境界上に建つ館

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屋根裏の絵

キーパー:そろそろ夕方の5時くらいです。
間之原:飯とかどうするんですか? 誰か買い出しに行って来るとか?
キーパー:泊まり込みでやってくれるなら、倫子が用意してくれますよ。ケータリングですが。
間之原:ああ、なるほど。
田中:私は早々に食事を済ませて仮眠します。20時になったら起きるので、それまでよろしく。そこからは二人体制に入ります。
佐川:こっちはその間は屋内外を巡回しています。「出てこい、不審者め! シャシャッ!」(※警棒を振るう仕草)
照葉:クライアントの不安を煽らないように。
一同:(笑)
間之原:ところで、この館に風見飄衛に関する資料的なものって、絵以外に一切ないの? 飯を食い終わったら、寝るまでの間にそれを探してみます。
川上神父:(館の見取り図を見て)では、屋根裏の物置でも見てみますか?
間之原:地下室は?
照葉:地下室は明日にしましょうか。
間之原:なるほど。屋根裏の物置へ行ってみます。
キーパー:屋根裏北側の物置には歴代の住人たちが残していった家具等が収められています。まさに単なる物置です。で、南側の物置には、ホコリをかぶった風見飄衛の作品が、額にも入れられずに無造作に置かれています。
間之原:「おお! スゲー!」 飛びついて、引っ張り出して見てみます。
キーパー:未完成の風景画が多いです。
間之原:習作とか? 密かに「これって宝の山じゃね?」と興奮を抑えられません。
キーパー:一枚だけ、特に気になる絵があります。これも額には入っていないのですが、絵そのものは完成しているようです(※絵のイラストを渡す)。洞窟のような、縦穴を描いた絵ですね。

