陽勝香炉


二


キーパー:そんなある日、SPHFに1本の電話がかかってきます。とりあえず、理事クラスの役員がいない場合は泰野先生が代表となりますので、電話が回されます。
泰野教授:はいはい。
キーパー:(多賀)「初めまして、お忙しいところ恐縮です。私、北始製薬の会長秘書をしております多賀と申します。貴協会のホームページで公開されているリストを拝見して、連絡させていただきました」
泰野教授:「はあ」……製薬会社?
キーパー:(多賀)「弊社の会長が、リストに掲載されている“ある物品”を、ぜひ一度見せてほしいと申しておりまして」

 多賀が電話越しに話した内容は以下の通りです。
 最近SPHFの会員になった北始製薬の会長、北始成武(ほくし・なりたけ)は『鵷鶵文書』のリストの中に見つけた“陽勝香炉”に見覚えがあることに気づきました。もし香炉が彼の思う通りの物であった場合、北始製薬がSPHFのスポンサーになっても良い、もし思う通りのものでなかったとしても、幾ばくかの寄付をさせてもらうので、香炉を見せてほしいというのです。
 北始成武(そして多賀)は出し抜けな申し出であることを理解しており、即答は求めません。協会で検討をして、後日可否の返事が欲しいといって、北始製薬からの最初の接触は終わりました。


村雨:私は北始製薬について何か知っていませんかね?(※村雨の職業は医師)
キーパー:薬品の納入に関しては国内でもトップクラスのシェアを占めている会社です。政財界に太いパイプを持っているという噂を聞いています。
泰野教授:結構な大企業じゃん。
宇乃:民間に売らない薬を作っている製薬会社でデカイ所ってあるもんね。
日下部麻希キーパー:一代で会社を築き上げた北始成武は立志伝中の人物として知られる、業界内では超有名人です。
泰野教授:なるほど。香炉の件は電話で理事に確認を取ります。ダメとは言われないでしょ?
キーパー:(日下部麻希)「OKです。スポンサーになっていただければ大きいですし、そうでなかったとしてもいくらかの寄付がもらえるのであれば――」
村雨:「願ったりかなったりですな」
泰野教授:「逃がしちゃいけない太客ですよね!」
キーパー:(日下部麻希)「この件に関しては、先生に一任します。申し訳ありませんが、ちょっと今、手が離せないもので……」
泰野教授:「分かりました。段取り等もこちらで調整してしまって良いですよね?」
キーパー:(日下部麻希)「お任せします」

ライン

宇乃:とりあえず、北始成武のことについて調べてみた方が良くないですか? 例えば、骨董品に興味を持つ好事家っていう情報があれば、今回の話も頷けますし。
キーパー:そういうことでしたら、医者である村雨先生は〈知識〉で、ほかの方たちは〈図書館〉でロールをしてください。
山田:(コロコロ……)〈図書館〉成功です。
キーパー:では、山田さんは十数年前のインタビュー記事を見つけます。それによると、北始成武は、所謂古物収集家ですね。その中でも翡翠でできたものを好んで集めていることが分かります。
一同:ああ~。
泰野教授:「つまり、陽勝香炉はドンピシャなのね」
宇乃:「……だとすると、譲ってほしいって言ってくる可能性はありますよね」
村雨〈知識〉ロールはイクストリーム成功です。
キーパー:おお! では、村雨先生は業界内の噂として耳にしたことがあります。鹿児島で創業して本社機能を埼玉に移している北始製薬がなぜ政財界とパイプができたかというと、“ある薬”、つまり滋養強壮の薬の太客が政財界に多くいるのではないかと言われています。
泰野教授:なるほど、あり得そう。
キーパー:政財界の要人がやたら元気で長生きするっていうのは、何か特別な薬を飲んでいるんじゃないの? 北始製薬がその“ある薬”を供給しているんじゃないの? という噂を聞いたことがあります。
村雨:「“ある薬”……正露丸!?」
宇乃:「違うから」(笑)
キーパー:そして計算上、北始成武は100歳を超えているはずですが、未だに健在であることから、彼自身も“ある薬”を使用しているのではないかという噂を耳にしています。