境界上に建つ館

6

異変

田中:それで皆さん、今晩はどうしますか?
間之原:それぞれの部屋に帰って休みましょうか、という感じではないよね。
佐川:夜が一番危険ですよ。
照葉:全員で見張るとしたら屋根裏の物置前と、地下室の暖房炉前ですよね。
間之原:あとは悪夢を見ている倫子さんの部屋。倫子さんはどこで寝ますかね?
キーパー:自室です。
照葉:「昨晩のこともありますし、私が倫子さんの部屋のソファで寝ても……」とやんわりと提案しますが……?
キーパー:(倫子)「そこまでしなくても、隣の部屋に待機してくれれば大丈夫よ。もし何かあったらすぐに呼ぶわ」
照葉:ですよね。「何かあったらすぐに呼んでくださいね」と言って、ぱたんと扉を閉めて、クローゼットの中に待機します。寝静まったかと思ったら、こっそり入ってみようと思います。
間之原:なるほど。
佐川:地下に一人、物置前に一人、見張りを置いていた方が良いのでは?
田中:間之原さんには屋根裏の物置の前に椅子を置いて見張ってもらう。
間之原:俺としても絵が気になるのでそうしたいな。
田中:地下室は階段下すぐの逃げられる場所に椅子を置いて、神父様に暖房炉を見張ってもらう。
川上神父:ふむ。
田中:警備員二人はツーマンセルで館内を巡回する。何か騒ぎがあったら逃げてください。呼んでくれれば我々が行きます。ただし、監視対象に騒ぎが起きていなければ、その場にいてください。陽動という可能性がありますので。陽動であろうとなかろうと、我々は騒ぎがあった方へ向かいます。配置はこれで。ご協力お願いします。
キーパー:では寝る前に倫子はちょっと不安そうな様子を見せています。カウンセラーはカウンセリング(<精神分析>)をお願いします。
照葉:(コロコロ)……成功。
キーパー:(-42%成功か。倫子へのサーイティの影響が少し薄れたぞ)梶原さんのカウンセリングにより、倫子は少し気を落ち着かせたようです。信じがたい事実の連続ですが、自分を不安にさせている事件の解決に前進していることに希望を見い出したようですね。
間之原:状況は、少なくとも、展開していますからな。
キーパー:倫子は就寝します。
川上神父:寝ずの番の始まりですな。