私はあそこへ行く

間之原:「ん?」これって例の、最後の絵じゃね?
照葉:! はいはい。
キーパー:裏には「私はあそこへ行く」と書かれています。これが絵のタイトルなのか、単なる走り書きなのかは分かりませんが。
照葉:「……この筆跡は?」
間之原:見て分かる?
キーパー<芸術:絵画>ロールを振ってください。
間之原:(コロコロ)02!
一同:おお!
キーパー:間違いなく、風見飄衛のものです。
間之原:「直筆ですね。これが資料で語られている最後の絵なのかもしれない」
川上神父:喝ッ……(※絵に手をかざす仕草)! (コロコロ)41、成功。
キーパー:おお、《超感覚》ですね。これからも非常に冷たいものを感じます。階段に飾られていた絵よりもさらに冷たく感じます。
川上神父:「何か曰くありそうですな。それが何かはまだ分かりませんが」
間之原:う~ん……風見飄衛って自作の裏に何かを書く習慣のある人?
キーパー:いえ、基本的にはタイトルと自分の名前と日付くらいです。あとは、たまに絵を贈る人の名前とかですかね。でも、この絵には「私はあそこへ行く」以外には何も書かれていません。そしてこれがタイトルであるという書き方でもありませんね。
田中:落書きではなく、書こうとする意志が感じられる?
キーパー:そうですね。おそらく「私はあそこへ行く」と書いて、この絵は完成したのでしょう。
一同:なるほど。
間之原:一種の置き手紙的な物なのかもね。
照葉:「でも、これって凄い発見なのでは……?」
キーパー:読売新聞には載らないかもしれませんが、地方紙「白凰日報」には十分に載る価値はあるでしょうね。間之原君的には、これで論文書けば卒業間違いなしって感じです。
間之原:「これは凄いものを発見しちゃったゼ……!」
照葉:他の作品は?
キーパー:どこかの渓谷の風景とか、桜並木の絵とかです。特に目を引く物はありません。所々に「風見の黄色」が薄く塗られている程度の未完成品です。その他にはクロッキーが何枚かあります。
間之原:何が描いてあるの? 風景?
キーパー:クロッキーが紙ばさみに15枚はさまっていたのですが、すべてに豚が描かれています。
一同:豚!?
間之原:豚が主題って風見飄衛としては変だよね?
キーパー<芸術:絵画>ロールをどうぞ。
間之原:(コロコロ)……00!
一同:(笑)
間之原:よりによって、ここでこんな目が出るとは……(泣)
キーパー:どなたか振ってくださって結構ですよ。もし何なら、カード(※CCC)を使っても構いません。
照葉:じゃあ、ここで【叱咤激励】(※効果:自分以外のキャラクターの失敗した技能ロールを振りなおしさせる)を使ってみますかね。「思い出しなさい! 思い出すのよ、ブタ!!」 ピシィッ、ピシィィィ!(※鞭を振るう仕草)
間之原:ブヒィィ! (コロコロ)……15。OK。カウンセラーに「ちょっと落ち着きましょう」と言われて思い出します。
キーパー:風見飄衛の絵で豚を描いたものは一枚も知られておりません。描かれているのは写実的な豚です。
照葉:四つ足の豚ですか?
キーパー:四つ足の豚です。クロッキーなので、線画だけですね。サラサラっと描かれていて、隅に飄衛のサインがあるくらいです。しかし、何やら鬼気迫るものを感じます。画家の画風とかは年代によって変遷していくものだとは思うんですけど、これはおそらく後期の、抽象画を描き始めた時と同年代に描かれたものではないかと。そして、これらクロッキーは、15枚一気に描かれたものでしょう。
間之原:突然豚を15枚一気に描いたって……?
キーパー:クロッキーには日付も書かれているので分かりますが、一週間くらいで15枚が描かれました。日付は、飄衛が失踪する一年くらい前ですね。しかし、結局、彼の絵に豚を描いたものはありません。何やら薄ら寒いものを感じた三人は正気度ロールをしてください(※三人とも成功して正気度喪失なし)
間之原:研究史的には大発見だらけですな。「これを卒論にするの、もったいなくね?」
照葉:「でも、なんだか気味悪いですね。豚の絵を一気に描いている所とか……」
間之原:「奇妙ではありますね。まぁ、確かに晩年は奇妙なことだらけの画家ではありますが、一般に知られているよりも、画風に関してはさらに新たな模索をしていたというか、迷走していたというか」
川上神父:……ッ!(※手をかざす仕草)
キーパー:クロッキーからも冷たい波動を感じます。
照葉:「どうします? もし絵に心理的な影響を与える何かがあるのなら、階段に飾ってある二枚の絵(※『窓』、『階』)も外してどこかにしまっておいた方が良いのでは?」
間之原:「後期の作品は見る人によっては不安を感じるという話もあって、それが逆に人気の理由でもあったりするんですが。あの二枚の絵は昔から飾ってあるものですし、不安を感じるくらいなら、既に倫子さんの手で外されているのではないでしょうか?」
照葉:絵って、何時から飾ってあるんでしょうかね?
間之原:少なくとも館の先々代の持ち主の時には飾られていたはず。
照葉:風見館の持ち主って、倫子さんで何代目ですか?
キーパー:結構持ち主は変わっていますね。調べれば分かるでしょう。では三人が物置から出ようとした時、暗がりにあった裏返ったキャンバスに気づきます。キャンバス裏には「自画像」と書かれています。自画像を描く画家って結構いますけど、風見飄衛も初期に自画像を描いています。もちろん、間之原君は美術館に収蔵されているそれを見たことがあります。ということは、この「自画像」は未発見のものかもしれません。
間之原:おお! 早速裏返して見てみます!
キーパー:キャンバスを裏返して描かれていた自画像は、これです。

