーパー:倫子が正面玄関の扉の鍵を開けて、「どうぞ」と言って皆さんを館に招き入れます。「では、後はよろしくお願いします」ということで、鵜堂弁護士は帰りました。(館の見取り図を渡す)では、この1階のダイニング・ルームを拠点として調査を進めてもらいましょう。とりあえず、自分が寝泊まりする部屋を決めてください。

風見館 見取り図

 探索者たちは話し合ってそれぞれの居室を決めました。
 照葉:倫子の寝室とクローゼットで繋がった二階の東側寝室
 田中:三階の旧・使用人部屋(北側)
 佐川:三階の旧・使用人部屋(南側)
 川上神父:二階の北側寝室
 間之原:二階の西側寝室

キーパー:倫子は基本的に昼間は談話室のソファに座って、皆さんがいそいそと捜査している様子をぼーっと眺めています。昼間は、特に一緒にいなくても大丈夫です。
田中:とりあえず、我々警備員二人は館の全部屋を見て回って、不審物や不審者の有無という基本的なチェックをして、間取りを確認します。
佐川:外も見ておいた方が良いね。
キーパー:Wヒロシは館の周りを調べるけど、当然二階の窓を覗き込めたりする都合の良い立木が植えられているようなことはないね。
照葉:警備員は夜間を二人で巡回してもらって、昼間は交代で仮眠を取ってもらった方が良いですね。
間之原:不審者が昼間に出たことはないんだよね?
キーパー:今のところ、それはありません。
田中:了解です。夜を重点的に見張りましょう。我々はトランシーバーで連絡を取ることとして、皆さんには携帯電話の番号を教えていただきたいのですが。
間之原:それは交換しておきましょうよ。
一同:そうしましょう。
田中:日が暮れるまで、一通りのチェックはしておきます。「君は先に仮眠を取ってくれて良いよ」
佐川:「ラッキー!」
キーパー:了解。では二人はD10を振ってみて(※部屋を移動する際にD10を振って、6~10が出ると違和感を覚えるランダム・イベント。以後も時々ロールを発生させます)
田中:(コロコロ)8。
佐川:(コロコロ)8。
一同:ナイスコンビ(笑)
キーパー:では田中はどこからか、会話をするかのような声が聞こえて来るのに気付きます。
田中:? その声が聞こえる方へ向かいます。
キーパー:君は声の方へ向かっているつもりなんだけど、その声は一向に近づいて来ません。「逆か?」と考えて引き返してみても、声には近づけません。
一同:キタコレ……。
キーパー:佐川は割り当てられた部屋で寝ようとするんだけど、どこからか会話をするような声が聞こえて来て、眠りを妨げられます。
佐川:「うるせぇな。寝られねぇじゃねぇか」 どんな会話か聞きとれませんか? <聞き耳>とかで分かります?
キーパー:(さっきのD10が<聞き耳>みたいなものだから……)そうだな、<アイデア>ロールをしてみて。
佐川:(コロコロ)36。成功です。
キーパー:内容は聞き取れません。言葉かどうかも定かではありません。音、なのかもしれない。ただし、音は応酬しているので、おそらくは会話なんだろうと。ランゲージかは分からないけど、カンバセーションなのは間違いない。

間之原:俺は飾られている絵を見に行きます。模写させてもらったことのある絵ですが、何か変化がないか調べたいので。
川上神父:「では、私もそれにお供しましょう」
照葉:私も絵を見に行きましょう。
キーパー:(イラストを渡す)これが階段の途中に飾られている『窓』、そしてこちらが一階の階段室に飾られている『階(きざはし)』です。