キーパー:深夜を回った頃、豚の鳴き声が館内に響き渡ります。しかも、その鳴き声が一番ビリビリ来るのは、クローゼットの中にいるカウンセラーです。音源は間違いなく、倫子の寝室です!
Wヒロシ:そこへ向かって走ります。
間之原:く~、走りたいけど……。走っちゃダメと言われているので、一応待機します。
川上神父:そこは警備員二人にお任せしましょう。
照葉:ガチャッ!(※クローゼットの扉を開ける仕草)
キーパー:先走っちゃうわけですか、警備員が来る前に?
照葉:響き渡っているんですよね、声が?
キーパー:そうですね、昨夜とは明らかにレベルが違います。
照葉:開けます! ガチャッと。
キーパー:すると、倫子の部屋の中では暗赤色の光輝が、まるで稲光に瞬く雷雲のように明滅しています。そして轟き渡る豚のいななきを上げているのは、倫子です。
照葉:はいはいはいはい……え?
キーパー:ナイトドレス姿の倫子はベッドには寝ておらず、両手と膝を床について四つん這いになっています。倫子の両目は薄っすらとしか開いておらず、ブゴブゴと鼻と咽喉を鳴らすその姿は、まるで豚そのものです。
Wヒロシ:ドンドンドンドンドン!(※扉を叩く仕草)「何がありましたか!?」
照葉:扉の叩かれる音に、倫子さんは反応しないですよね? 走って行って、鍵を開けて扉をバタンと開けます。
キーパー:黒い靄がかかったかのように薄暗い部屋の中で、暗赤色の光がパッ、パッと閃き、四つん這いの倫子が床の上で滑稽な豚の物真似をしているのが、警備員二人にも見えます。ということで、正気度ロールをお願いします(三人とも成功で喪失なし)。
照葉:倫子さんに駆け寄ります。「倫子さん、倫子さん!?」と揺さぶりますけど正気を取り戻す気配は……?
キーパー:ありませんね。<精神分析>ロールを振ってください。
照葉:分かりました。(コロコロ)……成功です。
キーパー:彼女の精神が非常に危険な状態にあることが分かります。
照葉:「危険な状態です!!」
佐川ヒロシ佐川:「警備員にそんなこと言われても……棍棒で殴って気絶させるとか?」
キーパー:可能だけど、下手すると倫子は死にます。
照葉:「プロなんでしょ! 何とかしなさい!!」
佐川:「精神分析のプロはお前の方だろうが!」
照葉:「だから危険な状態だって言っているでしょ!」
キーパー:やがて四つん這いの倫子を取り巻くように円筒形の影あるいは靄のようなものが現れます。影は倫子の足元の床から生じて立ち昇り、徐々に濃さを増していきます。
照葉:それは倫子さんのそばにいる私の周りにも?
キーパー:そうです。カウンセラーも、倫子のそばにいる警備員二人も一緒に取り巻かれる感じです。
田中:監視している二人(※川上神父&間之原)に「監視をキャンセルして寝室に来てください!」と大声で指示します。
キーパー:それではそんな光景を見て駆け付けた二人は正気度ロールをどうぞ(※間之原が失敗して正気度を1ポイント喪失)
佐川:奥様を抱き上げて、ベッドの方へ移動させることってできますか?
キーパー:できるよ。やってみる? では倫子を抱き上げてベッドへ移動させると、予想通り、まるで彼女を中心に何か力が働いているかのように、闇色の円柱が倫子を閉じ込めたまま移動するかのように、円筒形も移動します。
一同:やっぱり。
キーパー:円筒形の影が濃くなれば濃くなるほど、どこからか巨大な豚の咆哮が聞こえてきます。その咆哮に応えるかのように、倫子は豚のような“いびき”をかきます。倫子がいびきをかくほどに、円筒形の影が濃くなり、暗赤色の光輝が鮮明になります。えーと、現在の倫子の状態はどんなでしたっけ?
佐川:私が抱えている状態です。
照葉:彼が豚のような凄いいびきをかく倫子さんを抱えて、円筒形の影の中でおろおろしている状態ですね。
キーパー:倫子を抱えていた佐川は、だんだん円筒形内部の床の中に沈んでいきます。
佐川:えーーーーーっ!?
一同:ヤバイ、ヤバイ!!
キーパー:佐川の足の裏には床の感触があります。それなのに、主観的にも客観的にも、床の中に沈んでいきます。
佐川:足を抜くことはできませんか!?
キーパー:倫子を抱えている限り円筒形は付いて回るので、それは不可能だね。
佐川:うおー、依頼人を見捨てることは……うおー。
間之原:とりあえず、倫子さんを手放してもらって、円筒形から出てもらわないと。このまま沈み込まれたら……。
佐川:田中にパス。ほいっ。
キーパー:すると、抱きかかえた田中の身に、同じ現象が、続きから始まります。沈んでいるのは、抱きかかえている人物ではなくて、倫子なのです。
佐川:もしかして、これが地下の落とし戸の中へ行く方法なのでは?
間之原:そうなのかもしれないけど……。
キーパー:円筒形の中、あるいは外から床を覗き込むと、ぽっかりと深い縦穴が開いているのが見えます。それにも関わらず、抱きかかえている人(※現在は田中)の足には床の感触があります。その深い縦穴の底にはどうやら横穴があるらしく、そこから黄色い光が漏れ出しています。それは「私はあそこへ行く」の絵画の光景そのものです。この事実を知った皆さんは、新たに正気度ロールをお願いします(※全員成功ですが、実際に沈下を経験したWヒロシは1ポイントを喪失)
