陽勝香炉


四


キーパー:翌日になります。三々五々集まって、皆さんがSPHFの事務所で昨晩の焼肉屋での豪遊について談笑しておりますと、来客があります。ドアをノックしてからひょこっと顔を見せたのは、ボサボサの髪、ヨレヨレの服、無精ひげという典型的なダメンズの風貌をした男です。皆さんの顔を見回しながらたずねます。「白凰民俗資料保存協会の事務所は、こちら?」
泰野教授:「はい、そうですが?」
飛鳥英樹キーパー:男は事務所内に入って来ると、名刺を差し出します。飛鳥英樹という名前で、肩書はジャーナリストです。
泰野教授:「ジャーナリスト……」媒体名は書いていないの?
キーパー:書いてないですね。彼は「ここ、灰皿ある?」と聞きますが、禁煙だと知ると煙草をしまって「座って良い?」とたずねます。
泰野教授:「……どうぞ」
キーパー:飛鳥はドスンと腰を下ろすと「見たところ、地方に良くある歴史学研究団体、だよね? それが北始製薬と、どんなつながりがある?」
泰野教授:「ご縁があって、スポンサーになっていただきました、というだけですけど?」
キーパー:(飛鳥)「いきなり来て、不躾だと思うよね。俺はフリーのジャーナリストなんだけれども、北始製薬の会長と政財界の所謂“黒いつながり”を追っている」
宇乃:……面白い話が来た!
泰野教授:「……」
キーパー:(飛鳥)「胡散臭いって思われるのは重々承知なんだけども、これでも昔は大手新聞社社会部の記者だったんだよね。ただ、このネタを追い続けた結果、尾羽打ち枯らして、このざまでね。でも、悪いことばかりじゃなくてさ。世の中には北始成武、ひいては北始製薬の本性を暴露したがる御仁っていうのもいるんだよね。そうなってくるとフリーの方が自由に動けるんだ」
泰野教授:なるほど。
キーパー:(飛鳥)「確認しておきたいんだけど、あんたたちが政財界に太いつながりがあるようには見えないが、そういうルートで北始製薬がスポンサーになったわけじゃないよね? どういう形で、わざわざスポンサーにまで?」
泰野教授:「最近ご縁があってスポンサーになっていただいたばかりですので、つながりも何も……。先方からスポンサーになりたいとのお話を戴いて、その流れで契約になっただけです。別段、ほかのスポンサーさんと比べて変わったところがあるわけでもないですけど」
キーパー:(飛鳥)「活動内容というのは、具体的に?」
泰野教授:「この地域の歴史や遺物や、それこそ古物などを収集して調査・分類して広く会員内外の紹介していく活動をして――」
河愛宇乃宇乃:「あの~、ちょっと良いですか? こちらの話をするより先に、そっちの話をするのが筋なんじゃないの?」
キーパー:(飛鳥)「ああ、確かに。じゃあ、ギブ&テイクで行こう。こちらの情報をいくつか出そう。実は、北始成武は医学や薬学を正式に学んだ形跡がないんだ。聞いたことがあるかもしれないが、北始製薬と政財界のつながりには金と“ある薬”が関係しているらしい。その“ある薬”っていうのは、麻薬の類ではないものの、ある意味もっと恐ろしいものだ」
泰野教授:「麻薬よりも恐ろしい薬?」
村雨:「……都市伝説みたいな話だな」
宇乃:「そういうの大好き!」
キーパー:(飛鳥)「あの爺さんは、何に対して興味を持ったのかな?」
村雨:……もう言っちゃって良いんじゃないですかね? 北始会長が翡翠の香炉に興味を持っていたってことを。
泰野教授:「協会が所有している古物の1つに興味を持たれて、それをきっかけにスポンサーになりたいと申し出ていただいたという話でした。個人的にかなり興味を持っていた様子でしたよ」
キーパー:(飛鳥)「ってことは、翡翠の?」
泰野教授:「そうです」
キーパー:(飛鳥)「だったら確かに。あり得る話だな。そこまで話してくれたなら、もう1つ情報を提供してやるよ。“ジンタン”――それが“ある薬”の手がかりだ」
泰野教授:「仁丹?」
村雨:「梅仁丹とかの、アレ?」
キーパー:(飛鳥)「何か分かったことがあったら、名刺に書いた先に連絡してくれよ。俺もあんたらが欲しがりそうな情報を手に入れたら教えるからさ。ギブ&テイクで行こう」そう言って彼は帰っていきます。
村雨:「……なんか、胡散臭い奴でしたね」

ライン

キーパー:ジンタンについてただ普通に調べても“仁丹”の方が出てくるだけなので、これを詳しく調べるにはハードの〈図書館〉ロールが必要です。
泰野教授山田:成功。
キーパー:成功した2人は飛鳥英樹の言っていたのが“人胆”であることが分かります。
佐山:“キモ”の方か。
キーパー:いったんこのワードにたどり着けば、必ず関連して出てくるのが山田浅右衛門です。文字通り、“人胆”というのは人間の胆(キモ)、内臓ですね。

 江戸幕府の刀剣の試し斬り役(御様御用)であった山田浅右衛門は、浪人でありながら大名並みに裕福でした。その理由は、罪人の死体を使った刀剣の試し斬り、刀剣の鑑定、そして罪人の肝臓や胆嚢、脳を使って作った薬「山田丸(人胆丸)」の販売によるものでした。


村雨:ははあ、なるほど。『無限の住人』で読みました(笑)
宇乃:オカルト的な考え方として、合法かどうかはともかく、北始製薬が死体を入手する手段を持っているとしたら――
村雨:そうなると、ますます都市伝説じみてきますね。“人肉カプセル”の話とかもありましたよね。
キーパー:ここで〈オカルト〉をお願いします。
佐山:クリティカル成功です!
キーパー:おお! それなら知っていますが、大昔とは言えない時代まで、一部地域では死体泥棒というのがあって、それは土葬の地域で起こっていました。で、死体泥棒が何をするかっていうと、胆を取るそうです。それが行なわれていた地域には鹿児島(=北始成武の出生地)が含まれます」
一同:おお~、なるほど。
キーパー:そして病院に死体の一部、つまり内臓を提供してほしいという依頼が回ってくるという都市伝説があります。
村雨:葬儀社バージョンとかもありますよね。
宇乃:もう墓から死体を掘り出せる時代じゃないわけですから、今でもそうやって“ある薬”が作られているのなら、何らかのルートがあるんじゃないですかね?
村雨:そのあたり、ヒデキ感激!(=飛鳥英樹)が知っているんじゃないですか?
泰野教授:それなら、こちらが何か価値のある情報を提供すれば、代わりに教えてもらえるんじゃない? でも立場的に、北始会長の秘密をホイホイ話しても良いのか悩むよねぇ。