窓 階

間之原:結構、抽象画なんだね、風見飄衛って。
キーパー:間之原君なら知っていますが、風見飄衛は風景画家として名を成した人物です。白凰市の美術館には風見飄衛の名を高めた風景画が何点も収蔵されているのですが、その中にポツンと一枚だけ、この『窓』や『階』と同じテーマの抽象画があります。ちなみにそのタイトルは『扉』です。間之原君は、きっと何度もそれを見に足を運んだことがあるでしょう。この一連の抽象画は、風見飄衛の晩年の絵です。これらの抽象画は評価されていません。「何でこんなことになっちゃったの!?」と嘆かれています。なお、風見飄衛は「風見の黄色」と言われるほど、黄色の使い方が物凄く上手かったことで知られています。
間之原:ほほう!
キーパー:それが間之原君の研究対象と言いますか、研究のテーマですね。彼の黄色は、なんともいわく言い難い使われ方をしています。同じ色の黄色を作ることは可能なのでしょうが、その隣に何色を置くのかという感覚が絶妙だったと言われています。
照葉:はいはい。
キーパー:独特な黄色の使い方も併せて風景画家として名を成した風見飄衛でしたが、ある時から不気味な、暗くて分りづらい抽象的なテーマを描き始めます。その一部が館に飾られている『窓』や『階』です。ちなみに、風見飄衛自身は失踪しています。
間之原:! そうなんだ。行方不明なのか。失踪したのは何年ごろ?
照葉:奥さんとか、家族は?
キーパー:風見飄衛が失踪したのは1912年ですね。財産を相続させるような家族はいなかったようです。しかし、彼には弟子がいました。
一同:なるほど。
キーパー:なお、これは風見飄衛に関する文献にも書かれていることなのですが、失踪前の風見飄衛に最後に会った弟子によると、彼は抽象画を描きながら「最後の一枚を描き終えたら、新しい世界へ行くつもりだ」と言っていたと伝えられています。彼の失踪が判明した後、イーゼルに残されていたのが風見の黄色を使った洞窟の絵だったそうです。この「新しい世界へ行く」という言葉が新たな画法への挑戦を意味したものなのか、それとも自身の失踪を暗示したものなのかは不明です。
照葉:ロマンがあります。
間之原:研究対象としては魅力的だね。
照葉:その最後の絵というのは今どこに?
キーパー:所在不明になっています。
間之原:「――ということなんです!」と熱弁を終えます。
川上神父照葉:「ああ、うん。そう、なんだ」
一同:(笑)
間之原:模写させてもらっていた時と比べて、特に絵に変化はない?
キーパー:ありません。
川上神父:さりげなく《超感覚》を使ってみます。(コロコロ)25。成功。
キーパー:そうですね……絵画から異様な冷たさを感じます。
川上神父:「何か、通常とは違う異質な感じがします」
照葉:「それは心霊的なものですか?」
川上神父:「いや~、どうでしょう」
照葉:「それは倫子さんにはまだ伝えないでください」
川上神父:「異質な感じがするからと言って、何かが起こるわけではありませんからね」
キーパー:そんなことを話しながら、ダイニング・ルームへ戻ることにします。三人はD10を振ってください。
間之原:(コロコロ)7。
照葉:(コロコロ)2。
川上神父:(コロコロ)2。
キーパー:では一階のダイニング・ルームに向けて階段を降り始めるのですが、なぜか間之原君は階段を上がっていきます。
照葉:「あれ? 間之原さん?」
間之原:「はい?」
川上神父:「何か上階に用事でも?」
間之原:「え? いいえ」 俺は降りているつもりだったんだよね?
キーパー:そうですね。気が付くと、階段を上がっていました。
間之原:「す、すいません」と言って階段を降ります。「あ、あれ?」
キーパー:ちょっとボーッとしてしまったのかな、という感じでしょうかね。
間之原:「おかしいな……?」

キーパー:「なんで上がっていっちゃったの?」「いやー、おかしいなー」などと話しながら階段を降りて来ると、館の内外を歩き回っている田中君を見かけます。彼は首をかしげながら歩いていたかと思うと、突然走り出して、また戻ってきたりしています。
照葉:「何かあったのですか?」
田中:「いえ、会話のような音が聞こえたので。いや、会話ではないのかな? でも……う~む」
照葉:「倫子さんも同じようなことを仰っていましたね」
田中:「クライアントが仰っていたのと同じものかは定かではありませんが……」
照葉:耳を澄ましてみますけど、何か聞こえますか?
キーパー:いえ、何も聞こえません。田中君にも、もうあの声? 音? は聞こえなくなっているね。
田中:「もう聞こえなくなってしまいましたが……。とりあえず巡回は密にします」
照葉:「では、もし何かあったら、どんな些細なことでも構わないので教えてください」 これで、倫子さんの言っていたことが幻聴ではない可能性が出てきましたね。彼らが同じような声を耳にしたとなると。
川上神父:倫子さんは昼間に声を聞いたことはあったんだっけ?
キーパー:今のところ、そのようなことはないはずです。
照葉:それなら、このことを伝えて倫子さんを不安がらせる必要はないな。


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