間之原:このまま放っておけば、彼女が沈んで行って、それで終わりなんだろうなぁ。
照葉:全員で倫子さんを抱えて円筒形に入ることは可能ですか?
キーパー:円筒形が倫子の身長くらいの直径ですから、不可能ではないでしょう。
佐川:誰か一人、保険で残しておいた方が良くないですか?
田中:誰かがバックアップに回るっていうのは、正直、ありだと思うよ。警備員二人は職業倫理的に行かざるを得ないでしょうが。
照葉:職業倫理的に私も行きます。
川上神父:じゃあ、神父が残りますよ。
間之原:とりあえず俺も行こう。
キーパー:では倫子も含めて五人は穴の底へと沈んでいきます。神父様が見ている前で、円筒形の影はだんだんと径を細めて行って、消えようとしています。
照葉:それで豚の鳴き声も小さくなる?
キーパー:いいえ、豚の鳴き声は、依然、館内に響き渡っています。そして倫子の部屋の中で輝いている暗赤色の光輝も消えません。円筒形の影が完全に消えてなくなる前に、バーーーン! という扉の破られる音が館内に響いたのに続いて、物凄い勢いでブタ人間が五体、雪崩れ込んできます。
一同:五体!?
キーパー:ブタ人間を初めて見る神父様は正気度ロールをしてください(※ロールは成功して喪失なし)。ブタ人間たちはまっしぐらに、口を閉じようとしている円筒形の影の下の縦穴に飛び込んでいきます。
田中:一体くらい足止めをしてもらって、我々を楽にしていただいても構いませんが?(笑)
川上神父:ブタ人間は五体だよね? それなら積極的に足止めしようとはせずに、見送りますが。
キーパー:彼らは脇目も振らずに穴に飛び込みました。直径1cmにも満たないくらいにまで影の径は狭まっていましたが、シュンっという感じで吸い込まれるように消えます。そして影の円筒形は消えます。
照葉:そうなってもまだ、声も聞こえ続けるし、光輝も消えない?
キーパー:そうです。
川上神父:扉を破られた音がしたのは上と下、どちらからですか? 上? では屋根裏の絵を保管してあった物置の様子を見に行きます。
キーパー:物置の扉は力ずくで開けられています。
川上神父:絵の様子はどんなもんでしょうか?
キーパー:そこに収められている絵の風見の黄色から、淡い光が放たれています。
川上神父:光を放っている場所を触ってみます。
キーパー:絵の具の感触が感じられるだけで、特に熱を放っているとかはありません(※人間は風見の黄色を《門》として使えないため)
川上神父:では次は地下に行くしかないね。バリケードをどかして暖房炉の扉を開けてみます。
キーパー:菱形の落とし戸の隙間から、黄色の光が漏れています。
川上神父:おおぅ……菱形の扉を開けてみます。
私はあそこへ行くキーパー:先ほどとはすっかり変わって、落とし戸の下には「私はあそこへ行く」の絵画に描かれていたのとそっくりの光景が広がっています。
一同:ああ~。
キーパー:何十メートル、もしかすると何百メートルも下まで続く縦穴が開いていて、その底から続く横穴から黄色の光が漏れているのが見えます。
川上神父:……石炭の欠片を落としてみます。
キーパー:すると、ものの1秒もしない内にカコーンと底に落ちた音が返って来ます。
一同:おお!?
間之原:すぐそこに底があるような感じ?
キーパー:そうですね。見た目は何百メートルもあるままですが。
川上神父:まずはロープを垂らしてみます。物置にロープはあったよね?
キーパー:あります。ロープを降ろしてみると、その先端が底について、とぐろを巻き始めたのが分かります。ロープ自体は5メートルもないにもかかわらずです。
川上神父:ロープの端をどこかに結び付けて(キーパー:物置ですから、結びつけるのに適当な場所はたくさんあります)、ロープを伝って降りてみましょう。
キーパー:了解です。ロープを伝って降り始めると、思いのほか短時間で穴の底に到達しました。見上げると、遥か頭上に菱形の出入口が小さく見えます。
川上神父:黄色の洞窟に向かって進みます。
キーパー:すると、この四人(※田中、佐川、照葉、間之原)が洞窟の入り口近くの壁に向かって一列に並んで立っていることに気づきます。彼らは洞窟の壁面をジーッと見つめています。
川上神父:「おいおい、どうしたんだ?」
キーパー:では、神父様以外の四人は気が付くと穴の底にいて、後ろから「おいおい、どうしたんだ」と声を掛けられたところで意識を取り戻します。振り向くと神父様がいて、その背後には頭上からロープが垂れさがっている状態です。
間之原:倫子さんは?
キーパー:とりあえず見当たりませんなぁ。ちなみにブタ人間もいません。
田中:「ハッ!? 神父様、どこから?」
川上神父:「暖房炉から、ロープを伝って降りて来たんだよ」
キーパー:洞窟の奥からは豚の鳴き声が聞こえてきます。
照葉:「……とりあえず、行ってみましょう、洞窟へ」
間之原:「倫子さんを探さなきゃ!」


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