キャス・パリーグ


2:大失敗
大エジプト展、失敗に終わりしこと。

白凰市立博物館

キーパー
:準備期間が始まると、皆さんは展示品のディスプレイとか、貸し出された収蔵品と伝票の付け合わせなどを任されます。でも、結構人員がダブついています。
新城:手広く声をかけた結果、思ったより人が集まっちゃった感じですか?
宇乃:というより、そこまで仕事がなかったっていう感じじゃない?
キーパー:30分に一度、飲み物買って休憩できる程度の作業量です。一番大きな展示品はエジプトの古代寺院の内部を再現した原寸大の模型です。
一同:ほほ~。
キーパー:もちろん、発泡スチロールで作られたイミテーションです。海洋堂が監修してくれています(笑)
新城:それならクオリティに問題はないな(笑)
キーパー:どうやら、祭壇の前が写真撮影できるスポットになるみたいですね。
泰野教授:はいはい。最近の博物館にありがち。
キーパー:ディスプレイ作業を進めながら、皆さん〈考古学〉ロールをしてください(全員失敗)。図鑑で見たようなミイラのマスクとか、でかい神像とかは皆無ですね。ロールに失敗したので詳しくは分かりませんが、欠けてしまった小像とか、保存状態の悪いスカラベなどが大半です。國史院大学の収蔵品も一緒に展示されます。
佐山:何か目玉の展示品はないという感じですか?
キーパー:そうだね。メインは寺院内部の模型だね。

スカラベ

キーパー:そんなこんなで準備が整って、展覧会は始まります。でも、大失敗しちゃって、会期は2週間に短縮されちゃいます。
新城:全然、人が来なかった?
泰野教授:まぁ確かに、目玉がない感じだし。
宇乃:どんな宣伝したの?
キーパー:チラシ配ったり、地方新聞に丸川教授のインタビューが載ったりです。30ページくらいの図録も売られましたが、売り上げは芳しくなかったみたいです。なお、泰野先生は図録の帯の推薦文を依頼されました(笑)
一同:(笑)
キーパー:閉会に際して丸川教授は「エジプト学のすそ野の広さを知ってもらえたと思う」と説明して、自身と満足をうかがわせています。
泰野教授:いや~。大失敗だったと思うけどねぇ(笑) 丸川先生のツテがあれば、もっと本格的なものを借りてくることはできたんじゃないかなぁ?
宇乃:「この人、名前倒れでショボイんだな」って実感。
泰野教授:目玉がないのに開催するという判断をする人じゃないと思うんだよね。どうして開催しちゃったんだろう?
新城:スカラベもらった最初の時点では、普通にエジプト展を開催する感じでしたよね。
泰野教授:そういえば、あの遊覧船のおもちゃは展示されていた?
キーパー:いいえ、儀式用遊覧船のおもちゃは展示されていませんでしたね。
泰野教授:なんでだろう? あれが目玉でも良かったんじゃないかと思うんだけど。
新城:なんかコーンウォールでケチがついちゃったって感じですよね。
泰野教授:それなりの規模の会場で開催した展覧会が会期半分で終了しちゃったっていうのは、大学としても前代未聞の失敗だと思うんだけど……。
宇乃:これでは協賛した大学の評判も下がっちゃうんじゃないの?
キーパー:考古学部のほかの教授連も招待されて展覧会を見に行ったのですが、一様に「う~ん?」という反応でした。

スカラベ

丸川賢人キーパー:大エジプト展の終了後に、SPHFの事務所に丸川教授が訪ねてきます。「今回は世話になったね」と言ってコージーコーナーのシュークリームを差し入れてくれます。
宇乃:丸川教授の様子はどうですか? 落ち込んでいます?
キーパー:その様子はないですね。薄く笑みなど浮かべてやり切った男の顔をしています。「申し訳ないが、撤収作業の手伝いもお願いしたい」
泰野教授:「はい。もちろんです」
キーパー:一両日中に撤収作業が始まります。皆さんは準備作業と同じような作業を任されるのですが、ここで〈経理〉ロールをお願いします。
一同〈経理〉!?
佐山:(コロコロ……)イクストリーム成功!
泰野教授:(コロコロ……)04!(※レギュラー成功)
キーパー:成功した2人は気がつきますが、借りていた展示品と返却目録の付け合わせをしていると、返却品に不足があることに気づきます。
佐山:返却物に不足がある?
キーパー:そう。本当は返却すべきものが足らない、ということです。
泰野教授:ほうほうほうほうほう。
キーパー:目録には寸法なども書いてあって、かなり大きいものです。
佐山:受入チェックのときにはあった?
キーパー:その時にはあったようです。受入チェックは皆さんではなく、ほかの担当者が実施しました。
佐山徹佐山:壊れたか、紛失したか。どちらにせよ大騒ぎですよね。
泰野教授:丸川先生を探して「ちょっと面倒なことになったのですが……」と報告に行きます。
キーパー:丸川教授は撤収の監督で会場にいますのですぐに見つかります。(丸川)「ん? どうかしたかね?」
泰野教授:「目録に載っている返却物に、見当たらないものがあるのですが……」
キーパー:すると丸川は佐山と先生をジロッと見た後、「ああ、これは輸送段階で破損した大型パネルだよ。気にしなくて大丈夫だ」
佐山:考古学的に価値のあるものではないということですか。教授が把握しているなら、我々も納得しそうですね。
泰野教授:ちょうど良いから聞いてみよう。「先日、先生の研究室で見せてもらった船の模型があったじゃないですか。あれも展示したほうが良かったんじゃないですか?」
キーパー:(丸川)「ああ、あれか。うん、壊れてしまったのでね。捨ててしまったよ」
泰野教授:「え!? ……はあ、そうですか」
キーパー:丸川は古代寺院の原寸大模型の解体指示を出しにその場を離れて行きます。
宇乃:丸川教授が離れて行った後に近づいて行って、泰野先生に聞きます。「丸川教授って普段からあんな方なんですか? なんだか持っていた印象と違うのですけれど」
泰野教授:「う~ん。まあ、マスコミ向けの顔は作っている部分はあると思うのだけれど……」
宇乃:「丸川教授が開催する展示会だから手伝いに来たんですけど、ぜんぜんお客は入らなかったし、でもショックは受けていない感じだし」
泰野教授:「普段とぜんぜん変わらないのが、不自然というか……丸川先生クラスの人が企画する展示会が失敗するわけはないのだけれど」
新城:何というか、ひっそりと終了してしまいましたからな。
キーパー:“ひっそりと”というか、逆に“ざわ……ざわ……”という余韻を残していますね。