風見飄衛 自画像

一同:……。
川上神父:「……豚、か?」
キーパー:「……え?」という感じになります。そして「え?」と感じたら、もちろん――
一同SANチェックSANチェック!(照葉と川上神父がロールに失敗し、正気度を1ポイント喪失)
川上神父:(間之原に向かって)「これは彼の内面を表した自画像なのでしょうか?」
間之原:「……ブ、ブヒィ?」
一同:あんたは失敗してないだろ(笑)
間之原:俄かには信じられないよね、これが風見飄衛の絵だってことが。う~む。
田中:現代の画家なら自画像に豚を描いても適当な判断がされそうですが、1912年の画家が豚を自画像にするっていうのは――
間之原:ちょっと前衛的すぎるよね。自画像に日付は入っていない? でも、さっきのクロッキーとは絶対に何か関係があるよな。
田中:自画像が描かれたのはクロッキーの後か先か分かりませんか?
キーパー:う~ん、<芸術:絵画>ロールで行ってみましょうか。
間之原:(コロコロ)……成功。
キーパー:絵の具の状態などから判断すると、自画像は「私はあそこへ行く」の洞窟の絵と同時期だと思えますね。時系列で並べるなら、クロッキー→自画像→洞窟かな。
間之原:豚を習作して、自らを豚に描いてから、「あそこへ行く」なのか。
川上神父:「オカルト的な言い方になりますが、これだけ曰くあり気なものがあると、もしかすると霊感に優れた人は精神に異常を来すかもしれません。他に原因が見つからなければ、この絵を処分するというのも一つの解決法になるのではないでしょうか」
照葉:「ここに死蔵しておくのも……」
間之原:「もったいない。それはもったいない」
キーパー:倫子は別に絵画ファンではないので、絵に関しては後々自由にできる可能性はありますね。「有名な画家らしいので」とか「前から飾ってあったから」という理由で『窓』や『階』を取り外していないだけです。何か彼女を納得させられる理由があれば、処分は可能かもしれません。物置はこんな所ですかね。
間之原:「いや~、大発見の連続だった」
照葉:結構時間を費やしましたよね? 「もうこんな時間!」
川上神父:「地下室は明日にしましょう」
キーパー:では最後に、三人はD10をロールしてください。
川上神父:(コロコロ)……5!
照葉:(コロコロ)……3!
間之原:(コロコロ)……8!
キーパー:(いつも間之原だけだな……)物置を出ようとすると、間之原君は何か会話のようなものが聞こえた気がします。しかもそれは、豚が鳴き合って、意思を疎通しているかのように思えます。
間之原:「ブヒ!?」 呼ばれている? キョロキョロ。
一同:(笑)
照葉:「どうしました、間之原さん?」
間之原:「……聞こえませんか、音?」
川上神父:「……いえ、何も聞こえませんが?」
照葉:「私も……」
間之原:「声というか……先ほどあんな絵を見たからかもしれませんが、豚の鳴き声みたいに聞こえる音がしたんですけど……」
照葉:「それは複数ですか?」
間之原:「おそらくは……もう聞こえなくなってしまいましたが、どこか、遠くからというか……確かに聞こえたんだけどな」
川上神父:「指向性のない音声、ですか」
照葉:「それは、例えば、何か言葉を交わしているかのような?」
間之原:「複数の豚が、お互いに鳴き交わしている感じでしたね」
照葉:「倫子さん、田中さんときて、あなたで三人目ですから、何かの音がしている可能性はますます否定できなくなってきましたね」
川上神父:「うむ」
照葉:「とりあえず、警備員さんたちにもこのことは伝えておきましょう」ということで伝えたよ。
田中:ハイ。了解です。「豚の鳴き声と言うのは……新しい情報ですね」
佐川:「外国語じゃなくって、豚語ってことかい」
キーパー:この件(※豚の鳴き声)について、倫子にはどのように説明しますか?
照葉:原因は分かりませんが、どうやら何かの音がしていることは確からしい。倫子さんだけの幻聴ではないということを強調して安心させます。
キーパー:了解です。<精神分析>ロールをしてください。
照葉:(コロコロ)……成功。
キーパー:(倫子が負っているペナルティを課すと……失敗か)カウンセラーの話を聞いて、倫子は一層不安そうな様子を見せます。「そうですか……。今晩は何も起こらないと良いのだけれど」
間之原:「今晩は我々も、警備員さんたちもいますので」
川上神父:知らせない方が良かったのかねぇ。
照葉:まあ、仕方ありません。「私は隣の部屋にいますので、いつでも声をかけてくださって結構ですから。もしどうしても不安なら、私が倫子さんの寝室のソファで寝て待機しますが?」
キーパー:「! いえ、それは大丈夫。大丈夫です」ということで、倫子は就寝します。眠気覚ましに高級ブランデーを提供してくれて、ダイニング・ルームのテーブルの上に置きます。「飲みすぎないようにお願いしますね」
照葉:以降は警備員二人に任せて我々は睡眠ですかね。


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